「封入体病(IBD)」という名前からは、封入体が無ければこの病気ではないように読めます。ところが実験で感染させたボールパイソンでは、名前の由来になっている封入体がほとんど確認できないまま、重い神経症状のほうが出ました。逆に2017年の実験で接種されたボア2匹は、全身の臓器が封入体だらけになっても2年間無症状のままでした。
この記事は、封入体の出方と症状の経過が食い違った2つの実験感染を軸に、家で見えるサイン、どこから入るのか、なぜ「1回の陰性」が答えにならないのかを整理します。根治する治療法もワクチンもありません。だから重みは入口の設計——検疫とダニ対策——にかかります。当店のダニの記事で「推定ベクター」とだけ書いて通り過ぎた相手の、正体の話でもあります。
目次
「封入体病」は何の病気で、名前はどこから来ているのか
封入体病(inclusion body disease、略して IBD)は、ボア科とニシキヘビ科のヘビの病気です。Merck Veterinary Manual「Reptiles の Viral Diseases」は「ボアとニシキヘビがもっとも多く影響を受ける」とし、原因について「当初はレトロウイルスが原因だと考えられていたが、現在はレプタレナウイルスであることが確認されている」としています。
名前は、細胞の中にできる構造から来ています。感染した細胞の細胞質に、エオジンで赤く染まる大きな塊——封入体——ができます。その中に抗原的に独特な68kDaのタンパク(IBD タンパク)があることは、Wozniak ほか(Veterinary Pathology 37巻5号, 2000年)が報告しています。このタンパクは、のちにレプタレナウイルスの核タンパク(NP)だと分かりました。Chang ほか(PLoS One 8巻12号 e82916, 2013年)は、これに対するモノクローナル抗体を作って検証しています。つまり「封入体」はウイルスの部品が溜まったものです。
診断も長いあいだ、この封入体を顕微鏡で探すことでした。病気の名前・診断の方法・病気の実体が、すべて「封入体」に乗っていたわけです。
当店の記事では、ヘビダニ駆除の記事で一度この名前が出てきます。ヘビダニ(Ophionyssus natricis)が、封入体病の原因であるレプタレナウイルスの「推定ベクター」(=運んでいると考えられているが確定はしていない)と位置づけられている、という文脈でした。受け先になる説明をこの記事で書きます。
IBD という略称は、人間の病気とぶつかります
人や犬猫では IBD は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)の略です。この紛らわしさを避けるため、研究側はボア科の封入体病を BIBD(boid inclusion body disease)と書くようになっています。Hetzel ほか(2021年)も、論文の中で「この病気が主にボア科のヘビで発生し診断されるため、またヒトや複数の伴侶動物で一般的な IBD(炎症性腸疾患)と区別するために、BIBD の語を用いる」と理由を書いています。この記事でも、以降は BIBD と書きます。
2つの実験感染が示したのは、封入体と症状が一致しないことでした
ここがこの記事の中心です。封入体が大量にあっても症状が出ない個体がいて、封入体が見つからないのに重い症状が出る個体がいました。
2017年——ボアは2年間無症状、ボールパイソンは2か月で倒れた
Stenglein ほか(Journal of Virology 91巻15号 e00451-17, 2017年)は、精製したウイルスを心臓内に注射して、ボアコンストリクターとボールパイソンに感染させました。レプタレナウイルスが本当に封入体病を起こすのかを確かめるための実験です。
ボールパイソンは4匹用意して、事前にウイルス陰性を確認したうえで2匹に接種しています(1匹はゴールデンゲートウイルス(GoGV)単独、もう1匹は GoGV と、別のレプタレナウイルスとの同時接種)。結果はこうでした。
- 65日目、1匹が急に神経症状を出しました。論文の記述は「嗜眠、姿勢の異常、背位(仰向け)から戻れない」で、著者らはこれを「IBD に特徴的な神経症状」としています。この個体はただちに安楽死されました
- その3日後(68日目)、もう1匹は体の後ろ80%が麻痺していました。その範囲に注射針を刺しても反応しませんでした。この個体も安楽死されています
- ウイルスRNAが見つかったのは、2匹とも中枢神経だけでした。血液・結腸・肝・肺・腎では検出されていません
- 糞・尿酸・脱皮殻からは、ウイルスRNAは検出されませんでした
- 封入体は「あるかどうか判断がつかない」レベルでした。論文の記述は「感染したボールパイソンでは、封入体の存在は equivocal(判断がつかない)であり、1匹(python M)の神経細胞とまれな胆管上皮に、封入体かもしれないものが観察された」です。上皮細胞には顆粒状の好酸性物質があったものの、「IBD の典型的な封入体に比べて、染まりが薄く不明瞭だった」とされています。考察では「ニシキヘビでは、封入体は極めてまれだった」とまとめられています
- その代わりに、炎症がありました。2匹とも脳・脊髄・神経節にリンパ球性の脳炎や神経節神経炎があり、神経細胞の壊死も見られています。ボアには、封入体が大量にあるのに、感染と関連すると判断された炎症がありませんでした。著者らはこの対比を「2種のあいだの、際立った対照(stark contrast)」と書いています
- 脳のRNAを網羅的に読み直したところ、神経症状の原因になりうる他の候補病原体の配列は見つかりませんでした
同じ実験のボアコンストリクター(3匹のうち2匹に接種)は、2年間ずっと無症状でした。行動は正常で、体重の増え方も対照と同じでした。それでいて体の中はこうなっていました。
- 血液のウイルスRNAは、1mLあたり103〜1010コピー。肝・肺・トンシル・脾・腎・結腸・気管・脳、調べたすべての組織で陽性
- 封入体は、調べたすべての組織にありました——心臓、腸、肝、腎、脳。生検した肝では、感染16週・32週の時点で既に見えていました
- 封入体が大量にあるのに、炎症はほとんど見られませんでした。見られた炎症も、感染に関連するものとは判断されていません
- 糞・尿酸・脱皮殻から、2年間ずっとウイルスRNAが検出されました(ただし、これらの環境検体から感染性のウイルスを分離する試みは成功していません)
要旨の結論の一文が、この記事のタイトルの根拠です——「レプタレナウイルス感染は封入体と封入体病を生じるが、封入体それ自体は、必ずしも病気と結びついているわけでもなく、病気に必要なわけでもない」。
2021年——気管から入れても、ボールパイソンに封入体は出なかった
Hetzel ほか(Journal of Virology 95巻7号 e01968-20, 2021年)は、ボールパイソン16匹(8匹ずつ2回に分けています。1回目は投与経路を決めるための2週間の試験)とボア16匹を使って、より自然に近い経路を試しました。まず体腔内注射と気管内への滴下を比べ、以降の試験では気管内への滴下を使っています(著者らは「自然の感染経路を反映している可能性がある」としています)。
この実験がボールパイソンから始まったのには理由があります。著者らは、過去の実験報告に加えて「ニシキヘビは速く神経症状を出すため、ブリーダーが BIBD のセンチネル(見張り役)としてニシキヘビを使っているという逸話的な報告」を挙げています。倒れるのが速い側として扱われてきた、ということです。
2回目の8匹(うち対照2匹)を気管から接種して記録されたのは、次のような経過でした。
- 19日目、4匹が軽い頭の震えを示しました。論文はこれを「ヘビの頭が地面から持ち上がっているとき——たとえば獲物を狙うとき——の、頭の軽い左右・上下の揺れ」と定義しています。1匹は尾の姿勢の異常も示しました
- 1匹(個体2.5)は25日目に平衡と協調の問題を出し、29日目の給餌で震えと嗜眠、そして飲み込むことに重い困難を示しました。翌日、症状が悪化したため安楽死されています
- この個体の脳からウイルスを再分離でき、脳の神経細胞の細胞質にレプタレナウイルスの核タンパクが確認されました(脾と胸腺でも、マクロファージ・樹状細胞の形をした細胞で確認されています)
- 残った個体は、約4か月の観察期間のあいだ神経症状が出たり引いたりを繰り返しました(34日目・37日目・54日目・85日目・109日目に震えや平衡の問題、嗜眠、拒食)。ただし著者らは、この出入りする軽い症状について「行動の変化は、レプタレナウイルス感染によるものではなく、ストレス由来だった可能性がある」とも書いています。実際、37日目に頭の震えを出した1匹は、69日目の剖検で封入体もウイルス抗原も無く、調べた組織からウイルスRNAも見つかりませんでした
- どの個体にも封入体は見つかりませんでした。血液でも組織でも、です
ボアの側でも、接種した12匹のうち11匹が10か月後もウイルスRNA陽性でしたが、封入体を示した個体はいませんでした。著者らはこの点を「奇妙だ(peculiar)」と書き、ウイルスの選び方・宿主の遺伝的背景・未知の共感染といった説明候補を自分で挙げて、どれも決め手にならないと議論しています。つまり「封入体が出る条件」自体が、まだ分かっていません。
一方で、ボールパイソン側の結果については「感染したときにボアより神経症状を出しやすいという臨床的な証拠は、過去の研究と一致する」と書いています。封入体が出るかどうかは実験で揺れましたが、著者らは、ボールパイソンが神経症状を出しやすいという点については先行研究と整合すると解釈しています。
ただし、2021年の実験は「ボアは無症状」という形では再現していません。同居させたボアや接種したボアにも、一過性の震え・失見当識・嗜眠が記録されています。そして著者らは、これらの軽い症状がストレス由来か、未知の病原体によるものである可能性も挙げています。はっきりしているのは、ボールパイソン1匹に重い神経症状が出て、その脳からウイルスを再分離できたのに、封入体は検出されなかったという一点です。
同じ実験(Stenglein ら 2017年)で、ボア2匹とボールパイソン2匹に出てきたものの違い。接種したのは各種2匹ずつで、飼育下の発生率ではありません

2021年、著者たちは「ボールパイソンのこれを封入体病と呼ばないほうがいい」と提案した
ここまでの結果から、Hetzel ほかは名前そのものについて提案を出しています。論文の考察の、次の部分です。
「近年の証拠は、レプタレナウイルス感染が複数のヘビ種に及ぶが、ボア科以外では封入体の形成と結びつかないことが多いことを示唆している。そこで我々は、BIBD の語を、レプタレナウイルス感染の結果として封入体の形成を伴って現れる病気に限って用いることを提案する。ボア科以外でのレプタレナウイルス感染はしばしば中枢神経症状と結びつくため、そうした病気は、たとえば『レプタレナウイルス関連神経症候群』と呼ぶことを提案する」
飼育する側にとって、これは言葉の整理ではなく検査の設計の話です。
- 封入体検査で陰性でも、レプタレナウイルス感染を否定したことにはなりません。実験感染のボールパイソンでは、封入体は極めてまれか、あるかどうか判断がつかないレベルで、1本の実験ではまったく検出されませんでした
- 探し方が、封入体の形だけではなくなっている。Hetzel ほかは、ウイルスRNAを探す RT-PCR と、ウイルスのタンパクを探す免疫組織化学が使えるようになったことで「封入体——BIBD の形態学的な指標——を示さないレプタレナウイルス感染個体の同定が可能になった」と書いています
「ボールパイソンには封入体が出ない」ではありません
出ないことがある、が正しい読み方です。自然感染では、封入体が見つかったボールパイソンの報告があります。この記事の後半で引く Keilwerth ほか(2012年)は、陽性と判定したニシキヘビ科2匹がどちらもボールパイソンで、ボアとニシキヘビの両方で肝細胞の中に封入体を検出したと書いています。Chang ほか(2013年)のモノクローナル抗体も、ボールパイソン1匹の封入体に交差反応しています。先に紹介した Stenglein ほか(2017年)と Hetzel ほか(2021年)は実験的に感染させた個体の話で、「封入体が出ないこともある」ことを示したものです。どちらも「封入体の有無だけで決められない」という同じ結論に向きます。
この呼び名は、まだ定着した用語ではありません
「レプタレナウイルス関連神経症候群」は2021年の論文が提案した呼び方で、この記事が参照した資料の範囲では、業界や診断の現場で置き換わったことを確認できていません。病院で通じる言い方とは限らないので、受診のときは「封入体病(IBD)を心配している」と伝えるほうが伝わります。ここで押さえておきたいのは名前ではなく、ボールパイソンでは封入体が出ないことがあるという事実のほうです。
家で見えるのは、神経症状のほうです
では、家で何が見えるのか。実験で記録された像と、Merck の記述を並べます。
Merck は「ニシキヘビはレプタレナウイルスに対してより急性に影響を受ける宿主だと考えられている。病気の経過がより急性で、神経症状がより顕著に出ることが多く、ほとんどのニシキヘビは重い神経疾患を発症する」とし、さらに「ボアでは活動性の病気が数か月以上続くことがあるのに対し、ほとんどのニシキヘビは臨床症状の発現から数日〜数週で死亡する」としています。
実験で実際に記録された動きは、次のようなものでした(上の2本から)。
- 頭の震え。頭を持ち上げているときの左右・上下の揺れ(論文が例に挙げているのは、獲物を狙う場面です)
- 尾の異常な姿勢
- 平衡と協調の問題。体のバランスが取れない、意図した動きにならない
- 背位(仰向け)から戻れない
- 飲み込むことの困難。給餌のときに出ました
- 嗜眠(ぐったりして動かない)、拒食
- 体の後方の麻痺
この一覧は、ウォブルと症状が重なります
頭の震え、平衡の問題、狙いが外れる、背位から戻れない——これらはスパイダー系のモルフに見られるウォブルの記述と重なり、見た目だけでは原因を判断できません。当店のスパイダーとウォブルの記事に「落ち着いていた個体に急にこの手の神経症状が出た場合は、モルフのせいと決めつけず受診してください」と書いたのは、こういう別の原因があるからです。家で見分けようとしないでください。この記事の一覧は、受診するかどうかを決めるためのもので、病名を決めるためのものではありません。
神経症状より前に出るサインについても、Merck は挙げています——「育ちが悪い、拒食、体重減少、二次的な細菌感染、創傷治癒の不良、脱皮不全、吐き戻し」で、これらは「免疫抑制を起こすあらゆる要因によって引き起こされる可能性がある」とされています。ただしこの記述、および「具合の悪いボアではすべて IBD を考えるべきである」という一文は、ボアについて書かれたものです。ボールパイソンの初期像として同じ一覧がそのまま当てはまるかは、この資料からは言えません。
合併症について1つ。Wyss ほか(Journal of Zoo and Wildlife Medicine 49巻1号, 2018年)は「肺炎は BIBD のよくある合併症である」という前提から、素因として気管の粘液繊毛クリアランスの低下があるのではないかと考えて、ボア8匹とニシキヘビ2匹(ボールパイソンとグリーンパイソン)の気管を調べました。結果は「BIBD の個体で、不十分な粘液繊毛クリアランスの兆候は認められなかった」でした。これは否定の結果で、「素因ではない」という証明ではありません(10匹の検討です)。呼吸器症状そのものの見方は呼吸器感染症の記事にまとめてあります。
どこから入るのか——ボアの側が排出していました
Merck は伝播について「レプタレナウイルスへの曝露は体液の移動によるものと考えられる。繁殖、争いによる傷、糞口汚染、そしてヘビダニが、一般的な伝播の経路として示唆されてきた」としています。示唆(implicated)であって、確定した経路の一覧ではありません。
そのうえで、実験が実際に測ったものを並べます。
- ボアは、糞・尿酸・脱皮殻にウイルスRNAを出していました。Stenglein ほかは、2年の感染期間を通じてこれを検出し、「我々のデータは、糞・尿酸・皮膚に大量のウイルスが排出されている可能性を示唆する。したがって、感染したボアは慢性かつ無症状の期間に、実際にウイルスを伝播している可能性があり、これは疾病対策と検疫を難しくする」と書いています。ただしこれらの検体から感染性のウイルスを分離する試みは成功していません(著者らは、検体の処理や保存が感染性を保つ形でなかった可能性を挙げています)。「RNA が出ている」と「うつる」は同じではありません
- ボールパイソンの糞・尿酸・脱皮殻からは、ウイルスRNAは検出されませんでした。同じ実験の中での対比です。ただしこれは「この実験で採った検体からは検出されなかった」という意味で、排出がないことの証明ではありません。しかも Hetzel ほかの気管内接種では、ボールパイソンの肺からウイルスRNAが検出されています。口や気道からの排出は、この記事が集めた資料では評価できません(117日目まで観察された接種ボールパイソン2匹が、肺でRNA陽性でした)
- ウイルスを接種したボールパイソンとボアを同居させた実験では、ボアへの感染を確認できませんでした。Hetzel ほかは、接種したボールパイソンの箱にボア1匹ずつを入れて約73日間同居させ、117日目に調べましたが、ボア2匹はRT-PCR陰性でした。ただし条件は単純ではありません。ボア1匹は途中で同居相手を替えられていて、最初の相手は69日目の剖検で、調べた組織がRNA陰性でした。著者らは「Stenglein らがニシキヘビの排泄物にレプタレナウイルスRNAを見つけていないことを考えると、同居によるニシキヘビからボアへの伝播は起こりにくいと考えられる」としています
この同居の結果を「分けなくていい」と読まないでください
このボールパイソンとボアの同居試験で試されたのはボールパイソン → ボアの向きだけで、しかもボア2匹・約73日間です。逆の向き(ボア → ボールパイソン)は、この実験では試されていません。そしてこの記事でここまで見たとおり、排出が確認されているのはボアの側です。向きを取り違えると結論が反対になります。この条件では、同居したボア2匹への伝播を確認できなかった、という結果です。ボールパイソン同士の伝播しやすさは、この実験からは分かりません。
検出率についても資料があります。どれも、日本の家庭での発生率ではありません。
- Chang ほか(The Veterinary Journal 218巻, 2016年)は、米国の28のコレクションから集めたボア科・ニシキヘビ科131匹(ボールパイソン22匹を含む)の血液を調べ、全体の19%(25/131)が IBD 陽性、ボアコンストリクターは41.5%(22/53)で他種より多かったとしています。そして陽性だったボアコンストリクター22匹のうち87%は臨床的に健康で、中枢神経の症状を示した個体は1匹もいませんでした
- Keilwerth ほか(Berliner und Münchener Tierärztliche Wochenschrift 125巻9-10号, 2012年・ドイツ語)は、ボア17匹とニシキヘビ科9匹の血液塗抹と肝生検を調べ、この検査集団では「IBD はニシキヘビよりボアに多い」としています。陽性だったニシキヘビ科はボールパイソン2匹だけで、他のニシキヘビ科はすべて陰性でした
- Otero Soberon ほか(Animals 16巻19号 3112, 2026年)は、ペルーのヘビ28匹の口腔スワブをRT-PCRで調べ、全体の64.3%(18/28)が陽性としました。野生由来20匹のうち14匹が陽性で、著者らは「飼育下のヘビの、世界的に重要なウイルスが、ペルーの野生ボア個体群に存在する可能性を示唆する」と結論しています。対象はボア科が中心で、ボールパイソンは2匹(うち1匹陽性)です
この3つの数字を足したり、平均したりしないでください
母集団と検査方法がばらばらです。Chang ほかは米国のコレクションから集めた血液の封入体、Keilwerth ほかはドイツで検査に出された26匹(一部は IBD 疑いで出されたもの)、Otero Soberon ほかはペルーの口腔スワブのRT-PCRです。病気を疑われて検査に出された個体が含まれるので、一般の飼育集団とは構成が違います。とくにボールパイソンについては、母数は Chang ほかで22匹、Otero Soberon ほかで2匹です(Keilwerth ほかの9匹はニシキヘビ科全体で、ボールパイソンが何匹調べられたのかは、この記事が確認した抄録からは分かりません)。「ボールパイソンの何%が感染している」と言える資料はこの中にありません。
診断は家ではできません。そして「1回の陰性」も答えになりません
Merck は診断の流れをこう書いています。「暫定的な診断は、病歴と臨床症状に基づく」「血液塗抹では、白血球の細胞質に封入体がしばしば見つかる」「確定診断は、PCR 検査と、特徴的なエオジン好性の封入体が見つかる内臓(肝、腎、食道トンシル、胃など)の生検によって得られる」。血液の変化についても「病気の初期に、これほど白血球数を増やすヘビの病気はほとんどない」としています。
探す対象の違う検査が、いくつか作られています。
- ボアなら血液塗抹で届く。Keilwerth ほかは「我々の結果は、単純な血液塗抹の検査がボアの IBD の診断に十分であることを示している」としています(リンパ球・赤血球・血栓細胞(哺乳類の血小板にあたる細胞)の中に封入体が見られました)。ボアとニシキヘビの両方で、肝細胞の中の封入体も検出されています。ボア17匹・ニシキヘビ9匹の検討で、一部は IBD 疑いとして検査に出された個体です
- 抗体を使った検査も作られている。Chang ほか(2013年)の抗 IBD タンパク・モノクローナル抗体は、ボアコンストリクターで感度83%・特異度100%でした(1990〜2011年に集められた保存組織標本94件での成績で、生きた個体のスクリーニング全般の性能ではありません)。この抗体はカーペットパイソンとボールパイソン1匹の封入体にも交差反応しています
ここで、検査を3つに分けておきます。封入体の形を観察する方法、抗体でウイルスのタンパクを検出する免疫組織化学、ウイルスRNAを検出する RT-PCR です。Keilwerth ほかの血液塗抹は1つ目、Chang ほかの抗体は2つ目(遺伝子検査ではありません)で、どちらも「封入体がある個体」を見つけた成績です。ここで、ボールパイソンの事情が戻ってきます。実験感染のボールパイソンでは、封入体は極めてまれか、あるかどうか判断がつかないか、まったく検出されないかのいずれかでした。2021年の実験では、接種したボアにも封入体が出ていません。つまり封入体が見つからないことは、ボアでも感染を否定する根拠になりません。
Hetzel ほかが「封入体——BIBD の形態学的な指標——を示さないレプタレナウイルス感染個体の同定が可能になった」と書いたのは、RT-PCR と免疫組織化学が使えるようになったことについてです。
どこを検査したかで、答えが変わります
この病気そのものに、はっきりした例があります。Stenglein ほかの実験で、重い神経症状を出したボールパイソン2匹は、脳では陽性でしたが、血液・肝・肺・腎・結腸では陰性でした。採る場所を変えれば、同じ個体が陰性になります。症状が無いことも、1回の陰性も、感染していない証明にはなりません。当店の検疫の記事には、別のウイルス(セルペントウイルス)で「陽性のニシキヘビ144匹のうち59匹は、採材の時点で呼吸器症状が観察されていなかった」という例を書いています。何をいつ検査するかは獣医師が決めることですが、「元気だから大丈夫」で検疫を切り上げない根拠として知っておいてください。
病院の選び方は爬虫類を診てくれる病院の探し方にまとめてあります。新しく神経症状が出たとき、あるいは症状が悪化したときは、その日のうちに爬虫類を診る獣医師へ連絡してください。そのために、相談できる先は先に決めておいてください。Merck の記述どおりなら、ニシキヘビでは症状が出てからの時間が短い病気です。
治せないので、話は「入れない」に寄ります
Merck の記述は率直です。「IBD は治癒不能であり、多くの飼い主が安楽死を選択する。ただし、ヘビを隔離して支持療法と緩和的な処置で対応することを選ぶ人もいる」。そしてこう続きます——「感染した個体やその子を売らないよう飼い主を教育することが不可欠である。感染個体の売買が、この病気を世界中に広げてきたからである」。
ワクチンについても触れておきます。Hetzel ほかはボアでワクチンを試しています。不活化したウイルスか組換えの核タンパクを3回接種したあと、同じウイルスを接種したところ4匹のうち3匹は感染を免れたように見えました。ただし別のレプタレナウイルスで再び接種した2匹は、どちらも感染を免れませんでした。研究の中の話で、飼育者が使えるワクチンは存在しません。
ただし「治らない」と「何もできない」は違います。Merck 自身が、隔離と支持療法・緩和的な処置を選ぶ飼い主がいると書いています。疑わしい症状が出たときにやることは、獣医師に診せることと、他の個体から分けることです。そのうえで、根治の手が無い以上、重みは入口の設計にかかります。この記事の資料から言えるのは、この4つです。
- 迎えたら分けて、時間をかける。期間と方法は検疫の記事のとおりです(3〜6か月が目安)。ただしこの期間は BIBD のために設計されたものではありません。ボアでは年単位で症状が出ないことがあるので、期間で安心するのではなく、分けること自体に意味があります
- ダニを入れない。推定ベクターです。確定ではありませんが、入れないことの費用は低く、入ったときの手間は高い——ダニの記事に書いたとおりです
- ボア科と動線を分ける。これは当方の推論ではなく、Stenglein ほかが考察で直接書いていることです——「ボアコンストリクターが分子的手法によってレプタレナウイルス陰性だと確認されるまでは、ボアコンストリクターとニシキヘビを分けておくのが賢明だろう。レプタレナウイルスは、ボールパイソンにおける疾患と、いまや明確に結びついている」。引用のとおり、著者らが言っているのはボアコンストリクターとニシキヘビを分けることです。器具・手・掃除の順番まで分けるかどうかは、当店からの提案で、著者らの文にはありません
- 繁殖に入れる前に考える。Merck は、繁殖や争いによる傷などを伝播に関与しうる経路として挙げています。そして感染した個体やその子の販売が拡散につながるとして、売らないよう飼い主を教育することが不可欠だとしています
当店 LilBalls が置かれている条件
この章は、当店の検査の運用ではなく当店が置かれている条件の話です。ダニの記事・検疫の記事と同じ趣旨です。
当店は100匹以上のボールパイソンをラックで飼育していて、部屋そのものをエアコンで年間27〜28℃に保っています(検疫の記事・適温の記事に書いたとおりです)。この記事の観点で書けることは、次の2つです。
- 持ち込みが起きれば、100匹以上の飼育群に影響が及ぶおそれがあります。だから当店は、持ち込みと他個体への接触を減らすために、検疫する個体を建物ごと分けています(検疫の記事)。ただし、建物を分けることや一定期間を置くことだけで「感染していない」と確認できるわけではありません。この記事が引いた資料は、建物を分けることの BIBD 予防効果を測ったものではありません
- ボア科を置いていないことが、どれだけ効くのかは分かりません。この記事で見たとおり、糞・尿酸・脱皮殻への排出が確認されたのはボアの側でした。ただし、その実験が測ったのはボールパイソン2匹の排泄物で、ボールパイソン同士の伝播を比べた研究ではありません。別の実験ではボールパイソンの肺にウイルスRNAが出ていて、気道からの排出は評価されていません。「ボールパイソンだけだから施設内で広がりにくい」とは、今回の資料からは言えません。
入口での処置については、ダニの記事に書いたとおり、新しい個体を入れるときに検疫の入口でダニ対策を1回入れています。これはダニを入れないための処置で、この処置だけでレプタレナウイルス感染を防げるとは言えません。リンク先に書いたとおり事業者としての運用で、使う薬と使い方はご家庭で自己判断せず獣医師に相談してください。
そのうえで、正直に書いておきます。この記事を書いた時点で当店が公開しているのは、建物を分けた検疫と、入口でのダニ対策までです。レプタレナウイルスの PCR を検疫の手順に組み込むかどうかは、検査の入手性も含めて獣医師と相談して決める話で、当店として「やっています」とも「不要です」とも、この記事では書きません。なお検疫の記事で引いた資料は、ウイルス検査を検討すべき例としてボアのアレナウイルスを名指ししています。検査を相談するときの手がかりになります。
飼育環境そのものの見直しには、6つの質問で環境のストレス度がわかる当店のストレスチェックツールもご利用ください。
まとめ
- 原因はレプタレナウイルス。Merck は「当初はレトロウイルスが原因と考えられていたが、現在はレプタレナウイルスであることが確認されている」としています
- 2017年の実験では、接種したボア2匹が2年間無症状でした。調べたほぼすべての臓器に封入体があるのに感染に関連する炎症が無く、血液のウイルスRNAは最大1010コピー/mL、糞・尿酸・脱皮殻に2年間RNAを出し続けました。ただし2021年の実験では、ボアにも一過性の症状が記録されています(原因は確定していません)
- 実験感染のボールパイソンは、封入体がほとんど出ないまま神経症状を出しました。心臓内注射では約2か月で重い神経症状(1匹は背位から戻れず、1匹は体の後方80%が麻痺)が出て、封入体は「極めてまれ」、代わりに脳と脊髄に炎症がありました。気管から入れた実験では、封入体が検出されないまま重い神経症状を出し、脳からウイルスを再分離できた個体がいました。他の個体で出入りした軽い症状については、著者らがストレスなど別の原因の可能性も挙げています
- 「封入体が見つからない」は「感染していない」ではありません。逆に、自然感染では封入体が見つかったボールパイソンの報告もあります(Keilwerth ほか 2012年の2匹)。2021年の著者らは、ボア科以外のこの病像を「レプタレナウイルス関連神経症候群」と別に呼ぶことを提案しています(まだ定着した用語ではありません)
- 家で見えるのは神経症状で、ウォブルと症状が重なります。見た目だけでは原因を判断できません。急に出たなら、モルフのせいと決めつけず受診してください
- 根治する治療法もワクチンもありません。Merck は「治癒不能」としたうえで、隔離と支持療法・緩和的な処置を選ぶ飼い主もいるとし、「感染個体とその子を売らないよう飼い主を教育することが不可欠」としています
- 重みは入口の設計にかかります。迎えたら分ける・ダニを入れない・ボア科と動線を分ける・繁殖に入れる前に考える
迎えたあとの分け方は検疫の記事、推定ベクターの話はダニの記事、よく似た神経症状の別の原因はスパイダーとウォブルの記事にあります。
参考にした資料
- Stenglein MD, Sanchez-Migallon Guzman D, Garcia VE, et al. Differential disease susceptibilities in experimentally reptarenavirus-infected boa constrictors and ball pythons. J Virol. 2017;91(15):e00451-17. doi:10.1128/JVI.00451-17(PMC5651717)
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