当店は、ボールパイソンの目・耳・ピット器官・舌をそれぞれ1本の記事にしてあります。脳に触れた箇所もいくつかあります。いっぽう脳そのものを主題にして、この種で測られたことを並べた記事は書いていませんでした。この記事が埋めるのは、そこです。
先に書いておくと、分かっていることは多くありません。中心になる研究は、13匹・19匹・20匹・25匹といった規模です。飼育の手順を変える根拠にはなりません。それでも、「ヘビだから何も起きていない」と決めてしまう前に知っておく価値のある測定がいくつかあります。
目次
この記事は、ヘビの賢さを順位づけるものではありません
ここで並べるのは、脳のどこに何があるかと、ある条件のあとで何が増えたかの測定です。「ヘビは賢い/賢くない」「犬より上か下か」といった比較はしません。比べるための物差しが揃っていませんし、今回の研究のどれもそれを目的にしていません。
また、この記事を読んで飼い方を変える必要はありません。温度・湿度・ケージ・ハンドリングの考え方は、すでに別の記事にあります。
どこまで原文を読んだか
出典の読み方をそろえておきます。全文を読めたのは、2018年の摂食の研究(Habroun ら)、2024年の MRI の論文(Jiménez ら)、2024年の摂食の研究のもとになった学位論文(Bow, 2023年)、2024年の社会的な刺激の研究(Skinner ら)、そして冒頭で触れる2017年のμオピオイド受容体の研究(Kharbush ら)の5つです。
Skinner ら 2024年(社会的な刺激と Fos)は、著者らが公開している PDF で全文を読みました。領域ごとの Fos 陽性核の数も公開されています。
Smeets(1988年)、Kobayashi ら(1992年・1995年)、Font ら(2001年)は要旨のみです。本文で「要旨は〜と書いています」と断っているところは、そういう意味です。
脳そのものを主題にした記事を、当店はまだ書いていませんでした
当店の記事には、感覚ごとの1本があります。視力、耳と振動、ピット器官、そして舌と匂いです。
脳に触れていないわけではありません。ピット器官の記事には赤外線の信号が三叉神経を通って視蓋へ送られることを書きましたし、視力の記事にも熱と視覚が視蓋に届くことを書いています。脳の中身を測った研究を引いた記事もあります。痛みを感じるのかの記事で扱ったKharbush ら 2017年は、脳と脊髄のμオピオイド受容体 mRNA の発現量をアカミミガメと比べています(両種のあいだに差は検出されませんでした)。この比較に使われたのはボールパイソン15匹とアカミミガメ10匹で、研究全体で使われたボールパイソン44匹とは別の数字です。
いっぽう脳を主題にして、この種で測られたことを並べた記事はありません。公開済み103本を全文で検索すると、「終脳」「前脳」「嗅球」「扁桃体」「側坐核」「視索前野」「神経新生」は、いずれも0件でした。
この記事で扱うのは、その空白です。ボールパイソンという種名を名指しした研究を中心に置き、ヘビ一般・爬虫類一般の話は、そうと分かるように書き分けます。
この記事が答えないこと
慣れるのか・個体差があるのかは、行動の側から別の記事にまとめてあります。馴化(同じ刺激を繰り返すと反応が減ること)と、個体ごとの一貫した行動傾向についてはボールパイソンは人に慣れる?の記事が扱っています。
神経症状が出たときの対応も扱いません。震え・立ち直りの異常・不自然な姿勢が出たときは、爬虫類を診られる動物病院に連絡してください。中枢神経に所見が出る病気の例は封入体病(IBD)の記事、内耳の形態の異常はスパイダーとウォブルの記事にあります。
前脳の MRI アトラスが報告されたのは、2024年です
Jiménez ら(2024年、Brain Structure & Function 229巻6号1349〜1364頁)が、カメ(ミシシッピアカミミガメ)・トカゲ(フトアゴヒゲトカゲ)・ヘビ(ボールパイソン)の3種について、MRI で前脳(大脳と間脳をあわせた部分)を撮り、領域を塗り分けたアトラスを作りました。
「それまで脳を撮った研究が無かった」という意味ではありません
ボールパイソンの頭部を画像で撮った研究は、それ以前にもあります。この MRI 論文自身が、Schrenk ら(2022年)——スパイダーモルフと野生型を CT と MRI で比べ、内耳の形態の差を見た研究——を引用しています(当店のスパイダーとウォブルの記事で扱ったものです)。
2024年に新しかったのは、前脳の主要な領域を塗り分けた地図が、この種について論文の形で出たことです。「それまで何も無かった」ではありません。
13匹を撮って、生データごと公開されています
- 対象はボールパイソン13匹(体重 800〜900 g の成体、雌雄両方)。カメ8匹・フトアゴ11匹と同じ手順で比べています
- 生きた個体は麻酔下で 4.7 テスラの装置で撮影。解像度は 117 µm 角から 66 µm 角
- 固定した脳は1 テスラの卓上装置で撮影。こちらの解像度は 0.100 × 0.200 × 0.200 mm で、1回の撮影に約90分
- 生の MRI データが、ダウンロードできる形で公開されています。論文本文にリンクがあります
- 脳と脳室の体積も測っていて、3群ははっきり分かれました。とくにカメが、トカゲ・ヘビの両方と違う特徴を示したと書かれています
この論文には2026年10月25日付の訂正が出ていますが、中身は共著者名の表記の誤り("P. Pérez Llorens" → "P. Pérez-Lloret")だけで、データも結論も変わっていません。
層の構造と小さな核は「決められなかった」と書かれています
アトラスができたといっても、何でも見えるようになったわけではありません。論文自身が、はっきり限界を書いています。
「技術的な制約により、たとえば層への組織化や、小さな核の集まりの存在を決定することはできなかった」
さらに、終脳で見分けた3つの皮質構造については、「解剖学的な位置によって暫定的に同定したものであり、組織の構成の違いによるものではない」と書いています。位置から当てた名前だということです。
これは「ペットの脳を調べられるようになった」話ではありません
使われたのは研究施設の装置ですし、生きた個体は麻酔下で撮影されています。さらに組織の確認のため、各種2匹は深麻酔のうえ脳を取り出しています。この研究は、健康診断としての有用性を検証したものではありません。
家庭の個体で何が相談できるかは、設備と獣医師の判断によります。病院へ持っていくものと電話で確認することは病院の探し方の記事にまとめてあります。
爬虫類は、大人になっても新しい細胞が生まれる範囲が広い
ここから先は、細胞を数えた研究の話になります。先に前提を置きます。
総説が挙げるのは「調べられたかぎりすべての爬虫類」です
Font ら(2001年、Brain, Behavior and Evolution 58巻5号276〜295頁)は、爬虫類の成体の神経新生——大人になってからも新しい神経細胞が作られること——をまとめた総説です。冒頭にこうあります。
「過去数十年に蓄積された証拠は、これまでに調べられたすべての爬虫類が、成体の脳の多くの領域で、高い速度でニューロンを加えつづけていることを示している」
総説が挙げている領域は、嗅球、吻側の前脳、すべての皮質領域、前部の背側脳室隆起、中隔、線条体、nucleus sphericus、小脳です。ただし同じ総説は「ニューロンが作られる速度は、これらの脳の領域のあいだで大きく異なる」「速度と分布には種のあいだで著しい違いが認められてきた」とも書いています。
これは爬虫類全般の総説で、成体のボールパイソンで確かめられた話ではありません
上の領域のリストは、爬虫類という大きなくくりでの整理です。成体のボールパイソンで、挙げられた全領域の高い神経新生が確認された、という意味ではありません。
よく引かれる「傷ついた終脳の大部分を再生できる」というくだりも、原文は「トカゲ、そしておそらく他の爬虫類も」(lizards, and possibly other reptiles as well)で、ヘビで確かめられたとは書かれていません。
この記事が次に扱う摂食の研究2本は、どちらも幼若個体を対象にしています。
ボールパイソンに限ると、細胞が生まれる速度がいちばん高いと報告されているのは副嗅球と retrobulbar 領域です(Bales 2014年の学位論文と、次に扱う Habroun ら 2018年。後述の Bow 2023年の学位論文が、この2本を引いてそう整理しています)。
何のためかは、2001年の総説が「largely conjectural」と書いています
新しい細胞が生まれつづけることに、どんな意味があるのか。Font らは断定していません。
「この継続的な新しいニューロンの生成と既存の回路への組み込みが、機能の上でどのような帰結をもたらすのかは、大部分が推測の域にある。ただし、これらの現象が学習と記憶に関与していることは、ありうる可能性の1つである」
largely conjectural というのが、2001年の時点での、この総説の評価です。「ヘビは脳が増えつづけるから学習できる」とは、ここからは言えません。
食べたあとの脳を、2本の研究が測っています
ボールパイソンで、摂食と脳の細胞の増え方を結びつけて測った査読論文は、いまのところ2本です(このほかに、同じ研究室から2014年に、摂食とは別の切り口で細胞の増殖・移動・生存を扱った学位論文が出ています)。2本は同じ研究室(カリフォルニア州立ポリテクニック大学)から出ていて、後の1本が前の1本を確かめにいった関係にあります。
なぜ「食べたあと」なのか。ニシキヘビは、食後に代謝が極端に跳ね上がることで知られています(特異動的作用)。体の側で何が起きるかはヘビの体の構造の記事に書いたとおりで、ボールパイソン48匹に栄養素を分けて与えた実験で臓器が大きくなったのは、高タンパク食を与えた群の小腸と肝臓だけでした。では脳はどうなのか、というのがこの2本の問いです。
2018年——6日後に、終脳全体で有意に増えていました
Habroun ら(2018年、Journal of Experimental Biology 221巻7号 jeb173377)は、細胞が生まれたことの目印になるBrdU(5-ブロモ-2'-デオキシウリジン)で、新しく生まれた細胞を数えました。
- 対象は幼若のオス21匹(購入した個体。到着時の平均体重 286.3±16.8 g、吻端肛門長 63.93±1.37 cm)。3群に分け、群ごとの体重に差はありません
- 30日の絶食のあと、生きたマウス(体重の20%)を与え、給餌の2日後・6日後に採材。絶食のままの対照群と比べています。BrdU は、どの群も採材の前日に投与
- 終脳の全体で、新しく生まれた細胞の密度は、6日後の群が対照群・2日後の群のどちらよりも有意に高くなりました(F2,17 = 37.06、P < 0.0001)。2日後と対照のあいだには差がありません(P = 0.942)
- 著者らの整理は「全身の食後の可塑性は、摂食後すぐ、活発な消化の期間に起こる。しかし脳は、消化と吸収のほとんどが完了したあとに細胞増殖の急増を示す」
統計の自由度から、解析に入ったのは20匹です(群の内訳は対照7匹・2日後6匹・6日後7匹)。論文自身が「1群7匹という標本の大きさでは、処置をまたいだ全体の細胞密度の2.2倍の変化を検出する検出力がおよそ80%ある」と書いていて、小さい差を拾う設計ではないことを明示しています。
2024年——同じ向きの傾向は出ましたが、有意差には届きませんでした
Bow ら(2024年、Brain, Behavior and Evolution 99巻3号144〜157頁)は、この結果を確かめたうえで、生まれた細胞が2か月後にどうなっているかまで追いました。
6日後の比較では、有意差に届きませんでした。論文の要旨は「給餌の6日後のヘビで、細胞増殖の速度が有意に大きいという結果は得られなかった」と書いています。
2018年の結果を否定したものではありません
ここは、原文のとおりに運んでおきます。この研究のもとになった学位論文は、「6日後に細胞増殖の統計的に有意な増加は見られなかったが、我々のデータも同じ向きの傾向をたどった(p = 0.136)」と書いています。先行研究で出た有意な増加を、この比較では確認できなかった。ただし推定値の向きは同じだった、という形です。
学位論文は、確認できなかった理由の候補として2つを挙げています(原因が確かめられたわけではありません)。①この研究の標本が小さいこと(6日後の比較は合計10匹。2018年は14匹)。②個体の大きさが違うこと(実験開始時の平均体重が 65.0±3.4 g で、2018年の 286.3±16.8 g よりかなり小さく、「おそらく若かった」と書いています)。
論文の結論も「食事の摂取は、消化が完了したあとのボールパイソンの脳で細胞増殖を刺激する。ただしこの効果は、本研究では予想より遅い時点で現れた」です。前の結果を否定したものではありません。
「同じ6日後」も、厳密には同じではありません
BrdU をいつ入れたかが違います。
2018年は、採材の前日に BrdU を投与しています(6日後の群なら、5日目に入れて6日目に採材)。2024年は、給餌の6日後に BrdU を投与し、その24時間後に採材しています。
BrdU は、投与されたあと体内に残っているあいだに DNA を合成した細胞に取り込まれるので、2本が数えている「新しく生まれた細胞」は、1日ずれた時間帯のものです。「同じ6日後で結果が違った」と単純に並べられる比較ではありません。
2か月後に増えていたのは、神経細胞の目印が付かない細胞でした
2か月後の比較では、はっきりした差が出ました。ただし増えていたものの中身が重要です。
- 餌を与えられた群は、脳室のまわりで新しく生まれた細胞が、対照群より有意に多くなりました(給餌8匹 対 対照7匹)
- いっぽう「新しく生まれた神経細胞」の数には、有意差が検出されませんでした(学位論文の図では p = 0.1601)。要旨は「給餌は神経新生の速度の高さとは関連していなかったが、食事を与えられたヘビは、対照より、新しく作られた非神経細胞の数が多かった」と書いています
- 2か月後の細胞数から計算した「生存率」が高かったのは、嗅球と外側皮質です。どちらも匂いの処理に関わるとされる領域です。ただしこの「生存率」は、別の群で1日後に数えた脳室帯の細胞数を分母に置いた推定値で、そこで増えたのか他から移動してきたのかまでは分けられていません(学位論文も、外側皮質の高い値について移動の可能性に触れています)
- 領域ごとの検定では、結果が一様ではありません。脳室帯の細胞密度では、嗅球・副嗅球だけ補正後の有意水準に届いていません(学位論文の図で p = 0.0159、Bonferroni 補正で α = 0.01)
「神経細胞ではない細胞」と言い切れるところまでは分かっていません
論文の要旨は nonneuronal(非神経細胞)とまとめていますが、もとの学位論文は、この細胞の正体は現時点では不明としています。候補として挙がっているのは2つです。
①グリア細胞になった(カメで見られる発生のパターンに沿う)。②ニューロンになる途中で、まだ目印(Fox3)を検出できるほど発現していなかった。
学位論文は今後の課題として、未成熟ニューロンの目印(DCX)やグリアの目印(GFAP)で染め分けることを挙げています。この記事で「神経細胞の目印が付かない細胞」と書いているのは、そこまでしか決まっていないからです。
「餌を食べるとニューロンが増える」ではありません。要旨は神経を保護する向きの効果に触れていますが、その書き方も「わずかな神経保護の効果があるかもしれない」「細胞の生存率が高いというわずかな傾向を捉えた」という限定つきです。
この2本が、どういう条件で行われたか
この2本を飼育の話に持ち込む前に、実験の条件を見ておく必要があります。
- どちらも、与えたのは体重の20%にあたる生きたマウスです。2018年は30日の絶食のあとに1回、2024年も実験開始時に1回。2024年の個体は開始時の平均体重が 65 g なので、実際の重さはおよそ13 gです
- 2024年の研究では、強制給餌が何度も行われています。孵化個体24匹を迎えた5か月の順化期間で、2か月たっても食べなかった個体を強制給餌。途中で11匹を追加し、2021年8月25日の給餌では48時間後に食べていなかった13匹を強制給餌。実験開始時にも、生き餌を一貫して拒んだ2匹を強制給餌しています
- 実験に入る前の死亡が記録されています。学位論文の記載は、到着48時間以内に1匹、順化期間に3匹、実験前の1か月の絶食期間に4匹です(最初の1匹が順化期間の3匹に含まれるかは、本文からは読み取れません)。最終的に実験に入ったのは25匹です。導入した数・死亡した数・実験に入った数は、本文の記述だけでは足し引きが合いません(自発的に食べない個体の入れ替えが挟まっています)。学位論文は記録として書いているだけで、強制給餌や餌の条件が死因だったとは書いていません
- 「2か月後」は BrdU を入れてから2か月後のことで、比べた2群は「2か月なにも食べていない群」と「食べた群」ではありません。最初の給餌から1か月後に、両方の群に体重の約10%の餌が与えられています(恒常的な状態を保つため、と書かれています)。2群の違いは、BrdU を入れた時点の手前に大きな食事があったかどうかです
論文の条件を、そのまま飼育の手本にしないでください
ここに書いた給餌も強制給餌も、研究で実施された条件・処置であって、家庭で拒食に対応するやり方や時期の妥当性を確かめたものではありません。
生き餌と強制給餌について、当店の既存記事はどちらも最終手段として書いています。拒食の原因と対策15選は「冷凍餌を食べない場合、最終手段として活餌を試しても良いかもしれません」、拒食中のついやりがちな対応3選は強制給餌を「最終手段だと考えておいた方が良いでしょう」「どうしても痩せすぎてやばい、なんて時以外は他の方法で拒食改善を行った方が良いと思います」としています。この研究は、そういう判断の上で与えたものではありません。
とくに「2か月食べなかったら強制給餌」は、家庭での判断の基準になりません。食べない状態が続くときは、自己判断で口を開けさせず、爬虫類を診られる動物病院に相談してください。
いっぽう「体重の20%」という比だけを取り出して、家庭での量を決めないでください。2024年の研究の個体は平均65 g なので、20%にあたるのは約13 g です。この計算からも、当店の体重区分の表からも、家庭飼育での適量は決まりません。当店の体型の記事は、餌のサイズと頻度の記事の表と、別の記事の「体重の15%以上を与えない」が噛み合っていないことを自分で指摘し、この体重帯の表をそのまま当てないよう書いています。
餌のサイズの考え方は餌診断の記事に、解凍・拒食・吐き戻しといった給餌そのものの話は、姉妹店のリルラッツにあります。

同性の同種と1時間過ごした個体で、Fos が多かった領域があります
Skinner ら(2024年、Behavioural Brain Research 465巻 114965)は、ボールパイソンを同性の同種個体と1時間いっしょに過ごさせ、そのあとで脳のFos(活動した神経細胞に現れるタンパク質)を染めて数えました。比べているのは、過ごした群と過ごしていない対照群の2群です。
測ったのは Fos。活動の跡であって、気持ちではありません
Fos は、神経細胞が強く活動したあとに核の中に現れるタンパク質です。どの領域の細胞がよく働いたかを、あとから染めて数えることができます。その動物が何を感じていたかは分かりません。
この研究の作りは、こうです。
- 19匹(メス13・オス6)、2〜3歳。ブリーダーから購入した個体で、ラックのタブで1匹ずつ飼育。腹面の加温は33℃、部屋は28℃、湿度50〜70%、シェルター2つと水入れ2つ、週に1回の解凍ラット
- 本番の前に、3日間、空のガラスケージで1時間ずつ慣らしています。このときケージを掃除しません(掃除するとヘビは慣れが戻ることがある、と論文が書いています)
- 4日目。対照群10匹は1匹で1時間、社会条件9匹は、初対面の同性の同種と1時間。相手役はオス1匹・メス1匹に固定されていて、全員が同じ相手と会っています
- 試験は暗期が始まって1時間後に開始。終わったあと1匹でホームケージに1時間戻してから採材
- 数えたのは、条件も性別も知らされていない担当者です。1週に3匹ずつ、6週かけて実施
脳の地図は、1988年の論文から持ってきています
この研究が領域を見分けるのに使ったのは、Halpern(1980年)とSmeets(1988年)です。後者は、この記事の後ろで扱うボールパイソンのドーパミンの分布を調べた論文で、論文の図の線画も「Smeets から引用して改変した」と書かれています。
1988年にこの種の脳を描いた論文が、2024年の研究の土台になっています。
鋤鼻の高次構造では、2群のあいだに差が検出されませんでした
結果のうち、まず差が出なかったところから見ます。
鋤鼻の情報を受け取ったあと、前のほうで処理する構造では、2群の差が検出されませんでした。ヘビの鋤鼻の経路は、副嗅球のあと nucleus sphericus、そして olfactostriatum と進むことが分かっています。この2つは、ヘビで大きく発達している構造です。
- nucleus sphericus——オッズ比 1.2(95%信頼区間 0.89〜1.63)、p = 0.233。AIC で選ばれたモデルには条件と性別が入りましたが、論文は「このモデルは切片だけのモデルより良くはなかった」と書いています
- olfactostriatum——AIC で選ばれたのは切片だけのモデル。条件も性別も、モデルに残りませんでした
- 腹側被蓋野——こちらも切片だけのモデル。ここは報酬に関わるとされる構造で、論文は鋤鼻の経路にも重なるものとして扱っています
論文の結論は、「これらの構造は、社会的な手がかりを区別してはいないようだ」というものです。ボールパイソンが同種を認識する手がかりは、まずヤコブソン器官(鋤鼻器。舌で集めた化学物質を受け取る器官)から入ります。当店の舌の記事に書いたとおりです。そこから先の、ヘビで発達している構造のほうでは、差が出ませんでした。
「入ってくる匂いは同じだった」という結果ではありません
差が検出されなかったことは、2つの条件で感覚の入力が等しかったことの証明にはなりません。測られたのは Fos 陽性核の数であって、入力の量でも質でもありません。
この節から言えるのは、「調べた範囲で、鋤鼻の高次構造では群の差が検出されず、その先の領域では検出された」というところまでです。
差が出たのは、その先の領域でした
差が出たのは、鋤鼻の経路の後ろのほうと、脊椎動物で共通して社会行動に関わるとされるネットワークに属する領域でした。
- 内側扁桃体——社会条件のほうが有意に多い。オッズ比 2.24(1.46〜3.47)、p は0.001未満。AIC で選ばれたモデルに入ったのは条件だけで、性別は残りませんでした
- 視索前野——条件の主効果はオッズ比 2.16(1.39〜3.37)、p は0.001未満。ただし条件と性別の交互作用が有意(オッズ比 0.34、0.14〜0.83、p = 0.016)で、差があったのはメスだけ。オスは条件のあいだで違いませんでした
- 背側脳室隆起——論文は、社会条件のほうが有意に多かったとしています(p = 0.007)。ただしこの行だけは、載っている数字どうしが噛み合いません(下の囲み)。要旨が「基底外側扁桃体」と呼んでいるのは、この領域だと読めます——論文の本文が、爬虫類の背側脳室隆起は哺乳類の基底外側扁桃体に相当するという説を引いています
- 腹側扁桃体——社会条件のほうが多い(オッズ比 1.52、0.99〜2.33、p = 0.048)。さらにオスのほうがメスより多い(オッズ比 1.70、1.08〜2.73、p = 0.022)。条件のほうは、信頼区間の下端が1をわずかに下回っています
- 側坐核——条件の差は有意に届いていません(オッズ比 1.39、0.99〜1.97、p = 0.058)。いっぽうオスはメスより有意に少なく(オッズ比 0.56、0.38〜0.84、p = 0.004)、論文は平均値を見た印象として「差は主にメスが牽引している」と書いています(交互作用の検定で示したものではありません)
検査の順番の影響は検出されていません。なお、ここでいう「オッズ比」は論文の表記に合わせたもので、解析そのものは負の二項分布を使った一般化線形モデルです(カウントが過分散だったため)。モデルは AIC で選ばれています。
要旨の書き方は、本文の結果より強く読めます
要旨は「内側扁桃体、視索前野、側坐核、基底外側扁桃体で、対照より Fos が多かった」と並べていますが、本文を開くと側坐核は p = 0.058 で有意に届いていません。視索前野も、差が出たのはメスだけです。
もうひとつ。背側脳室隆起について、論文は p = 0.007 としていますが、同じ行のオッズ比は 1.14、95%信頼区間は 0.64〜2.05 で、信頼区間が大きく1をまたいでいます。効果の大きさと有意性を、この記載だけで確定的には扱えません。(腹側扁桃体も下端が 0.99 で1をわずかに下回りますが、こちらは境目のずれの範囲です。)
この記事が領域ごとに数字を並べているのは、まとめの一文だけで読むと強く出てしまうからです。
著者らが挙げている、いちばん大きな限界
論文の結論に、こう書かれています。
「我々の検査のやり方は、初対面の同種に由来する手がかりの処理と、新奇な刺激一般の処理とを、区別することができない」
つまり「同種だから反応した」とは言えません。初めて入ってきた、動く、自分と同じくらいの大きさの何か——それに対する反応だった可能性を、この設計では消せていません。著者らも、今後の研究で切り分けるべき点として挙げています。
領域の名前は、哺乳類との対応づけで付いています
内側扁桃体・側坐核といった名前は、もともと哺乳類の脳で付けられたものです。爬虫類の脳の構造にこれらの名前を当てるのは、位置や接続の似かたによる対応づけであって、同じものがそこにある、という意味ではありません。背側脳室隆起を「基底外側扁桃体」と呼ぶかどうかも、論文が引いている説のひとつです。
著者らは、報酬の可能性にも触れています
報酬に関わるとされる構造のうち、腹側被蓋野では差が出ませんでした。いっぽう側坐核では、メスの社会条件で Fos が多くなっています。著者らは「他の動物と同じように、社会的な手がかりはボールパイソンにとっても報酬になりうるのかもしれない(may be rewarding)」と書いています。
これは著者らの解釈で、測られたのは Fos 陽性核の数です。しかも側坐核の条件差は p = 0.058 で、有意に届いていません。
性差の記述があります。ただしオスは6匹です
要旨は「これらの領域の多くで、Fos の数は性によって異なった。これはオスどうしの競争が強まることによるのかもしれない」と書いています。
中身を見ると、方向は領域ごとに違います。側坐核はメスのほうが多く、腹側扁桃体はオスのほうが多い。視索前野は、条件の差がメスだけに出ました。
そしてオスは、19匹のうち6匹です(対照3匹・社会条件3匹)。著者らも may be due to(〜によるのかもしれない)という形で書いていて、確かめた結果としては書いていません。
数えたもとのデータが公開されています
著者らは、領域ごとの Fos 陽性核の数をOSFで公開しています(SnakeSociallyMediatedCfos.xlsx)。数えてみると、19匹すべてが揃っているのは8領域のうち1つだけで、残りは17〜18匹分でした(社会条件は8領域のうち7つで8匹)。
領域ごとの比較は、論文が書いている19匹よりさらに小さい数で行われています。
「オス同士は一緒にできない」の根拠としては弱すぎます
この研究は、同居の是非を調べたものではありません。初対面の相手と1時間過ごしたあとの神経の反応を見たもので、長期に同じケージで暮らすことの利害は、別の問いです。
当店のケージサイズの記事が複数匹について書いているのは、ケージを並べる前に考えることのほうです。いっぽう繁殖完全マスターガイドには、交配のときに同居させる手法も「複数同居はストレスやトラブルの原因になることもある」という注記つきで載っています。当店の記事が一律に同居を否定しているわけではありません。
いずれにせよ、この研究は、その判断を変えるものでも、補強するものでもありません。
著者らの「親による世話も協力も長期の群れも無い」は、そのままでは運べません
要旨の末尾は、こうです。
「ボールパイソンの社会システムには、親による世話も、協力も、長期の群れでの生活も無いため、これらの結果は、脊椎動物の社会的意思決定ネットワークの基礎的な機能について価値ある知見を与える」
著者らは、社会行動のレパートリーが比較的とぼしい種だからこそ、回路の土台が見えるという理屈でこの種を選んでいます。「ヘビにも社会性があると分かった」という話ではありません。
ただし「親による世話が無い」は、当店の既存記事と食い違います
ボールパイソンのメスは卵に巻きついて抱卵します。当店の産卵後のメスのケアの記事で扱ったAubret ら 2005年の実験(トーゴ南部、野生のメス48頭)は、抱卵を親の世話として扱い、抱卵が孵化率をはっきり上げたと報告しています。同じ論文は、抱卵中のメスが2か月のあいだクラッチに巻きついたままで摂食を拒むことも書いています。
今回の論文が「親による世話が無い」と書いているのが、孵化したあとの世話を指しているのか、それとも別の定義なのかは、本文を読んでも書かれていません。確かめられないので、この記事では「著者らがそう書いている」までにとどめます。ボールパイソンに親の世話が無い、という事実として読まないでください。

1988年から1995年に、この種で調べられていたこと
ボールパイソンの脳の研究は、2024年に急に始まったわけではありません。1980年代から90年代にかけて、この種を対象にした神経解剖の論文が出ています。どれも要旨しか読めていませんが、いまの2本を読むときの背景になります。
ドーパミン陽性の線維がいちばん密だったのは、側坐核とその周りでした
Smeets(1988年、Journal of Comparative Neurology 271巻1号115〜129頁)は、抗体を使って、ボールパイソンの前脳と中脳でドーパミンの免疫反応の分布を調べました。論文は、この種を選んだ理由を「これまで(免疫)組織化学の研究の対象になってこなかった爬虫類の系統の代表として」と書いています。
- ドーパミンを含む細胞体は、主嗅球と副嗅球、間脳のいくつかの領域、そして中脳の腹側被蓋野と黒質、および哺乳類の A8 細胞群に相当すると推定される部分にありました
- 終脳そのものには、ドーパミンを含む細胞体はありません(原文は but not in the telencephalon proper)
- 線維がもっとも密に入っているように見えると書かれているのは、側坐核・線条体・嗅結節・副嗅索核の4領域です
- いっぽう外側皮質を除いて、皮質領域にはドーパミン線維があまり入っていません
この論文は、2024年の Fos の研究が領域を見分けるのに使った資料のひとつです。図の線画も、ここから引用して改変したと書かれています。36年前にこの種の脳を描いた論文が、いまの研究の土台になっています。
なお、2024年の研究が調べた領域のひとつが側坐核で、1988年の時点でも側坐核はドーパミン線維が密に入る4領域のひとつとされていました。ただし、この2つを結んで「報酬を感じた」と読むことはできません。Fos は活動の跡で、ドーパミンの分布は解剖です。どちらも、動物が何を感じたかを測ったものではありません。しかも側坐核の条件差は、p = 0.058 で有意に届いていません。
視覚と赤外が、同じ1本の樹状突起に入っていました
当店のピット器官の記事と視力の記事で、熱の情報と視覚の情報が脳の視蓋で合流すると書きました。どちらも、別の論文の記述を引いたものです。その合流を、ボールパイソンで直接見た論文があります。
Kobayashi ら(1992年、Brain Research 597巻2号350〜352頁。横浜市立大学医学部解剖学教室)は、西洋ワサビペルオキシダーゼと変性標識を組み合わせて、視蓋に終わる赤外線の線維と視覚の線維を追いました。
「個々のニューロンに対する視覚線維と赤外線線維によるシナプスに加えて、我々は、ひとつの同じ樹状突起の上にある視覚シナプスと赤外線シナプスを、初めて観察することができた」
同じグループは1995年(Neuroscience Research 22巻3号315〜323頁)に、赤外線の情報を運ぶ三叉神経の経路・視神経・体性感覚の経路が、視蓋のどの層に終わるかを調べています。赤外線は第5〜13層(とくに7a〜8層に密)、視神経は第7a〜13層(主に12〜13層)、体性感覚の線維は少なく、吻側半分の第5〜7b層(主に6〜7a層)でした。要旨の結びは「これらの異なる感覚モダリティが、各種のニューロンのうち1個の細胞に収束している可能性がある」です。
「別々に届いた情報が、最後に同じ細胞で合わさる」というのは、言葉のあやではありません。電子顕微鏡で、同じ1本の枝の上に両方のシナプスが見えた、という報告がこの種にあります。
飼育の側から言えること
この記事から、飼育の手順は変わりません。それでも、判断の前提として効いてくるものがいくつかあります。
同種と居合わせた個体の脳では、何かが起きていました1時間の相互作用のあと、脊椎動物の社会行動に関わるとされる領域で、対照より Fos が多くなりました。これは同居を勧める材料ではありません。長期の同居の利害は調べられていません。言えるのは、ケガをしていないことを、何も起きていないことの証拠にしないというところまでです
鋤鼻の高次構造で差が出なくても、その先で差が出ることがありますヘビで発達している鋤鼻の高次構造では、2群のあいだに Fos の差が検出されず、その先の領域では検出されました。舌の記事で書いた「チロチロは探索であって機嫌のものさしではない」という整理と、同じ向きの話です。反応が見えないことを、何も起きていないことの証拠にしない
給餌の後の数日を「何も起きていない時間」と見ない脳で測られたのは、消化のあいだではなく、消化がほとんど終わったあとの変化でした。ただし2本の結果は、有意かどうかで分かれています。日数を決める材料にはなりません。ハンドリングを控える根拠は、いまも RSPCA の48時間です
神経の症状を疑ったときの土台は、まだ薄いこの種の前脳の MRI アトラスが論文になったのは2024年で、内耳の比較が出たのが2022年です。だからこそ、気づいたことの記録が効きます。いつから・どんな姿勢で・どのくらいの頻度か。健康チェックの記事に書いた記録のとり方が、そのまま使えます
「ヘビは単純だから」を前提に置かない爬虫類は、調べられたかぎりすべての種で、成体でも多くの領域にニューロンを加えつづけているとされています。ただし、それが何を意味するかは2001年の総説自身が「大部分が推測の域にある」と書いています。単純だと決めつけないことと、賢いと決めつけないことは、同じ1つの態度です
分かっていないこと
この主題は、書けなかったことのほうが多いところです。並べておきます。
- ボールパイソンの学習や記憶を、この種で直接測った研究を見つけられませんでした。馴化については他のヘビで測られていて、人に慣れる?の記事にまとめてあります
- Fos が多かった領域と、実際の行動の対応は、全文を読んでも分かりません。この研究は、1時間のあいだに何をしていたかを記録して Fos と突き合わせてはいません
- 食後に増えた「目印が付かない細胞」が何なのかは、特定されていません。学位論文は「この細胞の正体は現時点では不明である」と書き、グリア細胞になった可能性と、まだ目印を出していない未成熟のニューロンである可能性の両方を挙げています
- 摂食の2本は、匹数が20匹と25匹です。6日後という1点について、有意かどうかが分かれています
- MRI のアトラスは、層の構造と小さな核を含んでいません。論文が技術的な制約として明記しています
- バソトシン(社会行動との関わりが調べられてきたペプチド)の雌雄差は、書けませんでした。1990年にこの種とカメを比べた論文がありますが、要旨は雌雄差の文で種を特定しておらず、全文も取れていません
- 温度が脳の測定にどう効くのかを、今回の資料は扱っていません。変温動物であることを考えると気になるところですが、今回の論文はどれも、温度を変えて比べてはいません
まとめ
- 前脳の MRI アトラスが報告されたのは2024年です。ボールパイソン13匹、生データごと公開。ただし層の構造と小さな核は決められなかったと論文が明記しています。それ以前に脳を撮った研究が無かったわけではありません(内耳の比較が2022年に出ています)
- 爬虫類は、調べられたかぎりすべての種で、成体でも多くの領域にニューロンを加えつづけるとされています。ただしこれは爬虫類全般の総説で、成体のボールパイソンで全領域が確認された話ではありません。機能上の意味も「大部分が推測の域にある」と書かれています
- 食後の脳。2018年は6日後に有意に増え、2024年は同じ6日後で有意差に届きませんでした(p = 0.136)。ただし向きは同じで、2024年の著者らは標本の小ささと個体の小ささを理由の候補として挙げ、「効果は予想より遅い時点で現れた」と整理しています。BrdU を入れた時点も1日ずれています
- 2か月後に増えていたのは、神経細胞の目印(Fox3)が付かない細胞でした。新しく生まれた神経細胞の数には有意差が検出されていません。この細胞の正体は未確定です
- 同性の同種と1時間過ごした群は、対照群より内側扁桃体の Fos が多くなりました(オッズ比2.24、p は0.001未満)。視索前野でも差が出ましたが、差が出たのはメスだけです。腹側扁桃体でも差が出ています。背側脳室隆起は有意とされていますが、載っている数字どうしが噛み合いません
- いっぽう、ヘビで発達している鋤鼻の高次構造(nucleus sphericus・olfactostriatum)では、差が検出されていません。要旨が同じ列に並べている側坐核も、本文では p = 0.058 です
- 著者らは「この設計では、初対面の同種への反応と、新奇な刺激一般への反応を区別できない」と結論に明記しています。この研究は同居の是非を調べたものでもありません
- 性差の記述がありますが、オスは19匹のうち6匹です。方向も領域ごとに違い(側坐核はメスが多く、腹側扁桃体はオスが多い)、著者ら自身も「かもしれない」という書き方にとどめています
- 著者らは「ボールパイソンの社会システムには、親による世話も協力も長期の群れも無い」と書いています。ただしこの種は抱卵し、それが孵化率を上げたという別の研究があります。この記事は、著者らがそう書いているところまでにとどめます
- 1988年にはドーパミン線維の分布が、1992年には視覚と赤外が同じ1本の樹状突起に入ることが、この種で報告されていました
- どの研究も規模が限られています。効いてくるのは「何も起きていないと決めてかからない」という方向だけです
参考にした資料
ボールパイソン(Python regius)で測られた研究
- Skinner M, Daanish D, Damphousse CC, Krohmer RW, Mallet PE, McKay BE, Miller N. 「Socially-mediated activation in the snake social-decision-making network」 Behavioural Brain Research. 2024;465:114965.(著者らが公開している PDF で全文確認)19匹(メス13・オス6)、2〜3歳。3日間の馴化のあと、対照10匹は1匹で1時間、社会条件9匹は初対面の同性の同種と1時間。相手役はオス1匹・メス1匹に固定。内側扁桃体 OR 2.24(1.46〜3.47)p < 0.001、視索前野は条件の主効果 OR 2.16 p < 0.001 だが交互作用 p = 0.016 でメスのみ、背側脳室隆起 p = 0.007(ただし同じ行の OR 1.14・95%CI 0.64〜2.05 と噛み合わない)、腹側扁桃体 OR 1.52 p = 0.048 でオスが高い、側坐核 OR 1.39 p = 0.058(有意に届かず)でオスが低い OR 0.56 p = 0.004。nucleus sphericus は p = 0.233、olfactostriatum と腹側被蓋野は切片だけのモデルが最良。領域の同定は Halpern 1980年と Smeets 1988年、図の線画は Smeets から改変。領域ごとの Fos 陽性核の数はOSFで公開(
SnakeSociallyMediatedCfos.xlsx。19匹すべてが揃うのは8領域中1つ、残りは17〜18匹分)/2026年11月5日閲覧 - Habroun SS, Schaffner AA, Taylor EN, Strand CR. 「Food consumption increases cell proliferation in the python brain」 Journal of Experimental Biology. 2018;221(7):jeb173377.(全文確認)幼若のオス21匹、到着時 286.3±16.8 g・吻端肛門長 63.93±1.37 cm、30日絶食後に体重20%の生きたマウス、BrdU は採材の前日に腹腔内投与、3群各7匹(解析は20匹)。終脳全体で6日後が対照とも2日後とも有意に違う(F2,17 = 37.06、P < 0.0001)、2日後と対照は P = 0.942、1群7匹で2.2倍の変化を検出する検出力がおよそ80%
- Bow H, Dang C, Hillsbery K, Markowski C, Black M, Strand C. 「Food for Thought: The Effects of Feeding on Neurogenesis in the Ball Python, Python regius」 Brain, Behavior and Evolution. 2024;99(3):144–157.(要旨のみ確認。もとになった学位論文は全文確認)6日後に細胞増殖の有意な増加は得られず、2か月後は新生細胞が多い、神経新生の速度には関連せず増えたのは非神経細胞、嗅球と外側皮質で生存率が高い、「予想より遅い時点で現れた」、「わずかな神経保護の効果があるかもしれない」
- Bow H. 「Food for Thought: The Effects of Feeding on Neurogenesis in the Ball Python, Python regius」(カリフォルニア州立ポリテクニック大学 修士論文、2023年5月)。(全文確認)上の論文のもとになった学位論文。実験に入った25匹、開始時の平均体重 65.0±3.4 g、実験開始時の給餌は体重20%の生きたマウスで一貫して拒んだ2匹は強制給餌、BrdU は給餌6日後に投与し24時間後に採材、6日後の群は対照5匹・給餌5匹で p = 0.136(「同じ向きの傾向をたどった」)、2か月後は対照7匹・給餌8匹、脳室帯の BrdU 陽性・Fox3 陰性細胞は p < 0.0001 で給餌群が多い、実質の新生ニューロンは p = 0.1601 で有意差なし、Fox3 陰性細胞について「この細胞の正体は現時点では不明」、2か月後の群にも初回給餌の1か月後に体重約10%の餌を与えている、Habroun ら 2018年の群が対照7匹・2日後6匹・6日後7匹であること。2026年11月5日閲覧
- Jiménez S, Santos-Álvarez I, Fernández-Valle E, ほか. 「Comparative MRI analysis of the forebrain of three sauropsida models」 Brain Structure & Function. 2024;229(6):1349–1364.(全文確認)ボールパイソン13匹・体重800〜900 g の成体、生体は 4.7 T(解像度 117〜66 µm 角)、固定脳は 1 T(0.100 × 0.200 × 0.200 mm、約90分)、生データ公開、「技術的な制約により、層への組織化や小さな核の集まりの存在を決定することはできなかった」、終脳の3つの皮質構造は「解剖学的な位置によって暫定的に同定した」、脳と脳室の体積で3群が分かれカメが特徴的。2026年10月25日付の訂正は共著者名の表記のみ
- Schrenk F, Starck JM, Flegel T, Kiefer I, Tebrün W, Pees M. 「Comparative Assessment of Computed Tomography and Magnetic Resonance Imaging of Spider Morph and Wild Type Ball Pythons (Python regius) for Evaluation of the Morphological Correlate of Wobble Syndrome」 Journal of Comparative Pathology. 2022;196:26–40.(2024年の MRI 論文が引用している先行研究。当店のスパイダーとウォブルの記事で扱っています)
- Smeets WJ. 「Distribution of dopamine immunoreactivity in the forebrain and midbrain of the snake Python regius: a study with antibodies against dopamine」 Journal of Comparative Neurology. 1988;271(1):115–129.(要旨のみ確認)細胞体は主嗅球・副嗅球、間脳の複数領域、腹側被蓋野・黒質。線維がもっとも密なのは側坐核・線条体・嗅結節・副嗅索核。外側皮質を除き皮質領域は密でない
- Kharbush RJ, Gutwillig A, Hartzler KE, ほか. 「Antinociceptive and respiratory effects following application of transdermal fentanyl patches and assessment of brain μ-opioid receptor mRNA expression in ball pythons」 American Journal of Veterinary Research. 2017;78(7):785–795.(冒頭で触れた研究です。ボールパイソンの脳と脊髄でμオピオイド受容体 mRNA の発現量を測った研究です。mRNA の比較に使われたのは15匹で、44匹は研究全体の数です。当店の痛みを感じるのかの記事にまとめてあります)
- Kobayashi S, Kishida R, Goris RC, Yoshimoto M, Ito H. 「Visual and infrared input to the same dendrite in the tectum opticum of the python, Python regius: electron-microscopic evidence」 Brain Research. 1992;597(2):350–352.(要旨のみ確認)「ひとつの同じ樹状突起の上にある視覚シナプスと赤外線シナプスを、初めて観察することができた」
- Kobayashi S, Amemiya F, Kishida R, Goris RC, Kusunoki T, Ito H. 「Somatosensory and visual correlation in the optic tectum of a python, Python regius: a horseradish peroxidase and Golgi study」 Neuroscience Research. 1995;22(3):315–323.(要旨のみ確認)赤外線は第5〜13層でとくに7a〜8層に密、視神経は第7a〜13層で主に12〜13層、体性感覚は少なく吻側半分の第5〜7b層で主に6〜7a層。「これらの異なる感覚モダリティが、各種のニューロンのうち1個の細胞に収束している可能性がある」
爬虫類全般の総説(ボールパイソンを名指ししたものではありません)
- Font E, Desfilis E, Pérez-Cañellas MM, García-Verdugo JM. 「Neurogenesis and neuronal regeneration in the adult reptilian brain」 Brain, Behavior and Evolution. 2001;58(5):276–295.(要旨のみ確認)「これまでに調べられたすべての爬虫類が、成体の脳の多くの領域で、高い速度でニューロンを加えつづけている」、領域のリスト、速度と分布は領域間・種間で大きく異なる、再生は「トカゲ、そしておそらく他の爬虫類も」、機能上の帰結は「大部分が推測の域にある」
- Paredes MF, Sorrells SF, Garcia-Verdugo JM, Alvarez-Buylla A. 「Brain size and limits to adult neurogenesis」 Journal of Comparative Neurology. 2016;524(3):646–664.(要旨のみ確認)爬虫類・鳥類では脳室の前駆細胞から生まれた若いニューロンが前脳の多くの領域へ移動する。脳が大きい種では、生まれた場所と行き先が離れることが制約になりうるという仮説。本文では引用していません
見つけたが、使わなかった資料
- Smeets WJ, Sevensma JJ, Jonker AJ. 「Comparative analysis of vasotocin-like immunoreactivity in the brain of the turtle Pseudemys scripta elegans and the snake Python regius」 Brain, Behavior and Evolution. 1990;35(2):65–84.社会行動との関わりが調べられてきたバソトシンについて、雌雄差を報告しています。ただし要旨は、共通の所見には In both species と断っているのに、雌雄差の文では種を特定していません。カメの所見なのか、ボールパイソンの所見なのか、両方なのかが決められません。全文は購読が必要で取れなかったため、この記事では使いませんでした
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