当店の個体ページには、名前に「or」が入っている個体がいます。「ブラックパステル or シナモン」。どちらかは分かっているけれど、どちらかは決められていない、という意味の表記です。
公開している360匹を数えると、「or」が付いているのは3匹だけで、3匹とも同じ組み合わせでした。モハベとレッサーでも、GHI とブラックパステルでもありません。シナモンとブラックパステルの2つだけが、この形で残っています。
この記事は、その2つのモルフについて、資料がどこまで書いていて、どこから先が書かれていないかを分けて並べたものです。見分けの手がかりとして資料が挙げている点、「どちらが黒いか」で資料の観点が割れること、検査で決められるのかどうか、そしてスーパー体について記載されている口吻と背骨の変形——そのうちキンクの頻度として引かれる「40匹を超えるうち4匹」が、もともと誰の、何についての数字だったのかまでたどりました。
目次
2002年に、別々のところから出てきた2つです
シナモンもブラックパステルも、不完全優性——1つ持てば見た目に出て、2つそろうと別の表現になる型のモルフです。どちらも作出年が2002年と記載されています。ただし「遺伝様式が確かめられた年」として書かれているのはシナモンのほうだけです。
シナモンMorphpedia は「First Produced By」に Greg Graziani、「First Produced In」に 2002 と置いています。本文(History)は「2002年ごろ Greg Graziani によって最初に不完全優性であることが確かめられた」
ブラックパステル同じ欄は Gulf Coast Reptiles と 2002。ただし本文(History)は「最初のブラックパステルは Outback Reptiles を通じて輸入された」の1行だけです
この2件は、独立した2件ではありません。Morphpedia のどちらのページも、作出年の脚注が World of Ball Pythons の同じモルフのページを指しています。しかもブラックパステル側は、その飛び先に年が書かれていません(World of Ball Pythons のシナモンのページには「Year 2002」がありますが、ブラックパステルのページに Year の欄はありません)。脚注が年を支えていないことになります。当店の図鑑も出典欄に MorphMarket を挙げているので、年と作出者については、3件が同じ鎖の上に並んでいると読んでください(2026年10月31日閲覧)。
なお作出者の表記は、当店の図鑑のブラックパステルのページだけ 「Gulf Coast Exotics」で、Morphpedia と World of Ball Pythons は 「Gulf Coast Reptiles」です。この記事では既存のページを書き換えていません。
名前の由来は、シナモンのほうにはっきり残っています。Morphpedia の History は、「もともと Cinnamon Pastel と呼ばれていたが、ブラックパステルと距離を取るために Pastel を落とした」と書いています。当店の図鑑のシナモンのページも同じ趣旨です。名前のほうが先に、2つを分けにきたということになります。
MorphMarket の Morphpedia は、この2つを8ボールコンプレックス——染色体の同じ場所に並ぶ対立遺伝子のグループ——に入れています。同じ場所にあるなら、1匹が持てるのは2つまでで、片方の席をシナモンが埋めればブラックパステルは入れません。このグループの中身と、エンチが加わった経緯はエンチの記事に、対立遺伝子そのものの考え方は対立遺伝を徹底解説にまとめてあります。
World of Ball Pythons は、同じ2つを別々に置いています。シナモンのページの Complex 欄は「Cinnamon」、ブラックパステルのページは「Black Pastel」。どちらのサイトを見るかで、グループの切り方が変わります。ただし同じページの本文には、「シナモンの形質と極めてよく似ているが、ブラックパステルは別系統であり、同じ共優性の遺伝様式を持つ」(原文は co-dominant。同じページの Genetics 欄は Incomplete dominant で、用語集のとおりホビーでは混ざって使われます)とあり、似ていること自体は、どちらのサイトも書いています。
資料が書いている、見た目の違い
どの資料も、まず「似ている」と断ってから各部の説明に入ります。Morphpedia のブラックパステルのページ の冒頭はこうです。
「この2つが別系統なのかどうかには議論がある。互いに掛け合わせたときでさえ、極めてよく似たスーパーを出すため」(Morphpedia・ブラックパステル/2026年10月31日閲覧)
そのうえで、部位ごとの記述は置かれています。Morphpedia の Appearance 欄を並べます。
頭(シナモン)「首に向かって色が褪せていく濃い褐色。唇は明るいピンク/白の鱗になることが多い」
頭(ブラックパステル)「非常に暗い頭。チョコレート褐色からほとんど黒まで幅がある。目の線(eye stripes)はノーマルより土っぽい色」
胴(シナモン)「つながった、あるいはごく近くに並んだ大きなエイリアンヘッド/鍵穴の連なりが、通常は胴を占める。ノーマルで黄色やオレンジになる場所が、褐色とクリームのさまざまな濃さになる」
胴(ブラックパステル)「中が抜けた(hollow)エイリアンヘッドで、胴がたいてい完全に覆われる。GHI によく似ている。黒い“パズル”模様に沿った暗いにじみと、体側の強い炎模様」
腹シナモンは「縁に沿った薄い模様や軽い斑点が出ることもあるが、たいていは模様が無い」、ブラックパステルは「たいてい清潔で、完全に模様が無い」。どちらも「模様が無いのが普通」で、ここは分かれ目になりません
読み比べると、重なる語と、片方にしか出てこない語があります。「エイリアンヘッド」と「暗い」は両方に出てきます。一方「中が抜けた(hollow)」が付いているのは、ブラックパステルの側だけです。そのブラックパステルの胴に至っては、似ている相手として GHI の名前が出てきます。GHI との見分けについては、GHI の記事に分けて書きました。
模様について直接くらべた記述もあります。World of Ball Pythons のブラックパステルのページ は、説明の中でこう書いています。
「ブラックパステルは、シナモンの形質にくらべて体側(lateral)の模様の色抜けが少ない傾向があり、背(dorsal)の模様はストライプ状になったり、途切れたり、大きく減ったりすることがある」(World of Ball Pythons・ブラックパステル/2026年10月31日閲覧)
手がかりは、ここまでは書かれています。ただし原文は「傾向がある(tend to)」どまりで、1匹を見てどちらかに振り分ける基準の形にはなっていません。
どちらが黒いかは、資料で観点が違います
「シナモンとブラックパステル、どっちが黒いの」——ここは、資料によって書いている角度が違います。読むときに、その違いを先に分けておいたほうが早いです。
「どちらが黒いか」について、World of Ball Pythons と当店の図鑑・用語集が書いていること(2026年10月31日閲覧)

この3つは、同じ問いに逆の答えを出しているのではありません。World of Ball Pythons は2つをくらべて「一般にシナモンのほうが暗い」と書いています。当店の図鑑と用語集が書いているのは、それぞれの地色がどのあたりの範囲に入るかで、集団としてどちらが暗いかをくらべた文ではありません。図鑑の2行は、同じ条件でくらべた資料として扱えません。
ただし、用語集の2項目には注意が要ります。シナモンの「暖かい茶色」とブラックパステルの「暗い茶色〜黒」は、並べて読むと、ブラックパステルのほうが暗いという印象を与えます。ただしどちらも明度を同じ条件でくらべた記述ではないので、World of Ball Pythons の比較を否定する根拠にはなりません。
そのうえで、World of Ball Pythons は同じ文で「多くの系統がある」「ブラックパステルに似て見えるものから、背が完全に黒くなるものまで幅がある」と、シナモンの側に幅があることを先に書いています。幅が重なっていれば、地色の濃さだけで1匹を振り分けるのは難しいということになります。
実際、Morphpedia が挙げている系統の記載も対称ではありません。ブラックパステルのページには 「Barnhart line」「Liesen line」「VPI Satin-Line」という名前が並び、シナモンのページは 「No known proven lines.(既知の確立系統なし)」です。この1行だけを根拠に、シナモンには系統が無いと読むのは早すぎます。
当店の個体ページで「or」が付いているのは、この2つだけです
ここから先は、当店が公開している記録です。個体のページは2026年10月31日時点で360匹あります。その名前を全部引いて、「or」が入っているものを数えると3匹でした。
2026年・2匹ブラックパステル or シナモン オレンジドリーム シャンパン Het ハイポと、同じ表記のもう1匹。どちらもオス
2025年・1匹シナモン or ブラックパステル スマ パイ
3匹とも、同じ2つのモルフの間で止まっています。モハベとレッサーでも、ファイアとバニラでもありません。「A or B」という書き方をしたのは、この2つの間だけでした。
決めきれていない個体が、この3匹だけという意味ではありません。当店は、確定していないモルフに 「poss」(possible)を付けて出しています。360匹のうち、日本語名か英語名のどちらかに「poss」が入っているのは16匹で、レッドストライプ・イエローベリー・レオパード・オレンジドリームなど7種類以上にまたがります。シナモンとブラックパステルについても、スマ Het パイ Poss シナモン ブラックパステル イエローベリーという個体がいます。
ここで数えたのは「or」で両方を並べた書き方だけです。この2つの間でだけ、どちらでもありうると並べて書く形が出てきた——そこまでが、この数字の意味です。
2026年の2匹は、親の組み合わせまで公開されています。ブラックパステル オレンジドリーム ハイポ × シナモン シャンパン——片方の親がブラックパステル、もう片方がシナモンです。
親がブラックパステル × シナモンだと、何が起きるのか
このクラッチから、当店は3匹を公開しています(うち「or」が付いているのは2匹。記事の冒頭で数えた「360匹中3匹」は、このクラッチの2匹に2025年の1匹を足した数です)。
2匹ブラックパステル or シナモン オレンジドリーム シャンパン Het ハイポ
1匹シャンパン オレンジドリーム Het ハイポ。ブラックパステルもシナモンも名前に入っていません
Morphpedia が採っている「同じ場所にある」という扱いで考えると、この並びは筋が通ります。ブラックパステルの親から来るのはブラックパステルか、何も入っていない席かのどちらか。シナモンの親から来るのはシナモンか、何も入っていない席かのどちらか。子はブラックパステルだけ/シナモンだけ/両方/どちらも無しの4通りに分かれます。
そして、最初の2通りをどう呼ぶかが問題になります。先に見たとおり、資料が挙げている見分けの手がかりは「傾向」までで、1匹を振り分ける基準としては書かれていません。親の片方がブラックパステル、もう片方がシナモンだと、子がどちらを受け取ったかを決める材料が、当店の手元には揃いませんでした——これが、この2匹を「or」のまま出している理由です。
対象は、この3匹です。シナモンとブラックパステルは、いつでも見分けられない——そこまで広げないでください。この3匹はいずれも他のモルフを重ねた個体で、重なると、もとの手がかりはさらに読みにくくなります。単体の個体を、系統の分かっている個体と並べて見られる場面なら、判断できることもあります。
両方を1つずつ持った個体は、複合ヘテロ接合と呼ばれる状態で、ホビーでは「8ボール」と呼ばれます。当店にも2024年の個体が2匹(1匹目/2匹目。名前はどちらも8ボール(ブラックパステル シナモン) モハベ 66% ヘテロ パイ)います。見た目はスーパー体に似ますが、スーパー体ではありません。この個体を親に使うと、子に渡るのはブラックパステルかシナモンのどちらか片方だけになります(モルフ計算機の使い方に、計算の挙動をまとめてあります)。
検査で分けられる先を、当店は見つけられていません
見た目で決まらないなら、遺伝子検査はどうか。ここは主語を分けて読む必要があります。
Morphpedia のタグシナモンにもブラックパステルにも 「Genetic Test Available」。これは検査が存在するかのタグで、提供元は書かれていません
World of Ball Pythons両方のページの「Genetic Tests Available」欄に「Unfortunately we don't have test available for this morph yet」。フッターは 「© 2026 Pro Herper Labs」で、検査会社が自社の状況を書いています
この2つは、矛盾とは言い切れません。片方は「検査という手段があるか」、もう片方は「当社がいま売っているか」の話で、更新の時点もそろっていません。ただし当店が実際に申し込める先は、確認できていません。当たったのは2社で、Pro Herper Labs は上のとおり、Rare Genetics, Inc. は個別のモルフの一覧を確認できませんでした(GHI の記事で同じ2社を整理しています)。エンチの記事を書いた2026年10月26日の時点では、Pro Herper Labs のモルフ検査の一覧でこの2つに 「(coming soon)」が付いていました。表記は変わりうるので、申し込む前にその時点のページを確認してください。
そもそも、タグが言う「検査がある」が何の検査かも、この記載からは分かりません。シナモンとブラックパステルを互いに区別できる検査なのか、日本から検体を送って申し込めるのか——どちらもこのページからは読み取れませんでした。
見た目でも検査でも決まらないとき、手がかりになるのは親の記録です。片親だけがシナモンかブラックパステルのどちらか一方を持っていて、子がその席を受け取ったと確かめられるなら、親の記録から種類を絞れます。両親がそれぞれ別のほうを持っている場合は、親の記録だけでは決まりません。当店の2匹は、外見も含めて確定できませんでした。
スーパー体について記載されている、口吻と背骨の変形
ここからは、掛け合わせの前に知っておきたいほうの話です。
Morphpedia は、シナモンとブラックパステルの両方の Issues 欄に「Duckbill, Rare Kinking」を置き、括弧でその対象を書いています——シナモンのページは「(Super Cinnamon)」、ブラックパステルのページは「(Super Black Pastel)」。本文も同じ形です(この記載の読み方はGHI の記事でも扱っています)。
この記載があるのは、Morphpedia のシナモンとブラックパステルの2ページです。同じ2つのモルフについて、World of Ball Pythons のページにはダックビルにもキンクにも触れた記述がありません。2つのサイトが同じことを言っている、という形にはなっていません。
当店の図鑑のブラックパステルのページにも、「スーパー体は体が少しよじれる奇形のリスクや、口周りがアヒル口のように大きくなる特徴があることが分かっています」という記述があります。ただし当店の図鑑は出典欄に MorphMarket を挙げているので、Morphpedia とは独立した裏付けにはなりません。
そして、この2つは同じことを言っていません。Morphpedia の slightly more prone は「起こりやすさ」を修飾した語で、出たときの変形が軽い、という意味ではありません。当店の「体が少しよじれる」は程度のほうを書いた表現です。重さについて測った資料は、このあと見るとおり見つかりませんでした。
「40匹を超えるうち4匹」は、何についての数字か
この話をするとき、「およそ10%、40匹中4匹くらい」という数字がよく引かれます。当店の図鑑にも「海外のコミュニティサイトの投稿によると約10%程度確率(40匹中4匹程度)」とあり、対立遺伝を徹底解説にも「あるブリーダーの報告では、40匹以上のスーパー体のうち4匹(約10%)にキンクが見られました」とあります。当店の図鑑が指している投稿そのものは特定できませんでしたが、同じ数字が同じ文脈で書かれている投稿は見つかったので、そちらを原文のまま出します。
MorphMarket のコミュニティに「8-Ball Complex Birth Defects」という11件のスレッドがあります(2022年2月15日開始)。このスレッドでは、「モルフの問題点一覧」——ダックビルとキンクをスーパーシナモン/スーパーブラックパステルに結びつけている一覧——が引かれています。そこに、「あの一覧を作った」と述べている投稿者が、数字の出どころを書き込んでいます。
この一覧が、Morphpedia の Issues 欄のもとになったかどうかは確かめられていません。スレッドに一覧を貼ったのは別の投稿者で、「あの一覧を作った」と言っている本人も、どの一覧かを明示していません。Morphpedia の Issues 欄の側にも、出典の注は付いていません。
「あの一覧を作ったとき、私は大手の生産者からデータをもらった。いちばん大きなデータ点が、40匹を超えるスーパー体のうちキンクが4匹というものだ」(owalreptiles/2022年2月15日)
この直後に、別の繁殖者がこう返しています。
「それは10パーセントだ。私の意見では、それを“まれ(rare)”とは言わない」(saleengrinch/同日)
「40匹を超えるうち4匹」をたどった3つの場所。Morphpedia の Issues 欄には、数字そのものは載っていません(2026年10月31日閲覧)

この数字は、1人の繁殖者が「大手から聞いた中でいちばん大きなデータ点」として挙げたものです。何年の、どこの、どの系統かは書かれていません。分母は「40匹ちょうど」ではなく「40匹を超えるスーパー体」で、数えているのはキンクだけです。ダックビルを含めた奇形全体の割合ではありません。なお「10パーセント」は原文のままの引用で、厳密には4 ÷「40を超える数」なので10%には届きません。当店は、この報告を、モルフ全体の発生率として一般化しません。同じ投稿の続きに、本人がこう書いているからです——「まったく/ほとんど問題が出ない人もいれば、高い割合で出る人もいる、という伝聞もある。シナモン/ブラックパステルの遺伝子だけでなく、個々の個体が効いているように見える」
8ボールなら安全側、とは書けません
スーパー体を避けて、ブラックパステルとシナモンを1つずつ持たせる(=8ボール)なら安全なのか。ホビーではよく言われる組み方で、当店の図鑑のシナモンのページにも「シナモン × ブラックパステルの組み合わせを用いる事で、大幅に奇形のリスクを下げる事ができると分かっています」とあります(ブラックパステルのページは「大幅に」の無い「奇形のリスクを下げる事ができる」です)。
そして当店は、同じことを記事にも書いています。対立遺伝を徹底解説の「倫理的な代替手段」の項が「対立遺伝子を利用したコンボモルフ(例:ブラックパステル × シナモン = 8ボール)では、スーパー体特有の健康リスクを回避しつつ、スーパー体に似た美しい個体を作出できます」としています。ところが同じ記事の表には、「8ボール(Black Pastel × Cinnamon)/ダックビル、キンクが見られることがある」と書かれています。1本の記事の中で、向きが揃っていません。
この「分かっています」を裏づける資料を、当店は見つけられませんでした。Morphpedia が Issues に書いているのはスーパー体についてで、8ボールには触れていません。スーパー体と8ボールの発生率をくらべられる記録は、今回たどった範囲には1件もありませんでした。
見つかったのは、8ボールでも変形が出たという報告です。これは「リスクが下がらない」ことの証拠にはなりません。出るか出ないかの話であって、どちらが多いかの話ではないからです。ただし「8ボールにすれば出ない」とも書けないことは、はっきりします。
2022年8月25日「そうだ。ブラックパステル/シナモンの複合ヘテロ接合でも、ダックビルとキンクが出ることが示されている」(t_h_wyman。「スーパーで問題が出るなら、対立遺伝子なのだから8ボールでも同じではないか」という問いへの返答)
2022年2月15日「スーパーブラックパステル、スーパーシナモン、そしてシナモン ブラックパステル(8ボール)だけが、ガーゴイル/8ボールコンプレックスで問題になる組み合わせだ」(saleengrinch。リストを閉じる言い方をしています)
別のスレッド「Super cinny or super black pastel?」(2019年9月開始・18件)には、両方向の繁殖報告が並んでいます。
うまくいかなかった側「スーパーシナモン、スーパーブラック、8ボールを狙って掛けたが、どれも同じように結果が悪かった。その年は100匹以上孵したが、問題が出たのはこれだけだった」(saleengrinch/2019年9月26日)
問題が少なかった側「8ボール(シナモン × ブラックパステル)を数年やっているが、キンクのある子が卵の中で死んだのが1匹いただけで、あとは問題なかった。ただ、前の投稿のとおり、いつもそうとは限らない。手持ちの系統がたまたま当たりだったのだと思う。もう一度始めるなら、代わりに GHI/シナモン/ブラックパステルのスマのほうを選ぶ。起こりうる問題を避けるためだけに。それに真っ黒だ」(canadianregius/2019年9月27日。本人も、やり直すなら避けると書いています)
近親交配のせいだ、という説明も同じスレッドで否定されています。「スーパーシナモン/スーパーブラックパステルに出る欠損は近親交配によるものではなく、これらのモルフのスーパー体そのものが何らかの発生上の欠損を起こすためで、血縁のない親どうしの交配でも見られている」(chesterhf/2023年3月24日)
ここまで全部、繁殖者の報告です。数えた母数も、数え方も、系統もそろっていません。当店が言えるのは、次の3つだけです——①「8ボールにすれば出ない」と書いてある資料は見つからなかった。②「8ボールでも出た」と書いている発言はある。③ スーパー体と8ボールのどちらが出やすいかを比べた資料は見つからなかった。つまり今回確認した資料からは、スーパー体と8ボールの発生率の差を評価できませんでした。
査読を経た資料は、この2つについては挙がっていません
では、査読を通った研究はどこまで言っているのか。ボールパイソンの福祉について、公表された文献をまとめた総説が1本あります——Green ら「Blind Trading: A Literature Review of Research Addressing the Welfare of Ball Pythons in the Exotic Pet Trade」(Animals 2020年10巻2号 193)。ここに、まさにこの話が出てきます。
「遺伝的な操作に結びついた、福祉上の問題の可能性についての逸話的な報告は、ホビーの媒体に見つかる(たとえばダックビル)。しかし、広く増やされている表現型に結びついた遺伝性疾患を扱った研究は、公表された科学文献の中では1本(ウォブルヘッド症候群)だけである」(Green ら 2020)
ここで挙げられている1本は、スパイダーの神経症状を扱った Rose & Williams 2014 です(当店のスパイダーとウォブルの記事にまとめています)。この総説が挙げている研究の中に、シナモンやブラックパステルを扱ったものはありません。
ここで言えるのは、この総説の範囲の話です。この総説が検索した期間は2009年から2019年で、データベースは3件(PubMed・Scopus・Web of Science)。該当した130件のうち16件は閲覧できず、分析に入ったのは88件と書かれています。なお総説の全文に「cinnamon」も「black pastel」も1回も出てきません。当店の側でも別の検索を当てましたが(後述)、見つけられなかった、までが言えることです。
そして、総説がダックビルの典拠として挙げている文献をたどると、1本のブログ記事に行き着きます。マダガスカルの爬虫両生類を専門とする研究者 Mark D. Scherz が、読者の質問に答えた短い記事です(2014年5月7日)。回答の本文は3文しかありません。
「この変異は、頭骨の側面の骨が欠けることで生じる。呼吸や摂餌の問題を伴っていたとしても、私は驚かない(I would not be surprised if)。この変異を持つヘビは孵化時に淘汰すべきで、絶対に繁殖に使うべきではない」(Scherz 2014)
「驚かない」は、測ったという意味ではありません。呼吸や摂餌への影響は推測として書かれており、頻度も、程度も、追跡した個体数も出てきません。さらに、本文は「この変異を持つヘビは」とヘビ一般の書き方で、シナモンもブラックパステルも名指ししていません(投稿に付いているタグには「ball python」「Python regius」があるので、文脈はボールパイソンです)。この2つのモルフで仕組みを検証した資料ではありません。
同じ総説は「新しいモルフの“目新しさ”が、その近親交配の健康上の帰結についての研究より優先されてきたように見える」とも書いています。
当店は、ここで「問題ない」とも「必ず出る」とも書けません。分かっているのは、Morphpedia がスーパー体について記載を置いていること、8ボールでも出たという繁殖者の発言があること、そして一般化できる発生率も、くらべられる重さのデータも、今回は確認できなかったことです。掛け合わせを決めるときは、この3つがそろっている状態なのだと思って判断してください。
当店の公開記録では、両親とも8ボール系の交配が3件あります
読者に何かを薦める前に、当店が実際にやってきたことを先に出します。
交配記録は2026年10月31日時点で38件公開されていて、そのうち親のモルフ表記に「Black Pastel」(スペースの無い「BlackPastel」を含む)「Cinnamon」「Enchi」のいずれかが入っているのは14件。さらに両方の親に入っているのは1件です(表記で数えているので、別名で書かれているものは拾えていません)。個体ページの親欄にしか出ていない2026年のクラッチを足すと、3件になります。
2025年・1件ブラックパステル オレンジドリーム ハイポ × ブラックパステル モハベ ハイポ。卵5個のうち5匹が孵化(2025年9月17日)。このレコードは産卵日が「2026/07/19」と表示され、孵化日より後になっています。同じページに貼られている投稿は2025年7月19日ですが、そちらのクラッチ番号は「Lil25019」で一致しません。正しい産卵日は確認できないため、ここでは記録上の孵化日だけを採りました
2026年・1件ブラックパステル モハベ ゴースト × ブラックパステル オレンジドリーム ゴースト(子の個体ページの親欄)
2026年・1件ブラックパステル オレンジドリーム ハイポ × シナモン シャンパン。この記事の最初に出した、「or」の2匹が出たクラッチです
この3件から公開されている個体を見ると、スーパーブラックパステル・スーパーシナモンと表記された個体は1匹もいません。360匹の全体を引いても0匹です。8ボール表記は、別の年の2匹だけでした。
公開している個体は、孵化した全部ではありません。個体ページは販売のために出しているもので、孵化数の記録ではないことに注意してください。卵の数と孵化数が分かるのは、交配記録として公開している38件のほうです。2025年の1件は卵5個から5匹が孵化しています。
3件のうち2件は、ブラックパステル同士です。スーパーブラックパステル・スーパーシナモン・8ボールの3つには、ここまで見てきたとおり、変形の記載と繁殖者の報告があります。そのうち、スーパーブラックパステルが出うる掛け合わせを2件、8ボールが出うる掛け合わせを1件、当店は実際にやってきました。この記事の下の節で読者に書いたことは、そのまま当店にも当てはまります。
この3件をどう扱うか——同じ組み方を続けるかどうか——は、この記事では決めていません。公開記録と資料を上に並べたのは、その判断の材料を先に出しておくためです。決まったら、この節に書き足します。
迎えるとき、掛けるときに見ること
迎えるとき名前に「or」や「poss」が付いていたら、どこまで確かめた上での表記かを聞いてください。片親だけがシナモンかブラックパステルの一方を持っているなら、子が受け取っている可能性があるのはそちらだけです。両親がそれぞれ別のほうを持っていたなら、親の記録だけでは決まりません
繁殖に使わないならシナモンかブラックパステルかが決まっていないことと、その個体の健康状態は別の話です。名前が未確定だから問題がある、という意味ではありませんし、逆に健康の確認を省いてよいわけでもありません。温度と湿度の作り方はモルフでは変わりません(適温と温度勾配の記事)
繁殖に使うならどちらが出るかを確定させるには、種類を確かめる必要があります。両親がそれぞれ、この席の片方だけを1つ持っている(もう片方は野生型)場合、子1匹あたり4分の1が、席を2つ埋めた個体(スーパー体、または8ボール)になります。残りは2分の1が片方だけ、4分の1がどちらも持たない計算です(これは1匹あたりの確率で、クラッチごとの実数を保証するものではありません)。種類が未確定でも、候補ごとに分けて計算することはできます
黒い個体が欲しいだけなら先ほどのスレッドでは、マホガニーのスーパー体(スマ)にシナモンやGHIを1つ足す組み方が繰り返し挙がっていました。当店にもスマを使った個体がいます。ただし、これを「安全な代わり」として薦めることはできません。Morphpedia のマホガニーのページは Issues 欄が空ですが、空欄だけでは、調べた結果なのかも、安全なのかも分かりません。当店の対立遺伝を徹底解説は「遺伝的欠陥がないため安全に繁殖できます」と書いていますが、この断定の裏づけも確認できていません
最後に、当店自身の記述についてです。この記事を書く過程で見直すべきだと判断した点を、4項目に整理しました。読むときの参考に、そのまま出します。
8ボールなら安全、という向き図鑑のシナモンの「大幅に奇形のリスクを下げる事ができると分かっています」(「大幅に」が付くのはこちらだけで、ブラックパステルは「奇形のリスクを下げる事ができる」)、および対立遺伝を徹底解説の「スーパー体特有の健康リスクを回避しつつ」「倫理的な代替手段」。問題は「下がらないと分かった」ではなく、確かめられていないことを「分かっています」と書いているほうです
同じ記事の中で向きが違う対立遺伝を徹底解説は、上の記述と同じ記事の表で「8ボール(Black Pastel × Cinnamon)/ダックビル、キンクが見られることがある」と書いています
10%が付いている先が2ページで違う図鑑のシナモンは「口元に奇形が伴うリスク…約10%程度確率(40匹中4匹程度)」、ブラックパステルは「わずかに体がよじれる奇形…約10%程度確率(40匹中4匹程度)」。今回たどれた同じ数字の投稿は、キンクだけを数えています。ダックビルの頻度として出てくる数字ではありません
ダックビルの扱い図鑑のブラックパステルは「餌喰いなどは問題なく他のボール同様に飼育が可能です。個人的には、個性の1つと捉えて問題ないかなと思っています」と書いています。一方、当店の用語集は「程度によっては餌を飲み込みにくくなることがあります」。餌喰いに問題が無いと一律に言える根拠は、当店の側にも見つかりませんでした
図鑑・用語集・既存の記事そのものは、この記事では書き換えていません。4件とも当店の中で記録してあり、直し方は別に決めます。ここで黙って上書きすると、何をどう変えたかが外から見えなくなるためです。
まとめ
似ている、は資料も書いているMorphpedia はブラックパステルの冒頭で「別系統かどうかには議論がある」、World of Ball Pythons は「極めてよく似ているが別系統」。似ていること自体は、争点になっていません
どちらが黒いかは、観点が違うWorld of Ball Pythons は2つをくらべて「一般にシナモンのほうが暗い」と書き、当店の図鑑と用語集はそれぞれの地色の範囲を書いています。逆のことを言っているのではなく、同じ条件でくらべた資料として並べられません。用語集の2項目は、並べて読むと印象が逆に寄ります
当店の360匹で「or」は3匹だけ3匹ともブラックパステル or シナモン。2026年の2匹は、片方の親がブラックパステル、もう片方がシナモンのクラッチから出ています
検査で決められる先は見つからなかったMorphpedia のタグは検査が存在するか、World of Ball Pythons の記載はその会社が提供しているか。主語が違うので矛盾とは言い切れませんが、申し込める先は確認できていません
スーパー体の変形は、一般化できる発生率が確認できないMorphpedia はスーパー体にダックビルとキンクを置いています(World of Ball Pythons の同じ2ページには、この記載はありません)。よく引かれる「40匹を超えるうち4匹」は、一覧を作ったと述べている本人が「大手から聞いた中でいちばん大きなデータ点」として書いた、キンクだけの数です
8ボールが安全側だ、とは書けない「複合ヘテロ接合でもダックビルとキンクが出ることが示されている」という発言があり、スーパー体とくらべられる資料は見つかりませんでした。今回確認した範囲では、発生率の差を評価できません
査読研究は、総説の中には挙がっていない総説(Green ら 2020/検索期間は2009〜2019年)が「広く増やされている表現型に結びついた遺伝性疾患を扱った唯一の研究」として挙げるのはスパイダーのウォブルで、ダックビルの典拠は研究者が読者の質問に答えたブログ記事1本(この2モルフは名指しされていません)です
参考にした資料
モルフの図鑑サイト
・Morphpedia:Cinnamon(Type: Incomplete Dominant/Complex: 8 Ball/First Produced By: Greg Graziani/First Produced In: 2002(脚注は World of Ball Pythons)/Aliases: Cinny, Cinnamon Pastel/Issues: Duckbill, Rare Kinking (Super Cinnamon)/Proven Lines: No known proven lines./参考文献の欄はコミュニティのスレッド2本と動画1本/2026年10月31日閲覧)
・Morphpedia:Black Pastel(Type: Incomplete Dominant/Complex: 8 Ball/First Produced By: Gulf Coast Reptiles/First Produced In: 2002(脚注は World of Ball Pythons)/Issues: Duckbill, Rare Kinking (Super Black Pastel)/Proven Lines: Barnhart line, Liesen line, VPI Satin-Line/About 欄の「別系統かどうかには議論がある」/同日閲覧)
・World of Ball Pythons:Cinnamon(Complex: Cinnamon/Genetics: Incomplete dominant/First Produced By: Greg Graziani, Florida Gator Gardens/Year: 2002/「Many Cinnamon lines exist…They are generally darker compared to Black pastels」/Genetic Tests Available 欄)/同:Black Pastel(Complex: Black Pastel/First Produced By: Gulf Coast Reptiles/「While extremely similar to the Cinnamon trait, Black Pastels are a separate lineage…」/体側の色抜けと背の模様についての比較記述/ダックビル・キンクについての記載は、どちらのページにもありません/同日閲覧)
繁殖者の報告(MorphMarket コミュニティ)
・8-Ball Complex Birth Defects(2022年2月15日開始・全11件。「40匹を超えるスーパー体のうちキンクが4匹」の出どころ、「それは10パーセントだ」の返答、複合ヘテロ接合でも出るという発言)
・Super cinny or super black pastel?(2019年9月25日開始・全18件。両方向の繁殖報告、近親交配説への反論、スマを使う代替案)
・Black Pastel Vs Cinnamon(2020年1月6日開始・全44件。Morphpedia のシナモンのページが参考文献の欄に挙げているスレッドです。系統の名前(Liesen line / bernhardt line / Garcia line。Morphpedia の表記は「Barnhart line」)や、スーパー体を避ける組み方への言及)
これらは査読を経た資料ではありません。それでも引いているのは、この2つのモルフの変形について、当店がたどれた記述がここまでだったからです。(投稿者は「モルフの問題点の一覧を自分が作った」と述べていますが、その一覧が Morphpedia の Issues 欄になったかどうかは、当店には確かめられていません。)モルフ全体の発生率として一般化せず、誰が、いつ、どういう立場で書いたかまで含めて読んでください。
論文と、その引用先
・Green, J., Coulthard, E., Megson, D., Norrey, J., Norrey, L., Rowntree, J.K., Bates, J., Dharmpaul, B., ほか「Blind Trading: A Literature Review of Research Addressing the Welfare of Ball Pythons in the Exotic Pet Trade」Animals(2020年10巻2号 193/doi:10.3390/ani10020193/全文は Europe PMC の PMC7070511 で確認)
・Rose, M.P. & Williams, D.L.「Neurological dysfunction in a Ball python (Python regius) colour morph and implications for welfare」Journal of Exotic Pet Medicine(2014年23巻 234-239)。上の総説が「唯一の研究」として挙げている1本です
・Scherz, M. D.「what is the duckbill mutation?」(2014年5月7日/上の総説がダックビルの典拠として挙げている文献 [42]。総説側の表記は「Duckbill Mutation in Snakes.」(2020年1月21日閲覧)。査読を経ていない、読者の質問への回答です)
・OpenAlex で 「python regius kinking」「ball python morph welfare deformity」「Python regius craniofacial」「ball python colour morph health」「duckbill python regius」を引いて出てきた範囲に、シナモンまたはブラックパステルの奇形を扱った研究は見つかりませんでした(2026年10月31日検索。検索語を変えれば出てくる可能性はあります)。ボールパイソンのモルフで神経・骨格の異常を扱った研究として出てくるのは、スパイダーについてのものです
当店の図鑑・記録・記事
・モルフ図鑑:シナモン(別名・2002年・不完全優性・頭/胴/腹/尾の記述・「8ボールコンプレックスの先天性欠損症について」の節)/モルフ図鑑:ブラックパステル(同じ構成。スーパー体の記述と、「シナモン × ブラックパステルで奇形のリスクを下げられる」という記載)/用語集:シナモン・用語集:ブラックパステル・用語集:8ボールコンプレックス(いずれもこの記事では書き換えていません)
・個体ページ(2026年10月31日時点で360匹。名前に「or」が入るのは3匹、8ボール表記が2匹、スーパーシナモン/スーパーブラックパステル表記は0匹)/交配記録(38件。親のモルフ表記に「Black Pastel」「BlackPastel」「Cinnamon」「Enchi」のいずれかが入るのは14件、両方の親に入るのは1件。ハフマン・ヘテロレッドアザンティックを足しても件数は変わりません)
・エンチ(8ボールコンプレックスの中身と、エンチが加わった経緯)/GHI(ブラックパステルとの見分け)/対立遺伝を徹底解説(「40匹以上のスーパー体のうち4匹(約10%)にキンク」、避けるべき組み合わせの表、8ボールを「倫理的な代替手段」とする記述。表には8ボールにもダックビル・キンクの記載があり、この記事では書き換えていません)/モルフ計算機の使い方/モルフとは?品種と遺伝の仕組み/スパイダーとウォブル
本記事は、モルフの図鑑サイト2件、繁殖者の公開スレッド3本、査読総説1本、および当店が公開している図鑑・個体ページ・交配記録を突き合わせて整理したものです。シナモンとブラックパステルの奇形について、査読を経た資料は見つけられませんでした。当店が確認できなかったことは、確認できなかったと本文に書いています。


