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飼育

ボールパイソンの歯|生え替わりは生涯つづき、その様式は「ヒトと同じ」と書かれています

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当店には、ボールパイソンの目・耳・ピット器官・舌・鱗・脳についての記事があります。いっぽう歯については、1本の記事も書いていませんでした。あごに並ぶ歯の、並び・付着・交換に触れているのは、噛みつきの記事の1節だけです。

この記事が埋めるのは、そこです。先に書いておくと、ボールパイソン(Python regius)は、脊椎動物の歯の生え替わりを調べる実験材料そのものです。2010年の論文は、この種について「この種は生涯にわたって歯を交換し、しかもヒトと同じやり方で交換する」と書いています。ケージの中にいる動物が、そのまま教科書の図になっている題材です。

ただし、この記事を読んで口の中を見ようとしないでください。理由は本文に書きますが、先に一度書いておきます。

目次

  • 当店が歯の作りに踏み込んでいたのは、1節だけでした
  • 並びは「上あごでは2列、下あごでは1列」と書かれています
    • 尖りは1つで、後ろへ湾曲しています
    • 歯は骨の側面に付いています
  • 生え替わりは、歯堤の先端から順に起きます
    • 「ヒトと同じやり方」と書かれています
    • 順序がどう守られているかは、推定までです
    • 後続歯堤を作らせる合図は、まだ特定されていません
    • ヒトの歯堤にも、同じ目印が出ています
  • 形は63種の中で「鋭く・長く・ほぼ直線」の側です
  • 本数は、医学系のデータベースでは見つけられませんでした
  • 飼育の側から見ると、効いてくるのは3か所
  • まとめ
  • 参考にした資料
    • ボールパイソンを名指しした資料
    • 別のヘビで調べられた資料
    • 当店の関連記事

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この記事は、口の中を点検することを勧めるものではありません

ここで並べるのは、歯がどう並んでいて、どう入れ替わるかの解剖と発生の話です。ボールパイソンの口を器具で開けるのは、獣医師が診察で行う操作です。マウスロット(口内炎)の記事は「家庭でやると顎や歯、粘膜を傷めます」と書いています(この一文は当店の記事が典拠を示さずに書いているものです。舌の記事では「傷めるおそれがあります」と書いていて、当店の中でも強さが揃っていません)。

口の中の異常を疑ったときに見るのは、外から分かる変化です。受診の線はマウスロット(口内炎)の記事が持っているので、この記事で新しく引き直しません。

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資料の読み方を、先に4つ断っておきます

①どこまで原文を読んだか。全文を読めたのは4本です——micro-CT のデータセットの論文(Kavková ら 2022年、GigaScience)、歯の形を63種で比べた研究(Segall ら 2023年、Ecology and Evolution)、交換の順序を調べた研究(Gaete & Tucker 2013年、PLOS ONE)、歯堤の目印を哺乳類と爬虫類で比べた研究(Juuri ら 2013年、Development)。要旨しか読めていないのが3本——Handrigan & Richman の2本(2010年、Developmental Biology)と Buchtová ら 2008年(同誌)で、いずれも購読者限定で全文を参照できていません。本文で「要旨は〜と書いています」と断っているところは、そういう意味です。

②対象種。いちばん細かく仕組みを追っている Gaete & Tucker 2013年の材料はコーンスネーク(Pantherophis guttatus)で、ボールパイソンではありません。本文では毎回そうと分かるように書きます。ボールパイソンを名指ししているのは、Handrigan & Richman の2本・Buchtová ら 2008年・Kavková ら 2022年・Segall ら 2023年・Juuri ら 2013年の6本です。

③発生の段階。生え替わりの仕組みについて、ボールパイソンの材料の段階が確かめられたのは2本です。Juuri ら 2013年のボールパイソンの標本は産卵後60日の胚、Buchtová ら 2008年は Shh の発現を「孵化前の時期をとおして」追っています。どちらも、いま飼っている成体で観察されたものではありません。

Handrigan & Richman の2本は、要旨から材料の発生段階を特定できませんでした。この記事でいちばん多く引いている2本なので、ここは未確認のまま残っています。

なお資料のほうには孵化後の個体も含まれます(Gaete & Tucker 2013年は胚と新生仔のコーンスネーク、Juuri ら 2013年の比較対象には幼若のグリーンイグアナと孵化後のヒョウモントカゲモドキが入っています)。

④著者の重なり。ボールパイソンを名指しした6本のうち5本は著者が重なります(重なっているのは Buchtová・Handrigan・Richman の3名です)。著者が重ならないのは Segall ら 2023年の1本だけです。これは事実としての注記で、6本をまとめて同じ研究とみなすという意味ではありません——Kavková ら 2022年(チェコの研究機関)と Juuri ら 2013年(ヘルシンキ大学ほかの共同研究)は、調べていることも違います。ただし Shh についての結論(後述)は、Buchtová ら 2008年と Handrigan & Richman 2010年という同じ研究系列の中で出たもので、別のグループによる追試ではありません。

当店が歯の作りに踏み込んでいたのは、1節だけでした

噛みつきの記事に、こういう段落があります。

「ボールパイソンには、約100本ほどの歯があると言われています。その歯が、抜けたり、折れたりした場合は都度生え変わるようになっています。
ボールパイソンの、歯(牙)には毒はありませんし、さほど長く大きくはありません。」
(このあとに「そのため、仮に噛まれたとしても…」と続きます)

歯に触れている箇所は、ほかにもあります。マウスロット(口内炎)の記事には「歯の並びに沿ってチーズ状の物質ができる」という症状の説明があり、ヘビの体の構造の記事は顎の骨を扱っています。繁殖の記事とベビーの立ち上げの記事は卵歯(エッグトゥース)——孵化のときに殻を切る、鼻先の一時的な突起——を扱っています(寿命と成長過程の記事は、語は使わずに「牙を使い卵を破って出てきます」と書いています)。噛みつきの記事自身も、別の節で「歯は獲物をとらえるため鋭いので」「びっくりして思いっきり引っ張ったりすると、ボールパイソンの顎の骨や歯に負荷がかかる可能性がある」と書いています。

つまり当店が書いていたのは本数と交換までで、並びと付着については、どの記事にも書いていません。この記事は、その後ろにある資料を並べます。

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この記事は、卵歯の話ではありません

卵歯(エッグトゥース)は、すでに繁殖の記事とベビーの立ち上げの記事が扱っています。孵化のときに殻を切る一時的な突起で、この記事で見る「あごに並んでいて、生涯入れ替わる歯」とは別のものです。

この記事が扱うのは後者だけです。卵歯については、上の2本を読んでください。

先に結論の向きだけ書くと、「都度生え変わる」は資料と合っています。資料が書いているのは「歯堤(してい)の先端から、順に次の歯が芽生える」という形です。本数については、医学系のデータベースの範囲では数えた資料を見つけられませんでした。そこは最後の章に分けて書きます。

並びは「上あごでは2列、下あごでは1列」と書かれています

並びについての記述は、Kavková ら(2022年、GigaScience 11巻 giac016)にあります。爬虫類の代表種の頭骨と歯を micro-CT で撮り、3D モデルを公開した論文です(要旨は「9つの科それぞれの代表種」としていますが、本文が記載している成体は11科ぶんあります)。選んだ基準は「歯と骨の付き方が違う種を揃えること」で、ワニ(哺乳類に似た槽生)からトカゲ(端生)まで並べています。そのうち「毒を持たないヘビ」の代表として選ばれたのが、ボールパイソンです。

種を選んだ理由を説明する段落に、こうあります。

「毒のないヘビの例として、我々は Python regius(ニシキヘビ科)を選んだ。これは典型的な毒牙を持たない締めつけ型の捕食者である。単尖の鋭い形をした単純な歯が、パイソンの顎のより深いところへ向かって後方へ湾曲している。クサリヘビ類と同様に、それらは上顎では2列、下顎では1列に配置されている」

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この記述は、この論文が撮った画像の所見ではありません

引用したのは、種を選んだ理由を説明する段落の文です。この論文がボールパイソンについて出している図のどこにも、列を数えた結果はありません(図も表もありません)。この論文の成果は、頭骨と歯のスキャンと3Dモデルを公開したことです。

次の節で引く「付着の型」の文には、さらに先行文献の引用番号(10・16・17)が付いています(列と湾曲の文には付いていません)。

この記事では、どれも「スキャンで数えた結果」としては扱いません。

「上2列・下1列」は、列の種類を数えた言い方です。口の中に3本の列が並んで見える、という意味ではありません。上あごには口蓋側の列と上顎骨側の列の2種類があり、下あごには1種類ある、と読んでください。列の名前(内側=口蓋列・外側=上顎骨列)を明記しているのは同じ論文のガブーンバイパーの段落で、ボールパイソンの段落は「クサリヘビ類と同様に(similar to vipers)」と書いてそこに寄せています。

ヘビの上あごに口蓋の列と縁(marginal)の列があることは、別の論文も前提にしています。Juuri ら 2013年は、孵化前のヘビで「口蓋の歯と縁の歯の、鏡像の関係にある列を調べた」と書いていて、その材料にボールパイソンが入っています。ただしこれは列の種類についての記述で、列が左右にいくつあるかを書いた文ではありません。

同じ論文には、ボールパイソンの口蓋(上あごの内側)をつくる骨を塗り分けた図もあります。塗り分けられているのは前上顎骨・鋤骨・口蓋骨・翼状骨・外翼状骨です。このうちどの骨が歯を持つかは、この図の説明には書かれていません。

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上あごの先端にも歯があります(ただし、どの種の観察かは特定できません)

パイソンの前上顎骨(上あごの先端の骨)の歯は、Buchtová ら(2008年、Developmental Biology 319巻132〜145頁)が前提にしています。Shh という分子が歯のもとになる組織の「深さ」を決めているかを確かめるために、この部位に注目した——という文脈で、要旨にこうあります。「口の他の場所よりも口腔の表面に近いところで形成される前上顎骨の歯」。

ただし、この一文がどの種の観察なのかは要旨からは決められません。この研究が扱っているのはアフリカニシキヘビ・ボールパイソン・コーンスネークの3種で、前上顎骨の文には種名がありません。全文が取れていないので、「パイソンの歯の発生を調べた研究が、前上顎骨の歯を前提に書いている」までにします。(要旨のみ確認)

尖りは1つで、後ろへ湾曲しています

湾曲については、2本の資料が違う言い方をしています。上の Kavková ら 2022年は「あごのより深いところへ向かって後方へ湾曲している」。いっぽう次の章で引く Segall ら 2023年は、63種を並べたときのこの種の歯を「鋭く、長く、ほぼ直線(nearly straight)」と書いています。

矛盾ではありません。Segall ら自身が、この研究で比べた下顎の歯についてこう書いています——「それらはすべて円錐形で、鋭さの程度はさまざまだが、——程度の差はあれ——後方かつ内側に湾曲している」。向きは後方で共通していて、63種の中では湾曲が小さい側にいる、ということです。

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湾曲から、噛まれたときの対処を導かないでください

Segall ら 2023年は、湾曲の働きについて「湾曲はまた、獲物が歯の上を滑って口の中へ入ることを可能にし、後ろ向きに動けば突き刺さるようにして、逃走を防いでいるのかもしれない」と書いています。原文は may で、しかも獲物の話です。

噛みつきの記事は「無理に引き離そうとせず、ボールパイソンが離してくれるまで待つ方がいいと思います」と書いていますが、今回の資料は、ヒトが噛まれたときに引いたらどうなるかを調べたものではありません。形から対処法を導かないでください。対処については後ろの章に書きます。

歯は骨の側面に付いています

同じ論文が、付着の型についても書いています。ボールパイソンは側生歯(pleurodont)——歯が顎の骨の側面に付く型です。論文の言い方は「その多換歯性の歯列は、顎の全長にわたって側生歯型の歯の付着と結びついている」。この文の末尾に、先行文献の引用番号 10・16・17 が付いています。

この論文は、付着が強くないことを欠点として書いていません。導入にこうあります。

「しかしほとんどの爬虫類(たとえばヤモリ類、アノール、スキンク類、アメイバ、イグアナ類、そしてヘビ類)は、無制限で生涯続く新しい歯の世代の供給を持っている。これらの種では、機能している歯が絶えず失われて交換歯が伸びてくることを成り立たせるために、歯の付着の型がより丈夫でない」

原文は less robust——「より丈夫でない」という比較の言い方です。そしてこの文が指しているのは、生涯歯を交換する爬虫類ぜんたいで、ヤモリ類・アノール・スキンク類・イグアナ類と並べてヘビが挙げられています(この文の末尾にも引用番号 2・9〜12 が付いています)。ボールパイソンの付着の強さを測った結果ではありません。それでも、付着の型と交換とが結びつけて説明されていることは読み取れます。

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逆の作りの例として、同じ論文はカメレオンを挙げています

「歯の世代が1つだけの厳密な一換歯性であり、歯は顎の骨にしっかり付着している。そして、けがや争いで歯が失われると、顎の骨が大きく損傷する」。原文で and がつないでいるのは「固く付いている」と「歯が失われると骨が大きく損傷する」の2つで、「固い付着が骨の損傷の原因だ」とは書かれていません。(後半の中は「歯が失われる→骨が損傷する」です。歯が抜けても骨は傷まない、という意味ではありません。)

またこの文は、Kavková らが別の文献を引いて書いているものです(論文中の引用番号 7)。引用元まで確かめていないので、「Kavková らがそう書いている」までにとどめます。

ボールパイソンの歯の並びと付き方をまとめた図。見出しは「歯の並び・形・付着について、書かれていること」。副題に、「並び」と「付着」の1行目は Kavková ら2022年の種紹介の段落、「より丈夫でない」は同論文の導入にある記述で、どちらも同論文の画像所見ではない、「形」の最後の1項だけ Segall ら2023年の実測だ、とある。左の列は並びで、上あご2列・下あご1列は列の種類を数えた言い方であり、上あごの2列は内側(口蓋側)の列と外側(上顎骨側)の列で、口の中に3本の列が並んで見えるという意味ではない、呼び名は同論文のガブーンバイパーの段落にありボールパイソンは「クサリヘビ類と同様に」と書かれている。中央の列は形で、尖りは1つ、後方へ湾曲、締めつけ型で典型的な毒牙を持たない、ただし63種を比べた別の研究では、この種だけ下顎のいちばん前の1本を測っており、その1本は湾曲が小さい側に位置する(Segall ら2023年の「鋭く、長く、ほぼ直線」)、1種につき1個体・1本なのですべての歯に広げない。右の列は付着で、側生歯すなわち歯が骨の側面に付く型、顎の全長で同じ型、同論文の導入は生涯歯を交換する爬虫類ぜんたいについて「より丈夫でない」付着が機能歯の絶えまない脱落と交換歯の成長を成り立たせると説明しており、ボールパイソンの付着の強さを測った値ではない。中ほどの枠は上あごの先端(前上顎骨)にも歯があるという話で、パイソンの歯の発生を調べた研究が前上顎骨の歯を前提に書いており、その歯は「口の他の場所よりも口腔の表面に近いところで形成される」が、この記述がどの種の観察かは要旨からは決められない(Buchtová ら2008年、要旨のみ確認。扱った3種はアフリカニシキヘビ・ボールパイソン・コーンスネーク)。下の枠は対比で、カメレオンは歯の世代が1つで固く付き、そして、けがや争いで歯が失われると顎の骨が大きく損傷する(固い付着が骨の損傷の原因だとは書かれていない。同論文が別の文献を引いて書いている記述)。出典行には、上あごに口蓋の列と縁の列があることは Juuri ら2013年も前提にしており材料にボールパイソンを含むが、同文は列の左右については書いていない、とある。

生え替わりは、歯堤の先端から順に起きます

「ヒトと同じやり方」と書かれています

Handrigan & Richman(2010年、Developmental Biology 348巻130〜141頁)は、ボールパイソンの歯の組織で Wnt 経路の働きを調べました。要旨は、この種についてこう書いています。

「この種は生涯にわたって歯を交換し(多換歯性)、しかもヒトと同じやり方で、すなわち歯堤の先端から歯が順に芽生えることによって交換する」

用語を2つ置きます。多換歯性は、歯の世代をいくつも作る性質のことです。原典の数え方は「歯の組(set)がいくつあるか」で、ヒトは乳歯と永久歯の2組(二換歯性)、マウスは1組だけ(一換歯性)です。ヒトの交換は原則1回(しかも大臼歯は交換されません)、マウスは歯を交換しません。歯堤は、口の中の上皮があごの中へ帯のように入り込んだ組織で、ここから歯が作られます。

「ヒトと同じやり方」というのは、回数が同じという意味ではありません。歯堤の先端から順に次の歯が芽生える、という作り方が同じという意味です。回数のほうは正反対で、ヒトは1回で打ち止め、ボールパイソンは生涯続きます。

ヘビの歯堤については、Buchtová ら 2008年が細胞の動きと分子の働きを初めて追いました(要旨の原文は「発生中のヘビの歯列における細胞動態と分子シグナルを、ここで初めて見る」。歯堤の形そのものが初めて記載された、という意味ではありません)。その要旨にこうあります——「ヘビの歯の大多数は、別々の歯胚としてではなく、深くリボン状の歯堤から芽生える」。哺乳類(齧歯類)との違いとして挙げられている点です。この研究は Shh をアフリカニシキヘビ(Python sebae)からクローニングし、近縁のボールパイソンとコーンスネークでも発現を追っています。(要旨のみ確認)

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「次の歯が、抜ける前からあごの中にある」像を直接見せているのは、別の種です

機能している歯の内側に次の世代の歯がすでに在る——という図を直接出しているのは、Gaete & Tucker 2013年の新生仔コーンスネークの下顎の micro-CT(図1B。「赤い矢印と矢頭は交換歯を指す」)です。ボールパイソンで同じ像を示した資料は、今回見つけていません。

ボールパイソンについて言えるのは、要旨の「歯堤の先端から歯が順に芽生える」までです。

順序がどう守られているかは、推定までです

歯が順番に出てくるには、順番が崩れない仕組みが要ります。Handrigan & Richman 2010年の要旨は、ボールパイソンで観察したこととそこから推定したことを書き分けています。

観察したことは、Wnt 経路が働いていることを示す遺伝子(Lef1・Axin2)が、歯堤の先端とその周りの組織で持続的に発現していたこと、そしてWnt を歯堤の中に閉じ込めておくと、歯堤は厚くなるのではなく伸びたことです。

推定のほうは、要旨の文にそのまま書かれています。

「おそらく(Presumably)、歯堤が伸びることで次々の歯の芽のあいだに場所ができ、歯の交換が順序だって起こることが保証されているのだろう」

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ここは「おそらく」が付いている文です

「歯堤が伸びるから順序が守られる」は、確定した説明ではありません。要旨の原文が Presumably で始まっています。幹細胞についても同じで、「歯堤の舌側面に収まっていると推測される幹細胞」「我々は〜と提案する(we propose)」という書き方です。

この記事では、観察(Lef1・Axin2 の発現/歯堤が伸びたこと)と推定(それが順序を保証していること)を分けて書きます。限定語を落とすと、別の主張になってしまいます。

順序がどう崩れるかを実験で見せたのは、別の研究です。Gaete & Tucker(2013年、PLOS ONE 8巻9号 e74484)は、コーンスネーク(Pantherophis guttatus)の顎を切り出して培養し、18日の培養期間に新しい世代が3つから4つできるのを観察しました。ボールパイソンではありませんが、同じ多換歯性のヘビで仕組みを直接いじった研究なので、そうと断って並べます。

この研究が見ているのは、歯堤の中の2つの区画です。幹細胞の目印として知られる Sox2 は歯堤に、Wnt 経路が働いていることを示す Lef1 は後続歯堤(歯堤の先の、次の歯を作る部分)に出ていました。

そこで Wnt 経路を歯堤の全体で活性化させると、こうなりました。

  • できる歯の芽の数が増えた
  • ただし増えた芽は後続歯堤から順番に出るのではなく、歯堤のあちこちから出た
  • Lef1 の発現する範囲が広がり、後続歯堤に限られていた局在が失われた
  • Sox2 の領域はその分だけ押し縮められた

著者らのまとめは「順序だった歯の芽の出現が失われた」です。そして要旨の結びは「これらの結果は、順を追って発生する器官の配置にとって上皮の区画が決定的であることを示唆する(suggest)」——「示唆する」であって、証明したとは書いていません。論文自身も、使った薬剤の効果が Wnt 経路だけによるとは限らないと断っています。

念のため——これは切り出した組織を培養皿の中で薬剤処理した実験で、生きているヘビに何かをして歯が増えたわけではありません。増えたのも順序を失った、位置の異常な歯の芽です。

後続歯堤を作らせる合図は、まだ特定されていません

歯の発生でいちばん有名な分子は Shh(Sonic hedgehog)です。ボールパイソンを含むヘビでも、Shh は歯の形づくりに必要でした。ただし後続歯堤(次の歯を作る部分)を作らせる役ではありませんでした。

Buchtová ら 2008年の要旨は、「Shh は歯の芽の内エナメル上皮と星状網には発現しているが、外エナメル上皮とその派生物である後続歯堤には無い」と書き、そこから「このことは、交換歯の形成には Shh 以外の信号が責任を負っていることを示唆する」と続けています。

Handrigan & Richman(2010年、同誌 337巻171〜186頁)は、ボールパイソン・ヒョウモントカゲモドキ・フトアゴヒゲトカゲの3種でShh の受け手(Ptc1)の発現を調べ、機能を足し引きする実験まで行いました。結論はこうです——「最後に、本研究において我々は、後続歯堤の形成における Shh シグナルの役割を決定的に否定し、有鱗目では他の経路が歯の交換を制御していると結論する」。(どちらも要旨のみ確認)

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この2本は、独立した2つの裏づけではありません

2008年の論文の著者に Handrigan と Richman が入っていて、2010年の2本と同じ研究室の仕事です。別のグループによる追試ではありません。

もうひとつ範囲の話を。否定されているのは「後続歯堤そのものを作らせる合図」という役です。同じ著者らの Dev Biol 348巻は、要旨の中で「ヘッジホッグのシグナルが、直接の平面的な抑制によって、また歯の交換の段階では歯の間葉の BMP の量を負に制御することによって、歯の上皮の中の Wnt の活性を閉じ込めている、と我々は示唆する」と書いています。「Shh は交換に関係ない」と読まないでください。

では後続歯堤を作らせる合図が何なのかは、今回確認した資料の範囲では決まっていません。Wnt は候補として調べられている経路の1つで、2010年の研究が「Wnt、ヘッジホッグ、BMP の経路のネットワークがヘビの歯の交換を制御する」という題で出ているのは、そういう段階だからです。

ヒトの歯堤にも、同じ目印が出ています

ここまでで出てきた Sox2(歯堤にある、幹細胞の目印として知られる分子)が、ボールパイソンとヒトをつなぐところに出てきます。

Juuri ら(2013年、Development 140巻7号1424〜1432頁)は、Sox2 が「次の歯を作る能力のある上皮」の目印になっているかを、哺乳類と爬虫類で並べて調べました。材料に使われた爬虫類5種のうち2種がヘビで、その1種がボールパイソンです。本文にこうあります——「我々は、3種のトカゲ類(アメリカアリゲーター・グリーンイグアナ・ヒョウモントカゲモドキ)と、2種の毒のないヘビ(ボールパイソン Python regius とコーンスネーク Elaphe guttata)を、歯の連続的な交換のモデルとして用い、Sox2 の局在を調べた。すべての種で、Sox2 は歯を口の上皮とつないでいる歯堤に発現していた」。

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論文自身が、アリゲーターを「トカゲ類」に数えています

上の引用の原文は three lizards, American alligator, green iguana and leopard gecko です。アメリカアリゲーターはトカゲではありません(ワニ目)。

引用として原文の形で出しますが、分類の記述としては受け取らないでください。この論文が調べた5種にボールパイソンが入っていることが、ここでの要点です。

そして同じ論文が、フェレットとヒトでも同じ組織を調べています。この2種は乳歯と永久歯の2組で、交換は原則1回ですが、その1回を作る歯堤にも Sox2 が出ていました。

マウスは、歯を交換しません。論文はそう明記しています——「マウスは歯を交換する能力を失っているが、その後方の大臼歯は、他の哺乳類と同じように続けて発生する」。第1大臼歯のうしろから芽が出て第2大臼歯になり、さらにそのうしろから第3大臼歯が作られる、という前から後ろへの「追加」です。遺伝的な系統追跡で、第1大臼歯の Sox2 陽性の細胞が、第2・第3大臼歯の上皮の細胞系譜を生み出していることが示されています。交換ではなく追加ですが、同じ目印が出てくるのがこの論文の論点です。

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「同じ場所」ではありません。同じ構造に出た、というところまでです

この論文がすべての種で同じと書いているのは、歯堤に発現するというレベルだけです。細かい出方は違います。

考察にこうあります——「その舌側の面は、すべての種で強い Sox2 の発現を示したが、唇側の発現は哺乳類では見られなかった。爬虫類にこの舌側への偏りが無いことは、後続歯堤の上皮のより高い能力を反映しているのかもしれない(might)」。結果の節も、孵化前のヘビについて「哺乳類とは対照的に、染色は歯堤の両側で同等だった」と書いています。

もうひとつ。次の歯を作るために増えている先端——後続歯堤の自由端——は、比較した5種のうちヒョウモントカゲモドキを除くすべてで Sox2 が陰性でした(フェレットとヒトでも同じです)。Sox2 が出ているのは歯堤であって、先端そのものではありません。

またマウスの舌側の小さな芽については、「大臼歯の交換歯のための後続歯堤の痕跡を表しているのかもしれない(might represent)」という位置づけです。マウスにも後続歯堤がある、と確定した話ではありません。

要旨の結びはこうです。

「これらの知見は、Sox2 の機能が進化のあいだ保存されてきたこと、そして歯の交換と一次歯の連続的な追加が、同じ発生過程の変異形であることを含意する。Sox2 の発現パターンは、哺乳類に歯の連続的な更新の能力が休眠した形で存在するという仮説を支持する」

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「ヒトもまた歯が生えてくる」という話ではありません

原文は「仮説を支持する(support the hypothesis)」で、本文では「休眠した能力があるかもしれない(there may be dormant capacity)」です。

この章が言っているのは、ボールパイソンの生涯交換とヒトの1回の交換が、同じ仕組みの別の設定として扱われているところまでです。

なお、生涯交換するほうが脊椎動物の標準です。コーンスネークの研究の導入が、こう整理しています——「多換歯性、すなわち歯を連続的に更新する能力は、両生類・魚類・爬虫類を含むほとんどの脊椎動物で見られる。しかしこの能力は、ほとんどの哺乳類で進化的に失われ、二換歯性(2組の歯を持つ。ヒトなど)あるいは一換歯性(1組の歯。マウスなど)に限られている」。同じ段落は、その失われ方が「歯の本数と、歯の複雑さ・大きさとのあいだのトレードオフに関連づけられてきた」とも書いています。

ヘビの歯の生え替わりについて、どこまで分かっているかを3段に分けた図。見出しは「分かっていること・推定されていること・否定されたこと」。副題に、対象種を分けて並べる、コーンスネークの行はボールパイソンではない、とある。1段目は分かっていることで、ボールパイソンは生涯にわたって歯を交換する多換歯性、その様式はヒトと同じく歯堤の先端から順に芽生える(Handrigan & Richman 2010年、要旨のみ確認)、ヘビの歯の大多数は別々の歯胚ではなく深くリボン状の歯堤から芽生える(Buchtová ら2008年、要旨のみ確認)、歯堤には区画があり幹細胞の目印 Sox2 は歯堤に Lef1 は後続歯堤に出る(Gaete & Tucker 2013年、コーンスネーク、全文)、その Sox2 はボールパイソン(産卵後60日の胚)の歯堤にも出ており、フェレットとヒトでも歯堤に出る(Juuri ら2013年、全文)。2段目は推定されていることで、歯堤が厚くならずに伸びることで次の歯の芽のあいだに場所ができ順序が保証されているのだろうという文には原文で Presumably が付いている、伸びている歯堤の先端の Wnt 陽性の細胞は歯堤の舌側面に収まっていると推測される幹細胞の直接の子孫であるという文には我々は提案する(we propose)が付いている、哺乳類にも休眠した更新の能力があるという説は「仮説を支持する」、コーンスネークの培養は上皮の区画が順を追った配置に決定的であることを「示唆する」、マウスの舌側の小さな芽は後続歯堤の痕跡を表しているのかもしれないという位置づけ。3段目は否定されたことで、後続歯堤の形成における Shh の役割は決定的に否定されたと書かれているが、否定されたのは後続歯堤そのものを作らせる役であり、同じ著者らはヘッジホッグ経路が交換の段階でもBMP を介して Wnt を閉じ込めていると示唆しているため「Shh は交換に関係ない」ではない、後続歯堤を作らせる合図が何なのかは今回確認した資料では決まっていない。下の枠は読むときの3つの注意で、1つめは、Sox2 が出ることは同じでも出方は種で違い、哺乳類は舌側に偏りヘビは歯堤の両側で同等だったこと、マウスは歯を交換せず大臼歯が後ろへ追加されるときに同じ目印が出て、その舌側の小さな芽は後続歯堤の痕跡かもしれないという位置づけであること、2つめは Sox2 が出ているのは歯堤であって次の歯を作る先端(後続歯堤の自由端)ではなく比較した5種のうちヒョウモントカゲモドキを除くすべてで自由端は陰性だったこと、3つめは Handrigan と Richman の2本と Buchtová ら2008年は著者が重なる同じ研究室の仕事で独立の追試ではないこと。

形は63種の中で「鋭く・長く・ほぼ直線」の側です

Segall ら(2023年、Ecology and Evolution 13巻4号 e10011)は、ヘビ63種の下顎の歯を micro-CT で撮り、3D の形態測定で比べました。食べているものの硬さ・獲物の形・狩る場所・「噛むときの主な力学的な課題」の4つが、形にどう効いているかを調べた研究です。

全体の結論は要旨にあります。

「全体として、長く、細く、湾曲し、硬組織の層が薄い歯は、獲物をつかんで保持し続ける必要のある種で見られる。短く、頑丈で、湾曲が小さい歯は、高い負荷や繰り返しの負荷を受ける種と結びついている」

そして考察の冒頭に、ボールパイソンが名前で出てきます。

「ボールパイソン(Python regius、図4)の鋭く、長く、ほぼ直線の歯から、キングコブラ(Ophiophagus hannah、図4)の丸く、かさばった、ほぼ平らな歯まで、ヘビの下顎歯の形態的な多様性は、文献から見えてくるものよりはるかに大きい」

つまり63種を並べたときの「鋭く・長く・ほぼ直線」の側の例として、この種が挙げられているということです。

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測られたのは1種につき1個体の、しかも1本だけです

方法の節(2.1)にこうあります——「Python regius の歯だけは中央の切片ではなく下顎の最初の歯だった(ただしこれを標本から除いても統計の結果はほとんど変わらなかった)」。ほかの種は下顎の中央あたりの歯を1本ずつ使っていて、この種だけが前端の1本です。

別の場所——考察の末尾の限界の段落——には、「1種につき1本の歯、1種につき1個体に絞った研究である」こと、そして「ヘビは同歯性だと考えられているが、…いくつかの種は、1本の骨の上でさえ、形はともかく大きさに大きな変異を示す」ことが書かれています(後者は他の論文を引いた一般的な但し書きで、原文は「形はともかく大きさ(size, if not shape)」)。「鋭く・長く・ほぼ直線」を、この種のすべての歯に広げないでください。

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この種がどちらの型に分類されたかは、本文に書かれていません

この論文は結果を2つの型にまとめています——「長く、細く、強く湾曲し、硬組織の層が薄い歯」(獲物をつかむ必要のある種)と、「短く、頑丈で、より直線的で、硬組織の層が厚い歯」(高い負荷を受ける種)。

ボールパイソンは「長い」と「ほぼ直線」をあわせ持っていて、どちらに入れられたかは本文に書かれていません(種ごとの分類は付録データに入っていますが、今回は付録を確認していません)。つかんで保持するという使い方そのものは締めつけと飛びつきの記事で扱った飛びつきと締めつけにつながりますが、この論文がこの種をそちらの群に分類したかどうかは、本文からは読めません。

本数は、医学系のデータベースでは見つけられませんでした

冒頭に引いた噛みつきの記事の「約100本ほどの歯があると言われています」について、確かめようとした範囲を書いておきます。2026年11月6日に行った探索です。

  • PubMed で "Python regius" を検索して得られる197件の題名を全部見ました。このうち歯を主題にしているのは、上に挙げた発生の3本(Handrigan & Richman の2本と Buchtová ら 2008年)だけです
  • この197件には、Kavková ら 2022年・Segall ら 2023年・Gaete & Tucker 2013年・Juuri ら 2013年のどれも入っていませんでした。この4本は、次の全文検索で見つけたものです
  • Europe PMC の全文検索で "Python regius" AND tooth(21件)、"Python regius" AND teeth(41件)、"Python regius" AND "dental formula"(1件・無関係)、"Pythonidae" AND "maxillary teeth" AND count(1件・無関係)を引きました
  • ニシキヘビ科の分類の総説(ZooKeys 2010年の注釈付きチェックリスト)も開きました。上顎や歯骨の歯の数は「少ない」という形で検索表の識別形質に使われていますが、Python regius の項に歯の数はありません
  • 全文が読めた4本(Kavková ら 2022年・Segall ら 2023年・Gaete & Tucker 2013年・Juuri ら 2013年)を本文で検索しました。ボールパイソンの口ぜんたいの歯の総数を示す記載は、見当たりませんでした(コーンスネークの培養で歯の芽の数を数えた箇所はありますが、それは別の種の、培養した組織の中の数です)

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ここで引いたのは、医学・生命科学の論文データベースです

歯の数(歯式)は、もともと骨学や分類の記載に載る種類の数値です。PubMed と Europe PMC は医学・生命科学の論文を集めたデータベースなので、そもそも載りにくい場所を探したことになります。

つまりこの章が言えるのは、「この2つのデータベースの範囲では見つけられなかった」までです。「100本ではない」とは言っていません。飼育書・図鑑・骨学の記載に数字がある可能性は、そのまま残ります。

あわせて、本数を言うには数える条件を先に決める必要があります。「歯」にどこまで含めるかで、答えは変わります——口の中に立っている歯だけを数えるのか、あごの中で育っている交換歯も入れるのか。上あごの2種類の列を左右で数えるのか。前上顎骨の歯を入れるのか。そして、ある個体の歯の数が時間とともにどう変わるのかは、今回の資料では測られていません。

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既存記事は、この記事からは触っていません

噛みつきの記事の本数の記述は、この記事を出すにあたって書き換えていません。修正するかどうかは当店で検討します。

この章を置いたのは、当店のサイトの中でこの数字の出どころが示されていないことを、読者に分かるようにするためです。

飼育の側から見ると、効いてくるのは3か所

① この種は、歯が入れ替わりつづける作りです。上で引いた論文が、ヘビを含む多換歯性の爬虫類について「機能している歯が絶えず失われて交換歯が伸びてくる」と書いています。ただしこれは発生の性質についての記述で、「飼育下で抜けた歯を見つけたときにどう判断するか」を書いたものではありません。目の前の1本が生理的な交換で抜けたのか、けがや病気で抜けたのかを分ける資料は、今回見つけていません。「交換もあるから大丈夫」と読まないでください。判断は外から分かる変化(腫れ・口の閉じ方・食べ方)で行い、迷ったら受診してください。日々の観察で何を見るかは健康チェックの記事にまとめてあります。

② 口の中は、自分で開けて確かめないでください。マウスロット(口内炎)の記事に書いたとおり、器具で口を開けるのは獣医師が診察で行う操作です。無理に開かせることが歯や粘膜に何をするかを測った資料は、今回見つけていません。それでも、そこを自分で試さないでください。器具で口を開けるのが診察の手順だという点には、出典があります——選び方の記事が Merck を引いて、「口はプラスチック製または木製のスパチュラを使って優しく開けることができる」が獣医師の身体検査の手順であることを書いています。

③ 噛まれたときの対処は、この記事の資料では決められません。噛みつきの記事は「もし、ボールパイソンが噛みつき、すぐに離さない事があった場合は、無理に引き離そうとせず、ボールパイソンが離してくれるまで待つ方がいいと思います」と書き、続けて「無理に離したとしてもそんなに影響はないと思いますが、びっくりして思いっきり引っ張ったりすると、ボールパイソンの顎の骨や歯に負荷がかかる可能性があるので注意しましょう」としています。今回集めた資料は歯の形と付き方を記述したもので、ヒトが噛まれたときの外し方を比べた研究ではありません。この記事から対処法の根拠を足すことはできない、というのが正確なところです。

傷そのものの扱いには、公衆衛生の資料があります。子どもがいる家庭でボールパイソンを飼う記事に、CDC の「直ちに温かい石けん水で傷を洗うこと」と、受診すべき場面の一覧を引いてあります。同じ記事は、その一覧に「条件に当てはまらないから様子を見てよい、という読み方はできません」という注意を付けています。

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当店の中に、2つの書き方が並んでいます

噛みつきの記事は「また、噛まれた箇所はよく洗い、消毒するようにしましょう」と書いています。いっぽう CDC が書いているのは「直ちに温かい石けん水で傷を洗うこと」までで、消毒には触れていません。

この記事は、出典のあるほう(CDC)を先に置きます。既存記事の記述は、この記事からは書き換えていません。

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病院に行く線は、この記事で引き直しません

マウスロット(口内炎)の記事が挙げている5つを、そのまま置きます。

・口のまわり・顎の下が腫れている、左右で違う
・口を閉じきらない
・口から粘った分泌物が出ている、床材につく
・餌を咥えてから落とす、食べない状態が続いている
・安静時にも口を開けて呼吸している、呼吸が苦しそう——これは速やかに爬虫類を診られる病院へ連絡してください(見るべき点は呼吸器感染症の記事にあります)

どれも口を開けずに外から分かる変化です。口の中の感染が顎の骨まで届くこと(骨髄炎)、誤嚥から肺炎につながることも、マウスロット(口内炎)の記事にあります。

まとめ

  • 並び——歯は上あごに2列、下あごに1列(列の種類を数えた言い方)。尖りは1つで、後方へ湾曲している。ただしこれは、種を選んだ理由を説明する段落の記述で、同論文はこの種について列を数えた図も表も出していない。付着の文の末尾には先行文献の引用番号が付いている(Kavková ら 2022年)。前上顎骨(上あごの先端)の歯は、パイソンの歯の発生を調べた研究が前提にしているが、その記述がどの種の観察かは要旨からは決められない(Buchtová ら 2008年・要旨のみ)
  • 付き方——側生歯(歯が骨の側面に付く型)で、あごの全長で同じ型。同論文の導入は、生涯歯を交換する爬虫類ぜんたいについて「より丈夫でない(less robust)」付着が、機能している歯の絶えまない脱落と交換歯の成長を成り立たせる、と説明している。ボールパイソンの付着の強さを測った値ではない
  • 交換——生涯続く(多換歯性)。様式はヒトと同じで、歯堤の先端から順に芽生える(Handrigan & Richman 2010年・要旨のみ)。「次の歯が抜ける前からあごの中に在る」像を直接見せているのは、新生仔コーンスネークの micro-CT(Gaete & Tucker 2013年・別種)
  • 順序——コーンスネークで Wnt を全体に効かせると順序が失われた。著者らは、上皮の区画が順を追った配置に決定的であることを「示唆する」と書いている(Gaete & Tucker 2013年・別種)。「歯堤が伸びることで順序が保証される」という説明には、原文で「おそらく」が付いている
  • 合図——後続歯堤を作らせる合図は、今回確認した資料では決まっていない。Shh がその役ではないことは2本が結論しているが、どちらも同じ研究室の仕事で、独立の追試ではない。またヘッジホッグ経路は、交換の段階で Wnt を閉じ込める役として提案されている——「交換に関係ない」ではない
  • 哺乳類との関係——歯堤の目印 Sox2 は、ボールパイソン(産卵後60日の胚)でも、フェレット・ヒト・マウスでも歯堤に出ていた。ただし出方は同じではない——哺乳類は舌側に偏り、ヘビは歯堤の両側で同等だった。マウスは歯を交換せず、大臼歯が後ろへ追加されるときに同じ目印が出る(舌側の小さな芽は後続歯堤の痕跡「かもしれない」という位置づけ)。著者らは「哺乳類に連続的な更新の能力が休眠した形で存在する」という仮説を支持すると書いている(Juuri ら 2013年)
  • 形——63種の比較で「鋭く・長く・ほぼ直線」の側の例として名前が挙がる。ただし測られたのは1種につき1個体の、下あごの1本目だけ。どちらの型に分類されたかは本文には書かれていない(付録は未確認。Segall ら 2023年)
  • 本数——PubMed と Europe PMC の範囲では、数えた資料を見つけられなかった。歯式はもともと骨学や分類の記載に載る数値なので、探した場所が合っていない可能性がある。当店の既存記事にある「約100本」は、否定も肯定もできていない
  • 飼育——この種は歯が入れ替わりつづける作りだが、目の前の1本が生理的な交換で抜けたのか、けがや病気で抜けたのかは、この資料では区別できない。口は自分で開けない。噛まれたときの対処は、この記事の資料では決められない——傷の扱いは CDC を引いた子どもがいる家庭でボールパイソンを飼う記事、受診の線はマウスロット(口内炎)の記事のまま

参考にした資料

「」でくくった引用は、いずれも英語の原文からの当店の訳です。

ボールパイソンを名指しした資料

  • Kavková M, Šulcová M, Zikmund T, Pyszko M, Kaiser J, Buchtová M. 「X-ray microtomography imaging of craniofacial hard tissues in selected reptile species with different types of dentition」 GigaScience. 2022;11:giac016.(全文確認)毒のないヘビの代表として Python regius を選んだ理由、「単尖の鋭い形をした単純な歯が、パイソンの顎のより深いところへ向かって後方へ湾曲している。クサリヘビ類と同様に、それらは上顎では2列、下顎では1列に配置されている」、「その多換歯性の歯列は、顎の全長にわたって側生歯型の歯の付着と結びついている」——引用番号 10・16・17 が付いているのは、このうち付着の文(2つめ)の末尾だけです。導入の「機能している歯が絶えず失われて交換歯が伸びてくることを成り立たせるために、歯の付着の型がより丈夫でない」(引用番号 2・9〜12)、カメレオンとの対比(引用番号 7)、口蓋をつくる骨の塗り分け(前上顎骨・鋤骨・口蓋骨・翼状骨・外翼状骨)
  • Handrigan GR, Richman JM. 「A network of Wnt, hedgehog and BMP signaling pathways regulates tooth replacement in snakes」 Developmental Biology. 2010;348(1):130–141.(要旨のみ確認。購読者限定で全文を参照できていません)「この種は生涯にわたって歯を交換し(多換歯性)、しかもヒトと同じやり方で、すなわち歯堤の先端から歯が順に芽生えることによって交換する」、Lef1 と Axin2 が歯堤の先端と周囲の組織で持続的に発現、Wnt を歯堤に閉じ込めると歯堤は厚くならずに伸びた、「おそらく、歯堤が伸びることで次々の歯の芽のあいだに場所ができ、歯の交換が順序だって起こることが保証されているのだろう」、「伸びている歯堤の先端の Wnt 陽性の細胞は、歯堤の舌側面に収まっていると推測される幹細胞の、直接の子孫であると我々は提案する」、「ヘッジホッグのシグナルが…歯の交換の段階では歯の間葉の BMP の量を負に制御することによって、歯の上皮の中の Wnt の活性を閉じ込めている、と我々は示唆する」
  • Handrigan GR, Richman JM. 「Autocrine and paracrine Shh signaling are necessary for tooth morphogenesis, but not tooth replacement in snakes and lizards (Squamata)」 Developmental Biology. 2010;337(1):171–186.(要旨のみ確認。購読者限定)ヒョウモントカゲモドキ・Python regius・フトアゴヒゲトカゲの3種で Ptc1 の発現を調べ、Shh が歯の芽の正常な形づくりに必要であることを示した。「後続歯堤の形成における Shh シグナルの役割を決定的に否定し、有鱗目では他の経路が歯の交換を制御していると結論する」
  • Buchtová M, Handrigan GR, Tucker AS, Lozanoff S, Town L, Fu K, Diewert VM, Wicking C, Richman JM. 「Initiation and patterning of the snake dentition are dependent on Sonic hedgehog signaling」 Developmental Biology. 2008;319(1):132–145.(要旨のみ確認。購読者限定)「発生中のヘビの歯列における細胞動態と分子シグナルを、ここで初めて見る」、「ヘビの歯の大多数は、別々の歯胚としてではなく、深くリボン状の歯堤から芽生える」、Shh をアフリカニシキヘビ(Python sebae)からクローニングし、「近縁の Python regius」とコーンスネークでも発現を追跡、「Shh は歯の芽の内エナメル上皮と星状網には発現しているが、外エナメル上皮とその派生物である後続歯堤には無い」、「交換歯の形成には Shh 以外の信号が責任を負っていることを示唆する」、「口の他の場所よりも口腔の表面に近いところで形成される前上顎骨の歯」
  • Segall M, Houssin C, Delapré A, Cornette R, Herrel A, Milgram J, Shahar R, Dumont M. 「Armed to the teeth: The underestimated diversity in tooth shape in snakes and its relation to feeding behavior and diet」 Ecology and Evolution. 2023;13(4):e10011.(全文確認)ヘビ63種の下顎歯を micro-CT と3D形態測定で比較。「長く、細く、湾曲し、硬組織の層が薄い歯は、獲物をつかんで保持し続ける必要のある種で見られる。短く、頑丈で、湾曲が小さい歯は、高い負荷や繰り返しの負荷を受ける種と結びついている」、考察冒頭の「Python regius の鋭く、長く、ほぼ直線の歯から、キングコブラの丸く、かさばった、ほぼ平らな歯まで」、「それらはすべて円錐形で、鋭さの程度はさまざまだが、——程度の差はあれ——後方かつ内側に湾曲している」、「湾曲はまた、獲物が歯の上を滑って口の中へ入ることを可能にし、後ろ向きに動けば突き刺さるようにして、逃走を防いでいるのかもしれない」、方法の節(2.1)の「Python regius の歯だけは中央の切片ではなく下顎の最初の歯だった(ただしこれを標本から除いても統計の結果はほとんど変わらなかった)」。考察末尾の限界の段落の「1種につき1本の歯、1種につき1個体に絞った研究である」および「ヘビは同歯性だと考えられているが、…いくつかの種は、1本の骨の上でさえ、形はともかく大きさに大きな変異を示す」
  • Juuri E, Jussila M, Seidel K, Holmes S, Wu P, Richman J, Heikinheimo K, Chuong CM, Arnold K, Hochedlinger K, Klein O, Michon F, Thesleff I. 「Sox2 marks epithelial competence to generate teeth in mammals and reptiles」 Development. 2013;140(7):1424–1432.(全文確認)「我々は、3種のトカゲ類(アメリカアリゲーター・グリーンイグアナ・ヒョウモントカゲモドキ)と、2種の毒のないヘビ(ボールパイソン Python regius とコーンスネーク Elaphe guttata)を、歯の連続的な交換のモデルとして用い、Sox2 の局在を調べた。すべての種で、Sox2 は歯を口の上皮とつないでいる歯堤に発現していた」、「孵化前のヘビでは、口蓋の歯と縁の歯の、鏡像の関係にある列を調べた」、「哺乳類とは対照的に、染色は歯堤の両側で同等だった」、「その舌側の面は、すべての種で強い Sox2 の発現を示したが、唇側の発現は哺乳類では見られなかった」、「マウスは歯を交換する能力を失っているが、その後方の大臼歯は、他の哺乳類と同じように続けて発生する」、マウスの舌側の芽は「大臼歯の交換歯のための後続歯堤の痕跡を表しているのかもしれない」、「Sox2 の発現パターンは、哺乳類に歯の連続的な更新の能力が休眠した形で存在するという仮説を支持する」。ボールパイソンの標本は産卵後60日の胚

別のヘビで調べられた資料

  • Gaete M, Tucker AS. 「Organized emergence of multiple-generations of teeth in snakes is dysregulated by activation of Wnt/beta-catenin signalling」 PLOS ONE. 2013;8(9):e74484.(全文確認。材料はコーンスネーク Pantherophis guttatus)新生仔の下顎の micro-CT で、機能している歯の内側に交換歯が写っている(図1B)。顎の切片培養では「18日の培養期間に、順を追った歯の新しい世代が3つから4つ発生した」、Sox2 は歯堤に・Lef1 は後続歯堤に発現、Wnt/β-カテニンを活性化すると歯の芽の数は増えるが「後続歯堤から順序だって出るのではなく、歯堤に沿った位置の異常なところから芽生えた」、Lef1 の発現域が広がって局在が失われ、Sox2 の領域が押し縮められたこと。導入の「多換歯性、すなわち歯を連続的に更新する能力は、両生類・魚類・爬虫類を含むほとんどの脊椎動物で見られる。しかしこの能力は、ほとんどの哺乳類で進化的に失われ、二換歯性(2組の歯を持つ。ヒトなど)あるいは一換歯性(1組の歯。マウスなど)に限られている」、「再生能力の縮小は、歯の本数と、歯の複雑さ・大きさとのあいだのトレードオフに関連づけられてきた」
  • Schleip WD, O'Shea M. 「Annotated checklist of the recent and extinct pythons (Serpentes, Pythonidae), with notes on nomenclature, taxonomy, and distribution」 ZooKeys. 2010;(66):29–80.(全文確認)本数の探索で開いたもの。上顎や歯骨の歯の数は「少ない」という形で属の検索表に使われているが、Python regius の項に歯の数の記載はない

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