ボールパイソンの腹側の鱗が、1枚だけ茶色くなっていたとします。あるいは小さな水ぶくれ。あるいはかさぶたのような盛り上がり。
飼育者のあいだでは、こういうとき「スケールロット」という言葉が使われます。多湿と不衛生で起きる皮膚の病気、という理解とセットになっていることが多い言葉です。
その理解は、出発点としては当たっています。Merck 獣医マニュアルも「潰瘍性皮膚炎(scale rot)は、過度の湿度と水分がある不衛生な条件で飼育されたヘビやトカゲに起こる」から書き出しています。ただし、そのあとにこう続きます。「病変はしばしば皮膚の損傷の後に続くものだが、ボールパイソンの古典的な壊死性皮膚炎のように、内側から発生することのほうが多い。この病気は、動物が非のうちどころのない環境で維持されていても発生しうる」。
そして同じ見た目になりうるものが、少なくとも3つありました。細菌性の潰瘍性皮膚炎、真菌症、そして軽度の熱傷です。同じ Merck が「低度の熱傷は、液体の溜まった小水疱が生じうるためにブリスター病に似ることがある」と書いています。
この記事は、ボールパイソン(Python regius)を名指しした報告と獣医マニュアルの記述から、飼い主が家で確定できるものと、できないものを整理します。読んでも「これはスケールロットです」と家で言えるようにはなりません。そのかわり、病院に行くまでに何をして、何をしないかは決まります。
目次
鱗の病変は、家で様子を見る所見ではありません
この記事は、何が確定できて何が確定できないかを資料で整理するためのものです。病変の種類を家で見分ける方法を書いたものではありませんし、塗る・剥がす・薬を使うの判断材料にもなりません。
赤み・水疱・ただれ・鱗の変色・かさぶたのような盛り上がりが見えたら、爬虫類を診られる動物病院に連絡してください。すでに受診していて外用薬などの指示が出ている場合は、この記事を読んで自分で中断しないでください。
この記事が答えるのは「何が確定できないか」です
ボールパイソンの鱗に、見慣れないものが出たとします。腹側の鱗が1枚だけ茶色い。小さな水ぶくれがある。かさぶたのような盛り上がりができている。
こういうとき、飼育者のあいだでは「スケールロット」という言葉がよく使われます。多湿と不衛生で起きる皮膚の病気、という理解とセットになっていることが多い言葉です。
この理解は、出発点としては当たっています。Merck 獣医マニュアルも「潰瘍性皮膚炎(scale rot)は、過度の湿度と水分がある不衛生な条件で飼育されたヘビやトカゲに起こる」から書き出しています。ただし、その先がありました。そして同じ見た目になりうるものが、少なくとも3つありました。
- 細菌性の潰瘍性皮膚炎(scale rot)。ただしMerck 獣医マニュアルは、病変は皮膚の損傷の後に続くことより内側から発生することのほうが多く、ボールパイソンの古典的な壊死性皮膚炎がその例であること、そして非のうちどころのない環境でも起こりうることを書いています
- 真菌症。ボールパイソン6匹の症例シリーズでは、疑われた菌と実際の菌が違いました(Keller ほか 2025年)。著者らは「臨床徴候とコロニーの形態だけでは属も種も決められない」と結論しています
- 軽度の熱傷。床面加温による低温やけどもここに入ります。同じ Merck が「低度の熱傷は、液体の溜まった小水疱が生じうるためにブリスター病に似ることがある」と書いています
この記事は、ボールパイソン(Python regius)を名指しした報告と、獣医マニュアルの記述を使って、ここを整理します。最後まで読んでも「これはスケールロットです」と家で言えるようにはなりません。そのかわり、病院に行くまでに何をして、何をしないかは決まります。
この記事が扱わないもの
脱皮に関わる皮膚の話は別の記事にあります。皮が残った・目のふたが残ったは脱皮不全の記事、脱いだ殻の読み方は脱皮殻の記事です。
また、UVランプで皮膚と目を焼いた症例(Gardiner ほか 2009年)は照明と紫外線ライトの記事に出典付きで載せてあります。この記事では繰り返しません。

鱗の病変で候補になる3つ。資料の名前と、その資料が何と書いているかを並べました
名前の整理|スケールロット・ブリスター病・潰瘍性皮膚炎
この節で引く Merck の記述のうち、定義と「ブリスター病は初期段階」までは、当店の水入れに浸かる行動の記事でも引いています。この記事で足すのは、その先にある「内側から」「清潔でも」の部分です。
最初に言葉を揃えます。Merck 獣医マニュアルの「爬虫類の細菌性疾患」の章は、この病気をこう書き出しています。
「潰瘍性皮膚炎(scale rot)は、過度の湿度と水分がある不衛生な条件で飼育されたヘビやトカゲに起こる。湿って汚染された床材は細菌と真菌の増殖を許し、それが糞の分解産物への曝露や不適切な床面加温による皮膚の損傷と組み合わさると、ヘビやトカゲに小さな皮膚のびらんを起こしやすくする」
つまりスケールロットは俗称で、資料の側の名前は「潰瘍性皮膚炎」です。英語の文献では necrotic dermatitis(壊死性皮膚炎)とも書かれます。同じ章は所見を「紅斑、壊死、真皮の潰瘍、そして滲出性の分泌物」とし、二次感染について「Aeromonas 属、Pseudomonas 属、その他多数の細菌による二次感染は、治療しなければ敗血症と死に至ることがある」と続けています。
ブリスター病は別の病気ではなく、初期段階だと書かれています
水ぶくれができる状態を指して「ブリスター病」と呼ぶことがあります。同じ章は、これを別の病気として扱っていません。
「ブリスター病は従来、別個の疾患と考えられてきたが、単に潰瘍性(壊死性)皮膚炎の初期段階である。皮膚の病変は膿疱または水疱を特徴とし、治療を早く始めれば潰瘍性の病変に進まずに消退することがある」
ここは2つの意味を持ちます。水疱の段階で見つければ、潰瘍にならずに済むことがある——これが早く気づく価値です。いっぽうで「水疱だからまだ軽い」ではありません。同じ連続した病気の、早い時点を見ているだけです。
軽度の熱傷が、ブリスター病に似ることがあります
そしてこの直後に、見分けの話が来ます。
「低度の熱傷は、液体の溜まった小水疱が生じうるためにブリスター病に似ることがある」
原文は a low-grade thermal injury、つまり低度(軽度)の熱傷です。日本語の「低温やけど」——低めの温度に長く触れて起きるやけど——はここに含まれうる代表例ですが、Merck の文がそれだけを指しているわけではありません。当店はパネルヒーターの記事とサーモスタットの記事で、低温やけどが「熱くない温度」で時間をかけて進むことを書きました。軽い熱傷でできる水疱が、細菌性の皮膚炎の初期と似る——これが Merck の書き方です。
だから「原因を特定してから病院に行く」をしないでください
水疱を見つけたとき、飼い主ができるのは「ヒーターの設定とセンサーの位置を確認する」「床材の底が濡れていないか見て、濡れていれば乾いた清潔なものに替える」までです。そのどれかを直したから病変の正体が決まる、ということはありません。
熱傷だったとしても、Merck は二次合併症として「体液の喪失、脱水、そして二次的な細菌または真菌の感染」を挙げています。「やけどだから様子を見る」も成り立ちません。
「多湿と不衛生だけ」ではありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。上で引いた「不衛生で過度の湿度」の文のすぐあとに、同じ章はこう書いています。
「病変はしばしば皮膚の損傷の後に続くものだが、ボールパイソンの古典的な壊死性皮膚炎のように、内側から発生することのほうが多い。この病気は、動物が非のうちどころのない(pristine)環境で維持されていても発生しうるので、単に水分が過剰で衛生が悪いというだけの問題ではない」
この文は、ボールパイソンを名指ししています。爬虫類全般の一般論の中に、この種の名前が出てくる数少ない箇所のひとつです。
鱗への出血から始まり、膿疱を経て潰瘍になります
同じ章が、経過を3段階で書いています。
① 鱗への出血原文は hemorrhage into scales。鱗そのものは角質化した構造なので、硬い鱗の中に血が入るという意味ではなく、鱗の下や周囲の皮膚で起きた出血が、外から鱗の赤み・点状の色の変化として見える状態と読むのが自然です(原著の病理学的な意図まではここでは確かめられていません)
② 膿疱原文は pustules。この3段階の経過として書かれている語は膿疱です。ただし Merck は別の箇所で、ブリスター病の初期病変を「膿疱または水疱」と説明しています。実際に見えるものには水疱も含まれます
③ 開放した潰瘍性の病変原文は open and ulcerated lesions。ここまで来ると、皮膚の下が外気に触れています
そして処置として「デブリードマン(壊死組織の除去)と、全身性の抗菌薬・局所の抗菌軟膏による治療、そして優れた衛生と飼育管理が不可欠である」と書かれています。デブリードマンも全身性の抗菌薬も、家でできることではありません。
それでも、素因のリストは同じページに載っています
「清潔でも起こる」は、「環境を整えても無駄」という意味ではありません。Merck が挙げている素因は、そのまま飼育で動かせる項目です。
- 湿って汚染された床材——床材の記事と掃除の記事
- 糞の分解産物への曝露——排泄物を見つけたらその都度取る(掃除の記事の「毎日やる2つ」)
- 不適切な床面加温(unscreened floor heating)——パネルヒーターの記事の直置きと隙間、サーモスタットの記事のセンサー位置
Merck がボールパイソンの症例写真に添えているキャプションも「高い湿度や濡れ、不衛生、そして覆いのない床面加温が、しばしば爬虫類に潰瘍性皮膚炎を起こしやすくする」です。リスク要因であることと、それだけで決まることは別です。
皮膚病変で大学病院に来た爬虫類301例
皮膚の病変で病院に来た爬虫類には、どんな背景があったのか。2つの大学動物病院の記録を 1992年から2008年までさかのぼった研究があります(White ほか 2011年・Veterinary Dermatology)。対象は皮膚病変で受診した爬虫類301例です。
先に2つ書いておきます。1つは、この節は公開されている要旨で確認できる範囲に限って整理していること(本文は有料で、今回は閲覧していません)。もう1つは、これは発生率を調べた研究ではないことです。大学病院に来た症例の構成を見たもので、紹介されてくる重い症例に寄ります。「皮膚の病変がどれくらいありふれているか」は、この研究からは分かりません。
ボールパイソンは、この集団で多いほうでしたカリフォルニア大学デービス校の側では、「ボアコンストリクター、ボールパイソン(Python regius)、そして他のパイソン属の種が過剰に代表されていた(over-represented)」。逆にハコガメは少なめでした
3割から6割に、飼育環境の問題がありました「施設と爬虫類のグループによって、29%から64%の症例に飼育環境上の問題(husbandry issues)が背景にあった」
最終時点で生存していたのは62%「全症例の62%が最終状態で生存していた」。残りの38%の内訳(死亡・安楽死・転帰不明)は、公開されている要旨からは分かりません。そのまま死亡率として読むことはできません
点状出血と敗血症「両施設のデータを合わせると、敗血症が確定または疑われた爬虫類すべてのうち47%に点状出血があった」(カメ類では82%)
「ボールパイソンは皮膚が弱い」と読まないでください
この研究が数えているのは来院した症例の構成比です。ある種が多く飼われていれば、その種の症例も多く出ます。著者らの結論の書き方も「ボアコンストリクターとパイソン属の種は、皮膚病変の素因を持つかもしれない(may be predisposed)」という形で、断定していません。
点状出血と敗血症についても、著者らは「特定の皮膚病変と敗血症のあいだの推測的な(conjectural)関連は、両者の因果関係を示す体系的に導かれたデータによって確認されるべきものとして残っている」と、自分で限定を付けています。点状出血があれば敗血症、ではありません。
それでも、飼い主の側に残るものはあります。3割から6割に飼育環境の問題が見つかったという数字と、皮膚の病変は命に関わりうるという事実です。
真菌のほうは、見た目とコロニーの形態だけでは属も種も決まりません
ここから真菌の話が長くなりますが、頻度が高いという意味ではありません。見た目で細菌性の皮膚炎や熱傷と分けにくいうえ、検査のしかたで名前が変わることがあるので、長く扱います。
ヘビの真菌性の皮膚病というと、近年はオフィディオマイコーシス(ophidiomycosis、通称「ヘビ真菌症」/SFD)の名前が出てきます。原因菌は Ophidiomyces ophidiicola(Merck の表記は O. ophiodiicola。綴りは後述)です。
Merck の「爬虫類の真菌性疾患」の章は、この菌を「北米のヘビにおける大きな懸念として認識されている」とし、「2009年に初めて特徴づけられ、ヘビには痂皮性の皮膚炎(crusting dermatitis)が生じ、しばしば頭部のまわりに分布する。より深い組織への侵入も起こりうる」と書いています。
ボールパイソン6匹は、別の菌でした
2025年に、ボールパイソンの症例シリーズが出ました(Keller ほか 2025年・Medical Mycology Case Reports)。経過はこうです。
0日目|発端はボールパイソンではありませんでした野生捕獲の幼体のセントラルアメリカンボア(Boa imperator)が、全身に多発性の潰瘍性の皮膚病変。輸入されたばかりで、複数種の爬虫類を飼育する繁殖施設の検疫室に、他の新規輸入個体と一緒に置かれていました。体格は不良、ダニの寄生があり、右の眼鏡鱗の下に膿瘍。安楽死の判断がなされています
0日目|疑われたのはオフィディオマイコーシスでした組織の中の真菌の形態と、宿主がヘビであることから、第一の臨床的鑑別は O. ophidiicola の感染でした
7日目|同じ部屋の別ケージのボールパイソン6匹飼育下繁殖の幼体6匹(体重 71〜127g)。発端の個体とは別のケージでしたが同じ部屋でした。7日以内に同様の病変(多発性の肥厚した痂皮、一部に潰瘍)が進行しています。それまで皮膚病変は無かったと記録されています
7日目|分子診断の答えは別の菌でした6匹のプール検体の次世代シークエンシングで、Nannizziopsis arthrosporioides(相対菌量 99.5%)を検出。他の真菌の DNA は出ませんでした。発端のボアでも同じ菌が 99.85% でした。6匹は、さらなる拡大を防ぐために安楽死しています
著者らの結論は、名前の付け方の話です。
「この症例は、真菌の正体を解明するために分子的な検出手法が重要であることを示している。臨床徴候とコロニーの形態だけでは、Nannizziopsis・Paranannizziopsis・Ophidiomyces の属や種を決めるには十分ではない」
病理組織では、潰瘍と漿液細胞性の痂皮、そして真皮へ、場合によってはその下の骨格筋にまで及ぶ炎症が見られました。いっぽう全身性の炎症の所見は無く、内臓の病変は脂肪の萎縮と軽度の肝細胞空胞化にとどまっています。全身性の炎症が目立たなくても、皮膚の病変は深部まで及んでいました。
この記録のいちばん実用的な部分は「検疫室の別ケージ」です
発端の個体は検疫室にいました。ボールパイソン6匹は別のケージでした。それでも7日以内に、同じ病変が6匹に出ています。
ただし、この症例シリーズは伝播の経路を証明したものではありません。著者らの書き方も「発端の個体が施設に真菌を持ち込み、同じ検疫室に収容されていたボールパイソンが曝露したと疑われる。それまで皮膚病変が無かったと記録されているためである」です。共通の曝露源があった可能性も、器具や手を介した可能性も残ります。
当店の検疫の記事は、セルペントウイルスが空間を空けただけの別室で止まらなかった記録をもとに「別のケージではなく、別の部屋」と書きました。この症例シリーズは、同じ部屋の中でケージを分けていても、同じ病変が時間差で複数個体に出た例です。「ケージを分けるだけでは足りないことがある」という判断を補強します。
「ヘビはオフィディオマイセス、トカゲはナンニッツィオプシス」は崩れています
長いあいだ、この2つの属は宿主で住み分けていると考えられてきました。Nannizziopsis guarroi はフトアゴヒゲトカゲなどの「イエローファンガス病」の原因菌、Ophidiomyces ophidiicola はヘビの菌、という整理です。
2023年に、この境界を正面から試した実験が出ました(Gentry ほか 2023年・Applied and Environmental Microbiology)。52日間の相互接種実験です。
- フトアゴヒゲトカゲに O. ophidiicola を接種 → 60%が感染
- コーンスネークに N. guarroi を接種 → 100%が感染
著者らは「これらの真菌病原体が、これまで考えられていたよりも広い宿主域を持つこと、そして不顕性感染(cryptic infections)の宿主が病原体の移動と伝播に役割を果たしうることを示している」と書いています。
Keller らの症例シリーズも、同じ向きの事実をひとつ足しました。Nannizziopsis 属は古くからトカゲ類に感染すると報告されてきましたが、今回はヘビ2種(ボアとボールパイソン)の自然感染です。著者らは「ナンニッツィオミコーシスは、トカゲよりも広い宿主域で、場合によってはヘビを含むすべての爬虫類で疑われるべきである」としています。
「フトアゴの病気だからヘビは関係ない」も、その逆も成り立ちません
多種を同じ部屋で飼っている場合、種が違うことは分離の理由になりません。Keller らの症例でも、ボアの症例に続いて、同じ検疫室の別ケージにいたボールパイソン6匹に同様の病変が出ています(伝播経路が証明されたわけではありません)。
いっぽうで、「だから必ずうつる」でもありません。Gentry らの実験は 52日間の人為的な接種で、飼育下で自然にどれだけ伝播するかを測ったものではありません。
CANV という名前は、もう使いません
古い資料や販売店の情報には CANV という略号が出てきます。Chrysosporium anamorph of Nannizziopsis vriesii の頭文字です。Merck はこの語についてはっきり書いています。
「文献の多くでは、残念なことに、関与した真菌の種が当初 CANV と誤同定され、その結果混乱が生じた。CANV という用語は使われるべきでない」
整理をしたのは Sigler ら 2013年(Journal of Clinical Microbiology)で、爬虫類から得られた49株とヒト由来の6株を比較し、Nannizziopsis・Ophidiomyces・Paranannizziopsis の3つの系統に分けました。このとき O. ophidiicola は「ヘビにのみ出現する」とされています。上の Gentry らの実験は、その10年後にこの前提を試したものです。
綴りが2つあるのは、学名が変わったからです
Davy ら 2021年は「Ophidiomyces ophidiicola(旧称 "ophiodiicola")」と書いています。新しい論文は ophidiicola、2013年から2021年ごろまでの論文と Merck の現行ページは ophiodiicola です。同じ菌です。この記事では、引用の中は原文のまま、地の文では現在の ophidiicola を使います。
日本の飼育下でも、報告が出ています
ここまでは海外の話に見えるかもしれません。2021年に、アジアで初めてのオフィディオマイコーシスの報告が日本から出ています(Takami ほか 2021年・Journal of Veterinary Medical Science)。
対象は同一の飼育者が飼っていたナミヘビ科12匹です。ホグノーズ1匹、カリフォルニアキングスネーク1匹、メキシカンブラックキングスネーク2匹、グリーンヴァインスネーク1匹、コーンスネーク3匹、ブラックラットスネーク2匹、テキサスラットスネーク2匹。
飼育のしかた「1つの部屋の中で、床に紙を敷いた別々のプラスチックケージに入れられていたが、消毒はされていなかった」
発端は、購入した翌日でした2019年4月21日に購入された野生捕獲のグリーンヴァインスネークが、翌4月22日に発症。この個体は飼育者の記録の中で唯一の野生捕獲個体です
残り11匹は、6月から10月にかけてすべて国内の飼育下繁殖個体でしたが、2019年6月から10月にかけて次々に同様の皮膚病変を示しました
12匹のうち5匹が死亡うち3匹を剖検し、2匹から O. ophidiicola を分離。ITS 領域の配列が一致したことから、著者らは「同一の配列は、単一の分離株がこのアウトブレイクの源であったことを示唆する」と書いています。感染源そのものや、個体間の経路が特定されたわけではありません
どこで感染したのか著者らは「ヘビたちは、輸出業者または輸入業者の施設に収容されているあいだに感染を獲得した可能性がある」と書いています
鱗の色の変わり方が、原文に書かれています
この報告のいちばん実用的な部分は、死ぬ前に撮られた写真に付いた説明です。テキサスラットスネーク1匹(症例2)についての記述で、12匹に共通する所見としてまとめられたものではありません。
「鱗の変色(褐色化)。はじめは個々の鱗の縁が色を変え、次にしだいに鱗全体に及ぶ。変色がさらに進むと、首の皮膚でよりびまん性になる」
全体の所見としては、壊死した皮膚が「変色(黄色・淡褐色・赤色)し、濁り、もろく」なり、「容易に剥がれ落ち、皮膚の層のあいだに水疱の形成と液体の貯留が見られた」。そして数ミリの赤みを帯びた盛り上がった痂皮が多発し、背側と側面により目立っていたと書かれています。口の中に病変はありませんでした。
これは「見分け方」ではありません
上のうち、鱗の縁から始まるという記述は死亡前に撮られた写真の説明から、変色(黄色・淡褐色・赤色)し、濁り、もろくなるという記述は死亡した3匹の剖検所見から来ています。同じ見え方をする病変が細菌性の皮膚炎や軽度の熱傷でも起こりうることは、この記事の前半で見たとおりです。
使えるのは「鱗の縁の色から始まることがある」という気づき方のほうです。鱗が1枚まるごと変色してから気づくのでは、すでに進んでいます。
死亡した5匹は食欲不振、生き残った7匹は食欲が正常でした
この報告には、12匹それぞれの食欲と転帰の表が付いています。並べるとこうなります。
- 食欲不振と記録された5匹(グリーンヴァインスネーク、テキサスラットスネーク2匹、ブラックラットスネーク1匹、コーンスネーク1匹)——全員が死亡
- 食欲正常と記録された7匹——全員が生存
n=12 の観察で、因果ではありません
これは12匹の症例報告の表を並べただけです。食欲が落ちたから死んだのか、重症だったから食欲も落ちたのか、この報告からは分かりません。著者らも食欲を予後因子として分析してはいません。
それでも飼育の側に残るものはあります。皮膚に何か出ていて、かつ餌を食べなくなっているなら、その2つは別々の出来事として扱わないということです。当店の健康チェックの記事が毎日の観察と体重の記録を勧めているのは、この種の「並んで起きること」を拾うためです。

この記事が引いた4つの記録。対象の国も、飼育の形も、数え方も、研究ごとに違います
致死率の数字は、どの集団を数えたものか
オフィディオマイコーシスについては、10年分の研究をまとめ直したレビューがあります(Davy ほか 2021年・Frontiers in Veterinary Science)。査読論文33本と著者ら自身のカナダでの調査を合算した数字です。
- 飼育下のヘビ——121匹中36匹で診断または疑い。そのうち 66.7% が死亡
- 自由生活(野生)のヘビ——2,384匹中441匹で診断または疑い。その441匹のうち、死亡が直接観察されたのは43匹(9.8%)
この差をそのまま「飼育下だと重くなる」と読みたくなりますが、著者らが自分で3つの限定を書いています。
著者自身が付けている限定
① 「集計された死亡のうち24匹は、観察のために飼育下に持ち込まれて飼育下で死亡したヘビだった」。そして 66.7% の分母である36匹に対し、66.7% は24匹です。論文の書き方も「飼育下で飼われていた(または飼育下へ持ち込まれた)ヘビが関わる症例の 66.7%」で、すでに重症だった個体を治療・観察のために収容したケースが入っています。
② 「診断または疑いのあるヘビの報告された死亡はすべて、この病気によるものと仮定した。この仮定は、オフィディオマイコーシスの重症度の過大評価をもたらす可能性がある」。
③ 飼育と死亡の見かけ上の関連について、「飼育に伴うストレスが、病気の影響を悪化させうることを示唆する」としつつ、報告バイアス(飼育個体のほうが感染が見つかりやすく、重症例のほうが報告されやすい)の可能性も並べて書いています。
レビュー全体の結論も、慎重な向きです。著者らは「現在の証拠は、この病原体が新規の病原体ではなく、これまで認識されていなかった広く分布する在来のものであるという、以前の示唆を支持する」とし、10年の集中的な研究の期間に、病原体や病気の有病率が増加したという証拠は見つからなかったと書いています。
種によって違うという記述も資料にあります。ただし、ここで引きたくなる数字には注意が要ります。
Takami らは「O. ophidiicola は、株・宿主種・環境条件によって病原性の程度が異なり、米国東部のマサソーガのような一部のヘビの種では致死率が 90% 以上になる」と書いています。この「90%以上」の典拠まで降りると、Allender ほか 2018年の論文の序文にある1文で、原文は「Ophidiomyces が検出された個体の既知の転帰は、90% を超える死亡率を示している(未公表データ)」です。死亡率を測った研究の結果ではなく、皮膚の細菌叢を扱った論文の前置きに置かれた、未公表のデータです。
しかも同じ種について、Davy らは逆のことを書いています。「S. catenatus とヒガシインディゴスネークは、オフィディオマイコーシスに耐えているように見える」。種によって差があること自体は複数の資料が書いていますが、その差の大きさを数字で言える段階ではありません。
ペットのヘビをまとめて調べた報告は、まだ多くありません
では、家庭で飼われているヘビではどうなのか。今回当たった範囲で、個人の飼育者のヘビをまとめて調べた報告は1本でした。2026年のイタリアの予備的なスクリーニングです(Di Nicola ほか 2026年・Microorganisms)。
個人の飼育者32名が、10州・31種・97匹のヘビから非侵襲的な皮膚スワブを採取。リアルタイム PCR と ddPCR の2つの方法で調べた結果は、「採取時点で皮膚病変を示していた4匹の検体を含め、すべてのスワブが O. ophidiicola 陰性だった」でした。
著者ら自身がこれを結論とは呼んでいません。「より大規模で標準化された調査と、正式なアッセイの検証が必要であることを強調する」と書いています。97匹の陰性は、ペットのヘビにこの菌がいないことの証明ではありません。
ボールパイソンでの確定報告は、今回の範囲では見つかりませんでした
ここは正直に書きます。PubMed で "Python regius" を検索して出てくる197本のうち、O. ophidiicola の感染が確定したボールパイソンの報告は見つかりませんでした。この記事で引いた Keller らの症例でも、疑われはしましたが検出されたのは別の菌です。
ただし、「ニシキヘビ科では起きない」ではありません。2026年にオーストラリアから、自由生活の在来爬虫類10例の報告が出ています(Butcher ほか 2026年・Australian Veterinary Journal)。
- 10例のうち5例がコーストカーペットパイソン(Morelia spilota mcdowelli)で、この種から O. ophidiicola・N. barbatae・P. australasiensis が検出されています
- 臨床像は軽度から重度の皮膚炎で、二次的な転帰として脱皮不全・口内炎・やせ・瀕死が挙げられています
「報告が無い」と「起きない」は別です
当店は封入体病の記事でも、寄生虫の記事でも同じ書き方をしています。検索した範囲で見つからなかったということは、調べられていないのか、起きていないのか、起きても報告されていないのかを区別しません。
そしてこの記事の要点は、そこではありません。Keller らの6匹は、オフィディオマイコーシスではなかったのに、同じ部屋の別ケージで7日以内に同様の病変が確認されました。6匹は、ほかの爬虫類への拡大を抑える目的で安楽死されています。病気だけで自然に死んだ記録ではありません。このグループの真菌では、見た目やコロニーの形態だけで属・種まで決めるのは難しく、分子検査が要ります。
人にうつるのか
飼い主として気になるところなので、今回参照した資料で見つかった記述を並べます。全体としては、人への感染リスクは低いとする記述が中心でした。ただし、ゼロと書いている資料はありませんでした。
日本の分離株は、35℃で育ちませんでしたTakami らは「本分離株は35℃で生育しなかったため、ヒトや他の哺乳類への感染のリスクは小さい」と書いています。人の体温で育たない、という理屈です
2013年の整理では、宿主はきれいに分かれていましたSigler らは「ヒト関連の種は爬虫類から回収されず、爬虫類関連の種は爬虫類からのみ回収された。したがって人獣共通感染に関する懸念は軽減される」と結論しています
ただし、その後ヒトの症例が1件出ていますベネズエラの患者の舌の病変から分離され、長く Paracoccidioides brasiliensis とされてきた株が、ゲノム解析で N. arthrosporioides と再同定されました(Gerrits van den Ende ほか 2023年)。同論文は「Nannizziopsis の感染は多種多様な爬虫類で普通に見られるが、ヒトの感染ではとくに稀である」と書いています。Keller らはこの1件を引いて「この真菌は人獣共通として考えられるべきである」としています。なお、この患者に爬虫類との接触の記載はありません
実務としては、今回参照した範囲に、この真菌のために家庭で特別な対策を求めている資料はありませんでした。一般的な衛生——扱ったあとの手洗いと、病変に素手で触れないこと——は、すでに子どもがいる家庭の記事で書いたのと同じ内容です。幼い子ども・65歳以上・免疫機能が低下している人がいる家庭について、厚生労働省・CDC・ARAV が書いている線も、その記事にまとめてあります。この真菌について別の線を引いている資料は、今回の範囲では見つかりませんでした。
家で自己判断しないこと4つ
ここまでの資料から、そのまま出てくるものだけを書きます。いずれも「獣医師の指示なしに自分で判断して行う」ことについてです。すでに処方・指示を受けている処置は、自分で中断せず、病院に連絡して続けてよいかを確かめてください。
① 抗菌薬を自己判断で使わないMerck の真菌の章は、爬虫類が真菌症を発症する素因として「過度に高い湿度、低い環境温度、併発疾患、栄養不良、不適切な抗菌薬療法、その他のストレス要因」を並べています。さらに O. ophidiicola については「正常な皮膚のフローラが O. ophiodiicola の増殖を抑制するので、抗菌薬の使用が動物をオフィディオマイコーシスの発症へ傾けることがある」と書いています。皮膚の菌を減らすことが、別の病気の入口になりうるという書き方です
② 消毒薬や軟膏を自己判断で塗らないMerck が潰瘍性皮膚炎の処置として挙げているのはデブリードマン・全身性の抗菌薬・局所の抗菌軟膏で、この3つは獣医師が診断したうえで組むものです。何が起きているか分からないまま市販の消毒薬や軟膏を塗ると、病変の表面と皮膚の菌の構成が変わり、病院で検体を採るときの材料も変えてしまいます。当店のマウスロットの記事で「口をこじ開けない」と書いたのと同じ理由です。獣医師から処方された外用薬は別です。Merck は熱傷についても「多くのやけどは、患部の洗浄、局所抗菌薬の塗布、鎮痛薬の投与、そして清潔で乾いた環境に置くことで治療できる」と書いています。外用薬は、処方されたら自宅で続ける処置です。ここで止めているのは受診の前に手元の市販薬を塗ることで、指示された回数と期間は守ってください
③ 痂皮や変色した鱗を剥がさないTakami らの記述では、壊死した鱗は「容易に剥がれ落ち」、その下の皮膚の層のあいだに水疱と液体がありました。剥がれやすいことと、剥がしてよいことは違います。Keller らの症例では炎症が真皮の下の骨格筋にまで及んでいました。脱皮不全の記事で残った皮を無理に取らないと書いたのと、同じ考え方です
④ 治療のつもりで適温域を超えて温めないMerck が真菌症の素因に「低い環境温度」を挙げているのは事実です。だから、測って適温域を下回っていたなら適温へ戻してください。止めているのはその先で、適温の記事の帯の中に収まっているのに、治るかもしれないと考えてさらに上げることです。上げるほうに動かせば熱傷の側のリスクが増えますし、「温めれば治る」と考えて受診を先送りすることが、いちばん高くつきます。なお、獣医師から温度の指示が出た場合は、それに従ってください。Merck も呼吸器感染の治療中について、至適温度域の中〜上寄りで維持することを書いています
家でやること|見つけ方と、受診までの環境
やらないことの裏返しです。
持ち上げずに見える範囲を、毎日の世話のついでに見るTakami らの記述では、変色は個々の鱗の縁から始まっていました。掃除の記事の「毎日やる2つ」(排泄物を取る・水を替える)をしているあいだに見える範囲で十分です。見えない位置にあるなら、鱗をめくらず、つままず、無理に確認しないでください。見える範囲を記録し、その時点で病院に電話してください——確認できないことは、連絡を遅らせる理由になりません。健康チェックの記事が「毎日」の対象を保定しない観察に限り、鱗をめくらない・強く押さないと書いているのと同じです。Takami らの原文では壊死した鱗は「容易に剥がれ落ち」ます。病変があると分かっている個体を、毎日持ち上げないでください
見つけたら、日付と写真を残すMerck の経過は出血 → 膿疱 → 潰瘍の3段階です。進んでいるのか止まっているのかは、受診時に獣医師が知りたい情報です。健康チェックの記事の体重の記録と同じ扱いにしてください
病変が出た個体を、他の個体から分けるMerck は同じページの敗血症の節で「影響を受けた爬虫類は隔離し、抗菌薬治療を開始すべきである」と書いています(潰瘍性皮膚炎の節ではありません。ただしその節は、二次感染が「治療しなければ敗血症と死に至ることがある」と続けています。治療のほうは獣医師の仕事です)。ピンセット・水入れ・掃除用具を共用せず、世話の順番は病変のある個体を最後にしてください。移すために1度持ち上げることまで避ける、という意味ではありません。病変部に触れないようにして短時間で移し、そのあと確認のために毎日持ち上げるのをやめる、という順です。Keller らの施設では、ほかの爬虫類への拡大を抑えるために6匹を安楽死させています
新しい個体は、ケージではなく部屋で分けるKeller らの6匹は検疫室の別ケージで、Takami らの12匹は同じ部屋の別ケージ(消毒なし)でした。検疫の記事の「別のケージではなく別の部屋」「世話の順番を先住 → 検疫で固定する」は、この2件とも同じ向きです
濡れた床材は、乾いた清潔なものに替えるMerck が挙げる素因は湿って汚染された床材と糞の分解産物への曝露です。濡れていたり汚れていたりするなら、受診を待たずに乾いた清潔なもの(キッチンペーパーなど、状態が見えるもの)へ替えてください。排泄物も取り除きます。梅雨の記事に書いたとおり、ケージの湿度計の数字が正常でも、床材の底や水入れのまわりだけ濡れていることがあります。水入れは水入れの記事のとおり、倒れない重さのものを選びます
床面加温のセンサー位置と設定を確認するMerck の素因リストにある「覆いのない床面加温」がここです。サーモスタットの記事のセンサー位置と、パネルヒーターの記事の直置き・隙間を見直してください。これは原因の特定ではなく、受診までに悪化させないための確認です
病院に電話する病院の探し方の記事のとおり、ヘビを診られる病院は限られます。原因を自分で特定してから行く必要はありません。伝えるのは、いつからか・どこにあるか・広がっているか・食べているか・直近で環境を変えたか、の5つです。皮膚に何か出ていて、かつ食べていないなら、その2つを並べて伝えてください(食べないこと単独の切り分けは拒食の記事です)
当店 LilBalls の条件
前提から書きます。当店は100匹以上のボールパイソンをラックで飼育していて、1ケージで飼う場合とは条件が違います。そのまま真似する必要はありません。
公開している範囲で、この記事に関わるものは3つです。
- 部屋そのものをエアコンで年間27〜28℃に保っています(適温の記事)。季節による上げ下げをしていません。湿度は湿度の記事のとおり通常60〜80%で、ケージを1つずつ加湿するのではなく部屋の環境を安定させるほうを取っています
- 床材は「掃除のしやすさ」と「状態の見えやすさ」で選んでいます(床材の記事)。この記事の文脈で言うと、床材の見えやすさは、鱗の病変に気づく速さに直結します
- 検疫する個体は、建物ごと分けています(検疫の記事)。飼育棟とは別の建物に検疫用の部屋を置いています
この3つは、今回の資料を読む前から公開していたものです。Keller らと Takami らの2件が「同じ部屋の別ケージで飼われていた複数個体に、時間差で同じ病変が出た」記録だったことは、検疫を建物で分けている理由を後から補強する形になりました。どちらの報告も伝播経路そのものは特定していません。それでも、起きてから対応するより、最初から分けておくほうが取り返しがつくという判断は変わりません。家庭で建物は分けられませんが、部屋を分けること、空気の行き先を分けること、世話の順番を固定することは、分けた度合いのぶんだけ効きます。
まとめ
最後に、どの話がどの資料から来たものかを添えて並べます。
スケールロットは俗称で、資料の名前は潰瘍性皮膚炎ブリスター病は別の病気ではなく、その初期段階。水疱の段階で治療を始めれば潰瘍に進まずに消退することがある(Merck「爬虫類の細菌性疾患」)
軽度の熱傷が、ブリスター病に似ることがある「低度の熱傷は、液体の溜まった小水疱が生じうるためにブリスター病に似ることがある」(同)。原文は low-grade thermal injury で、床面加温による低温やけどはその代表例のひとつです。家で見分ける話ではありません
ボールパイソンの古典的な壊死性皮膚炎は、内側から発生することのほうが多い「非のうちどころのない環境で維持されていても発生しうるので、単に水分が過剰で衛生が悪いというだけの問題ではない」(同)。ただし素因のリスト(湿った汚染床材・糞の分解産物・覆いのない床面加温)は同じページにあります
皮膚病変で来院した爬虫類301例のうち、3割から6割に飼育環境の問題があった最終時点の生存は62%。敗血症が確定または疑われた個体の47%に点状出血がありましたが、その関連は著者自身が「推測的(conjectural)」と書いています(White ほか 2011年)
ボールパイソン6匹は、疑われた菌とは別の菌だった検疫室の別ケージ・同室で7日。分子診断で Nannizziopsis arthrosporioides。著者らは「臨床徴候とコロニーの形態だけでは属も種も決められない」(Keller ほか 2025年)
「ヘビの菌」「トカゲの菌」の住み分けは崩れている52日の相互接種で、コーンスネークは N. guarroi に100%、フトアゴは O. ophidiicola に60%感染(Gentry ほか 2023年)。CANV という用語は使われるべきでない(Merck/Sigler ほか 2013年)
日本の飼育下でも報告が出ている同一飼育者の12匹、同室の別ケージ・消毒なし。野生捕獲個体を入れた翌日に1匹目が発症し、5匹が死亡。ITS 配列の一致から単一の分離株が発生源と推定(Takami ほか 2021年・アジア初)
変色は、個々の鱗の縁から始まることがある「はじめは個々の鱗の縁が色を変え、次にしだいに鱗全体に及ぶ」(同)。死亡5匹は食欲不振、生存7匹は食欲正常でしたが、n=12 の観察で因果ではありません
飼育下の致死率 66.7% は、そのまま家庭の数字ではない集計された死亡のうち24匹は観察のために飼育下に持ち込まれた個体で、著者らは「重症度の過大評価をもたらす可能性がある」と明記しています(Davy ほか 2021年)
家でやらないこと抗菌薬を自己判断で使わない・消毒薬や軟膏を塗らない・痂皮や変色した鱗を剥がさない・温度を上げて様子を見ない。Merck は「正常な皮膚のフローラが増殖を抑制するので、抗菌薬の使用がオフィディオマイコーシスの発症へ傾けることがある」と書いています
原因の確定には、獣医師の診察と、必要に応じた細胞診・培養・病理・分子検査が要ります。獣医師は見た目だけでなく、病変の分布・飼育環境・経過・検査を合わせて鑑別します。飼い主が写真と見た目だけで決められないのは、そのうちの大半が家では揃わないからです。飼い主の仕事は、早く見つけて、壊さずに、連れて行くことです。
参考にした資料
査読論文・症例報告・レビュー
- Keller KA, Adamovicz L, Johnson-Delaney C, Terio KA. Nannizziopsis arthrosporioides infection mimicking ophidiomycosis in ball pythons (Python regius). Med Mycol Case Rep. 2025;50:100733. doi:10.1016/j.mmcr.2025.100733——発端の野生捕獲ボア1匹と、同室別ケージのボールパイソン6匹(71〜127g・CB)。7日での進行、次世代シークエンシングでの相対菌量99.5%、骨格筋に及ぶ炎症、全身性炎症の所見なし、「臨床徴候とコロニーの形態だけでは属も種も決められない」
- Takami Y, Nam KO, Takaki Y, Kadekaru S, Hemmi C, Hosoya T, ほか. First report of ophidiomycosis in Asia caused by Ophidiomyces ophiodiicola in captive snakes in Japan. J Vet Med Sci. 2021;83(8):1234-1239. doi:10.1292/jvms.21-0177——ナミヘビ科12匹、同室の別プラスチックケージ・消毒なし、野生捕獲個体の導入翌日に1匹目、6〜10月に残り11匹、5匹死亡、3匹を剖検し2匹から分離、ITS配列一致、鱗の縁から始まる変色の記述、「本分離株は35℃で生育しなかったため、ヒトや他の哺乳類への感染のリスクは小さい」、マサソーガでの致死率90%以上の引用
- White SD, Bourdeau P, Bruet V, Kass PH, Tell L, Hawkins MG. Reptiles with dermatological lesions: a retrospective study of 301 cases at two university veterinary teaching hospitals (1992-2008). Vet Dermatol. 2011;22(2):150-61. doi:10.1111/j.1365-3164.2010.00926.x——ボールパイソンとパイソン属の過剰代表、29〜64%に飼育環境の問題、最終時点の生存62%、敗血症の47%に点状出血、「推測的な関連」という著者自身の限定(本文は未閲覧。引用は公開されている要旨から)
- Davy CM, Shirose L, Campbell D, Dillon R, McKenzie C, Nemeth N, ほか. Revisiting Ophidiomycosis (Snake Fungal Disease) After a Decade of Targeted Research. Front Vet Sci. 2021;8:665805. doi:10.3389/fvets.2021.665805——飼育下121匹中36匹・致死66.7%、野生2,384匹中441匹・死亡43匹(9.8%)、死亡24匹は観察のために飼育下に持ち込まれた個体、「重症度の過大評価をもたらす可能性がある」、学名の綴りの変更(旧 "ophiodiicola")
- Gentry S, Lorch JM, Lankton JS, Pringle A. A Cross-Inoculation Experiment Reveals that Ophidiomyces ophiodiicola and Nannizziopsis guarroi Can Each Infect Both Snakes and Lizards. Appl Environ Microbiol. 2023;89(5):e0216822. doi:10.1128/aem.02168-22——52日間の相互接種、コーンスネーク100%・フトアゴヒゲトカゲ60%、不顕性感染の宿主が伝播に果たす役割
- Sigler L, Hambleton S, Paré JA. Molecular characterization of reptile pathogens currently known as members of the Chrysosporium anamorph of Nannizziopsis vriesii complex and relationship with some human-associated isolates. J Clin Microbiol. 2013;51(10):3338-57. doi:10.1128/JCM.01465-13——爬虫類49株とヒト由来6株の比較、Nannizziopsis・Ophidiomyces・Paranannizziopsis の3系統、N. guarroi がイエローファンガス病の原因、「ヒト関連の種は爬虫類から回収されず、爬虫類関連の種は爬虫類からのみ回収された」
- Di Nicola MR, Sciuto S, Marini D, Colla L, Vanzo G, Carsana G, ほか. Preliminary Screening for Ophidiomyces ophidiicola in Pet Snakes from Italy and Exploratory Evaluation of Droplet Digital PCR Assay. Microorganisms. 2026;14(2):392. doi:10.3390/microorganisms14020392——飼育者32名・10州・31種・97匹の皮膚スワブ、病変のあった4匹を含めて全陰性、「より大規模で標準化された調査が必要」
- Butcher RG, Ng B, Hyndman TH, Wesson JP, Jones E, Williams M, ほか. Emergence of Ophidiomyces ophidiicola, Nannizziopsis barbatae and Paranannizziopsis in free-ranging Australian reptiles. Aust Vet J. 2026;104(6):376-384. doi:10.1111/avj.70060——自由生活の在来爬虫類10例のうち5例がコーストカーペットパイソン、二次的転帰として脱皮不全・口内炎・やせ・瀕死
- Gerrits van den Ende B, Rodrigues AM, Hahn RC, Hagen F. A surprising finding: The curious case of a tongue lesion misdiagnosed as paracoccidioidomycosis. Rev Iberoam Micol. 2023;40(1):10-14. doi:10.1016/j.riam.2022.11.002——ベネズエラの患者の舌の病変から分離された株が N. arthrosporioides と再同定、「ヒトの感染ではとくに稀である」
獣医マニュアル
- MSD/Merck Veterinary Manual「Bacterial Diseases of Reptiles」——潰瘍性皮膚炎(scale rot)の定義と所見、二次感染と敗血症、「ボールパイソンの古典的な壊死性皮膚炎のように内側から発生することのほうが多い」「非のうちどころのない環境でも発生しうる」、出血 → 膿疱 → 潰瘍の経過、デブリードマンと全身性抗菌薬、「ブリスター病は潰瘍性(壊死性)皮膚炎の初期段階である」「低度の熱傷は、液体の溜まった小水疱が生じうるためにブリスター病に似ることがある」、症例写真のキャプション
- 同「Mycotic Diseases of Reptiles」——真菌症の素因(過度に高い湿度、低い環境温度、併発疾患、栄養不良、不適切な抗菌薬療法、その他のストレス要因)、Nannizziopsis 属と「イエローファンガス病」、「CANV という用語は使われるべきでない」、O. ophiodiicola と「2009年に初めて特徴づけられた」「しばしば頭部のまわりに分布する」「正常な皮膚のフローラが増殖を抑制するので、抗菌薬の使用がオフィディオマイコーシスの発症へ傾けることがある」、表層・局所の真菌感染への外科的切除
- 同「Environmental Diseases and Traumatic Injuries of Reptiles」——熱傷が覆いのない白熱灯やその他の熱源と結びつくこと、二次合併症としての体液喪失・脱水・二次的な細菌または真菌の感染
当店の記事
- 爬虫類の梅雨のカビ・ダニ対策——床材の底まで見る、Merck の真菌症の素因と「非のうちどころのない環境でも発生しうる」
- ボールパイソンが水入れに浸かるのは異常?——ブリスター病が初期段階であること、受診のライン
- ボールパイソンの検疫——「別のケージではなく別の部屋」、世話の順番、当店が建物ごと分けている理由
- ボールパイソンのマウスロット(口内炎)——家でやってはいけないこと、常在菌の扱い
- ボールパイソンのパネルヒーターの選び方と設置方法——直置きと隙間、低温やけど
- 爬虫類のサーモスタットはなぜ必須か——センサー位置と設定温度の意味
- ボールパイソンは夜行性?照明と紫外線ライトはいるのか——Gardiner ほか 2009年の光線性皮膚炎・光線性角結膜炎
- ボールパイソンの脱皮不全——残った皮を無理に取らない理由
- ヘビの脱皮殻からわかること——脱いだ殻の読み方
- ボールパイソンの床材の選び方——掃除のしやすさと状態の見えやすさ
- ボールパイソンのケージ掃除——毎日やる2つ、全体清掃と消毒の順番
- ボールパイソンの健康チェック——毎日の観察と体重の記録
- 爬虫類を診てくれる病院の探し方——電話で確認する6つ、持っていくもの
- ヘビの鱗の構造はどうなっている?——表皮の層と微小な突起
- ボールパイソンの適温は何度?——温度勾配と当店の温度設定
- ボールパイソンの湿度は何%?——資料ごとに違う数字と60〜80%の作り方
- ボールパイソンの封入体病(IBD)——「検出されない」と「いない」は別だという書き方
- ボールパイソンの寄生虫——検疫と、報告が無いことの扱い

