ヘビの診察で「レントゲンを撮るので、鎮静をかけます」と言われることがあります。当店の病院の探し方の記事は電話で確認する6つと持っていくものを並べ、薬の間隔の記事は処方される薬の間隔と注射する場所を扱いました。どちらの記事も、処置のあいだに体の中で何が起きているかは書いていません。
調べてみると、ボールパイソン(Python regius)で麻酔・鎮静そのものを測った査読論文が10本、手術の傷の治り方を測った論文が3本、モニタリングと採血の手技を測った論文が2本見つかりました。ヘビ一般ではなく、この種で測られたものです。
読んで印象に残ったのは、次の3つでした。同じ薬を同じ量だけ入れても、体の前に打つか後ろに打つかで挿管できるかどうかが分かれたこと。薬によっては、処置が終わったあとも効きが何十時間も残り、拮抗薬で10分以内に覚めても3時間後には9匹すべてで鎮静が戻ったこと。そして傷の評価が、30日や90日という単位で行われていることです。
この記事は、その15本と Merck 獣医マニュアルの爬虫類の臨床手技の章が何を測り、何を書いているかを整理します。用量も経路も部位も、決めるのは診察した獣医師です。ここで並べる数字は、説明を受けるときに何を聞けばいいかを知るためのものです。
目次
自己判断で鎮静薬・麻酔薬を使わないでください
この記事に出てくる薬剤名・用量・投与経路・注射部位は、すべて獣医師向けの査読論文に書かれた研究条件か、獣医マニュアルの処方条件です。鎮静や麻酔が要るかどうかも、何をどこにどれだけ入れるかも、診察した獣医師が決めます。
この記事が止めているのは、自分で薬を用意すること・人用や犬猫用の薬を使うこと・手元に残った薬を使うことです。マウスロットの記事に書いたのと同じ理由で、処置の必要性も薬の選択も、診察と検査の結果に乗っています。
「レントゲンを撮るので鎮静をかけます」と言われることがあります
おとなしい個体を連れていったのに鎮静の話が出ると、驚くことがあります。これは資料に理由が書かれています。
Merck 獣医マニュアルの「爬虫類の臨床手技」の章は、ヘビのレントゲン撮影についてこう書いています。「ヘビは、麻酔をかけないかぎり、レントゲン検査のための位置決めと保定が難しいことがある」。そのうえで、目的で分けています。「検査の目的が単にレントゲンに写る異物や卵を除外することであれば、ヘビを自然な姿勢でとぐろを巻かせたままにしてよい。骨格・呼吸器・消化器の詳細な検査を望むのであれば、ヘビを伸ばす必要があり、一般に麻酔が要る」。
同じ章は、鎮静そのものの位置づけも書いています。「爬虫類の鎮静と麻酔が改善したことを踏まえると、扱いやすい爬虫類であっても、そうしなければ時間がかかり、患者に不要なストレスや不快を与えることになる処置については、鎮静または麻酔が優先されることがある」。
つまり鎮静は「暴れるから押さえつける代わり」ではなく、「押さえつけ続ける時間を減らすため」の選択肢として書かれています。押さえること自体が体の数字を動かすことは、この記事の後半で見る James ほか(2024年)が、生理食塩水を打って保定しただけの条件で測っています。
検査値のほうに影響が出ます
同じ章は、鎮静の代償も1文で書いています。「ただし、鎮静薬と麻酔薬は臨床検査の結果、とくに血液学的検査の結果に影響することがあり、結果を評価するときには念頭に置くべきである」。
血液検査と鎮静を同じ日に行ったとき、数字の読み方が変わりうるということです。薬の間隔の記事で書いたとおり、爬虫類の検査値はそもそも種ごとの基準で読む必要があります。そこに鎮静の影響が重なります。
同じ薬・同じ量でも、打つ場所で深さが変わりました
いちばん意外だったのがここです。アルファキサロン(注射で使う麻酔導入薬)を、体の前のほうに入れるか後ろのほうに入れるかで、結果が分かれました。投与経路の違う2本の研究が、別々の国で、独立に同じ向きを出しています。
筋肉内では、挿管できるかどうかが分かれました
James ほか(2018年、Vet Anaesth Analg 45巻3号329〜337頁)は、健康な若いボールパイソン6匹を使ったランダム化クロスオーバー試験で、アルファキサロンの筋肉内投与を調べました。目的は2つで、機械換気のための挿管ができる最小用量を決めることと、前方への注射と後方への注射で麻酔の深さが変わるかを見ることです。
まず体の後方に 10・20・30 mg/kg を、最低2週間あけて1匹ずつ全用量投与しました。評価したのは筋緊張・立ち直り反射・侵害刺激への反応・挿管できるかどうかです。立ち直り反射は、ひっくり返されたときに自分で元の向きに戻ろうとする反応のことです。そのあと、20 mg/kg を前方(心臓の1 cm 頭側)に入れた場合と、後方に入れた場合を比べました。
- 最大効果までの時間は、用量と部位によらず 10.0±2.7 分以内でした(この ± が標準偏差なのか標準誤差なのかは、要旨からは分かりません)
- 後方に入れたとき、挿管に成功したのは 30 mg/kg のときだけで、これは他の爬虫類での既報より高い用量です
- いっぽう前方に 20 mg/kg を入れると、全例で 7.2±1.6 分後に挿管できました。麻酔の持続時間も有意に延びています(p < 0.001)
- 後方30 mg/kg と前方20 mg/kg は、どちらも注射後およそ10分で無呼吸になり、その時点で挿管して機械換気に移っています
著者の結論は、「後方に注射したときに、腎門脈系を介して肝臓へのシャントと初回通過代謝が起きていることを示唆する」という書き方です。測ったのは効き方の差で、肝臓での代謝そのものを測ったわけではありません。
皮下でも、同じ向きでした
Yaw ほか(2018年、J Small Anim Pract 59巻12号747〜751頁)は、8匹を使った前向き・ランダム化・盲検の完全クロスオーバー試験で、アルファキサロンを皮下に投与し、体の前3分の1と後ろ3分の1を比べました。
- 前3分の1に入れたほうが、有意に深く、長い鎮静になりました
- 立ち直り反射が消えたのは、前方で8匹中5匹、後方で8匹中1匹
- 顎の緊張は前方では全頭で消え、7匹で挿管に成功。後方では顎の緊張が残り、挿管できませんでした
- 前方に入れたときは、心拍数と呼吸数が有意に下がりました
こちらの著者は、臨床的な意味をはっきり書いています。「肝代謝または肝排泄を受ける薬物を、ヘビの体の後ろ3分の1に投与すべきではない。薬の効果が有意に下がりうるからである」。理由については「肝初回通過効果が、観察された効果の最も可能性の高い原因と推定される。体の後半部からの静脈還流の一部が、直接肝臓へ流れるためである」としています。初回通過効果というのは、入った薬が全身を回る前に肝臓を通り、そこで代謝されて量が減る現象のことです。
2本の条件は、同じではありません
James ほかは筋肉内、Yaw ほかは皮下です。頭数も6匹と8匹で、施設も国も違います(Yaw ほかの用量は、要旨には書かれていません)。
それでも「同じ量なら、前に入れたほうが深く長く効く」という向きは一致しました。経路も施設も違う2本が同じ向きを出したこと自体が、この結果の読みどころです。
逆にいうと、この2本から決まらないことも2つあります。何 mg/kg なら足りるかは決まりません。そして「後ろに打つと効かない」でもありません——James ほかでは、後方でも 30 mg/kg なら挿管できています。比べた同じ用量のもとで差が出た、という結果です。
注射する場所を、病院に指定しないでください
ここで読めるのは「同じ量なら前に入れたほうが深く効いた」までです。深く効くことは、それだけで安全なことを意味しません。Yaw ほかでは、前方に入れたときに心拍数と呼吸数が有意に下がっています。
実際にどこへ入れるかには、薬剤の刺激性・筋肉量・個体の状態が乗ります。薬の間隔の記事に書いたエンロフロキサシンのように、筋肉内注射そのものに注意が付く薬もあります。部位を選ぶのは獣医師です。

同じアルファキサロンでも、体の前に入れたときと後ろに入れたときで結果が分かれました。投与経路の違う2本が、別々の施設で同じ向きを出しています
Merck が注射部位の説明で引用しているのは、ミドリガメの研究です
注射部位の話は、薬の間隔の記事でも Merck を引いて書きました。ただしあのときは、抗菌薬の話としてです。Merck は腎門脈系(体の後半部からの血液が、全身に戻る前に腎臓を通る仕組み)を説明し、体の後半部に注射された薬物は、尿細管分泌で排泄される場合に半減期——薬の血中濃度が半分になるまでの時間——が短くなることがあると書いたうえで、こう付け加えています。「しかしながら、これらの影響が臨床的に重要である可能性は低いことが、複数の研究によって示されている」——ここでいう「これらの影響」は、直前の腎臓の尿細管分泌による半減期の短縮を指しています。
この一文に付いている注が指すのは、章末の参考文献1本です。関連研究が世界に1本しかない、という意味ではありません——この章がここで挙げているのがこの1本、ということです。Holz ほか(1997年、J Zoo Wildl Med 28巻4号386〜393頁)——ミドリガメ(Trachemys scripta elegans)にゲンタマイシンとカルベニシリンを打った研究です。
- 10匹にゲンタマイシン 10 mg/kg を前肢(5匹)か後肢(5匹)に筋肉内投与し、血漿濃度を追いました。薬が抜けたあとに注射部位を入れ替えて繰り返し、各個体を自分の対照にしています
- 別の10匹にカルベニシリン 200 mg/kg で同じことをしました
- ゲンタマイシンでは、注射部位はどの薬物動態パラメータにも影響しませんでした(最高血漿濃度までの時間・最高血漿濃度・半減期・曲線下面積・クリアランス・分布容積)。薬物動態は薬が体の中で吸収され、広がり、抜けていく動きのことで、曲線下面積は血中濃度の時間変化を積み上げた量——体がその薬にどれだけさらされたか——の指標です
- カルベニシリンでは、後肢に打ったほうが曲線下面積が1・4・8時間の時点で有意に低くなりました
そのうえで著者は、カルベニシリンの差について「この影響はおそらく臨床的に重要ではない。血漿濃度が推奨される最小発育阻止濃度を上回り続けたためである」と書いています。
同じ論文が、条件も書いています
Holz ほかの結論の最後の2文は、こうなっています。「爬虫類の体の後半部から流れ出る血液は、中心循環に達する前に腎臓または肝臓を通過するため、その領域に注射された薬物の薬物動態への影響は、その薬の腎または肝の抽出率によって変わる。一般に、この影響は重要ではなさそうである」。
「一般に重要ではなさそう」の手前に、「腎または肝の抽出率によって変わる」が書いてあります。
ここは慎重に書きます。アルファキサロンの2本が示したのは、注射部位によって臨床的に意味のある効果の差が出うることまでです。肝臓での抽出率や初回通過の量そのものを測ったわけではなく、原因は著者らが示唆・推定しているにとどまります。「資料どうしが食い違っている」とは言えませんが、「機序が確かめられた」とも言えません。言えるのは、「一般に重要ではなさそう」を、すべての薬・すべての種に広げてはいけないということです。
Merck の文章も、同じ段落の続きでそのことを書いています。「体の後半部に注射された腎毒性薬物が、腎組織に高濃度で到達しうることは、潜在的な懸念である。初回通過肝効果もまた、体の後半部に注射された薬物に影響することがある。したがって、すべての薬物は体の前半部に注射されるべきである」。
「臨床的に重要である可能性は低い」は腎臓の側(尿細管分泌)についての一文で、肝臓の側はその直後に別の理由として挙げられています。そして結論は、どちらの理由からも「前半部に打つ」です。
もうひとつ、Holz ほかには同じ号に解剖を調べた姉妹論文(1997年、同誌28巻4号378〜385頁)があり、こちらで血の流れ方が記述されています。「後肢から戻る静脈血は、主に肝臓へ流れ、腎臓を迂回していた。尾からの血液は、腎臓へ流れるか、腎臓を迂回して直接肝臓へ流れた」。後ろから戻る血が肝臓に向かうことは、同じ著者たちが造影で見ていたことになります。ただしこれもミドリガメの解剖で、ボールパイソンの血の流れ方を直接示したものではありません。
「臨床的に重要か」のものさしが、研究で違います
Holz ほかが「重要ではない」と判断した根拠は、この研究で、血漿濃度が推奨される最小発育阻止濃度を上回り続けたことでした。この研究のこの条件での解釈であって、抗菌薬一般の保証ではありません。
いっぽう James ほかと Yaw ほかの要旨が報告しているのは「挿管できるかどうか」で、血中濃度や初回通過代謝を直接測った結果は示されていません。そもそも比べている指標が違います。片方は濃度が基準を割らなかったことを、もう片方は処置ができたかどうかを見ています。
無呼吸が起きた研究では、挿管して人工換気を行っています
James ほかの研究で、前方20 mg/kg も後方30 mg/kg も、注射後およそ10分で無呼吸になったと書きました。要旨に書かれているのは、そこで無呼吸が起き、その時点で挿管して機械換気を行ったということです。研究のプロトコルは、はじめから挿管と機械換気を含んでいます。
Merck の章は、なぜそうなるかを解剖から説明しています。
- 「ワニ以外の爬虫類は横隔膜をもたない。有鱗類では骨格筋である肋間筋が、換気を制御している」(ヘビの体の構造の記事で、Merck の別の章から「爬虫類には真の横隔膜が無い」を引いたのと同じ話です)
- 「これらの筋の働きは、外科的麻酔深度では消失し、間欠的陽圧換気が必要になる」
- 換気回数は「はじめは麻酔前の評価を反映させ、そのうえで呼気終末カプノグラフィの値を 15〜25 mmHg に保つように調整する」
挿管そのものにも、ヘビならではの事情があります。Merck は「爬虫類の声門は能動的に拡げられるため、麻酔された動物ではその動きがしばしば消失する」として、チューブの中にガイドのスタイレットを入れることを推奨しています。画像の説明文には、「声門は能動的な呼吸のあいだしか開かないため、無呼吸の爬虫類ではスタイレットが挿管を容易にする」とあります。
無呼吸は、もっと浅い鎮静でも記録されています。Yaw ほか(2020年、J Am Vet Med Assoc 256巻5号573〜579頁)は、健康な若い12匹にアルファキサロン+ミダゾラムとデクスメデトミジン+ミダゾラムを皮下投与して比べ、「どちらのプロトコルも同程度の中等度の鎮静を起こし、一過性の無呼吸以外に有害作用はなかった」としています。3匹でプレチスモグラフィを使って測り直したところ、「ヘビが呼吸数の低下を、1回換気量の振幅を増やすことで代償していたことが示唆された」とも書かれています(断定ではなく suggested です)。見た目の呼吸回数だけでは、換気が足りているかを判断できないということです。
同じ論文は、注意も明記しています。「心肺機能が損なわれているヘビを鎮静するときには、慎重であるべきである」。
換気の量で、覚めるまでの時間が変わりました
「人工呼吸をどれくらいの量でまわすか」が、覚醒までの時間を3倍以上動かした研究があります。
Jakobsen ほか(2017年、Comp Biochem Physiol A 207巻30〜35頁)は、ボールパイソン15匹をイソフルランで導入して60分維持し、そのあいだ動脈カテーテルを入れました。換気量は3通り(体重1 kg あたり毎分 30・125・250 mL)で、そのあと100%酸素で同じ換気量を続け、ヘビが自分でチューブを外すまでの時間を測っています。
- 回復までの時間は、毎分30 mL の群で289±70分、125 mL の群で126±16分、250 mL の群で68±7分でした
- 3群すべてで代謝性アシドーシスが見られ、毎分30 mL の群ではさらに呼吸性アシドーシスが加わりました。残る2群の動脈 PCO2 は正常または低値です
- 酸塩基平衡は、どの群も一般に12時間以内に正常に戻りました
- 毎分250 mL の群では、麻酔中の心拍数が回復後の値と比べて 143±64% 増えました
著者の結論は「軽度の過換気は、より速い回復をもたらす可能性がある。それに伴う動脈 PCO2 の低下が、代謝性アシドーシスがあるなかで動脈 pH を正常化した」という書き方です。断定ではなく「可能性がある(may)」で書かれています。
± が何を表すかは、要旨に書かれていません
289±70分・126±16分・68±7分・143±64% の ± が標準偏差なのか標準誤差なのかは、要旨からは分かりません。幅の大きさを読むときは、そこを決めないでください。
読み取れるのは平均どうしの差の大きさで、毎分30 mL と 250 mL のあいだで4倍以上開いたこと、そして3群とも代謝性アシドーシスが出たことです。後者は換気の量では消えていません。

換気量を変えた3群で、自発的な抜管までの時間が4倍以上開きました。ただし代謝性アシドーシスは、どの群にも出ています
効きは、処置が終わってからも残ることがあります
ここがいちばん、飼い主の側の実感とずれるところだと思います。薬によっては、処置が終わって自発呼吸が戻ってからも、測れる変化が残ります。
ミダゾラム投与後、鎮静スコアの上昇は56時間・72時間後まで続きました
Larouche ほか(2019年、J Zoo Wildl Med 50巻3号579〜588頁)は、健康な成体メス10匹にミダゾラムを体の前3分の1へ筋肉内投与し、1 mg/kg と 2 mg/kg をランダム化・盲検のクロスオーバーで比べました。
- 鎮静スコアがベースラインより有意に高かったのは、1 mg/kg で注射15分後から56時間後まで、2 mg/kg で10分後から72時間後まで
- 最大の効果は60分後で、10匹中6匹が自分で立ち直れませんでした
- 心拍数は、30分後から128時間後までベースラインより有意に低い状態が、両方の用量で続きました
- 呼吸数が有意に下がったのは高いほうの用量だけで、15分・45分・60分・8時間の4時点です
- 2用量のあいだに、評価したどの項目でも有意差はありませんでした
- 2 mg/kg で1匹に奇異性興奮(鎮静薬で逆に興奮する反応)が出ています
薬物動態の側からも裏づけがあります。Larouche ほか(2019年、J Vet Pharmacol Ther 42巻6号722〜731頁)がボールパイソン12匹で測ったミダゾラムの終末半減期は、平均±標準偏差で、心腔内投与が 12.04±3.25 時間、筋肉内投与が 16.54±7.10 時間でした。筋肉内のバイオアベイラビリティは89%と推定されています。主要代謝物の1-ヒドロキシミダゾラムは、最高血漿濃度に達するのが筋肉内投与で 24.00±14.12 時間後でした。
拮抗薬で10分以内に解除されても、3時間後に再鎮静が認められました
同じ Larouche ほか(2019年、J Zoo Wildl Med)は、続く試験で9匹に 1 mg/kg のミダゾラムを投与し、60分後にフルマゼニル(ベンゾジアゼピンの拮抗薬)0.08 mg/kg を筋肉内投与しました。
フルマゼニルは9匹すべてで、10分以内に鎮静と筋弛緩を解除しました。ところが9匹すべてで、解除から3時間後に再鎮静が認められています。著者の結論は「フルマゼニルはボールパイソンでミダゾラムの効果を逆転させるが、評価した用量での作用時間はミダゾラムよりはるかに短く、再鎮静につながる」です。
1匹は、1,440分後まで普段の行動に戻りませんでした
Miller ほか(2018年、PLoS One 13巻10号 e0199339)は、10匹にミダゾラム 2 mg/kg と、チレタミン+ゾラゼパムの固定配合 2 mg/kg・3 mg/kg を7日あけて筋肉内投与し、比べています。
この研究はすべての個体について、投与前に7日間かけて平常の行動の記録(エソグラム)を作り、そこへ戻るまでを測りました。普段の行動に戻るまでの時間の中央値は、ミダゾラムが94.0分、チレタミン+ゾラゼパム 2 mg/kg が135.5分、同 3 mg/kg が225.0分でした(p = 0.0008。ミダゾラムの値は、平常の行動がそもそも変化しなかった1匹を除いた9匹のものです)。そのなかで、3 mg/kg を受けた1匹は、注射から1,440分後——24時間後まで普段の行動に戻りませんでした。
「94分」と「72時間」は、別のものを測っています
同じミダゾラム 2 mg/kg で、Miller ほかは普段の行動に戻るまで中央値94分、Larouche ほかは鎮静スコアが72時間後までベースラインより高いとしています。桁が違いますが、どちらかが間違っているという話ではありません。
見ているものが違います。前者は、投与前に7日かけて作った平常の行動の記録に戻ったかどうか。後者は、半客観的な採点法でつけた鎮静の点数が、投与前の値より統計的に高いかどうか。研究の条件も同じではありません。
この2本から「何時間で元に戻る」を1つの数字で出すことはできません。
Merck の投与量表にも、同じ向きの注意が付いています。チレタミン/ゾラゼパムの行のコメントは「カメ・トカゲ・ヘビ。低用量は挿管を容易にするのに有用。高用量は回復の遷延と関連する」です。
導入が速いことと、覚めが速いことは別です
McFadden ほか(2011年、J Am Vet Med Assoc 239巻6号803〜807頁)は、孵化個体30匹を使い、18匹に心腔内プロポフォール 10 mg/kg、12匹に5%イソフルラン/酸素で麻酔を導入して比べました。
- 導入までの時間は、プロポフォールのほうが有意に短い
- 総麻酔時間に有意差はなし
- 回復は、プロポフォールのほうが有意に長い
- 心臓の組織を調べたところ、3日・7日・14日後に軽度の炎症性変化があり、30日と60日には病理学的な病変は見られませんでした
「すぐ効く」と「すぐ覚める」はセットではない、ということがこの1本に出ています。
帰宅後に動かないことを、自分で判断しないでください
ここまでの数字は、処置が終わったあとも効きが残ることがあることを示しています。ただしどこまでが想定の範囲かは、使った薬・用量・処置の内容・個体の状態で変わります。この記事の時間を、自分の個体に当てはめないでください。
病院を出るときに、「何時間くらいは反応が鈍いか」「どうなったら連絡すべきか」「いつから餌と水を出してよいか」を聞いて、メモにしてください。病院の探し方の記事の「電話で確認する6つ」と同じで、帰ってから迷うくらいなら、その場で聞いたほうが速いです。
「鎮静」と「動かなくなる」は、同じではありません
Miller ほかの研究には、もうひとつ読みどころがあります。どの薬がどこまで効いたかです。
- 立ち直り反射が消えた(論文が麻酔のステージ2と定義した段階)のは、ミダゾラム 2 mg/kg で10匹中6匹、チレタミン+ゾラゼパム 2 mg/kg で10匹中7匹、同 3 mg/kg で10匹中10匹
- ステージ2にとどまった時間の中央値は、チレタミン+ゾラゼパム 3 mg/kg が 74.5分、同 2 mg/kg が 41.0分、ミダゾラムが 21.0分(p = 0.0055)
- 逃避反射まで消えた(ステージ3)のは、チレタミン+ゾラゼパム 3 mg/kg だけが全頭(p = 0.0004)
著者の結論は、「ミダゾラムはボールパイソンにとって適切な鎮静薬であるが、確実な不動化や麻酔を達成するには十分ではない。いっぽうチレタミン+ゾラゼパムは、用量依存的に短時間の麻酔を達成する」です。
ではミダゾラムは何のための薬かというと、資料では前投薬として位置づけられています。Merck は「ほとんどの爬虫類の手術について、ミダゾラムとオピオイド(たとえばヒドロモルフォン)の組み合わせによる前投薬が、一般に推奨されている」と書き、投与量表のミダゾラムの行のコメントも「前投薬」の一語です。
その効き目を数字にした研究もこの種にあります。Larouche ほか(2019年、Vet Anaesth Analg 46巻6号807〜814頁)は、健康な成体メス9匹(体重2.76±0.73 kg)で、イソフルランの最小麻酔濃度を測りました。強い刺激を与えても半数が動かなくなる濃度のことで、体温 30.1±0.4 ℃ での値です。
- 生理食塩水+酸素では 1.11%(95%信頼区間 0.94〜1.28%)
- ミダゾラム 1 mg/kg を筋肉内投与すると 0.48%(0.29〜0.67%)。57%の低下(p < 0.001)
- 50%亜酸化窒素を加えると 0.92%(0.74〜1.09%)。17%の低下(p = 0.016)
- ただし同じ研究は、心臓から採取した血液の酸素分圧が、ミダゾラム併用条件と亜酸化窒素条件で、生理食塩水+酸素条件より有意に低かったとも書いています。亜酸化窒素の条件は 50% 亜酸化窒素+50% 酸素なので、吸わせている酸素の割合も違う比較です
- 著者は「ボールパイソンの最小麻酔濃度は、これまでに爬虫類で報告された値より低かった」としています
この実験条件では、前投薬としてミダゾラムを入れると、イソフルランの最小麻酔濃度が57%下がりました。測ったのは最小麻酔濃度(刺激に動かなくなる濃度)で、実際の手術でガスの流量や総使用量が半分になるという意味ではありません。「ミダゾラムだけでは確実に動かなくならない」と「ミダゾラムを足すと必要な濃度が下がる」は、どちらも同じ薬の性質です。
押さえること自体が、数字を動かします
病院で測った心拍数や呼吸数が、家で見ている様子と結びつかないことがあります。これも測られています。
James ほか(2024年、Comp Biochem Physiol A 297巻111704)は、ボールパイソン20匹に動脈カテーテルを入れ、触らずに心拍数と血圧を連続記録できる状態を作りました。そのうえで、
- 6匹には用手保定して生理食塩水を筋肉内投与し、続けてアルファキサロン 20 mg/kg を同じく筋肉内投与
- 6匹には触らずに(カテーテル経由で)生理食塩水、続けてアルファキサロン 10 mg/kg を動脈内投与
- 残る8匹は、注射から10分後の挿管のための保定を行わない条件
結果はこうです。
- 筋肉内にアルファキサロンを入れたときも、同じ量の生理食塩水を入れただけのときも、著明な頻脈と高血圧が出て、20分で安静値に戻りました
- 動脈内に入れたときは、軽度の低血圧と、より小さい頻脈にとどまりました
- 動脈内投与では動脈 PCO2・PO2・pH・乳酸に変化がなく、筋肉内投与による麻酔中にはアシドーシスが見られました
- 血漿カテコールアミンとコルチコステロンには、処置間で有意差がありませんでした
著者の結論は、「注射のための保定と、麻酔中の挿管に伴う保定は、心血管のパラメータを有意に動かす。いっぽうアルファキサロンそれ自体は、心血管生理にわずかな変化しか引き起こさない」です。生理食塩水でも同じ反応が出たことが、この結論の根拠になっています。
測定条件の違う値を、そのまま比べないでください
この研究が見せているのは、薬を入れなくても、押さえれば数字が動くということです。診察室で測った心拍数や呼吸数は、その状況での値です。
次の章で挙げる健康な40匹の実測値も、40匹を並べたときの幅であって、あなたの個体の平常値ではありません。体温・体重・直前の給餌・保定の有無で動きます。記録を持っていくことには意味がありますが、数字どうしを条件抜きで並べないところまでが一組です。
獣医用のドップラーで、頭部から脈拍を測れました
Ito ほか(2024年、Vet Rec 195巻8号 e4596)は、ボールパイソン40匹(体重 0.05〜2.2 kg)で、頭の背面、側頭眼窩動脈の高さに標準的な獣医用の超音波ドップラー血流計を当てて脈拍を取りました。2人の術者が、互いの結果を知らない状態でランダムな順に測っています。
- 40匹すべてで、脈拍数と心拍数の両方が得られました
- 心拍数の中央値は 60 bpm(範囲 48〜88)、脈拍数の中央値も 60 bpm(範囲 48〜88)
- 脈拍数と心拍数の平均差は 1.2拍(95%一致限界 −10.6〜13.0)。同時に測ったときは同期していました
- 論文自身が挙げる限界は、「健康なヘビのみを対象とした」ことです
この論文が「標準化された手技が無い」ことを背景に書いているとおり、爬虫類の麻酔のモニタリングは、哺乳類と同じ見方がそのまま使えません。Merck も、反射の使い分けをはっきり書いています。
- 「眼瞼反射と角膜反射は、それが誘発できる種(すなわちカメ類・ワニ類・ほとんどのトカゲ)では信頼できる。ただしヘビは除く」
- 「顎の緊張と逃避反射(舌・四肢・尾)は、外科的麻酔深度でのみ消失する」
- 「心拍数は、ほとんどのヘビと一部のトカゲでは、聴診または心拍の視認・触知で監視できる」
- 「末梢動脈や心臓の上でドップラー超音波を使うこともできる」
Yaw ほか(2018年)が評価していたのも、顎の緊張の消失と挿管の可否でした。ただし、挿管できたことだけで、手術に必要な麻酔と鎮痛が足りているとは判断できません。深さの判定に使われる所見と、処置ができるかどうかが近い場所にあるというだけです。
傷は、30日・90日の単位で見られています
処置が終わったあとの話です。ボールパイソンで切開の治り方を測った論文が3本あり、どれも最終観察が30日か90日に置かれています。
切る道具で、組織の反応が変わりました
Hodshon ほか(2013年、Am J Vet Res 74巻3号499〜508頁)は、健康な成体6匹にCO2レーザー・4.0 MHz ラジオ波・メスで 2 cm の皮膚切開をそれぞれ4か所ずつ作り、0日目に外科用ステープルで閉じました。毎日の肉眼評価に加えて、2日・7日・14日・30日に生検しています。
- 肉眼の創傷スコアは、すべての評価時点でレーザーがラジオ波とメスより有意に高い(=創縁の離開が大きい)
- 壊死は、レーザーが2日目と14日目、ラジオ波が2日目と7日目に、メスより有意に大きい
- 線維増生は、30日目にレーザーがメスより有意に大きい
- 組織学的反応スコアは、2日・14日・30日目にメスが他より有意に低い
結論は「ヘビでは、メスで作った皮膚切開のほうが、CO2レーザーやラジオ波による切開より壊死組織が一般に少なかった。組織学的反応スコアにもとづいて3つの方法を比べると、メスの使用が望ましく、次いでラジオ波、そしてレーザーの順であることが示された」です。
もう1本は、切ったあとのレーザー照射の研究です。Cole ほか(2015年、Am J Vet Res 76巻10号904〜912頁)は、健康な成体6匹に 2 cm の切開を8か所作ってステープルで閉じ、うち4か所にクラス4レーザー(5 J/cm²、波長980 nm、連続波)を7日間毎日照射し、残り4か所を無治療にしました。
- 肉眼スコアが有意に良かったのは2日目だけで、他の時点では差がありません
- 壊死・線維増生・炎症・肉芽腫形成・細菌汚染に、有意差なし
- コラーゲンの成熟度は、14日目に有意に良好
結論は「レーザー治療は14日目のコラーゲン成熟度を有意に増加させたが、それ以外に皮膚切開の治癒を有意に改善しなかった」です。効いた項目と効かなかった項目を、論文がそのまま並べています。
縫合糸は、90日後も炎症を残していました
McFadden ほか(2011年、Am J Vet Res 72巻10号1397〜1406頁)は、孵化個体30匹の1匹ずつに 1 cm の皮膚切開を10か所作り、8か所に8種類の縫合材料を体軸上筋に置いて同じ材料で閉創、1か所をシアノアクリレート系の組織接着剤で閉創、残る1か所は何も入れずに二次治癒させました(陰性対照)。3日・7日・14日・30日・60日・90日に5匹ずつ組織を採って顕微鏡で見ています。
- 組織接着剤は、陰性対照と比べて有意な炎症反応を起こしませんでした
- 縫合材料は8種すべてが、全時点で有意に強い炎症を起こし、埋入から90日後も陰性対照より有意に高いスコアでした
- 研究期間の終わりまでに完全に吸収された糸は、1つもありませんでした。いくつかは組織から押し出される過程にあるように見えた、と書かれています
結論は「ヘビでは、小さく浅い切開や裂傷を、組織接着剤を使って最小限の炎症反応で閉じることができる。また縫合糸は、完全に吸収される前に組織から押し出されることがある」です。
3本とも、健康な個体に実験的に作った切開です
この3本が見ているのは、健康なボールパイソンの皮膚にわざと作った 1〜2 cm の切開で、病気の個体に行った実際の手術創ではありません。感染や腫瘍を取ったあとの傷とは条件が違います。
それでも共通して読めるのは、研究が観察を置いた時間軸です。2日・7日・14日・30日、長いものは60日・90日。脱皮の間隔の記事にあるとおり、成体の脱皮は45〜60日に1回という幅も出てきます。長い観察では脱皮をまたぐ可能性もありますが、今回確認した要旨からは、実際にまたいだかどうかは分かりません(縫合糸の研究は孵化個体が対象です)。
ただし、これらの観察日は抜糸や再診の推奨間隔ではありません。縫合材料への組織の反応を追う期間と、傷を診て抜糸する時期は別のものです。間隔を決めるのは、傷を見た獣医師です。

この種で切開の治り方を測った3本。研究が観察を置いた日は2日から90日まで並びますが、これは抜糸や再診の間隔ではありません
飼い主の側で準備できること
用量も手技も獣医師の領域ですが、資料が「飼い主から来る情報」に依存していると書いている項目はいくつかあります。Merck の術前の節から拾います。
- 体重。「完全な臨床検査を行い、動物の体重を正確に量るべきである。ただし、症例によってはそれが現実的でも可能でもないことがある」。健康チェックの記事で書いたとおり、量った日付と値を続けて書いておくと、その日1回の数字より多くを伝えられます
- 脱水の状態。「すべての爬虫類で、とくに衰弱している場合や冬眠明けの場合、水和状態を評価すべきである」
- 待てる処置かどうか。「待機的処置(たとえば不妊手術)については、痩せている・脱水している・衰弱している動物は、状態が改善するまで数日・数週・数か月のあいだ看護すべきである」。「最も瀕死の卵詰まりの爬虫類でも、手術の24〜48時間前に安定化させることで、通常は利益が得られる。手術前に安定化されなかった爬虫類は、術中または術後に死亡する傾向がある」
- 直近の給餌。「爬虫類は、すべての待機手術の前に絶食させるべきである。大きな餌に伴う肺の圧迫と、吐き戻しの可能性を避けるためである。絶食の長さはその爬虫類の給餌の方式によるが、一般に手術前に給餌サイクルを1回飛ばすべきである」。いつ何を与えたかは、飼い主しか知りません
- 温度。「入院するすべての爬虫類は、生理学的な乱れを最小にし、回復に向けた薬物の吸収と排泄を助けるために、常にその種の至適温度域に維持されるべきである」。至適温度域は、その種がふだん選ぶ温度の幅のことです。さらに「低体温は動きを減らすが鎮痛を与えないため、麻酔の手段としては一般に容認できない。低体温は、投与されたあらゆる薬物の薬物動態に劇的な影響を与え、回復を大きく延長させる」
温度については、普段の管理をどう伝えるかの例として、当店の数字も出しておきます。適温の記事に書いたとおり、LilBalls は年間を通して 27〜28 ℃ に設定していて、季節で上げ下げしていません。受診のときに「普段は何度で管理しているか」を聞かれたら、こういう形で答えられるようにしておくと早いです。設定値より、実測した値のほうが役に立ちます——測り方は温度の測り方の記事にまとめました。これは普段の飼育の数字で、処置の前後に何度にすべきかの指示ではありません。そこは獣医師が決めます。
処置のあとについて、Merck は「自発呼吸が戻れば、爬虫類はインキュベーターまたはビバリウムに戻して完全に回復させることができる。立ち直り反射が戻り、動物が自力で動けるようになるまで、継続した監視が不可欠である」としています。これは院内を含む術後管理の記述で、家庭での見守り方を示したものではありません。いつ帰してよいか、帰ってから何を見るか、何が起きたら連絡するかは、担当した獣医師の指示に従ってください。
そのうえで、家でできることは限られます。ふだんのハンドリングについては、持ち方の記事で RSPCA の線を引きました——「核心温度が下がるほど長くビバリウムから出しておくべきではない。室温にもよるが、1回あたり10〜15分程度が安全である」。処置のあとに出して確認してよいかどうかは、この線とは別の話です。担当した獣医師に聞いてください。
この記事が言っていないこと
- 用量・経路・注射部位を指示していません。ここに出した mg/kg は、すべて研究の条件か獣医マニュアルの処方条件です
- 「前に打つほうがよい」を、飼い主が病院に要求する根拠にしないでください(理由は本文の注射部位の章に書きました)
- 対象はほとんどが健康な個体です。今回挙げた研究の頭数は6〜40匹で、孵化個体や若齢個体を使ったものも含みます。Ito ほかは限界として「健康なヘビのみを対象とした」と明記しています。病気の個体、とくに心肺機能が落ちている個体での値ではありません(Yaw ほか2020年も、その点で慎重であるべきだと書いています)
- 心腔内投与・動脈カテーテルは、研究と臨床の手技です。ミダゾラムの薬物動態とプロポフォールの導入は心腔内投与を含み、James ほか2024年は動脈カテーテルを入れています。Isaza ほか(2004年)が6匹から120日間に各39回の心腔穿刺を行い、肉眼所見は心膜の着色など軽微だったと報告していますが、これも獣医師が行う手技の話です
- ボールパイソンに限った麻酔関連死亡率は、出せていません。2026年11月3日に PubMed を
"Python regius"で検索した197件のタイトルを通して見ましたが、この種の麻酔関連死亡率を主題にした論文はありませんでした。いっぽう種名では拾えないヘビ全体の研究はあります——Morrison ほか(2023年、J Am Vet Med Assoc 261巻4号536〜543頁)は、ある大学病院で2000年10月から2022年1月までに行われたヘビの麻酔139件を後ろ向きに調べ、127頭が回復、8頭が予後不良のため安楽死、4頭が回復しなかったと報告しています。回復しなかった4頭はすべて、術前・術中・術後または剖検で基礎疾患が確認されています。結論は「重篤な基礎疾患のないヘビでは、全身麻酔は確実かつ安全に実施できる」です。ただしこれはヘビ全体・1施設の記録で、ボールパイソンの値でも、一般の動物病院の値でもありません - 日本で何が使えるかは、別の話です。ここに出てくる薬剤がすべて国内で入手・使用できるとは限りません。実際に何を使うかは、かかりつけの病院の判断です
- 手術や鎮静を勧めても、止めてもいません。必要かどうかは、症状と検査の結果に乗ります
参考にした資料
いずれも2026年11月3日に確認しました。引用は訳文で、原文は各リンク先にあります。全文を読んだのは Miller ほか(2018年)と Merck の章の2つで、残る査読論文は要旨(アブストラクト)を読んでいます。「要旨に書かれていない」と本文に書いた箇所は、全文を確認したという意味ではありません。
対象種(Python regius)を扱った査読論文
- James LE, Williams CJ, Bertelsen MF, Wang T.「Anaesthetic induction with alfaxalone in the ball python (Python regius): dose response and effect of injection site」Vet Anaesth Analg 45(3):329–337(2018年)——6匹。後方では30 mg/kg でのみ挿管可、前方20 mg/kg では全例 7.2±1.6 分で挿管可。最大効果は 10.0±2.7 分以内。約10分で無呼吸
- Yaw TJ, Mans C, Johnson SM, Doss GA, Sladky KK.「Effect of injection site on alfaxalone-induced sedation in ball pythons (Python regius)」J Small Anim Pract 59(12):747–751(2018年)——8匹、皮下。立ち直り反射の消失は前方5/8・後方1/8。後方では顎の緊張が残り挿管不可
- Yaw TJ, Mans C, Johnson S, Bunke L, Doss GA, Sladky KK.「Evaluation of subcutaneous administration of alfaxalone-midazolam and dexmedetomidine-midazolam for sedation of ball pythons (Python regius)」J Am Vet Med Assoc 256(5):573–579(2020年)——12匹。一過性の無呼吸、呼吸数の低下を1回換気量で代償していたことが示唆された、心肺機能が落ちた個体への注意
- Miller LJ ほか「A fixed moderate-dose combination of tiletamine+zolazepam outperforms midazolam in induction of short-term immobilization of ball pythons (Python regius)」PLoS One 13(10):e0199339(2018年)——10匹。立ち直り反射の消失 6/10・7/10・10/10(この差は有意ではありません)、ステージ2にとどまった時間の中央値 21.0/41.0/74.5分、平常行動に戻るまでの中央値 94.0/135.5/225.0分(ミダゾラムの値は、平常の行動が変化しなかった1匹を除く9匹)、1匹は1,440分後まで平常行動に戻らず。全文公開のため全文を確認
- Larouche CB, Beaufrère H, Mosley C, Nemeth NM, Dutton C.「Evaluation of the effects of midazolam and flumazenil in the ball python (Python regius)」J Zoo Wildl Med 50(3):579–588(2019年)——10匹。鎮静は56時間・72時間まで、心拍数は128時間まで有意に低下。フルマゼニルの試験は9匹で、10分以内に解除され、3時間後に9匹すべてで再鎮静
- Larouche CB ほか「Pharmacokinetics of midazolam and its major metabolite 1-hydroxymidazolam in the ball python (Python regius) after intracardiac and intramuscular administrations」J Vet Pharmacol Ther 42(6):722–731(2019年)——12匹。終末半減期は平均±標準偏差で心腔内12.04±3.25時間・筋肉内16.54±7.10時間、筋肉内のバイオアベイラビリティ89%
- Larouche CB, Mosley C, Beaufrère H, Dutton C.「Effects of midazolam and nitrous oxide on the minimum anesthetic concentration of isoflurane in the ball python (Python regius)」Vet Anaesth Analg 46(6):807–814(2019年)——9匹、体温 30.1±0.4 ℃。イソフルランの最小麻酔濃度 1.11%、ミダゾラム併用で 0.48%(57%低下)、50%亜酸化窒素で 0.92%(17%低下)。ミダゾラム併用条件と亜酸化窒素条件(50%亜酸化窒素+50%酸素。吸わせる酸素の割合も違う比較)では、心臓から採取した血液の酸素分圧が有意に低かった
- McFadden MS, Bennett RA, Reavill DR, Ragetly GR, Clark-Price SC.「Clinical and histologic effects of intracardiac administration of propofol for induction of anesthesia in ball pythons (Python regius)」J Am Vet Med Assoc 239(6):803–807(2011年)——孵化個体30匹。導入は速く回復は遅い。心筋の軽度の炎症性変化は14日目までで、30日・60日には病変なし
- Jakobsen SL, Williams CJA, Wang T, Bertelsen MF.「The influence of mechanical ventilation on physiological parameters in ball pythons (Python regius)」Comp Biochem Physiol A 207:30–35(2017年)——15匹。回復時間 289±70/126±16/68±7分、3群とも代謝性アシドーシス、12時間以内に正常化。± の指標は要旨に記載なし
- James LE, Bertelsen MF, Wang T, Williams CJA.「Impact of procedural handling on the physiological effects of alfaxalone anaesthesia in the ball python (Python regius)」Comp Biochem Physiol A 297:111704(2024年)——20匹。生理食塩水の筋肉内投与+保定でも著明な頻脈と高血圧、20分で回復。アルファキサロン自体の循環への影響はわずか
- Ito M, Levitskiy AA, Di Girolamo N.「Temporoorbital pulse rate can be obtained in ball pythons (Python regius) of any size and age and agrees with heart rate」Vet Rec 195(8):e4596(2024年)——40匹、0.05〜2.2 kg。心拍・脈拍とも中央値60 bpm、平均差1.2拍(95%一致限界 −10.6〜13.0)。限界は健康個体のみ
- Hodshon RT ほか「Comparison of first-intention healing of carbon dioxide laser, 4.0-MHz radiosurgery, and scalpel incisions in ball pythons (Python regius)」Am J Vet Res 74(3):499–508(2013年)——6匹。組織学的反応スコアはメス>ラジオ波>レーザーの順に良好
- Cole GL ほか「Effect of laser treatment on first-intention incisional wound healing in ball pythons (Python regius)」Am J Vet Res 76(10):904–912(2015年)——6匹。肉眼スコアは2日目のみ、コラーゲン成熟度は14日目のみ有意に良好。他の項目に差なし
- McFadden MS, Bennett RA, Kinsel MJ, Mitchell MA.「Evaluation of the histologic reactions to commonly used suture materials in the skin and musculature of ball pythons (Python regius)」Am J Vet Res 72(10):1397–1406(2011年)——孵化個体30匹。8種の縫合糸すべてが90日後も陰性対照より強い炎症、完全吸収された糸はゼロ。組織接着剤は有意な炎症を起こさず
- Isaza R, Andrews G, Coke R, Hunter R.「Assessment of multiple cardiocentesis in ball pythons (Python regius)」Contemp Top Lab Anim Sci 43(6):35–38(2004年)——6匹から120日間に各39検体。臨床的に明らかな合併症なし、剖検所見は心膜の着色など軽微
ほかの種・ヘビ全体で測られた論文
- Morrison HL, Rasys AM, Quandt JE, Divers SJ.「Retrospective assessment of general anesthesia-related challenges, morbidity, and death in snakes: 139 cases (2000-2022)」J Am Vet Med Assoc 261(4):536–543(2023年)——ヘビ全体・1施設の後ろ向き研究。139件中127頭が回復、8頭が安楽死、4頭が回復せず。回復しなかった個体にはすべて基礎疾患があった
- Holz P, Barker IK, Burger JP, Crawshaw GJ, Conlon PD.「The effect of the renal portal system on pharmacokinetic parameters in the red-eared slider (Trachemys scripta elegans)」J Zoo Wildl Med 28(4):386–393(1997年)——ミドリガメ。ゲンタマイシンは注射部位の影響なし、カルベニシリンは後肢で曲線下面積が有意に低下。影響は腎または肝の抽出率によって変わると明記。Merck が引いている1本
- Holz P, Barker IK, Crawshaw GJ, Dobson H.「The anatomy and perfusion of the renal portal system in the red-eared slider (Trachemys scripta elegans)」J Zoo Wildl Med 28(4):378–385(1997年)——ミドリガメ。後肢からの静脈血は主に肝臓へ流れ腎臓を迂回、尾からの血液は腎臓を通るか迂回する
獣医マニュアル
- Merck Veterinary Manual「Clinical Procedures for Reptiles」(Divers SJ, Comolli JR/査読 Brandão J。全面改訂 2025年7月、最終更新 2026年7月)——鎮静を優先する場面、検査値への影響、腎門脈系と初回通過肝効果と注射部位、術前の安定化・体重・水和・絶食、前投薬、導入薬と維持薬、挿管とスタイレット、間欠的陽圧換気とカプノグラフィ、反射によるモニタリング(ヘビでは眼瞼・角膜反射を除く)、術後の支持、ヘビのレントゲン撮影と麻酔、投与量表「Analgesics, Sedatives, and Anesthetics Used in Reptiles」のミダゾラム・チレタミン/ゾラゼパム・プロポフォール・アルファキサロン・イソフルラン・セボフルランの各行
当店の記事
- ボールパイソンに処方される薬の間隔——腎門脈系と注射部位、温度と薬物動態、検査値を種の基準で読むこと
- ボールパイソンは痛みを感じるのか——鎮痛薬の結果を実験条件と合わせて読むこと
- 爬虫類を診てくれる病院の探し方——電話で確認する6つ、持っていくもの
- ボールパイソンの健康チェック——体重と記録の取り方
- ボールパイソンの適温は何度?——当店の年間27〜28℃、温度勾配の作り方
- 爬虫類の温度の測り方——放射温度計が測っている範囲
- ボールパイソンの持ち方——1回あたりの時間と体温、通常のハンドリングを避ける時期
- ヘビの体の構造——真の横隔膜が無いこと、臓器が1本の体腔に前後に並ぶこと
- ボールパイソンのマウスロット(口内炎)——手元の薬を使わないこと
- ボールパイソンの脱皮する頻度と脱皮に必要な時間——脱皮の間隔の目安

