エンチは、1998年にガーナから届いた便の中にいた個体から始まり、2002年に初めて繁殖されたモルフです。不完全優性で、体側が黄金色になり、エイリアン柄が平たく崩れていきます。よく出回っていて、コンボの素材としても定番です。
その扱いが、2020年10月に変わりました。MorphMarket が、エンチをシナモン・ブラックパステルと同じ「8ボールコンプレックス」として登録したのです。同じ場所にある遺伝子どうし、という扱いです。発見から22年、初繁殖から18年がたっていました。
この扱いだと、何が変わるのか。エンチとシナモンを両方持つ個体をノーマルと掛けたとき、子に渡るのはどちらか片方だけになります。ノーマルも、同じ「エンチ シナモン」も出ません。繁殖計画の組み方が変わる話です。
この切り替わりは査読論文ではなく、ブリーダーが自分のところで孵った子を数えた報告の積み重ねで決まりました。経緯は MorphMarket のコミュニティに全84件のスレッドとして残っていて、日付も発言者も公開されたままです。判断を支える材料の一つとして挙がったのが「8クラッチぶん、ノーマルが1匹も出ていない」という報告です。ただしその報告にも、交配相手も総孵化数も書かれていません。
どこまでが確かめられていて、どこからが確かめられていないのか。当店のモルフ計算機の挙動と、当店の交配記録まで下ろして整理します。当店の交配記録は、エンチとシナモンの対立関係を検証したものではありません。
目次
体側が黄色くなり、エイリアン柄が平たくなります
MorphMarket の Morphpedia は、エンチを「色と模様を変えるモルフで、オレンジ味と、体側の明るい模様をわずかに強める」と要約しています。部位ごとの記載は次のとおりです。
頭「ノーマルの頭によく似ているが、頭頂のブラッシングが強く、目のストライプを通る黄色がより明るい」
胴「体側は黄金色。暗い色素はチョコレートのようで、薄れたエイリアンヘッドは銅〜ブロンズ色になる。模様は大きく減り、エイリアンヘッドは平たくのっぺりしていく」
尾「通常は、ノーマルと同じように太いストライプかビーズ状の模様で終わるが、色はエンチの黄金色になる」
当店のモルフ図鑑も、同じところを見ています。「エイリアン柄のスポットは大幅に減少する傾向があります」「エイリアン柄の頭部は逆サイドの柄とつながる傾向がみられます」——Morphpedia の「平たくのっぺりしていく」と同じ向きの記述です。
この記事で「エイリアンヘッド」と呼ぶのは、背面から体側に並ぶ明るい色の斑紋のほうです(当店の図鑑も同じ語を使っています)。その内側に暗い色の抜けが入る形がノーマルの基本で、エンチではその抜けが浅くなり、面として潰れていきます。
育つと色が変わります
Morphpedia はエンチについて、「加齢にともなって色が大きく変わり、オレンジと黄色はより鮮やかになる」と書いています。World of Ball Pythons のエンチのページも、短い説明の最後を「They also get brighter with age.(育つにつれて明るくなる)」で締めています。
向きはモルフごとに違います。パステルは逆で、World of Ball Pythons が「歳をとるにつれて褐色に寄る傾向がある」としています(パステルの記事に整理しました)。ベビーの写真で判断するときは、いつ撮られた写真かを確認してください。
スーパーエンチが出たのは、初繁殖の翌年でした
エンチは不完全優性です。遺伝子を1つ持てば表現が出て、2つそろうとスーパーエンチになります。これは Morphpedia・World of Ball Pythons・当店の図鑑の3つとも同じ書き方です。
Morphpedia の History には、その「2つそろった」が確認されるまでの数字が残っています。
1998年Sweball の知人がガーナに作った取引先から、幼体のボールパイソンの便が届いた。その中の別に取り分けられた袋に、ふつうでない見た目の個体が数匹いて、うち2匹はよく似たオスとメスだった
2002年その2匹を掛け、同じオスをハイゴールドのメス・ノーマルのメスにも掛けた。結果はエンチのメス=6卵のうちエンチ4匹/ハイゴールドのメス=4卵のうちエンチ3匹/ノーマルのメス=5卵のうちエンチ3匹
2003年同じメスが、同じエンチのオスから7卵を産んだ。内訳はスーパーエンチのオス2匹、エンチのメス1匹、ノーマル4匹
当店の図鑑も「その翌年の2003年にはスーパーエンチが繁殖され、不完全優性(顕性)遺伝子であることがSweballsによって証明されました」と、同じ順番で書いています。
Morphpedia の History に付く脚注は、Sweball 自身のサイト(2009年のアーカイブ)を指しています。作出者の欄に付く脚注のほうは World of Ball Pythons です。当店の図鑑も出典欄に MorphMarket と World of Ball Pythons を挙げています。Morphpedia の History は、作出者本人の記述を出典にしています。この3件を、独立した3件の繁殖記録として数えることはできません。
なお2003年の7卵は、スーパー2匹・エンチ1匹・ノーマル4匹でした。エンチ同士なら、子1匹あたりスーパー4分の1・エンチ2分の1・ノーマル4分の1が期待値なので、7匹ぶんの期待値は1.75/3.5/1.75です。実際の内訳はそこから外れています。少ない匹数では、実際の内訳が期待値から簡単に外れます。何匹孵れば期待どおりに見えるのかは、モルフ計算機の使い方に書きました。
MorphMarket が8ボールに加えたのは、2020年10月です
Morphpedia のエンチのページは、Complex 欄に「Complex: 8 Ball」と書いています。関連モルフの欄にはシナモン、ブラックパステル、ハフマン、ジョルト、レイザー、ヘテロレッドアザンティック、ローリー、レースブラックバックが並びます。当店のモルフ図鑑も「8ボール コンプレックス」と書いていますし、当店のモルフ計算機もエンチをそのグループとして扱っています。
この扱いは、ずっとそうだったわけではありません。エンチが見つかったのは1998年、初めて繁殖されたのは2002年です。MorphMarket の計算機では、2020年10月までエンチは8ボールのグループに入っていませんでした。
経緯は、MorphMarket のコミュニティに「Are enchi and cinnamon allelic?(エンチとシナモンは対立遺伝子なのか)」という1本のスレッドとして丸ごと残っています。2020年4月25日に始まり、全84件。日付も発言者も公開されたままなので、読者が自分で確かめられます。
2020年4月25日質問者が、ある YouTube 配信者が「シナモンとエンチは対立遺伝子だ」と繰り返し言っていたのを聞いて、本当かと尋ねた。「対立遺伝子について調べたが、そう書かれた表も一覧も1つも見つからなかった」
最初の反応は否定的古参の参加者の1人は「これだけ長く市場に出回っている遺伝子なら、対立遺伝子だったとすれば、もう常識になっていそうなものだ」。別の1人は「スーパーエンチ ブラックパステル、スーパーエンチ シナモンと呼ばれていた個体を何匹か見てきた。対立遺伝子ならそんなものは存在できない」
2020年10月2日MorphMarket のスタッフが「計算機を更新する」と投稿。「シナモンはすでに他の遺伝子と対立遺伝子として登録されているので、エンチもそれら全部と対立遺伝子になる」として、8 Ball Complex にエンチを加えた
2020年10月3日スタッフ2人が「私が見てきた証拠に照らして、この判断が正しいと確認する」「現時点では証拠はそろっているようだ。これだけの年月、全員が見落としていたのは驚きだが」と続けた
判断を支える材料になった、孵化した子の内訳
スレッドの中で、話の向きを変えたのは自分のところで孵った子を数えた報告でした。
あるブリーダーの投稿(2020年5月1日)
「ブラックピューター エンチ カリコのオスを種に使っている。この2シーズンで8クラッチの父親になった。ノーマルは1匹も出していない。どの子にも必ずエンチかブラックパステルが入っていた。そして自分自身はまだ再現できていない。この1匹の仕事を見るだけでも、ブラックパステルやシナモンとエンチは対立遺伝子だと強く思う。でなければ偶然が過ぎる」
この報告は、エンチとブラックパステルを対立遺伝子として扱ったときの予測と合います。父親が同じ場所の2つの席をエンチとブラックパステルで埋めているなら、父から来るのは必ずどちらか片方で、父から何も受け取らない子は出ません。
この投稿だけで確かめられることには、限りがあります。原文の「そして自分自身はまだ再現できていない(And he hasn't replicated himself yet.)」は、父親と同じモルフ構成を再現できていないという報告で、エンチとブラックパステルの2つだけを指すとは限りません。交配相手のモルフも、総孵化数も、子1匹ずつの内訳も、この投稿には出てきません。別の場所にあったとしたらこの結果がどのくらい起こりにくいのか、という計算は、この投稿だけではできません。
「別の場所にある2つ」と「同じ場所の別の型」の違い。見た目が同じでも、子への渡り方が変わります

反対の報告と、その後の見解変更も残っています
途中で何度か、「対立遺伝子ではない」という方向に話が振れています。
重いほうは2020年7月14日の投稿です。「ALS(同じ場所の2つ)というより、優性どうしのせめぎ合いに見える」として、シナモン エンチの父を、シナモン エンチではない母に掛けて、シナモン エンチの子が孵ったという飼育者の報告があると書いています。名前を挙げた1人の報告として、ボンゴ シナモン エンチの父と、ピューター エンチの父の両方から、シナモン エンチの子が孵ったこと、その人が「スーパーエンチ シナモン、またはスーパーシナモン エンチ」だと考えている個体が育ちつつあることも伝えています。投稿者は、これらを対立遺伝子という見方への反証として挙げています。
この投稿者は、2020年10月4日に自分の考えを改めています。はじめは作り話だと思っていた、創始個体に近い血統を使えば破れると思っていた、と書いたうえで、「I was wrong(私が間違っていた)」。交配そのものは前年に、別の組み合わせを狙って組んだもので、対立遺伝子という報告を知る前でした。孵った子を見て、自分のところでもエンチが8ボール系と対立遺伝子であることを示す結果になったとしています。ただし、7月に紹介した他者の報告を個別に訂正した記述はありません。
もう1件は2020年8月28日。あるブリーダーが公開したシナモン エンチ クラウンという個体を挙げて、「対立遺伝子ならこの組み合わせは作れないはずだ」という投稿が出ました。
こちらは翌日(8月29日)、別の参加者が動画の該当箇所を見直して訂正しています。その交配は「レッドストライプ エンチ クラウン × スポットノーズ イエローベリー シナモン ヘテロ クラウン」で、エンチとシナモンは別々の親に入っていました。対立遺伝子でも、片親からエンチ・もう片親からシナモンを受け取れば、その個体は作れます。指摘した本人も「見落としていたようだ」と認めています。
ここは、読者にもそのまま当てはまります。「エンチ シナモン」という個体がいること自体は、対立遺伝子であることの反証になりません。反証になるのは、その個体を親にしたときの子の内訳のほうです。対立遺伝子なら、その個体からはエンチかシナモンのどちらか片方しか渡りません。
査読論文で決まった話ではありません
エンチが8ボールに入ったのは、実験室の結果ではなく、ブリーダーの孵化結果の積み重ねを受けた MorphMarket の判断によるものです。
ボールパイソンのモルフについては、ここ数年で査読論文が表現と結びつく遺伝子の変異をいくつか報告しています。アルビノ(TYR)・ラベンダーアルビノ(OCA2)・ウルトラメル(TYRP1)・パイボールド(tfec)・クラウン(MC1R)・アザンティックの一系統(gch2)がそれです。
エンチ・シナモン・ブラックパステルは、この中に入っていません。PubMed で「"Python regius" AND (morph* OR colou* OR color* OR pigment*)」を引いた52件(2026年10月26日検索)の表題と抄録を見ましたが、この3つのいずれかに触れたものはありませんでした。Europe PMC でモルフ名を直接指定すると「"ball python" AND enchi」で3件、「"Python regius" AND "black pastel"」で1件がヒットしますが、いずれもこの3つを扱った論文ではありませんでした(アルビノ系3モルフの論文、ラック飼育の論文、ビルマニシキヘビの計算機解析)。
「論文が無い=間違っている」ではありません。ブリーダーの孵化結果の積み重ねは、交配実験そのものです。ただし検証の形が違います。親の組み合わせ・総孵化数・子1匹ずつの判定が公開されていないと、あとから数え直せません。スレッドが残っていること自体は強みですが、そこに出ている報告の多くは、この3つが揃っていません。
当店も、この対立関係を自分では検証していません。後で挙げる当店の記録は、エンチの既知の遺伝様式と整合する結果にとどまります。エンチとシナモン・ブラックパステルの対立関係を確かめた交配は、当店にはありません。
World of Ball Pythons の Complex 欄は、この話の根拠にできません。同サイトのエンチのページは Complex 欄に「Enchi」と書いていますが、ブラックパステルのページは「Black Pastel」、シナモンのページは「Cinnamon」です。3ページとも、そのページ自身のモルフ名が入っています。この欄が何を表しているのかを確かめられなかったので、この記事では、対立遺伝の根拠にも反証にも使っていません。
重ね持ちだと、何が変わるのか
「同じグループに入った」と聞いても、飼う側にも繁殖する側にも、どこが変わるのか見えにくいところです。変わるのは、次の世代の内訳です。
エンチとシナモンを両方持つ個体——表記としては「エンチ シナモン」——を考えます。この個体は、2つが別の場所にあるならエンチを1つ+シナモンを1つ、計2か所を埋めていることになり、同じ場所にあるなら1か所の2つの席を、エンチとシナモンで分け合っていることになります。
この違いは、ノーマルと掛けた子の内訳に出ます。
別の場所にあって、独立に分配されるならエンチだけ・シナモンだけ・両方・どちらも無し(ノーマル)の4通りが4分の1ずつ
同じ場所にあるならエンチが2分の1、シナモンが2分の1。ノーマルも「エンチ シナモン」も出ない
以下は、MorphMarket が採っている「同じ場所にある」という扱いに沿った予測です。当店が交配で確かめた結果ではありません。
当店の対立遺伝を徹底解説では、この「同じ場所の2つの席を、別々の型で埋めている状態」をALS(Acts Like Super。遺伝的には複合ヘテロ接合体)として説明しています。見た目はスーパー体に似ることがあっても、遺伝的にはスーパー体ではありません。同じ記事がイエローベリー × スペクターで例を挙げているのと、まったく同じ構図です。
当店のモルフ計算機も、この前提で計算しています
当店のモルフ計算機は、エンチ・シナモン・ブラックパステル・ハフマン・ヘテロレッドアザンティックを同じ場所のものとして扱っています。片方の親に「エンチ」と「シナモン」を一緒に選ぶと、計算機はそれを2か所ではなく1か所として読みます。
計算機の答えは、この分類を前提にした予測です。分類そのものを検証しているわけではありません。以下は「そう扱ったときに、どんな内訳になるか」を見たものです。
ただし、片親にエンチ・もう片親にシナモンを置いたときは、数字では見分けられません。その場合、計算機は「シナモン エンチ 25% / エンチ 25% / シナモン 25% / ノーマル 25%」と返します。これは、2つが別の場所にあると考えたときの答えとまったく同じです。違いが数字に出るのは、そこで生まれた「エンチ シナモン」を次に親として使ったときからです。
計算機が対立遺伝として扱っているのは5つです
Morphpedia のエンチのページが関連モルフとして挙げているのは8つ(シナモン、ブラックパステル、ハフマン、ジョルト、レイザー、ヘテロレッドアザンティック、ローリー、レースブラックバック。エンチを足して9つ)、当店の対立遺伝を徹底解説が挙げているのは11です(ただし同記事は、そのうちいくつかは別名として扱われることもある、と注記しています)。
一方で、当店のモルフ計算機が同じ場所として計算しているのは5つ——エンチ・シナモン・ブラックパステル・ハフマン・ヘテロレッドアザンティックだけです。ジョルト・レイザー・レースブラックバックは、同じ場所としては設定されていません。ローリーに至っては、計算機が使っているデータに項目がありません。
この差は、計算機を使うときに知っておいてください。ジョルト・レイザー・レースブラックバックは選べますが、これらとエンチを一緒に選んでも、計算機は別の場所にあるものとして計算を続けます。ローリーは選択肢そのものがありません。返ってくる数字は「その前提での答え」です。グループの一覧そのものは、Morphpedia のページで確かめるほうが確実です。
当店の記録:3クラッチで、エンチがどう渡ったか
当店の記録でも、エンチの渡り方は見られます。以下は、エンチが不完全優性だという既知の遺伝様式と整合する結果で、シナモンやブラックパステルとの対立関係を確かめたものではありません。
2023年のクラッチ(LCB20230318002)は、オスがレッサー レオパード スポットノーズ クラウン、メスがスーパーエンチ ヘテロ クラウン。6卵のうち4匹が孵りました。
この回の記事には、メスをスーパーエンチと推定した経緯が、そのまま書いてあります。
当店の交配記録より
「この個体は、元々 Poss Super Enchi het Clown として導入した個体です。今回の結果に Enchi が入っていたので、おそらく Super Enchi だという事がわかりました」
つまり「スーパーエンチかもしれない(poss)」として迎えたメスです。孵った4匹は全頭にエンチが入っていました。当店はこの結果からスーパーエンチと推定しましたが、確定ではありません。
孵化した4匹エンチ レッサー レオパード クラウン +α(オス)/エンチ レッサー レオパード クラウン(メス)/エンチ レオパード クラウン(オス)/エンチ レッサー ヘテロ クラウン(メス)
2026年のクラッチ(Lil26014)は、オスがスポットノーズ グレイル、メスがスーパーエンチ ヘテロ クラウン。当店が公開している8匹は、全頭にエンチが入っています(612・613・614・615・616・618・619・620)。
比較になるのが、同じ2026年の Lil26016 です。オスがファイア エンチ レース ヘテロ クラウン——エンチを1つだけ持つ個体で、公開している4匹のうちエンチが入っているのは2匹です(626 エンチ クラウン・631 エンチ ヘテロ クラウン)。残る2匹(627 クラウン・629 ファイア レース ヘテロ クラウン)にはエンチが入っていません。
2023年の孵化4匹だけでは、母がスーパーエンチだとは確定しません。仮にメスがエンチを1つしか持っていなくても、4匹全部にエンチが渡る確率は16分の1(約6.3%)あります。
2026年の2クラッチは、孵化数そのものを公開していません。当店の交配記録は2025年のクラッチまでで、2026年分は個体ページの「親」の欄からしか数えられません。上に挙げた8匹・4匹は、公開している個体の数であって、孵った数ではありません。公開していない個体がいる可能性があるので、ここから確率は計算していません。
なお、2023年の LCB20230318002 と2026年の Lil26014 の母個体はどちらも「Super Enchi het Clown」という同じ表記ですが、記録のうえで同一個体だと明記されてはいません。ここでは合算せず、クラッチごとに数えています。
「エンチ シナモン」と書かれた個体を迎えるとき
繁殖計画は、重ね持ちかどうかで変わります
エンチ シナモンの個体を親に使っても、子に渡るのはエンチかシナモンの片方だけです。その個体1匹から、エンチとシナモンの両方を受け取る子は出ません。スーパーエンチを狙うなら、相手にもエンチが必要です。エンチ シナモン同士を掛ければ、スーパーエンチもスーパーシナモンも出ます(それぞれ4分の1)。
なお「エンチ シナモン」は、スーパー体に見えても遺伝的にはスーパー体ではありません。ただし、そこから健康面の結論は出ません(この点は後述します)。
この検査機関では、エンチの側だけです
「表記が合っているか」を確かめたいとき、遺伝子検査という手があります。ただし、この3つは状況が揃っていません。
World of Ball Pythons の検査リンクの飛び先である ProHerper Labs は、ボールパイソンのモルフ検査の一覧にエンチ・ハフマン・ヘテロレッドアザンティックを載せ、ブラックパステルとシナモンには「(coming soon)」を付けています(2026年10月26日閲覧)。
つまり「エンチ シナモン」と書かれた個体について、エンチが入っているかはこの機関の検査で確かめられ、シナモンのほうは、この一覧では「提供予定」のままです。ほかの機関が扱っているかどうかは確認していません。なお Morphpedia のタグは、エンチにもシナモンにもブラックパステルにも「Genetic Test Available」が付いています。どの機関が何を出しているかとは、別の話です。一覧の読み方——誰が提供しているのか、同じ運営かどうか——は、GHI の記事に整理しました。検査の有無は、そのモルフが解明されているかどうかとは別の話です。
Morphpedia の健康の記載は、スーパー体についてのものです
8ボールの話になると必ず出てくるのが、ダックビル(口吻の変形)とキンク(脊椎の湾曲)です。スーパー体ではない、というだけでは、ダックビルやキンクが出ないことにはなりません。資料がどこまで書いているかを見ます。
Morphpedia は、シナモンとブラックパステルのページの Issues 欄に「Duckbill, Rare Kinking」と書き、本文でも「スーパーシナモンはキンクを起こす傾向がやや高い」「スーパーシナモンは多くの場合、顔の変形を示す」としています。括弧の中は「(Super Cinnamon)」「(Super Black Pastel)」で、スーパー体についての記載です。
エンチのページIssues 欄は空です(API で取得した値も null)。本文にも健康についての項目がありません
当店の図鑑エンチのページにも、健康についての記載はありません
当店の既存記事対立遺伝を徹底解説は、8ボール(ブラックパステル × シナモン)についても「ダックビル、キンクが見られることがある」と書いています
空欄は、調べた結果ではありません。エンチを含む組み合わせについて、どこかが調べて問題なしと判断した、という記録は見当たりませんでした。上に引いた査読論文の検索も、色と模様についてのもので、健康面を拾う検索ではありません。
エンチそのものは、Morphpedia が入手しやすさを「Common(よくある)」とする、よく出回っているモルフです。当店が公開している個体の一覧でも、モルフ表記にエンチを含むものが28匹——うち12匹が販売中です(2026年10月26日時点)。単体でも、コンボの素材としても使いやすい——当店の図鑑も、エンチは単体では地味な色味だが、パステルのように発色を上げるモルフと組むと綺麗な表現になる、と書いています。
そのうえで、組み合わせの相手に8ボールの仲間が入っていないかだけは、計画を立てる前に見ておいてください。MorphMarket の計算機は、2020年10月にこの扱いへ変えると告知されています。それ以前に組まれた表や記事は、エンチを別の場所として扱っているかもしれません。
参考資料
モルフの図鑑サイト
・Enchi|MorphMarket Morphpedia(「Incomplete Dominant」「Complex: 8 Ball」。First Produced By は Sweball、2002年。タグに 8 Ball Complex・Genetic Test Available・High Blushing・Hypermelanism。入手しやすさは「Common」。About・History・Appearance(頭/胴/尾)の引用はすべてこのページ。Issues 欄は空(API の値は null)。Proven lines は「No known proven lines.」。History の脚注は Sweball 自身のサイトの2009年アーカイブ、作出者の脚注は World of Ball Pythons/2026年10月26日閲覧)
・Cinnamon|MorphMarket Morphpedia/Black Pastel|MorphMarket Morphpedia(どちらも「Complex: 8 Ball」。Issues は「Duckbill, Rare Kinking (Super Cinnamon)」「Duckbill, Rare Kinking (Super Black Pastel)」で、本文の「キンクを起こす傾向がやや高い」「多くの場合、顔の変形を示す」(原文 commonly express a deformed face)はいずれもスーパー体についての記述。関連モルフ欄にエンチが入っています/同日閲覧)
・Enchi|World of Ball Pythons(「Incomplete dominant」「First Produced By Sweball/2002」。説明文は「Enchi has a reduced, banded pattern, yellow sides and darker eye stripes. They also get brighter with age.」で、目のストライプについては Morphpedia(「目のストライプを通る黄色がより明るい」)と書き方が違います。Genetic Tests Available 欄は「Enchi」。Complex 欄は「Enchi」で、ブラックパステルのページは「Black Pastel」、シナモンのページは「Cinnamon」/同日閲覧)
対立遺伝の経緯
・Are enchi and cinnamon allelic?|MorphMarket Community(2020年4月25日に開始、全84件。本文に引いたブリーダーの報告は2020年5月1日の投稿。計算機への反映を告知したのは2020年10月2日のスタッフの投稿で、「8 Ball Complex」の中身として black pastel / cinnamon / het_red_axanthic / lori / huffman / brown back / lace black back + enchi を挙げています。スタッフ2人の確認は10月3日。シナモン エンチ クラウンをめぐるやり取りは8月28日〜29日、反証の側の投稿は7月14日、同じ投稿者の見解変更は10月4日/2026年10月26日閲覧)
検査機関
・Genetic tests for reptiles(ProHerper Labs)(ボールパイソンのモルフ検査の一覧に「Enchi」「Huffman」「Het Red Axanthic (HRA)」。同じ一覧で「Black pastel (coming soon)」「Cinnamon (coming soon)」。World of Ball Pythons の検査リンクの飛び先/2026年10月26日閲覧)
査読論文
・Garcia-Elfring ら「A Ball Python Colour Morph Implicates MC1R in Melanophore-Xanthophore Distribution and Pattern Formation」Pigment Cell & Melanoma Research(2025年)/・「GTP cyclohydrolase II (gch2) and axanthism in ball pythons」Animal Genetics(2025年)/・「Piebaldism and chromatophore development in reptiles are linked to the tfec gene」Current Biology(2023年)/・「A community-science approach identifies genetic variants associated with three color morphs in ball pythons (Python regius)」PLoS ONE(2022年。アルビノ=TYR、ラベンダーアルビノ=OCA2、ウルトラメル=TYRP1)
・上記は PubMed で「"Python regius" AND (morph* OR colou* OR color* OR pigment*)」を引いた52件から拾いました(2026年10月26日検索)。この52件の表題と抄録には、エンチ・シナモン・ブラックパステルに触れた記載を見つけられませんでした。Europe PMC の「"ball python" AND enchi」は3件、「"Python regius" AND "black pastel"」は1件をヒットしますが、いずれもこの3つを扱ったものではありませんでした。
当店の図鑑・記録・記事
・モルフ図鑑:エンチ(「8ボール コンプレックス」、別名「エンチパステル」、1998年ガーナ/2002年初繁殖/2003年スーパーエンチという経緯、頭/胴/尾の記述、コンボの評。出典欄は MorphMarket/World of Ball Pythons/書籍 Python regius (Atlas of Colour Morphs, Keeping and Breeding) の3件。この記事では書き換えていません)
・交配記録 LCB20230318002(2023年3月18日産卵・5月22日孵化。6卵のうち4匹。母個体を「Poss Super Enchi het Clown」として導入した経緯と、結果から「おそらく Super Enchi」と判断したくだりは、この記事の本文から引きました)/個体ページ(2026年のクラッチ Lil26014・Lil26016 の内訳は、各個体の「親」の欄から数えました。2026年10月26日時点)
・モルフ計算機(エンチ・シナモン・ブラックパステル・ハフマン・ヘテロレッドアザンティックを同じ場所として計算します。本文の①〜③は、実際に入力して返ってきた表示です)
・対立遺伝を徹底解説(ALS(Acts Like Super。遺伝的には複合ヘテロ接合体)の説明、8ボールコンプレックスの中身、スーパー体の健康リスク、対立遺伝子を使った組み方)/モルフ計算機の使い方(少ない匹数では割合がずれること)/モルフとは?品種と遺伝の仕組み
・GHI(検査機関の一覧の読み方、「記載が無いこと」の扱い)/パステル(成長で色が変わる向き)/パイボールド(エンチと合わせると白が狭くなる、という当店の図鑑の見立て。同記事は、MorphMarket と World of Ball Pythons のパイボールドのページにはコンボごとの傾向の記載が無かったとも書いています)/イエローベリー(表記と実際が食い違う割合)
本記事は、モルフの図鑑サイト2件、MorphMarket コミュニティの公開スレッド、検査機関の公開情報、査読論文、および当店が公開している図鑑・交配記録・モルフ計算機を突き合わせて整理したものです。エンチとシナモン・ブラックパステルの対立関係について、査読を経た資料は見つかりませんでした。当店の交配記録も、この対立関係を検証したものではありません。ブリーダーの孵化結果の積み重ねと、それを受けた MorphMarket の登録として読んでください。



