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モルフ

ボールパイソンのイエローベリー|「ヘテロ」とされた130匹のうち、約4分の1は申告どおりではありませんでした

eyecatch

「イエローベリーを持っている」と書かれた個体は、本当に持っているのでしょうか。

2023年の査読論文が、その数を数えています。飼い主が「イエローベリーのヘテロ」として申告した130匹を遺伝子型で確かめたところ、合っていたのは98匹。1匹は別のアレル(スパーク)のヘテロで、残り31匹は、この研究が調べた変異がどれも検出されませんでした。申告と合わなかったのは合わせて32匹で、論文はこれを「およそ4匹に1匹が誤表示である」とまとめています。

しかもこの検証には、シリーズの中でヘテロの表現がいちばん強いと「記述されている」イエローベリーが選ばれています。記述のうえではいちばん出やすいとされるアレルで、この内訳でした。

見分けにくさのほうは、資料のほうが先に書いています。MorphMarket の Morphpedia は腹の項の最後をこう結んでいます——「Despite its name, a ball python carrying the Yellow Belly gene does not necessarily have a yellow belly.」(その名前にもかかわらず、イエローベリーの遺伝子を持つ個体が必ず黄色い腹をしているわけではない)。当店のモルフ図鑑も、腹の説明で「名前のとおりやや黄色味を帯びた白色を示す個体が多くいます。しかし、必ずしも黄色になるわけではありません」としています。

以下、何が見分けられて何が見分けられないのか、スーパー体のアイボリーが何を確定させるのか、そして当店が「poss(可能性あり)」と書いたまま掲載している個体が何件あるのかを、資料の原文と当店の公開データで並べます。

目次

  • 「イエローベリー」なのに、お腹が黄色いとは限りません
  • 確定したのは、掛け合わせた先 ― 2003年のアイボリー
  • 同じ遺伝子に、強弱のある5つ
    • 同じグループが、資料ごとに別の名前で呼ばれています
  • 2023年の論文は、ヘテロ表記の当たり外れまで数えています
    • 変異の重さと、表現の強さが対応していました
    • 「ヘテロ」とされた130匹を数えたら、約4分の1が外れでした
    • 「イエローベリー」は、分子レベルでは2つでした
    • 「別のアレルとの取り違え」として名指しされた5匹
    • この論文が言っていないこと
    • 図鑑が引いているのは、査読前のプレプリントです
  • 組み合わせると、別の名前が付きます
  • 検査について、どの資料が何を言っているか
  • 当店の公開記録 ― 「poss」が付いたままの個体
    • 交配記録の8クラッチ ― 全部挙げます
    • 2026年のクラッチ Lil26015
  • これから組む人へ
  • まとめ
  • 参考にした資料

「イエローベリー」なのに、お腹が黄色いとは限りません

イエローベリー(Yellow Belly、略して YB)は、腹の色から付いた名前です。ところが、その腹が決め手になりません。

  • Morphpedia(腹の項)「きれいな無地の腹に、市松模様のような縁取りが出るのがふつうだが、斑点が出ることもある。体側を這い上がる“炎”が模様のあいだに見える。その名前にもかかわらず、イエローベリーの遺伝子を持つ個体が必ず黄色い腹をしているわけではない」

  • 当店のモルフ図鑑「名前のとおりやや黄色味を帯びた白色を示す個体が多くいます。しかし、必ずしも黄色になるわけではありません。また、お腹の大きな特徴として、腹板の両側に黒色の破線状模様が不規則に現れます」

  • World of Ball Pythons「白い腹と、下側面の白/黄の市松状の鱗。ファイアに似たヘッドスタンプ、暗めの見た目、広範なフレーミング(炎のような色抜け)」

この3件を、3つの独立した証拠として数えないでください。当店の図鑑は出典欄に MorphMarket を挙げており、Morphpedia のこのページも、作出者の欄に付く脚注[1]で World of Ball Pythons を指しています。確認できるのは「当店の図鑑 → MorphMarket」「Morphpedia のこのページ → World of Ball Pythons」という向きの参照があることまでで、どの記述がどこから来たのかまでは分かりません。それでも、独立した3件として数える根拠はありません。独立した資料として本記事が別に当たったのは、後で出てくる査読論文のほうになります。

腹のほかに挙げられる手がかりは、明るいヘッドスタンプ(頭の後ろの色抜け)と、体側の“炎”(エイリアン柄のあいだを下から舐めるように走る明るい色抜け)です。当店の図鑑は頭について「明るい色抜けしたヘッドスタンプが確認できます」、胴について「体の側面のエイリアン柄の間は、炎のようなハイライトが確認できます」と書いています。

ただし、資料はこれらを「決め手」としては書いていません。Morphpedia の冒頭は、ノーマルとの違いとして「濃厚な発色、頭の模様、腹の“炎”、腹の縁の市松模様」を挙げたうえで、すぐに「Each of these characteristics may vary from one animal to the next.(これらの特徴はどれも、個体によって変わりうる)」と続けます。挙がっている特徴の一つひとつに個体差がある、ということです。

腹の色については、「無くても否定できない」とはっきり書かれています(上の Morphpedia の一文)。ほかの特徴についてそこまで書いた資料は見当たりませんでしたが、どれも「個体によって変わりうる」とされている以上、1つの所見で確定させる使い方には向きません。パステルの記事で扱ったような「色が明らかに変わる」手がかりとは、質が違います。

確定したのは、掛け合わせた先 ― 2003年のアイボリー

遺伝することが確かめられたのは1999年。そのうえで「不完全優性である」と分かったのは、スーパー体が出たときでした。当店のモルフ図鑑の history が、いちばん細かく書いています。

  • 1997年Amir Soleymani(旧 yellowbellyball.com/現 XYZReptiles)が、デイトナで開催された博覧会で、ノーマルとして販売されていたイエローベリーの原種を発見

  • 1999年繁殖に成功し、遺伝性を証明

  • 2003年The Snake Keeper(TSK)が Yellow Belly × Yellow Belly のペアリングからアイボリー(スーパーイエローベリー)の繁殖に成功し、イエローベリーが不完全優性(顕性)遺伝であることを証明

Morphpedia の History も、同じ筋です。「Around 1997, Amir Soleymani spotted a odd looking ball python being sold as a Normal while at a reptile show, and by 1999, he had proven it was genetic.」——1997年ごろ、爬虫類イベントでノーマルとして売られていた「何か変なボールパイソン」に目を留め、1999年までに遺伝することを証明した。そして「Six years after Amir's initial purchase」(最初に購入してから6年後)、TSK が掛け合わせてこうなります。

2つの資料は、同じ2003年に行き着きます。Morphpedia は「購入(1997年ごろ)から6年後」、当店の図鑑は「遺伝性の証明(1999年)から4年後の2003年」。ただし Morphpedia 側は「1997年ごろ(around)」なので、逆算した年には幅があります。見本市の名前(デイトナ)を書いているのは当店の図鑑だけで、今回の資料では裏が取れませんでした。

「they were shocked to see a patternless creamy-white snake with a yellow stripe down its dorsal. This proved the Yellow Belly gene to be incomplete dominant.」——模様の無い、クリーム色がかった白い蛇で、背中に黄色いストライプが1本。これでイエローベリーが不完全優性だと確定した。

この「模様の無い白」がアイボリー(Ivory、象牙)です。当店のモルフ図鑑は「全身白に覆われた表現を示し、アイボリー(象牙)と呼ばれます。アイボリーは、背中に若干薄い黄色のストライプが確認できる個体もいます」と書いています。

当店がそれぞれイエローベリー、アイボリーとして扱っている個体です(左はモルフ図鑑の写真、右は公開した個体)。どちらも遺伝子検査はしていないので、実際にどのアレルをいくつ持っているかは確認していません。右はエンチが1つ入っているので、色の差のすべてがイエローベリーのコピー数によるものではありません

当店がイエローベリーとして扱っている個体と、アイボリー(エンチ入り)として扱っている個体を並べた比較図。左は暗い地色に明るいエイリアン柄、右は模様がほぼ消えたクリーム色がかった白

年号は、同じサイトの中でも割れています。World of Ball Pythons には、同じ動物を指す(URL がどちらも ivory/)レコードが2つあります。

「Ivory」のレコードは分類が Designer Morph、作出者 The Snake Keeper、埋め込みデータの作出年は2003、検査欄は「まだ用意できていません」。「Super Yellow Belly」のレコードは分類が Super、作出者 Amir Soleymani、作出年1999、遺伝形式 Incomplete dominant、検査欄は「Yellow belly」。同じ動物について、作出者も年も検査欄も食い違っています。当店の図鑑の history は2003年としており、アイボリーの作出年としては、当店の図鑑と Ivory 側のレコードの2件が2003年で一致します。「Super Yellow Belly」側の1999年がどこから来た値なのかは、当店には分かりません。

同じ遺伝子に、強弱のある5つ

イエローベリーには仲間がいます。同じ遺伝子座にある別の変異、つまりアレル(対立遺伝子)です。同じ場所にある別の型、ということです。

2023年の論文は、ブリーダーがこのシリーズを5つのアレル(yellowbelly, spark, specter, gravel, asphalt)として扱っていると書き、そのうえでホモ接合体の表現を強い順に並べています。

5つのアレルの強弱と、論文が関連を報告した EDNRB2 の変異の型

イエローベリーのシリーズの5つのアレルを強弱で3段に分け、それぞれのホモ接合体の表現と、関連が報告されたEDNRB2の変異の型を並べた図

強弱の並びそのものは、当店の既存記事にも書いてあります。対立遺伝を徹底解説は「最も強い対立遺伝子(イエローベリー)のホモ接合体はほぼ完全に白く、中間の対立遺伝子は縦縞を示し、弱い対立遺伝子は微妙なパターン変化を示します」としています(出典欄は Jungle Bob's Reptile World と MorphMarket)。この記事で足しているのは、その並びが何に基づいているか——どの遺伝子の、どういう種類の変異なのか——と、ヘテロ接合体がどのくらい当てにならないと測られたかのほうです。

含まれるモルフの数え方も、資料で違います。既存記事はフレア(Flare)を含めて6つとしていますが、Morphpedia はフレアをイエローベリーの別名(alias)として扱い、系統(Proven Lines)の欄に置いています(2010年に Royal Morphz が作出、という記載付きで)。論文が扱っているのは「ブリーダーが5つのアレルとして記述している」という範囲です。

これは呼び方の好みの問題ではありません。フレアが独立したアレルなのか、イエローベリーの1系統なのかは、分子レベルでは別の問いです。論文が調べた6つの変異にフレアに対応するものは出てきません。当店は、フレアが独立したアレルかどうかを確かめられていません。

当店のモルフ図鑑に項目があるのはイエローベリー・グラベル・アスファルト・スペクターの4つで、スパークの項目はありません。4項目とも「コンプレックス」の欄は「スーパーストライプコンプレックス」です。「同じコンプレックスのイエローベリーやグラベルと同じような表現をしています」という一文が本文に入っているのは、アスファルトとスペクターの2項目だけでした(グラベルは「イエローベリーのように、腹板の両側に黒色の破線状模様が現れることがあります」という部位を限った書き方、イエローベリーの項はコンプレックスに触れていません)。

「弱い」は、何も変わらないという意味ではありません。論文は、グラベルとアスファルトのホモ接合体を「野生型と比べて模様がわずかに変わり、色が少し淡くなる」とし、シリーズの中ではいちばん軽いほうに置いています。いっぽう当店の図鑑はスーパーアスファルトを「エイリアン柄が大きく退縮し、ギュッとつぶれたような表現」「別名 The 401 Ball」と書き、Morphpedia もアスファルトについて「however produces a distinct Super form(ただし、はっきり区別できるスーパー体を出す)」としています。

この2つは、両立します。シリーズの中で相対的にいちばん軽いことと、ノーマルと並べれば見分けがつくことは、別のことを言っているからです。

同じグループが、資料ごとに別の名前で呼ばれています

この5つのまとまりには、資料ごとに違う名前が付いています。

  • MorphMarket Morphpedia「Complex: Super Stripe」(5件すべてのページで同じ)

  • World of Ball Pythonsイエローベリーのページの Complex 欄は「Yellow Belly」

  • 当店のモルフ図鑑「スーパーストライプコンプレックス」

  • 当店の既存記事対立遺伝を徹底解説では「イエローベリーコンプレックス(YellowBelly Complex)」

  • 2023年の論文「the Yellowbelly series(イエローベリーのシリーズ)」

Morphpedia・当店の図鑑・既存記事・論文は、いずれもこのアレルのまとまりについて書いています。ただし「構成員がこの5つだけ」とまで書いている資料は、今回見当たりませんでした(既存記事はフレアを含む6つを挙げています)。

World of Ball Pythons のイエローベリーのページは Mutation 欄が「Base Morph」、Complex 欄にモルフ名と同じ「Yellow Belly」が入っています。この1件からは、このページがどのモルフのまとまりを指しているのかも読み取れません。調べるときは、「スーパーストライプ」で引いても「イエローベリーコンプレックス」で引いても同じ話に行き当たることを知っておくと早いです。

2023年の論文は、ヘテロ表記の当たり外れまで数えています

論文は Dao ほか「Stripes and loss of color in ball pythons (Python regius) are associated with variants affecting endothelin signaling」(G3: Genes|Genomes|Genetics 13巻7号 jkad063、2023年)。イエローベリーのシリーズの5つが、エンドセリン受容体 EDNRB2 の「機能を失わせていると推定される変異」(putative loss-of-function variants)と結びついているという報告です。変異がタンパク質の働きを実際にどう変えるかは、この研究では測られていません。

変異の重さと、表現の強さが対応していました

論文の要約(図6)はこうです。

  • いちばん重い ― フレームシフト変異タンパク質の読み枠がずれて途中で切れる変異。これがイエローベリーに対応し、ホモ接合体は「ほぼ全身が白い皮膚(skin that is almost fully white)」になります

  • 中くらい ― ミスセンス変異アミノ酸が1つ別のものに置き換わる変異。種をまたいで保存されている位置(152番目と315番目)が変わっており、スパークとスペクターに対応します。ホモ接合体は背に1対の縦縞が出ます

  • いちばん軽い ― スプライスドナーの置換遺伝子を読み継ぐ切れ目の直前(−1の位置)が G から A に変わる変異で、アミノ酸は変わりません(同義置換)。グラベルは1番目、アスファルトは6番目のイントロンの切れ目。ホモ接合体は模様がわずかに変わり、色が少し淡くなる程度です

論文は、この並びの理由を「色素細胞(chromatophore)が失われる程度の違い」ではないかと仮説として提案しています。全身が白いのは「重度の喪失」、背の縦縞は「中程度」、模様がわずかに変わるのは「軽度」。皮膚の色は、色素が作れないのではなく、色をつくる細胞そのものが減ることでも変わる——そういう筋立てです。断定はしていません。論文自身が「may be(〜かもしれない)」と書き、確かめるには発生途中の胚を調べる必要があるとしています。

ここは、アルビノの記事で扱った話と対になります。アルビノは特定の色素だけが作られなくなるタイプで、論文もこのシリーズについて「全身の白は、色素合成の欠陥によるものではない。そうした欠陥は、ほかの色素に影響を与えずに1つの色素だけを取り除く」と、わざわざ区別して書いています。同じ「白いボールパイソン」でも、白くなり方が違います。

「ヘテロ」とされた130匹を数えたら、約4分の1が外れでした

論文には、ヘテロ表記の当たり外れを数えた独立した節があります。まず、論文がそれを調べた動機から引きます。

「Ball pythons described as heterozygous for alleles in the Yellowbelly series sell for higher prices than wildtype animals. This price difference provides an incentive for sellers to label animals as heterozygotes.」——このシリーズのヘテロとされる個体は野生型より高く売れる。この価格差が、売り手に「ヘテロ」と表示する動機を与えている。

そして、こう続きます。「Heterozygotes have subtly lighter coloration and altered patterning in the underbelly, but this phenotype is variable and overlaps with the range of phenotypes observed among wildtype animals.」——ヘテロ接合体は腹の色がわずかに明るく模様も変わるが、この表現は個体差があり、野生型の個体で観察される表現の幅と重なる。

「イエローベリーのヘテロ」として申告された130匹を遺伝子型判定した結果(論文の Reliability of heterozygote descriptions の節から作図)

イエローベリーのヘテロとして申告された130匹のうち、98匹は申告どおり、1匹はスパークのヘテロ、31匹は調べた変異が検出されなかった、という内訳の図

内訳は図のとおりです。130匹(全米68人の飼い主から集めた脱皮殻)を1塩基欠失と17塩基欠失について判定し、どちらも持っていなかった個体は、さらにスパーク・スペクター・グラベル・アスファルトの変異についても調べました。結果は「98匹は正しく記載されており、1匹はスパークのヘテロ、残りは EDNRB2 の野生型とみられる(putatively wildtype)コピーしか持っていなかった」。

数え方を整理しておきます。申告と合わなかったのは32匹(調べた変異が検出されなかった31匹+スパークだった1匹)で、130匹に対して24.6%。これが「およそ4匹に1匹」です。31匹のほうは「どの変異も持っていない」と証明されたのではなく、「この研究が調べた6つの変異が検出されなかった」——論文が「野生型とみられる」と書いているのは、そのためです。

「These findings confirm the skepticism surrounding heterozygote descriptions for alleles in the Yellowbelly series. They suggest that approximately one in four animals described as a yellowbelly heterozygote is mislabeled.」——この結果は、このシリーズのヘテロ表記に向けられてきた懐疑を裏づける。イエローベリーのヘテロとされる個体のおよそ4匹に1匹は、誤表示されていると考えられる。

調べられたのは、イエローベリーのヘテロ表記だけです。論文は「We focused on the yellowbelly allele, rather than other alleles in the Yellowbelly series, because the yellowbelly allele is described as producing the strongest phenotype in heterozygotes.」——シリーズのほかのアレルではなくイエローベリーに絞ったのは、ヘテロでいちばん強い表現を出すと「記述されている」のがイエローベリーだから、としています。

ほかのアレルのヘテロ表記が何%当たるかは、この論文では測られていません。また、この130匹は SNS と MorphMarket の出品者への呼びかけで集まった標本なので、市場全体の誤表示率でも、日本で流通している個体の率でもありません。言えるのは「調べた130匹ではこうだった」までです。

図鑑が「不完全優性」と書いていることと、並べて読んでください。Morphpedia も World of Ball Pythons も当店の図鑑も、イエローベリーを「Incomplete Dominant(不完全優性・不完全顕性)」としています。ヘテロ接合体にも差が出るので、ホビーではそう扱われてきました。いっぽう論文は、その差が「野生型の個体で観察される表現の幅と重なる」と述べ、ヘテロ表記への懐疑を「裏づけた」と結論しています。

この2つは、どちらかが嘘だという関係ではありません。「差は出る」と「その差では決められない」は、両方成り立ちます。ただし「不完全優性だから1つ持っていれば見れば分かる」とまでは、どの資料も書いていません。

Morphpedia も、同じ向きのことを別の言い方で書いています。グラベルのページの冒頭です。

「has similar characteristics as other genes in the superstripe complex so much that they can be difficult to differentiate from each other and often can be mistaken as a trait-less animal as adults」——スーパーストライプコンプレックスのほかの遺伝子とあまりによく似ているので互いの区別が難しく、成体では「何も持っていない個体」と間違われることも多い。

アスファルトは「イエローベリーとグラベルの両方によく似ている」、スペクターは「個体によって見た目が変わる。明るい黄色と薄い褐色を出すものもいれば、濃い褐色とクリーム色を示すものもいる」。5つとも、同じ「見分けにくい」の周りに書かれています。

「イエローベリー」は、分子レベルでは2つでした

論文には、もうひとつ組む人に効いてくる発見があります。

まず、イエローベリーのホモ接合体とされる1匹からEDNRB2 の1塩基欠失を見つけ、これを手がかりにさらに117匹(イエローベリーのホモ接合体とされる69匹+このシリーズ以外の48匹)を判定しました。ところが、ホモ接合体とされた個体のうち9匹は、この欠失を1つしか持っていませんでした。

そこでその9匹のうち1匹をシーケンスしたところ、もう一方の染色体に17塩基の欠失が見つかります。あらためてパネル全体を判定すると、この17塩基欠失はその9匹にだけあり、しかもすべて1塩基欠失と反対側の染色体にありました。結論はこうです。

「These data suggest that the allele known to breeders as yellowbelly represents the collection of two molecular alleles of EDNRB2: a 1-bp deletion and a 17-bp deletion. We propose that these deletions produce the same phenotype and were therefore not recognized by breeders as distinct.」——ブリーダーがイエローベリーとして知っているアレルは、EDNRB2 の2つの分子レベルのアレル(1塩基欠失と17塩基欠失)のまとまりだと考えられる。両者は同じ表現を出すので、ブリーダーは別のものとして認識してこなかったのだろう。

この発見は、「アイボリー=イエローベリーのホモ接合」という言い方にも効いてきます。論文のパネルでは、イエローベリーのホモ接合体とされた個体はすべて、1塩基欠失のホモ接合か、1塩基欠失と17塩基欠失の複合ヘテロ接合のどちらかでした。つまり見た目がアイボリーでも、分子レベルで「同じ変異を2つ」持っているとは限りません。

この記事に載せたアイボリーの写真も、当店はその個体の遺伝子型を調べていません。言えるのは「当店がアイボリーとして扱っている個体の見た目はこうです」というところまでで、この個体が実際にどのアレルをいくつ持っているかは、確認していません。——この記事全体の話が、そのまま自分たちにも当てはまります。

同じことは、ほかのモルフでも報告されています。論文は、呼び名ひとつに分子レベルの型が複数ある例としてアルビノとウルトラメルを挙げています(Brown ら 2022)。当店のアルビノの記事も、同じ構図を「呼び名と分子は、一対一ではありません」としてまとめてあります。

「別のアレルとの取り違え」として名指しされた5匹

論文は、飼い主の申告と遺伝子型が食い違った個体のうち、別のアレルと取り違えられていたとみられるものを5匹、名指しで挙げています(申告 → 判定の向きで並べます)。

  • スペクター/イエローベリー → スパーク/イエローベリー1匹。そして逆向き(スパーク/イエローベリーと申告 → スペクター/イエローベリーと判定)も1匹

  • アスファルト/イエローベリー → グラベル/イエローベリー2匹

  • イエローベリーのヘテロ → スパークのヘテロ1匹(上の130匹の中にいた個体)

これは「食い違いの全部」ではありません。上で見た31匹(調べた変異が検出されなかった個体)は、この5例には含まれていません。この5匹は、似たアレルどうしの取り違えの例として論文が名指ししたものです。

論文は、原因を2つに分けて書いています。1つめは、仕組みの問題です。

「Certain combinations of alleles in the Yellowbelly series produce similar phenotypes (e.g. spark vs specter and gravel vs asphalt). Crosses involving these alleles therefore generate progeny whose genotypes are uncertain. Breeders typically label such animals according to their best guess of the animal's genotype.」——このシリーズのアレルの組み合わせには、似た表現を出すものがある(スパークとスペクター、グラベルとアスファルトなど)。だからこれらのアレルを使った交配では、遺伝子型が不確かな子が生まれる。ブリーダーはふつう、そうした個体に「いちばんありそうな遺伝子型」で名前を付ける。

2つめは、値段です。論文は「breeders are incentivized to label animals as heterozygous for alleles in the Yellowbelly series, even when the phenotype of heterozygotes is difficult to recognize」——ヘテロの表現が見分けにくいときでさえ、ブリーダーには「ヘテロ」と表示する誘因がある、と書き、これが「約4匹に1匹」の説明になりそうだとしています。ただし論文は、個々の売り手に故意があったとは言っていません。検証したのは遺伝子型であって、意図ではありません。

「最善の推測で名前を付ける」と、当店の「poss(possible、可能性あり)」表記は、同じではありません。前者は推測を確定表記として出すこと、後者は未確定であることを表に出すことです。当店が「poss」でどれだけ掲載しているかは、後の当店の公開記録の節で出します。

Morphpedia の参考文献欄にも、スパークとスペクターの両方のページに「Spark vs Specter」というコミュニティのスレッドが並んでいます。見分けがつかないのは、論文の試料提供者だけの話ではなさそうです。

この論文が言っていないこと

強い結果ですが、言っていないことも、はっきり書いてあります。

  • 因果ではなく関連論文自身が「ここで述べた EDNRB2 の変異が原因である(causal)と提案する」という書き方をしています。根拠は、変異の重さと表現の強さが対応していたこと。さらに裏付けるなら、ゼブラフィッシュのようなモデル生物に同じ変異を入れて、タンパク質の働きや遺伝子の発現への影響を調べれば得られるだろうと、今後の課題として書いています

  • 調べたのは3遺伝子だけ対象は EDN3・EDNRB1・EDNRB2 の3つに絞られています。論文は「ゲノムのほかの領域にある変異が関与している可能性を、形式的に排除することはできない」と明記したうえで、「ただしその可能性は低いと考える。EDNRB2 の6つの独立したハプロタイプが表現と結びついていたし、表現の強さが変異の重さと相関していたから」としています

  • 試料は脱皮殻だけTwitter・Reddit・Instagram・Facebook での呼びかけと、MorphMarket の出品者への連絡で、全米の飼い主から脱皮殻を送ってもらう方法で集めました。そのため「モルフごとに色素細胞の数を比べることも、発生の途中で色素細胞がどう動くかを調べることもできなかった」としています

  • モルフ名は飼い主の申告「イエローベリーのホモ接合体とされる個体」という書き方が全編で徹底されています。実験の大半は大学の学部生の実習(Eastern Michigan University の BIO306W)で、手法は PCR・制限酵素処理・サンガー法。申告と遺伝子型が合わなかった個体は教員が DNA を取り直して再判定したという手順まで書かれています

この論文を引くときは、版に気をつけてください。最初の版はエンドセリン受容体の遺伝子名を取り違えており、著者自身が公表直後に編集部へ申し出て、懸念表明を経て撤回・差し替えの手続きが取られました。告知には「この誤りによってほかの結果や結論が影響を受けたわけではない」とあり、差し替え後の本文は元と同じ場所(jkad063)に再掲載されています。色の表現に関連していたほうが EDNRB2 です。名前の入れ替わりの詳細は、当店のデザートゴーストの記事に整理してあります。PubMed の要旨は差し替え前のままなので、要旨だけを見ると EDNRB1 と書かれています。

図鑑が引いているのは、査読前のプレプリントです

Morphpedia のイエローベリーのページには「Related Traits(関連するモルフ)」の欄があり、そこに載っている説明文は、この論文のプレプリント(bioRxiv、2022年10月)からの引き写しです。脚注[3][4][5]がいずれもそのプレプリントの URL を指しています。

そのため、遺伝子名が訂正前のまま残っています。プレプリントの本文は EDNRB1 と書いており(当店が取得した版で159か所)、Morphpedia に引かれた文章にも「variants in EDNRB1」が2か所あります。図鑑から孫引きすると、訂正前の名前を書いてしまいます。

文言も、査読後の版とは少し違います。プレプリントはホモ接合体の全身の白を「almost fully white (leucism)」と書いていますが、査読後の版では「(leucism)」が外れています。ヘテロ接合体についても、プレプリントは「野生型と区別するのが難しい」、査読後の版は「色と模様がおおむね野生型に似る」。引くなら、査読後の版のほうから引いてください。

つまり、前の節で出した「5つのアレルと強弱」について、Morphpedia はこの論文の下流にあります。この記事の冒頭で「図鑑3件を独立した3件として数えない/論文のほうは別に当たった」と書いたのは腹の色についてのことで、強弱の並びについては参照の向きが逆だということです。当店の既存記事が同じ内容を「出典:Jungle Bob's / Morphmarket」として載せているのも、同じ文章に行き着くのかもしれません(引用の経路そのものは確かめられていません)。

組み合わせると、別の名前が付きます

同じ遺伝子座の異なるアレルを1つずつ持つ状態(=同じアレルを2つではない)を複合ヘテロ接合といいます。このシリーズでは、その組み合わせごとに名前が付いています。

シリーズの中で組み合わせたときの呼び名

イエローベリーと他のアレルを組み合わせたときの呼び名を並べた図。スーパーストライプ、フリーウェイ、ハイウェイ、プーマ、ペイブメント、パークウェイ

論文の言葉では、これが「compound heterozygotes」で、「親の中間の表現を示し、しばしば背に縦縞が出る」とされています。World of Ball Pythons も、スーパーストライプとフリーウェイを「Allelic combo」という分類に入れています。

ここで、よくある誤解を1つ。イエローベリーとスペクターを掛けて出てくるスーパーストライプは、見た目こそスーパー体に見えますが、遺伝的には2つの違うアレルを1つずつ持っているだけです。だからノーマルと掛ければ、イエローベリーかスペクターのどちらか一方しか子に渡りません。

ただし、「スーパーストライプどうしを掛けてもスーパーストライプは出ない」わけではありません。同じ遺伝子座の2つの型を1つずつ持つ者どうしなので、子1匹あたりの理論上の確率は、アイボリー(イエローベリー型を2つ)が4分の1、スーパーストライプが4分の2、スーパースペクターが4分の1になります。出ないのではなく、半分は別のものになるということです。パステルのような単一のモルフのスーパー体とは、ここが違います。

以下の数字はすべて「子1匹あたりの理論確率」です。クラッチの中で必ずこの比率になるわけではありません——匹数が少ないほど、実際の内訳は大きく振れます(モルフ計算機の記事に整理してあります)。

検査について、どの資料が何を言っているか

見た目で決まらないなら、検査はどうか。ここは「誰が何について言っているのか」を分けて読んでください。

  • Morphpedia5件すべてのページに「Genetic Test Available」というタグが付いています。これは「検査が存在する」という表示です

  • World of Ball Pythonsイエローベリーのページの「Genetic Tests Available」欄に「Yellow belly」。こちらは「当社(we)の提供状況」という書き方の欄です。アイボリー・ハイウェイ・フリーウェイ・スーパーストライプのページは「まだこのモルフの検査は用意できていません」となっています

  • 当店の既存記事対立遺伝を徹底解説に、Rare Genetics, Inc.(RGI)の提供するパネルの一覧として「Yellow Belly Complex Panel イエローベリーコンプレックスの遺伝子検査」が載っています。ただし、その一覧がいつ時点のものかは記事に書かれていません。当店は今回、対象のアレル・精度・料金を再確認していません

申し込む前に、各社の最新の案内で確かめてください。どのアレルを個別に判定できるのか、ヘテロを判定できるのかは、会社と時期で変わります。当店が代理で確認したわけではありません。

検体については、論文の方法が目安になります。この研究は脱皮殻から DNA を取って、PCR・制限酵素処理・サンガー法だけで5つのアレルを判定しました。採血も、動物を送ることも必要としていません(論文の手順では、汚れた脱皮殻を水道水ですすぎ、乾かしてから処理しています)。実際の提出方法は検査会社ごとに違うので、そこは各社の案内に従ってください。脱皮殻を捨てる前に見ることは脱皮不全の記事でもお勧めしていますが、記録としても使えるということになります。

当店の公開記録 ― 「poss」が付いたままの個体

最後に、当店の記録を出します。見分けにくさは、当店の掲載のしかたにも出ています。

当店が公開している個体は357件(内訳は小売向け238件・両方73件・卸売向け46件)。このうちシリーズの名前が入っているのは33件で、うち5件は卸売向けの表示設定のため /ball/<ID> が 404 になります。小売のページから辿れるのは28件です。

  • 「poss イエローベリー」が7件542・LIL2025029・LIL2025006・LIL2025003・LIL2024018・LIL2023093(残り1件は卸売向けの表示)。この7件については、当店は確定していないことを表記で出しています。なお LIL2023093 は「Poss(シナモン ブラックパステル イエローベリー)」と3モルフまとめての表記です

  • スーパー体・複合ヘテロが8件アイボリーがLIL2024049・LIL2024048(どちらもエンチ入り)、スーパーアスファルトがLIL2024047・LIL2024044、フリーウェイがLIL2024046・LIL2024045(もう1件は卸売向け)、ペイブメント(グラベル × アスファルト)がLIL2023086

交配記録の8クラッチ ― 全部挙げます

公開している交配記録38件のうち、親のモルフ表記にイエローベリーが入るのは8件です。

  • Lil25001ハリケーン スペシャル YB レッドストライプ スーパースポットノーズ クラウン × Het クラウン(卵6・孵化6)

  • Lil25019ブラックパステル ハリケーン YB クラウン × バンブー Het クラウン(卵7・孵化7)

  • Lil25007ウーキー スポットノーズ GHI YB Het クラウン × クラウン(卵5・孵化5)

  • Lil25008ブラックパステル CG レッドストライプ YB Het クラウン × クラウン poss YB(卵6・孵化6)

  • Lil25009ディスコ ファイア YB クラウン × スーパーファイア Het クラウン(卵5・孵化1)

  • Lil25013ブラックパステル ハリケーン YB クラウン × クラウン(卵6・孵化6)

  • Lil25026ブラックパステル YB スマ パイド × マホガニー パイド(卵4・孵化4)

  • Lil25029ブラックパステル コンフュージョン クラウン Poss YB × スーパーミスティック(卵4・孵化4)

このうち2件は、親の表記が「poss YB」のままです(Lil25008 の母「クラウン poss YB」、Lil25029 の父「ブラックパステル コンフュージョン クラウン Poss YB」)。繁殖に使う段階でも断定していない、ということです。

この8クラッチから何が出たかは、公開データでは辿れません。個体ページの「親」の欄が指しているのは2023年と2026年のクラッチで、2025年のクラッチを指している個体は1件もありません。たとえば Lil25008(父はイエローベリー持ち、母が「poss YB」、卵6・孵化6)は、母が持っていればアイボリーが出る目のある組み合わせですが、何が出たかを当店の公開記録から確かめることはできません。「公開していない=出なかった」ではない、ということです。

2026年のクラッチ Lil26015

いちばん分かりやすいのが、2026年のクラッチ Lil26015 です。

出どころについて。交配記録は2025年までの38件で、2026年のクラッチは載っていません。以下は、個体ページの「親」の欄(「No. Lil26015/BP Hurricane poss YB RS Clown ♂/GHI het Clown ♀」)から組み直したものです。/breed では検算できませんので、各個体のページをご覧ください。

父は「BP Hurricane poss YB RS Clown」——父の段階で、イエローベリーを持っているかどうか断定していません。母は「GHI het Clown」。この組み合わせから公開している4匹のうち、2匹にはイエローベリーが付き(622 イエローベリー クラウン、624 ブラックパステル ハリケーン イエローベリー Het クラウン)、2匹には付いていません(621、625)。

この「4匹のうち2匹」から確率を読まないでください。掲載している4匹がクラッチ全体だとは限りません。当店の交配記録では1クラッチの卵は4〜9個で、孵化数はそれより少ないこともあります(卵7・孵化0の年もありました)。そして掲載は、販売する個体を選んだあとの集合です。二項分布で確率を出すにはいくつも前提が要りますが、少なくともこの4匹がクラッチ全体なのか、無作為に抜き出した4匹なのかを、公開データからは確かめられません。

公開データから言えるのは、父の表記に「poss」が付き、子の一部には付いていない、というところまでです。子の表記がどう決まったのか——表現を見たのか、別の根拠があるのか——は、個体ページには書かれていません。気になる場合は、個体ごとにお問い合わせください。出た結果から親の遺伝子型を読むことの危うさは、モルフ計算機の記事に整理してあります。

これから組む人へ

  • 腹の色を根拠にしない黄色くないからイエローベリーではない、とは言えません。「poss」と書いてある個体は、本当に未確定だということです

  • 「ヘテロ」表記は、根拠を聞く上で見たとおり、調べられた130匹では約4分の1が申告どおりではありませんでした。表記を信じて値段を払う前に、何を根拠にそう書かれているのかを聞いてください(親の記録か、検査か、見た目か)

  • いま手元の個体を確かめたいなら、まず検査2003年にアイボリーが出たことで確定したのは「イエローベリーが不完全優性で遺伝する」という遺伝形式であって、目の前の1匹が持っているかどうかとは別の問題です。個体の遺伝子型を知りたいなら、どの変異を見る検査なのかを確かめたうえで検査に出すのが筋です

  • 交配で分かるのは「出たとき」だけイエローベリーを1つずつ持つどうしなら、アイボリーは子1匹あたり4分の1(理論値)。きちんと同定されたアイボリーが出れば、両親が持っていた根拠になります。ただし出なかったことは、持っていないことの証明にはなりません(6匹すべて外れる確率も、理論上は約18%あります)。確認のためだけに繁殖を決めないでください(下の注意書き)

  • シリーズの相手を知っておくイエローベリーのつもりで買った個体がグラベルやアスファルトだった場合、イエローベリーと掛ければハイウェイやフリーウェイが出ます(両親がそれぞれ該当のアレルを1つずつ持っている場合に、子1匹あたり4分の1)。組み合わせの名前は変わりますが、この組み合わせに固有の健康上の問題は、今回確認した範囲では見当たりませんでした(下の注意書き)

  • 親の記録は、根拠まで見る見た目で1つに絞れないモルフでは、どのクラッチから出たかが手がかりになります。ただし親の表記が見た目からの推定なら、その不確かさはそのまま子に引き継がれます。「親が何だったか」だけでなく「親はどうやってそう判定されたか」まで聞いてください。記録の残し方は選び方の記事でも触れています

「表記を確かめるために掛ける」は、繁殖の理由としては軽すぎます。メスには実際のリスクがあり、販売を目的とする繁殖は第一種動物取扱業の「販売」にあたります。当店の繁殖を始める前に知っておくことに、難産(排卵後の卵の停滞)は内科的な管理がしばしば失敗し、多くの症例で外科的な摘出が必要になるという資料まで含めて整理してあります。先にそちらを読んでください。遺伝子型を知りたいだけなら、検査のほうが筋です。

このシリーズについて、神経症状や奇形の報告は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。Morphpedia の Issues 欄は5件とも空(API の値は null)で、タグにも Kinking・Duckbilling は付いていません。PubMed で「"Python regius" AND (morph* OR colou* OR color* OR pigment*)」を引いた52件(2026年10月25日検索)のうち、健康上の問題を扱っているのはスパイダーについての2件(内耳の球形嚢と半規管の奇形、CT と MRI の比較)で、このシリーズを対象にしたものはありませんでした。

ただし、これは安全性を確かめた資料ではありません。図鑑の項目が空であること、特定の検索式で論文が見つからないことから、健康上の問題が無いことは導けません。「報告が見当たらない」は「無い」とは違います。それでも、スパイダーとウォブルの記事で扱ったような記載のある組み合わせとは、資料の状況が違うとは言えます。

まとめ

  • 「ヘテロ」の約4分の1は申告どおりではありませんでした論文が130匹(68人の飼い主から)を判定して、正しかったのは98匹、1匹はスパークのヘテロ、残り31匹は調べた変異が検出されませんでした。合わなかったのは32匹=24.6%。ヘテロでいちばん強い表現を出すと記述されているイエローベリーを選んでの結果で、ほかのアレルの率も、市場全体の率も測られてはいません

  • 腹の黄色だけでは決まりませんMorphpedia は腹の項で「その名前にもかかわらず、必ず黄色い腹をしているわけではない」と明記し、当店の図鑑も「必ずしも黄色になるわけではありません」と書いています。あれば手がかりになりますが、無くても否定はできません。論文は、ヘテロの差について「野生型の個体で観察される表現の幅と重なる」と書いています

  • 遺伝形式が確定したのは2003年のアイボリー1997年ごろに見本市でノーマルとして売られていた個体が元で、1999年に遺伝性を証明。2003年に TSK がイエローベリーどうしを掛け、模様の無いクリーム色がかった白い個体が出ました(見本市をデイトナと書いているのは当店の図鑑だけで、外部資料では裏が取れていません)

  • 同じ遺伝子に5つのアレルイエローベリー・スパーク・スペクター・グラベル・アスファルト。この研究で調べた変異では、変異の重さ(フレームシフト>ミスセンス>スプライスドナーの同義置換)と表現の強さが対応していた、という報告です。機能への影響そのものは測られていません

  • 「イエローベリー」は分子レベルでは2つ1塩基欠失と17塩基欠失。両者は同じ表現を出すので、ブリーダーは別のものとして認識してこなかったのだろう——と論文は推定として書いています。アイボリーも、分子レベルでは2つの欠失の複合ヘテロのことがあります

  • 論文が挙げた説明は2つ似た表現のアレルを使った交配では遺伝子型の不確かな子が生まれ、ブリーダーは「いちばんありそうな遺伝子型」で名前を付ける。加えて、ヘテロとして売るほうが高く売れるという誘因。どちらも論文が挙げた説明候補で、原因を網羅したものでも、個々の売り手の故意を検証したものでもありません

  • 図鑑からの孫引きに注意Morphpedia の「Related Traits」の説明文は、この論文の査読前プレプリントからの引き写しで、訂正前の遺伝子名 EDNRB1 が残っています

  • 当店も「poss」のまま出しています公開個体357件のうちシリーズの名前が入るのは33件、そのうち7件が「poss イエローベリー」。交配記録8クラッチのうち2クラッチは、親の表記が「poss」のままです

参考にした資料

査読論文

・Uyen M Dao, Izabella Lederer, Ray L Tabor, Basmah Shahid, Chiron W Graves, Hannah S Seidel, the BIO306W Consortium「Stripes and loss of color in ball pythons (Python regius) are associated with variants affecting endothelin signaling」G3: Genes|Genomes|Genetics 13巻7号 jkad063(2023年)(本文の引用はすべて差し替え後の版から。5つのアレル、変異の型と表現の強弱の対応(図6)、ヘテロ接合体の表現が野生型の幅と重なること、130匹/68人のパネルと内訳 98/1/31、「約4分の1が誤表示」(Reliability of heterozygote descriptions の節)、誤表示の誘因についての記述、1塩基欠失と17塩基欠失、取り違えの5例と「最善の推測で名前を付ける」という説明、試料が脱皮殻であること、学部生の実習として行われたこと、因果と調査範囲についての限界/2026年10月25日閲覧)

版の経緯:最初の版はエンドセリン受容体の遺伝子名を取り違えていました。著者自身の申し出により懸念表明(13巻10号 jkad182)が出され、撤回・差し替えの告知(13巻10号 jkad211)で「この誤りによってほかの結果や結論が影響を受けたわけではない」とされ、差し替え後の本文が元と同じ jkad063 に再掲載されています。PubMed に載っている要旨は差し替え前のままで、「the gene encoding endothelin receptor EDNRB1」と書かれています。引くときは、告知と差し替え後の本文を分けて確認してください。

・プレプリント版:bioRxiv 2022.10.09.511500v1(遺伝子名は EDNRB1 のまま(当店が取得した版で159か所)。「almost fully white (leucism)」「difficult to distinguish from wildtype」という、査読後の版とは異なる文言。Morphpedia の「Related Traits」欄に引かれているのはこの版です/2026年10月25日閲覧)

・PubMed で「"Python regius" AND (morph* OR colou* OR color* OR pigment*)」を引いた52件から拾いました(2026年10月25日検索)。このシリーズの健康上の問題を扱った論文はありませんでした(健康関連はスパイダーについての2件:PMID 35969602「Malformations of the sacculus and the semicircular canals in spider morph pythons」、PMID 36008042「Comparative Assessment of Computed Tomography and Magnetic Resonance Imaging of Spider Morph and Wild Type Ball Pythons」)。呼び名ひとつに複数の分子アレルがある例としてアルビノとウルトラメルを挙げているのは Brown ら「A community-science approach identifies genetic variants associated with three color morphs in ball pythons」(PMID 36260636)です

モルフの図鑑

・Yellow Belly|MorphMarket Morphpedia(「Incomplete Dominant」「Complex: Super Stripe」「First Produced By: Amir Soleymani」「1999」。別名は YB/Bling Yellow Belly/Flare/Goblin/Orange Belly。タグは Complexes/Genetic Test Available/Super Stripe Complex。Issues 欄は空(API の値は null)。腹と胴の項、History は本文に引用。コンボ欄から Freeway/Highway/Puma/Super Stripe。作出者の欄に付く脚注[1]は World of Ball Pythons のページ、History には脚注なし、Related Traits の脚注[3][4][5]は bioRxiv のプレプリント/2026年10月25日閲覧。ページの更新日は2025年2月5日)

・Gravel(「見分けが難しく、成体ではトレイトレスと間違われることも多い」。コンボ欄は Highway の1件。作出者は The Animal Company・2006年で、当店の図鑑(Bill Brant・2008年)と食い違います)/Asphalt(「イエローベリーとグラベルの両方によく似ているが、はっきり区別できるスーパー体を出す」。別名 401 Ball)/Specter(「個体によって見た目が変わる」。別名 Whirlwind。参考文献に「Spark vs Specter」のスレッド)/Spark(作出者は Amir Soleymani。参考文献に同じスレッド)(いずれも2026年10月25日閲覧。5件とも Complex は Super Stripe、Issues 欄は空)

・Yellow Belly|World of Ball Pythons(「Mutation: Base Morph」「Complex: Yellow Belly」「Genetics: Incomplete dominant」「First Produced By: Amir Soleymani」「Year: 1999」「Genetic Tests Available: Yellow belly」。Description は本文に引用)/Ivory(別名 Super Yellow Belly、「Mutation: Designer Morph」「Genetics: N/A」「First Produced By: The Snake Keeper」、埋め込みデータの firstProducedDate は 2003、検査欄は「まだ用意できていません」)/Super Yellow Belly(同じ ivory/ を指す別レコード。「Mutation: Super」「First Produced By: Amir Soleymani」「Year: 1999」「Genetics: Incomplete dominant」、検査欄は「Yellow belly」。Ivory のレコードと作出者・年・検査欄が割れています)/Super stripe・Freeway(どちらも分類は「Allelic combo」)/Highway(「グラベルとイエローベリーの組み合わせ」)(いずれも2026年10月25日閲覧)

当店の図鑑・記録・記事

・モルフ図鑑:イエローベリー(別名 YB、作出者 Amir Soleymani、不完全優性、スーパーストライプコンプレックス。history(1997年デイトナ/1999年に遺伝性を証明/2003年に TSK がアイボリー)、頭・胴・腹・尾の記述、スーパー体(アイボリー)の記述は本文に引用。この記事では書き換えていません)/グラベル(別名 het Highway。スーパー体の記述、コンボの記述、作出者 Bill Brant・2008年)/アスファルト(スーパー体の別名 The 401 Ball、コンボの記述(フリーウェイ・パークウェイ・ペイブメント))/スペクター(別名 Superstripe Maker/SS-Maker/Het Superstripe、コンボの記述)

「het Highway」「Het Superstripe」の het は、潜性のヘテロという意味ではありません。グラベルもスペクターも、当店の図鑑と Morphpedia の両方で不完全優性とされています。「組み合わせの片方を持っている」という意味で使われている別名で、パイボールドのような潜性モルフの「Het」とは指しているものが違います。

・販売個体の一覧(公開357件(小売238・両方73・卸売46)のうち、このシリーズの名前が入るもの33件(うち卸売向けの表示が5件)。「poss イエローベリー」7件。アイボリー2件、スーパーアスファルト2件、フリーウェイ3件、ペイブメント1件。Lil26015 と Lil26001 の親の構成は個体ページの「親」の欄から。2026年10月25日時点)/交配記録(公開38件のうち、親のモルフ表記にイエローベリーを含む8件を本文に全部挙げました。2026年のクラッチは交配記録には載っていません)

・対立遺伝を徹底解説(イエローベリーコンプレックスという呼び名と強弱の記述、含まれるモルフを6つとする数え方、RGI のパネル一覧)/モルフ計算機の使い方(出た結果から親の遺伝子型を読むことの危うさ)/モルフとは?品種と遺伝の仕組み

・アルビノ(色素合成が止まるタイプの白、呼び名と分子が一対一でないこと)/デザートゴースト(撤回・差し替えで遺伝子名がどう入れ替わったか、検査の読み方)/GHI(見た目だけで1つに絞れないモルフの扱い)/パステル/パイボールド(見た目でヘテロは分からないこと)/スパイダーとウォブル/繁殖を始める前に知っておくこと(販売目的の繁殖と業種、難産のリスク)/脱皮不全(脱皮殻を見ること)/選び方

本記事は、査読論文1本(撤回・差し替え後の版)とそのプレプリント、モルフの図鑑サイト2件、および当店が公開している図鑑・販売個体・交配記録を突き合わせて整理したものです。検査会社が現在どのアレルを個別に判定できるかは、今回確認していません。当店が確認できなかったことは、確認できなかったと本文に書いています。

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