温湿度計は安いものから高いものまでありますが、効いてくるのは性能よりも何個どこに置くかです。
この記事では、2点で測る理由、アナログとデジタルの違い、家庭でできる湿度計の答え合わせ、置き場所で測っている対象が変わること、空気と床の温度は別物であることを順に整理します。
目次
1個では足りない。温度計は2点から
温湿度計選びでいちばん効くのは、性能ではなく何個どこに置くかです。
ボールパイソンの飼育では温度勾配を作ります。温かい側と涼しい側があるので、測る場所も2か所必要です。当店の適温の記事にも書いたとおり、「ケージに温度計を1個付けて終わり」だと、ホットスポットとクール側のどちらの温度も正確には分かりません。
1個しか置けないなら、置くべきはホット側です。上限を外すと事故になるのはこちら側だからです。ただしそれは妥協で、冬にクール側が下がりすぎていないかは分からなくなります。
アナログとデジタル、どちらを選ぶか
結論から言うとデジタルです。理由は精度の桁が違うためです。
湿度計の誤差は、一般にアナログ(バイメタルや毛髪式などの機械式)で±10%RH 程度、デジタル(電子式センサー)で±2〜5%RH 程度とされます。ボールパイソンの湿度の目安は、RSPCA がクール側で通常 50〜60%RH としています(霧吹きで一時的に 80% 程度まで上げ、その間に下がる運用)。資料によって推奨は違い、日中 60〜80% とするものもあります。いずれにせよ±10% は「範囲の中か外か」が判定できない幅です。
当店の適温の記事でも「アナログの温度計は誤差が大きいものもあるため、デジタル式を推奨する資料が国内外とも多数派です」と書いています。
デジタルなら正確、ではありません
デジタルでも製品ごとに精度の表記が違います。仕様に ±2%RH と書いてあるものと、何も書いていないものを同じには扱えません。安価な製品ほど表記が無い傾向があります。買う前に仕様欄を見てください。
湿度計は、飽和塩法で答え合わせできる
湿度計がずれているかどうかは、家庭でも確かめられます。飽和した食塩水が作る湿度が決まっているという性質を使います。
この方法の土台は計量標準の分野にあります。米 NIST は、飽和塩水溶液が作る平衡相対湿度を温度ごとにまとめた表を公表しており(Humidity Fixed Points of Binary Saturated Aqueous Solutions)、食塩はそのうちのひとつです。
引用(Vaisala):それぞれの塩は、密閉した容器の中で平衡に達したとき、既知の相対湿度環境を作る。塩化ナトリウム(NaCl)はおよそ 75%RH を与える。
やり方は単純です。
- 小さな容器に食塩を入れ、水を数滴たらして湿った砂のような状態にする(溶かし切らない)
- その容器と湿度計を、密閉できる袋や容器に一緒に入れる
- 温度が動かない場所に置いて、半日ほど待つ
- 表示が 75% 付近なら正常。大きく外れていれば、その差がその湿度計の癖です
温度が動くと成立しません
同じ Vaisala の解説は「校正は安定した温度環境で行わなければならない」としています。窓際や暖房の近くでやると、湿度計ではなく環境のほうが動きます。また平衡に達するまで時間がかかるので、数十分で判断しないでください。
ここで分かるのはずれの量であって、直す作業ではありません。多くの家庭用湿度計は校正できないので、「この機械は5%高く出る」と分かったうえで読むのが現実的な使い方です。
置き場所で、測っている対象が変わる
同じ機械でも、置く場所で意味がまったく変わります。当店の水入れの記事でも「温度計がケージの中央や上部にあると、ヘビが実際に接している床の温度が分かりません」と書きました。
- ホット側の床の近く … ヘビが体を温める場所の空気温度。上限の管理はここで見ます
- クール側の床の近く … 逃げ場が十分に涼しいか。冬に下がりすぎていないかもここ
- ケージの上部・中央 … 空気の吹き抜けを測っているだけで、ヘビが過ごす高さではありません
- 扉の近く … 開け閉めのたびに外気を拾います
湿度計も同じで、床に近い位置のほうが実態に合います。暖かい空気は上に行くので、上部は相対湿度が低めに出ます。
空気の温度と、床の温度は別物
温湿度計で測れるのは空気です。ヘビが腹を乗せる床の表面は測れません。
当店の適温の記事でも「できれば放射温度計(温度ガン)で床面の表面温度も時々実測する。空気の温度と床の温度は意外とズレます」としています。
やけどに直結するのは床の表面温度のほうなので、温湿度計2点+放射温度計1本が実務上の最小構成です。放射温度計は数千円で買え、数秒で測れます。
使い方に1つ注意があります。一般的な放射温度計はガラス越しには測れません。ガラスは赤外線を通さないので、測りたい面ではなくガラスの温度を読みます。扉を開けて対象に直接向けてください。測る距離によって視野に入る範囲が変わる点も、説明書で確認しておくと安心です。
温度計は過熱を止めません
温度計は測るだけの道具です。上がりすぎを止めるのは熱源に適合したサーモスタットの仕事で、温度計を増やしても安全にはなりません。逆に、サーモの表示も温度計の代わりにはなりません。
サーモスタットの表示は温度計の代わりになりません
サーモの画面に出ているのはセンサーが置かれた場所の温度で、ヘビがいる場所の温度ではありません。しかも表示が設定温度なのか測定温度なのかも製品によって違います。独立した温度計を必ず別に置いてください(詳しくはサーモスタットの記事)。
1台で2点を測れる製品がある
「2点必要」と書きましたが、本体を2台買う必要はありません。本体側のセンサーと、線で伸びるプローブの2系統を同時に表示する製品があります。表示は「IN(本体)」「OUT(プローブ)」のように分かれます。
この形なら、本体をクール側のケージ内に置き、プローブだけをホット側の床の近くに這わせると、2点を1か所の表示で読めます。毎日の確認が続きやすくなります。
本体をケージの外に出すと1点になります
表示が見やすいからと本体をケージの外に置くと、内蔵センサーが測るのは部屋の温度です。ケージ内は外部プローブの1点だけになります。湿度も本体側で測る製品が多いので、その場合はケージ内の湿度を測っていないことになります。本体を外に出すなら、湿度計は別にケージ内へ置いてください。
選ぶときに見る3点
- 精度の表記があるか。±2%RH / ±1℃ のように書いてあるものを選ぶ。表記が無い製品は、ずれても比べようがありません
- センサーが本体と分かれているか。プローブが線で伸びるタイプなら、本体をケージの外に出して表示だけ見られます。湿気で本体が傷むのも避けられます
- 最高・最低の記録が残るか。見ていない時間帯の上振れ・下振れが分かります。留守中や明け方の冷え込みは、記録がないと永久に気づけません
逆に、吸盤で貼るだけの一体型は安価ですが、センサーがケージ内の空中にあるため、上で書いた「測っている対象が違う」問題を起こしやすい作りです。
数字をどう読むか
温湿度計を置いても、見るタイミングが偏っていると意味が薄れます。人が見るのは在宅している昼と夜に偏りがちで、冷え込む時間帯は見ていないことが多いからです。
だから最高・最低の記録機能が効きます。朝に記録を見れば、自分が寝ているあいだにクール側がどこまで落ちたかが分かります。この数字が出てから、保温を足すかどうかを決めるのが順序です。記録がいつからの値か(リセットしてから/直近24時間)は製品によって違うので、確認しておいてください。
湿度は1日の中で大きく振れます。霧吹きの直後は跳ね上がり、数時間で戻ります。一瞬の数字ではなく、戻ったあとの値を平常値として扱ってください。脱皮前に上げたい場合も、瞬間値を追いかけると過加湿になります。
電池と経年
電池が弱ると、表示が薄くなったり動作が不安定になったりします。値がずれることもあります(機種によります)。突然消えてくれるほうがむしろ分かりやすく、中途半端に動いている状態が厄介です。
湿度センサーは経年でずれることがあります。反応が遅い・いつも同じ値、といった症状は劣化のこともあれば、汚れ・結露・通気が塞がれている・環境自体が安定している、のこともあります。症状だけで原因は決まりません。
だから飽和塩法での答え合わせが効きます。目安として年1回、それに加えて買ったとき・おかしいと思ったとき・水に濡れたあとに確かめてください。
温度計が複数あるなら、同じ場所に並べて数十分なじませてから見比べると異常に気づけます。ただし差が出てもどちらが正しいかは分かりませんし、一致しても両方正しいとは限りません。
ありがちな設置の失敗
- ガラス面に直接貼る。ガラスは外気の影響を受けるので、室温に引っ張られた値が出ます。冬は低く、夏は高く出がちです
- ヒーターの真上に貼る。空気ではなく輻射熱を拾って、実際より高い値になります
- シェルターの中に入れる。ヘビが動かして位置が変わります。シェルター内を知りたいなら固定できる形にしてください
- 床材に埋まる。掘る個体では起きます。埋まると空気ではなく床材の温度を測ります
共通しているのは、「その場所が何の温度を代表しているか」を決めずに貼っていることです。貼る前に、その1点で何を知りたいのかを決めてください。
固定のしかたにも注意が要ります。センサーに直接霧吹きをかけないこと(防水でない製品があります)。粘着面やコードがヘビに触れて剥がされない位置にすること。コードを通すためにケージに隙間を作ると、そこが脱走口になります。
当店 LilBalls の運用
当店はエアコンで部屋そのものの温度を確保し、そこに自動制御を組み合わせる方法をとっています。設定は年間を通して 27〜28℃ で、季節による上げ下げはしていません。
ただしこれは空調の設定値であって、各ケージの中の温度ではありません。部屋の温度を作ったうえで、ケージごとの実測は別に行います。
部屋ごと温度を作っているので、ケージ単位の温度計に求める仕事は「異常に気づくこと」が中心になります。1ケージ飼育では逆に、ケージ内の勾配ができているかを温度計で確認することが主な仕事です。同じ道具でも、環境によって役割が変わります。
まとめ
- 温度計は2点(ホット側・クール側)。1個で終わらせるとどちらも分からない
- デジタルを選ぶ。アナログは ±10%RH 程度で、50〜60% といった範囲の判定に使えない
- デジタルでも精度の表記があるものを選ぶ
- 湿度計は飽和塩法(食塩で 75%RH)で、家庭でもずれを確かめられる。安定した温度で半日
- 置き場所は床に近い位置。上部・中央・扉の近くは別のものを測っている
- 空気の温度と床の表面温度は別。やけどに効くのは後者で、放射温度計が要る
- 温度計は過熱を止めない。止めるのはサーモの仕事。逆にサーモの表示は温度計の代わりにならない
- 放射温度計はガラス越しには測れない。扉を開けて直接向ける
- 電池が弱ると値だけずれる。年1回は答え合わせを

