爬虫類の温度の測り方を調べると、「放射温度計(サーモガン)で床面を測りましょう」という一文によく当たります。当店も適温の記事で「できれば放射温度計(温度ガン)で床面の表面温度も時々実測する」と書いてきました。
ところが、この道具の取扱説明書を開くと、書いてあるのは使い方よりも「測れないもの」のほうです。Fluke の取扱説明書は原理の節を「赤外線温度計は、不透明な物体の表面温度を測定する」という一文から始めます。空気は測れません。ガラス越しも測れません。そして——ここが見落とされやすいのですが——測っているのは「レーザーが当たった点」ではなくレンズが見ている円形の範囲で、その円は離れるほど大きくなります。どれだけ速く大きくなるかは機種でまったく違い、爬虫類向けのある機種は7.6cm 離しただけで直径 7.6cm になります(工業用の機種を 90cm 離したときと、ほぼ同じ直径です)。
この性質は、ただの豆知識ではありません。小型のトカゲ52個体で520組の対測定をした研究では、赤外線温度計で測った皮膚温の平均が 33.46℃、接触式で測った総排泄腔温が 31.81℃ と、1.65℃のずれが出ました。著者が可能性として挙げている説明は、細い体がセンサーの視野を埋めきれず、背景の砂からの放射も一緒に測っていたのではないか、というものです。
この記事は、放射温度計が何を返しているのかを取扱説明書と査読論文で確かめたうえで、ケージのどこを、どれだけ近づいて、どの順番で測るかをまとめます。先に結論を置くと——床面に向けるぶんには十分に使えます。ヘビの体に向ける使い方も研究では使われていて、条件付きで有用という報告もありますが、体表の温度は体の中より速く動くので、ずれの向きは加温中か冷却中かで変わります。ボールパイソンで検証した資料は、今回確認できた範囲では見つかりませんでした。
目次
温度計は空気を、放射温度計は面を測ります
先に、2つの道具の役割を分けておきます。ケージに貼る温湿度計が測っているのは空気、放射温度計が測っているのは面です。置き場所と2点測定の話は温湿度計の記事に書いたので、ここでは繰り返しません。
その記事に「当店の環境では、空気温を30℃に合わせると床面は34℃前後まで上がります」と書きました。ヘビが腹を乗せているのは面のほうなので、この差は無視できません。ただし、この数字は当店の設置条件のもので、持ってくることはできません(ヒーターの種類と出力、ケージの素材、床材の厚み、断熱、室温で変わります)。
そして、34℃ というのは当店が目標にしている値ではありません。当店が公開している目安はサーモスタットの記事のとおり「ホットスポットの表面温度で 30〜33℃、上限の目安は 33℃。35℃ を超えているならすぐ見直してください」で、34℃ はその上限を超えた値です。だからこそ当店は空調を 30℃ ではなく 27〜28℃ にしています(詳しくは後述します)。
この記事が扱うのは、その「面」を測る道具そのものです。
「毎日」と書く資料と、「月1回」と書いてきた当店
面を測ることを、はっきり日課として指示している飼育資料があります。RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)のロイヤルパイソンのケアシートです。この一文は健康チェックの記事でも引いています。
「サーモスタットは常に正確とは限らないので、ケージの両端の温度を毎日、赤外線温度計で、動物と同じ高さで記録しなければなりません」
理由として書かれているのは「サーモスタットは常に正確とは限らない」の1つだけです。同じ資料は、バスキングゾーンの目安を30〜32℃、クール側を24〜26℃としています(バスキングゾーンのほうは「デジタル温度計で確認する」としか書かれておらず、床面温度の目標だと明示されているわけではありません)。
当店がサーモスタットの記事で書いた「サーモスタットが見ているのは、センサーが置かれた場所の温度だけです」という話と、方向は同じです。サーモはセンサー位置を制御しているだけで、ヘビが乗る面が何度になるかは測らないと分かりません。
当店が書いてきた頻度は「月1回」です
ここは正直に書きます。適温の記事は「時々実測する」、サーモスタットの記事は「日々やるのはケージの温度計を見るだけで十分で、そのうえで月1回」放射温度計で答え合わせをする、としています。RSPCA の「毎日」とは食い違っています。
どちらが正しいかを、当店は資料で決められていません。月1回で足りるという検証を、当店は示していません。機関の推奨は毎日で、当店が実際にやっているのは月1回——という事実を並べておきます。
そのうえで当店が勧めるのは、設置を変えた直後(床材を替えた・シェルターを動かした・ヒーターを替えた・季節が変わった)は、頻度の議論とは別に測り直すことです。これは RSPCA に書かれている指示ではなく、当店の運用です。
RSPCA の 30〜32℃ は「バスキングゾーンの目安」、当店の 27〜28℃ は「部屋の空調設定」です
この2つは別の層の数字で、並べて比べるものではありません。当店が部屋ごとエアコンで年間27〜28℃にしているのは空調の設定値で、ケージの中のホットスポットの話ではありません。
当店の面の目標は上に書いたとおりホットスポットの表面温度で 30〜33℃(上限 33℃)、クール側 24〜28℃です。資料ごとに推奨帯は違うので、どの数字を採るかと、その数字をどう測るかは別の話として読んでください。この記事は後者だけを扱います。
なお RSPCA は、保温球の場合とヒーターマットの場合でセンサーの置き場所を分けて書いています。マットの場合は「プローブはヒーターマットの直上、32℃ に設定」です。当店のサーモスタットの記事は、この英語圏のやり方について「国内製品はそう指示していません」と書いています。パネルヒーターのセンサー位置は、資料ではなく手元の製品の説明書に従ってください。
測れるのは「不透明な面の表面」だけです
では、放射温度計は何を測っているのか。Fluke 561 の取扱説明書は、原理の節をこの一文から始めます。
「赤外線温度計は、不透明な物体の表面温度を測定する」
ここから、3つのことが決まります。
① 空気は測れません。空気は不透明な物体ではないので、ケージの中の空中に向けても、返ってくるのは向こう側にある壁や床の温度です。空気の温度を知りたいなら温湿度計の仕事です。
② 内部の温度は測れません。床材の表面が32℃でも、その下が何度かは分かりません。床材の記事に書いた「薄く敷けばヘビが触れる面は熱く、厚く敷けばぬるくなります」という話が効くのはここで、床材の厚みを変えたら測り直しが要ります。
③ ガラス越しは測れません。この種の温度計が使う 8〜14µm の波長帯ではガラスが赤外線を通さないので、読むのはガラス自身の温度です。爬虫類向けの製品の取扱説明書も、2社とも明記しています——Exo Terra(PT2474)は警告の項で「ガラスやスクリーンメッシュ越しに温度を読んではいけません。表示される温度は、測りたい対象の温度に対応しません」、Zoo Med(RT-1)は「この温度計は、スクリーンメッシュ・ガラス・プラスチック越しの温度は測らず、代わりにその表面の温度を測ります」。扉を開けて直接向けてください。
放射率。素材名だけでは決まりません
同じ温度の面でも、素材と表面の状態によって出ている赤外線の量は違います。この出やすさを表す値が放射率(0〜1)で、温度計はこの値を仮定して換算しています。Fluke の取扱説明書は「ほとんどの有機物、塗装面、酸化した面の放射率は約0.95である」とし、切り替えを LO(0.3)/MED(0.7)/HI(0.95)の3段としています。一方、爬虫類向けの Exo Terra(PT2474)と Zoo Med(RT-1)の取扱説明書には、放射率を設定する操作がそもそも載っていません。使う側が触れる値ではない、ということです。
Optris の非接触温度測定の技術資料に、素材ごとの放射率表が載っています。放射率は波長の帯域と表面の状態で変わる値なので、Fluke 561 の分光範囲(8〜14µm)に合わせて、表の「LW」の行だけを抜きます。
8〜14µm の帯で測った放射率。アルマイト処理をすれば金属でも 0.97、樹脂でも断熱板なら 0.55。素材の名前だけでは決まりません

この表から読めるのは、素材の名前だけでは決まらないということです。金属でもアルマイト処理をしたつや消しのアルミは 0.97 で、0.95 の仮定からほとんど外れていません。逆に樹脂でもポリウレタンの断熱板は 0.55。ステンレス板も、研磨すると 0.14 ですが、未処理で傷が付いていれば 0.28 です。抜いた範囲でいちばん低いのは、傷の付き方が違うアルミ板4試料の 0.03〜0.06 でした。
同じ資料は、放射率が「素材、その表面、温度、波長、測る角度、そして測定の配置にも依存する」としたうえで、傾向をこう書いています——「非金属の材料でできた多くの物体は、少なくとも長波長の帯域では、表面の状態によらず高く、比較的一定した放射率を示す。一般に金属材料は低い放射率を示し、それは表面の状態に強く依存する」。「一般に」「多くの」という書き方のとおり、例外は同じ表の中にあります。素材名で決め打ちせず、反射の強い面には注意する——このくらいの粒度で押さえておくのが実際的です。
Fluke の取扱説明書は、これをやけどの注意として書いています。
「やけどの危険を避けるため、反射の強い物体は、しばしば実際より低い測定値になることを忘れないでください」
ケージで気になるのは、反射の強い面です
典型は天井の金属メッシュ、アルミテープを貼った面、ステンレスの水入れ、保温球のソケットの金属部分です(ただし上の表のとおり、低く出るのは金属面に限りません)。このあたりに向けた値は、実際より低く出ている可能性があります。放射率の低い面では、対象自身が出す放射が弱く、そのぶん周囲から来て反射した放射の影響を強く受けるからです。Zoo Med の取扱説明書も「研磨された面や反射する面を測ると、不正確な読みになることがあります」としています。
Fluke が挙げている対処は「可能であれば、測りたい面をマスキングテープかつや消し黒の塗料(148℃未満)で覆い、高放射率の設定で測る」+「テープや塗料が下の面と同じ温度になるまで待つこと」ですが、これは工業用の手順で、ケージの中でやる話ではありません。
そして、測れないことと、熱くないことは別です。ヘビが触れうる高温の金属部があるなら、数字で確かめるのではなく触れないようにするのが先です。RSPCA も「保温球は、ヘビがやけどを負ったり、球が割れて怪我をしたりしないよう、ガードを付けなければなりません」としています。
もうひとつ、角度も効きます。Optris の資料は、放射率が素材・表面の状態・温度・波長・測る角度で変わるとしています。レンズを面と正対させ、斜めから当てないでください。
測っているのは点ではなく、距離で広がる円です
レーザーの赤い点が当たった場所の温度が出る——と思われがちですが、違います。Fluke の取扱説明書は「レーザーは照準のためだけのもの」と書いています。実際に測っているのは、レンズが見ている円形の範囲です。
この範囲の大きさは距離で変わります。仕様欄には距離対スポット径(D:S)という比で書かれていますが、この広がり方は機種でまったく違います。取扱説明書に載っている実寸を並べます。
距離ごとの測定域の直径。爬虫類向けの Zoo Med RT-1 を 7.6cm 離したときの直径は、工業用の Fluke 561 を 90cm 離したときとほぼ同じです

工業用の Fluke 561 は、1.5m 離れても直径13cm。これに対し、爬虫類向けの Zoo Med レプティテンプ(RT-1)の取扱説明書は、「重要な注意」の項でこう書いています。
「温度計が測っている範囲は、対象から離れるほど大きくなります。たとえば、温度計がテラリウムの床から1インチの位置にあれば、直径1インチの範囲を測ります。温度計を3インチ離せば、直径3インチの範囲を測ります」
この機種で測る円の直径は、ほぼ距離と同じです。7.6cm 離しただけで直径 7.6cm——Fluke 561 を 90cm 離したときとほぼ同じ直径になります。
もう一方の Exo Terra(PT2474)の取扱説明書は、測る範囲の比ではなく距離そのものを指定しています——「最適な読み取りのためには、センサーレンズと対象の距離は6〜7.5cm(2.5〜3インチ)であるべきです」。
機種が違っても共通しているのは、Fluke と Optris が同じ内容で書いているこの要件だけです。
「対象がスポットより大きいことを確かめること。対象が小さいほど、近づいて測ること」(Fluke)
「正確な結果を得るには、測定対象の大きさがセンサーの視野と同じか、それより大きくなければならない」(Optris)
「何cmまで近づくか」は、自分の機種の説明書で決まります
6〜7.5cm は PT2474 の指定で、全機種に共通の数字ではありません。Zoo Med は距離ではなく測る範囲の広がり方で書いていますし、工業用機は離れても狭い円を保ちます。
ホットスポットの一部だけを知りたいなら近づく、床全体をざっと見たいなら離す——その判断は、手元の説明書に書かれた比か距離から決めてください。「ケージの外から1m離して撃つ」が成立するかどうかも、機種次第です(ただしガラスやメッシュを挟んではいけない、は機種によらず共通です)。
表示は「円の中の平均温度」ではありません
円の中に別の温度の面が入ったとき、表示がその単純平均になるわけではありません。Optris が示している検出器の式では、センサーが受け取るのは対象自身が出した放射と、周囲から来て対象に反射した放射の合計で、しかも放射の量と温度の関係は直線ではありません(指数は波長で 2〜17 の範囲を動きます)。
「円に入ったものの影響を受ける」までが言えることで、「何度と何度の中間が出る」とは言えません。また Fluke はスポット径を「90%包含エネルギー」の径として定義しており、円の外のものが完全に無視されるわけでもありません。円ちょうどに収めれば安全ではなく、対象は円より余裕をもって大きいほうがよい、ということです。
そもそも、±何℃の道具なのか
器具の精度も見ておきます。
Fluke 561 の仕様は確度 ±1% または ±1℃。ただし注記が付いていて、「周囲の動作温度が23〜25℃であることを前提とする」とされています。当店の部屋は27〜28℃なので、この前提の外です。
爬虫類向けの PT2474 の取扱説明書には、確度の記載が2ページ全文のどこにもありません。
後で出てくる小型赤外線温度計の研究(Chukwuka ら、2019年)は、結論で「使用前の mini-IRT の校正を強く推奨する」としています。これは機器そのものの校正の話です。
これとは別に、Fluke の取扱説明書は「接触プローブを使って基準の温度を決めること、そして経験が、個々の測定に最適な設定を選ぶ助けになる」としています。こちらは本体の校正ではなく、放射率の設定をどう選ぶかの話ですが、どちらも接触式の温度計と突き合わせるところは同じです。
当店のサーモスタットの記事に「放射温度計自体にも誤差があるので、1℃程度の差で慌てる必要はありません」と書いたのは、この意味です(これは当店の運用上の線引きで、一般的な許容誤差の基準ではありません)。表示の細かさと確度は別のものです。0.1℃まで表示されても、0.1℃単位で信じる道具ではありません。
同じトカゲを2通りで測ると、ずれが出ました
ここまでは器具の仕様の話でした。これが生き物を測ったときにどう出るかを、Carretero(2012年、Basic and Applied Herpetology)が測っています。
イベリア半島の小型トカゲ(Podarcis 属の4型)52個体を温度勾配のある実験用ケージに入れ、赤外線温度計で背中の皮膚温を測り、その10秒以内に捕獲して接触式温度計で総排泄腔の温度を測ります。1時間おきに10回、合計520組。
小型トカゲ52個体・520組の対測定。赤外線温度計の表示値のほうが系統的に高く出ました

赤外線側の平均が33.46℃、接触式が31.81℃。平均の差は1.65℃で、赤外線のほうが系統的に高く出ました。しかも差は一定ではなく、温度が高いところほど開きます(著者は「そのバイアスは一定ではなく、温度とともに増大した」と書いています)。赤外線側の最高値は45.4℃まで振れたのに対し、接触式は37.9℃止まりでした。
著者はこの差が「捕まえられたストレスで体温が上がった」たぐいの話ではないことを確かめています——テラリウムの中でまだ一度も捕獲していない初回の測定でも、同じ差が出たからです。
では原因は何か。論文が可能性として挙げているのは、まさに前の節の話です。
「温度計の向きと距離に注意を払ったにもかかわらず、これらのトカゲの小さく細長い体は、赤外線センサーに対して十分な(そしておそらく一定しない)皮膚の面積を与えておらず、背景(床材)の赤外放射までも測っていたと考えられる」
この実験の床材は砂で、その15cm上に100Wの赤外線レフ球が吊ってありました。トカゲより熱い面が背景にあり、それが円に混ざって読みを押し上げたのではないか、という説明です。著者自身はこれを確定した原因とはせず、体の大きさ・形・熱源の影響を確かめる追加の実験が必要だとしています。
この1.65℃は「実際の体表温の差」ではありません
この研究が示したのは、皮膚に向けた赤外線温度計の表示値と、総排泄腔に入れた接触式温度計の値との差です。皮膚が実際に1.65℃熱かった、という意味ではありません(背景混入を疑うなら、なおさらそうは言えません)。
対象は、吻端から総排泄腔までの長さが集団ごとの平均で45.2〜58.5mmのトカゲを、約20cm離れて測ったものです。測定域は約2cm。ボールパイソンの胴はこれよりずっと太く、近づけて測れば条件はかなり違います。持ち帰れるのは数字ではなく、対象が円を埋めきらないと、周りの面の影響が混ざるという形のほうです。
ヘビの体に向けて「体温」は分かるのか
放射温度計をヘビ自身に向ければ体温が分かるのでは——という使い方も考えられます。爬虫類は変温動物で、体温を自分の代謝ではなく環境から取り、温かい場所と涼しい場所を行き来して選びます。実際、この手法は研究の現場で使われてきました。
資料を5本並べます。
① ヘビで直接測った研究(Halliday & Blouin-Demers、2017年、Herpetological Review)。カナダで採集したガータースネーク(Thamnophis sirtalis、吻端から総排泄腔まで317〜626mm)を、板に固定して胴の中央(総排泄腔から10〜15cm以内)の10cm上から赤外線温度計(Fluke 566)で測り、同時に熱電対で総排泄腔温を記録しました。冷却・加温の実験が12個体、日射とハンドリングの実験が6個体。結論は「小型から中型のヘビでは、赤外線温度計は核心体温と強く相関する皮膚温を得るのに有用である」。ただし——
「冷却の試行では皮膚温は総排泄腔温より低く、加温および日射の試行では皮膚温のほうが高かった」
具体的には、冷却中は総排泄腔温が皮膚温より 0.6±0.1℃ 高く、加温中は皮膚温が 1.3±0.1℃ 高い。向きが逆になります。著者の説明は「皮膚温はヘビの外表面の測定値で、周囲の温度や放射の変化に最初にさらされる部分だから」。ただし差そのものは小さく、この実験で最も大きかった平均の差は2℃(日射試行の終わり)でした。これはこの実験での最大値で、1回ごとの測定の誤差の上限ではありません。
同じ論文は「熱が太陽からではなく下から放射されている場合は例外で、熱源に近いぶん総排泄腔温のほうが皮膚温より高くなることがありうる」とも書いています。これは著者の考察で、実験で確かめた結果ではありません。床面から加温している飼育のケージでも同じことが起こりうる——とは言えますが、この実験では検証されていません。
② 小型のトカゲ(Chukwuka ら、2019年、Journal of Thermal Biology)。22.3gの安価な小型赤外線温度計を5mm以内まで近づけた場合、模型では幅7mm以上なら、より高価な校正済み機器で得た平均値に対して±1.0℃以内に収まりました。著者の結論は「腹部の幅が7mm以上のトカゲであれば、近距離で mini-IRT を使って測った皮膚温は野外調査に使える。機器の携行性と安価さ、そして動物の取り扱いを最小限にすることが最優先される状況において、核心体温の安価な代用となる」。ただし生きた個体では、ヤモリでは差が小さくより小さく細いスキンクでは大きくなっており、使用前の校正を強く推奨しています。
③ 大型のイグアナ(Valle ら、2019年、PeerJ)。ガラパゴスのリクイグアナ2種と交雑個体1頭の計52個体(1.2〜7.2kg)で、赤外線温度計を体の3か所に約7cmまで近づけ、熱電対で測った総排泄腔温と比べました。平均は腋窩30.3℃・背31.1℃・大腿31.0℃に対し、総排泄腔31.4℃。平均では外側が内側をわずかに下回り、相関は大腿で r=0.967 でした(ただし相関の強さは、1本ごとの読みがどれだけ一致するかを直接示す指標ではありません)。著者の結論は「他の大型爬虫類への適用には、さらなる検証が必要」です。
④ ヘビを含む4グループ(Cremer ら、2019年、Journal of Zoo and Wildlife Medicine)。イグアナ・カメレオン・ヘビ・アリゲーターで、体表温・食道温・総排泄腔温を比べています。結論は「体表温は、調べたすべての種で食道温を過小評価していた」。ただし結果の節には「低いほうの環境温度のイグアナを除き」という例外が付いています。
⑤ 野生のマムシ(Shine ら、2002年、Journal of Thermal Biology)。中国の島に住むシェダオマムシ(Gloydius shedaoensis)が待ち伏せ姿勢でいるところを、赤外線温度計で体表温を測り、同じ個体の総排泄腔温と比べています。n=27、r=0.95、傾き0.98、9〜31℃の範囲で平均の温度差は0.8℃未満。ヘビの体表温が体内温度をよく推定した例です。
ただしこれは、待ち伏せ姿勢で動かない野生個体を、レンズの位置で直径23mm、6m離しても71mmという狭い光学系の機器で測った結果です。この一致が、別の光学系や別の測定条件でも得られるとは限りません。
④ は「赤外線の資料」としては読めません
この論文は有料で全文が取れず、当店が確認できたのは抄録だけです。そして抄録には「赤外線」という語が1度も出てきません。「体表温」としか書かれておらず、接触式の表面プローブで測った可能性を排除できません。対象のヘビの種名も抄録からは分かりません(ボールパイソンが含まれていた可能性も、否定できません)。
体表温と体内温度に差があるという一般的な裏付けとしては使えますが、「赤外線温度計の性能の資料」としては数えていません。
並べてみると、「使える/使えない」の二択にはなりません。ヘビでは Halliday が順位相関 0.91 と 0.87、Shine が r=0.95 を報告しています。一方 Carretero は、小型トカゲについて「両者の関係は強くなかった」と書いています。そして相関が強くても、1本ごとの値が一致することは保証されません(イグアナの節に書いたのと同じ留保です)。
問題はずれの向きと大きさが、そのときに熱がどちらへ動いているか、どこを測るか、どんな光学系の機械かで変わることです。Halliday 自身も「皮膚温は測る場所によっても変わりうる。日光浴中のヘビはおそらく背側のほうが腹側より皮膚温が高く、胴の中央は頭や尾とは違うかもしれない」と書いています。
そして、ボールパイソンでこれを測った資料を、当店は今回見つけられませんでした。①はガータースネーク、⑤はマムシ、②③はトカゲ、④は種名が分かりません。「測定法が無効だと分かっている」のではなく、「この種で検証した数字を確認できていない」——ここは区別して読んでください。
そのうえで、当店が放射温度計を使っているのは床面と器具です。こちらは動かないので円を埋めやすく、測りたいもの(ヘビが腹を乗せる面の温度)と測っているもの(その面の表面温度)がそのまま一致します。
やりがちな測り方、6つ
取扱説明書に明示的に書かれているものを①〜④に、当店の判断を⑤⑥に分けて並べます。
① ガラス越し・メッシュ越しに測る(取扱説明書)。Exo Terra は「絶対に読んではいけない」、Zoo Med は「測らず、代わりにその表面の温度を測る」と書いています。扉を開けて直接向けてください。
② 汚れた面をそのまま測る(取扱説明書)。Exo Terra に「測りたい面に霜・ほこり・その他の反射する粒子が付いている場合、正確な測定の前に表面の清掃を行う必要があります」とあります。ただし床材そのものを測りたい場合は別で、落ちている床材を拭き取ったら測りたい面が無くなります。該当するのはガラス面・ヒーター面・シェルターの屋根など、粉が乗っている「別の面」です。
③ 寒い部屋から持ってきて、すぐ測る(取扱説明書)。Fluke は注意の項で「熱衝撃(大きな、あるいは急激な周囲温度の変化によるもの)——使用前に30分、温度計を安定させること」としています。これは「機器や被測定物を傷めないため」の項に書かれたもので、読みの精度についての記述ではありません。ただし Zoo Med の取扱説明書は、急激な温度変化でエラーが出たとき「30分待ってエラー表示が消えるのを待つ」としており、実務としては同じ扱いで構わないと考えます。
④ レーザーや LED を目に向ける(取扱説明書)。Fluke は「レーザーを目に直接、または反射面を経由して間接的に向けてはいけません」。Exo Terra は「LED の光線を人の目に直接向けないでください」(仏語版は「人または動物の目に」)。ケージの中でスキャンするときは、照準の光を消して測ってください。
⑤ 放射温度計だけで運用する(当店の判断)。放射温度計は測った瞬間の、その面の値しか返しません。夜間や留守中にクール側がどこまで落ちたかは分からないので、温湿度計の記事に書いた最高・最低の記録が残る温湿度計と組みで使います。逆に、温湿度計だけでも床面は分かりません。
⑥ 測る道具を増やして、安全になったつもりになる(当店の判断)。温度計も放射温度計も測るだけの道具です。上がりすぎを止めるのは熱源に適合したサーモスタットの仕事で、異常に気づく助けにはなっても、止める働きはありません。
測る順番
ここまでの仕様から、手順が決まります。測る場所はサーモスタットの記事に書いた3点に揃えます。
1. 機械を部屋になじませる。寒い場所から持ち込んだ直後は待ちます(Fluke の指定は、大きな/急激な周囲温度変化のあと30分)。
2. 個体の居場所を先に見る。扉を開ける前に、どこにいるかを確認します。シェルターの中にいるなら、測るためにどける必要はありません——その日はホット側とクール側の床面だけにして、シェルターの中は空いているときに測ります。
3. 熱源に触れない動線を確保する。手を数cm入れる作業です。RSPCA が「保温球は、ヘビがやけどを負ったり、球が割れて怪我をしたりしないよう、ガードを付けなければなりません」としているとおり、ガードを付けて、触れない形にしておくのが先です。むき出しの熱源があるなら、測る前にそこを直してください。
測定は通常の運転条件のまま行います。熱源を消してから測ると、残熱が抜けるぶん通常運転の床面温度とは別の値になるので、その値をサーモの設定に戻すことはできません。どうしても消さないと手が入れられない設置なら、それは測り方ではなく設置のほうを直す場面です。
4. 扉を開ける。ガラスもメッシュも挟まない位置に手を入れます。開ける幅は必要な分だけにして、終わったら必ず閉めて施錠する——繰り返し開ける手順なので、ここが脱走の入口になります(脱走の記事)。
5. 面から、説明書の指定どおりの距離まで近づける。PT2474 なら6〜7.5cm。レンズを面と正対させ、斜めから当てません。
6. 3点を測る。ホット側の床面/ホット側のシェルターの中の床面/クール側の床面。温度勾配ができているかは、この並びで見えます。
7. ホットスポットは、点ではなく面で探す。Fluke の取扱説明書の手順は「ホットスポットやコールドスポットを見つけるには、対象の範囲の外に温度計を向けること。それから、上下に動かしながらゆっくりとその範囲を走査し、ホットスポットやコールドスポットを見つけること」。Exo Terra にも、測定ボタンを押したまま動かすと表示が更新され続けるので、ホットスポットやコールドスポットのような温度のばらつきを走査したいときに使える、とあります。
8. 記録する。RSPCA が求めているのは「測る」ではなく「記録する」です。毎回の値が残っていないと、「いつもと違う」が判定できません。
9. 値を判断に戻す。当店の目安はホット側の床面で30〜33℃、上限33℃。超えていたらサーモの設定を下げるか、ヒーターの出力・床材の厚み・断熱を見直します。35℃ を超える場所があるなら、そのまま生体を入れないでください。設定を変えたら、温度が落ち着いてから測り直します。
異常に高いときは、設定を下げる前に止まることを確かめる
サーモの設定を下げれば解決する、とは限りません。サーモスタットの記事に書いたとおり「リレー接点の溶着などで、制御が切ろうとしても給電が続きます」——故障していれば、設定をいくら下げても熱源は止まりません。
順番はこうです。①熱源の電源を抜く。②個体が熱い面に接し続けていないことまで確かめる(電源を抜いただけでは曝露が止まったことになりません)。③熱源・センサー・室温のどこが原因かを確かめて、原因を取り除く。サーモや熱源の故障が疑われるなら、その機器は使うのをやめて交換します。④個体を熱にさらさない状態で通電を戻し、正常に切れることと温度を確かめる。⑤安全を確認してから通常運用に戻し、落ち着いてから測り直す。
③を飛ばして通電を戻さないでください。「正常に切れることを確かめる」は再通電したあとの確認で、原因を取り除いたことの代わりにはなりません。また、室温や日射が原因なら、加温用のサーモは冷やせません。
当店 LilBalls での使い方
当店は部屋そのものをエアコンで年間27〜28℃に保ち、そのうえでケージごとの実測を別に行っています。放射温度計に任せているのは床面と器具の表面で、個体の体温測定には使っていません。
理由は上に書いたとおり、ボールパイソンで体表温と体内温度の関係を測った資料を見つけられていないからです。体調の判断は、健康チェックの記事に書いた観察と体重のほうで見ています。
空調を27〜28℃にしている理由も、面の温度と関係があります。空気を30℃に合わせると床面は34℃前後まで行くので、上限の目安 33℃ を超えてしまいます。繁殖を行う通年の管理としてはその環境を高いと見ており、室温を28℃で揃えておくと、床面が上がりすぎる側に振れにくくなる——というのが実務上の理由です。文献で確定された基準ではありません。
まとめ
・温湿度計は空気、放射温度計は面。空気と面の両方を知るには、道具を使い分けます。
・測れるのは不透明な面の表面だけ。空気も、内部も、ガラス・メッシュ越しも測れません。
・測っているのは点ではなく、距離で広がる円。広がり方は機種でまったく違い、Zoo Med RT-1 を7.6cm離したときの直径は、Fluke 561 を90cm離したときとほぼ同じです。対象が円より大きいことだけが共通の要件。
・放射率は素材名だけでは決まりません。アルマイト処理したアルミは0.97、ポリウレタンの断熱板は0.55。気をつけるのは反射の強い面で、Fluke はこれをやけどの注意として——反射の強い物体はしばしば実際より低く出る、と書いています。
・表示の細かさと確度は別です。Fluke 561 は ±1% または ±1℃(周囲23〜25℃が前提)、爬虫類向けの PT2474 には確度の記載がありません。0.1℃まで表示されても、0.1℃単位で信じる道具ではありません。
・体表温から体温を読むずれは、熱がどちらへ動いているかで向きが変わります。ガータースネークでは冷却中に体表が0.6℃低く、加温中に1.3℃高く出ました。相関は強くても、1本ごとの値の一致までは保証されません。ボールパイソンで検証した資料は、今回確認できた範囲では見つかりませんでした。
・測るのは床面と器具。ホット側の床面・シェルターの中・クール側の床面の3点を、個体の居場所を見てから、記録まで。
測った値を設定に戻すところまでが、この道具の使い方です。
参考資料
・RSPCA「Royal python CARE SHEET」
・Fluke 561 Infrared Thermometer Users Manual
・Exo Terra「Infrared Thermometer Digital Pocket Thermometer Operating Instructions」(PT2474)
・Zoo Med「REPTITEMP Digital Infrared Thermometer Instructions」(RT-1)
・Optris「Basic principles of non-contact temperature measurement」

