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ロイヤルパイソンとボールパイソンの違いは?|同じ1種の別名。「王」の由来は原記載に無い

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同じヘビに「ボールパイソン」と「ロイヤルパイソン」という2つの呼び名があります。別の種でも、品種でも、グレードでもありません。どちらも学名 Python regius の、同じ1種を指す名前です。

「ボール」の理由ははっきりしています。驚いたときに頭を内側にして丸くなるからです。では「ロイヤル(王)」のほうは、なぜそう呼ばれるのか。「アフリカの王が飼っていたから」「クレオパトラが腕に巻いていたから」——どちらもよく見かける説明です。

そこで、名前が付いた1802年の原記載そのものを開いてみました。結論から書くと、その原記載に理由は書かれていません。記載が先行する記述として挙げているのは、Albertus Seba の図譜の2か所(第1巻・1734年と第2巻・1735年)だけです。

この記事は飼育の手順の話ではありません。呼び名がどう分かれているかと、「王」の由来としてどこまでが確かめられるかを、原典に当たって整理します。

目次

  • 「ロイヤルパイソン」と「ボールパイソン」は、同じ1種の別名です
  • 学名 Python regius の regius は、ラテン語で「王の」
    • 名前が今の形になるまで
  • 1802年の原記載に、「王」と名づけた理由は書かれていません
    • Shaw が先行記載として挙げた著者は、Seba だけです
    • タイプ標本は所在不明、模式産地も不明です
  • 「アフリカの王が飼っていた」「クレオパトラが巻いていた」は、どこまで言えるか
    • 爬虫類データベースも「apparently(〜らしい)」と断っています
    • クレオパトラ説の根拠は確認できるか
  • 「ボール」のほうは、理由がはっきりしています
  • 崇敬されていても、保護につながるとは限りません
  • 呼び分けの実務——資料を探すときに困らないために
  • まとめ
  • 参考にした資料

「ロイヤルパイソン」と「ボールパイソン」は、同じ1種の別名です

この2つは、同じヘビの英語名が2通りあるだけで、どちらも Python regius という 学名(生物につけられた、世界共通の名前)を持つ1つの種を指します。The Reptile Database「Python regius」 の英名欄には Ball Python と Royal Python の両方が載っています(ドイツ語名は Königspython)。IUCN レッドリスト「Python regius」 の英名欄も、同じ2つです。

どちらが前に出るかは、資料によって違います。英国の動物福祉団体 RSPCA の飼育アドバイスは「Royal python」の見出しで、本文にこうあります。

「Royals are docile by nature and curl up into a ball when threatened, which is why they are referred to as ball pythons in America.(ロイヤルパイソンは生来おとなしく、脅威を感じるとボール状に丸まる。これがアメリカで ball python と呼ばれる理由である)」(RSPCA「Royal python」。この記事に出てくる外国語資料の日本語訳は、当店によるものです)

いっぽう米国側、ミシガン大学動物学博物館が運営する Animal Diversity Web は、ページの冒頭に Ball Python, Royal Python の両方を掲げたうえで、本文では ball python を使っています(Animal Diversity Web「Python regius」)。おおまかには英国系の資料が royal、米国系の資料が ball という使われ方ですが、両方を併記する資料もあり、国できれいに分かれるわけではありません。

日本では「ボールパイソン」が通り名です。和名として「ボールニシキヘビ」も使われていて、高知市 わんぱーくこうちアニマルランド「ボールニシキヘビ」 の紹介ページは見出しを「ボールニシキヘビ」とし、「ボールパイソン・ロイヤルパイソンとも呼ばれている」と書いています。当店のボールパイソンとはの記事でも、この2つを別名として併記しています。

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呼び名が違っても、種は同じです

「ロイヤルパイソン」と書かれているから特別、ということはありません。品種名でもグレードでもなく、同じ種の別の呼び方です。

モルフ(色や模様に関わる遺伝的な変異)やローカリティ(産地ごとの系統)は、呼び名とは別の区分です。モルフは同じ種の中の変異を指す言葉で、英語名が2通りあることとは関係がありません。

ここから先は、では「ロイヤル(王)」はどこから来たのかという話です。

学名 Python regius の regius は、ラテン語で「王の」

The Reptile Database「Python regius」 の語源欄は、こう書いています。

「Named after Latin rex, regis = king, regius = kingly.(ラテン語の rex, regis=王、regius=王のような、にちなむ)」

つまりロイヤルパイソン の royal は、学名の後半——種小名 の regius と同じ意味です(「王の」とも「王のような」とも訳せますが、この記事では「王の」で通します)。英名がこの種小名の訳として生まれたのかどうかまでは、今回確認できた資料からは分かりませんでした。

名前が今の形になるまで

いまの Python regius という組み合わせは、一度に決まったものではありません。

  • 1802年——George Shaw が Boa regia として記載します(Shaw 1802『General Zoology』第3巻 347ページ。原文の綴りは Boa Regia)。GBIF も基礎異名を Boa regia Shaw, 1802 とし、出典をこの巻に置いています
  • 1803年——François Marie Daudin が Python 属を設けます(Magasin Encyclopédique 掲載。GBIF の属のページが出典を示しています)
  • 1844年——Duméril と Bibron が Python regius の組み合わせを用い、これが現在使われている学名になります(The Reptile Database「Python regius」 の異名一覧)

1734年の図版から1844年の学名まで。「王の」を意味する種小名 regia が付いたのは1802年

Python regius という学名が決まるまでの流れを示した図。1734年、Seba の図譜の第1巻・図版62の1番にアフリカのヘビとして図が載り、その見出しに「現地の人々から神としての敬いを受けている」という一節がある。1802年、Shaw が Seba の図譜を先行記載として挙げ、Boa regia と命名したが(原綴は Boa Regia)、名の理由は書かれていない。1803年、Daudin が Python 属を設ける。1844年、Duméril と Bibron が Python regius の組み合わせを用い、これが現在の学名になる。学名の著者が (Shaw, 1802) と括弧に入るのは、記載されたときとは別の属名と組み合わされたしるしで、国際動物命名規約 51.3 による。regia が regius になったのは同 34.2 によるもので、形容詞の種小名は組み合わせる属名の文法上の性に合わせるため。Boa は女性名詞、Python は男性名詞。著者と年は Shaw, 1802 のまま変わらない

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綴りと括弧が変わっても、著者と年は変わりません

学名のうしろに付く著者名が Python regius (Shaw, 1802) と括弧に入っているのは、誤植ではありません。国際動物命名規約 第51条 の 51.3 は「種階級群の名が、原記載のときとは別の属名と組み合わされた場合、その種階級群名の著者名は、引用するなら括弧に入れる(年を引用するなら同じ括弧の中に入れる)」と定めています。括弧は「記載された属から移されました」というしるしです。

語尾が regia から regius に変わったのも規約どおりです。同 第34条 の 34.2 は、形容詞の種階級群名の語尾を、そのつど組み合わせる属名の文法上の性に一致させると定めています。Boa は女性名詞、Python は男性名詞なので、語尾が変わります。

どちらの場合も、著者と年は Shaw, 1802 のままです。

1802年の原記載に、「王」と名づけた理由は書かれていません

では、名づけた本人は何と書いていたのか。原記載——その名前が最初に世に出たときの記述——を開いてみます。

George Shaw『General Zoology, or Systematic Natural History』第3巻第2部(1802年)の347ページ。見出しは ROYAL BOA、学名は Boa Regia です(Shaw 1802『General Zoology』第3巻 347ページ)。学名の下に、ラテン語の判別文とその英訳が置かれています。

「Boa Regia. B. alba, collo longitudinaliter fasciato, corpore fusco griseoque, vel aurantio roseoque variato.」

「White Boa, with longitudinally striped neck, and body variegated either with brown and grey, or orange and rose-colour.(白いボア。首に縦の縞があり、胴は茶と灰、またはオレンジとバラ色に彩られる)」

本文の書き出しはこうです。「This species, which does not appear to have been described by any author except Seba(この種は、Seba 以外のどの著者にも記載されていないようである)」。そのあとは、頭の形と体つきが Boa canina と Boa phrygia に近いこと、色に変異があること、頭頂の大きな斑から首の両側へ2本の長い縞が走ること、背に鎖のような帯があること、腹と尾の下面が白いこと、頭の前方が大きな鱗で覆われること、尾がきわめて短く急に細くなること——これだけです。

Regia(王の)と名づけた理由は、この記載のどこにも書かれていません。記載は次の348ページの冒頭3行で終わり、すぐ次の種(Boa Phrygia)に移ります。今回たどれた範囲では、Shaw がこの語を選んだ理由を記した資料は見つかりませんでした。Shaw の他の著作や同時代の文献を網羅したわけではないので、「どこにも書かれていない」とまでは言えません。

Shaw が付けた図版と、347ページの記載。原文は Internet Archive で全ページ読めます(同書 図版96)

1802年の原記載を示した図。左は George Shaw『General Zoology』第3巻(1802年)の図版96で、とぐろを巻いたヘビを描いた銅版画。上部に ROYAL BOA、下部に 1802年1月ロンドン刊の印記がある。右は347ページの記載の抜き書き。学名は Boa Regia、ラテン語の判別文は「B. alba, collo longitudinaliter fasciato, corpore fusco griseoque, vel aurantio roseoque variato.」、その英訳は「白いボア。首に縦の縞があり、胴は茶と灰、またはオレンジとバラ色に彩られる」。本文の書き出しは「この種は、Seba 以外のどの著者にも記載されていないようである」。なぜ Regia(王の)と名づけたのかは、この記載には書かれておらず、記載は次のページの3行で終わっている

Shaw が先行記載として挙げた著者は、Seba だけです

Shaw は学名の下に、先行する記述として シノニム——同じ種を指す別の名前や、もとになった記述の出典——を並べています。挙がっている著者は Albertus Seba ひとりで、その図譜の2か所が引かれています。ここでは1つ目の、1734年に出た第1巻の図版62・1番を見ます。

「Serpens Phyticus Africanus prodigiosus, ab indigenis divino honore cultus. Seb. 1. t. 62. f. 1.」

後半の ab indigenis divino honore cultus が、「現地の人々から神としての敬いを受けている」にあたります(Seba 1734『Locupletissimi rerum naturalium thesauri』第1巻)。

同じ図版の解説は、ラテン語と、並記されたフランス語の対訳で印刷されています。この個体については、ラテン語で「アフリカのモザンビークの港から運ばれてきた」、フランス語で「アフリカのモザンビークの海岸から運ばれてきた」と書かれています。どちらも運ばれてきた元の記述で、採集地を確定するものではありません。続けて、全身が黒褐色・白・黄灰色の斑で大理石のように彩られていること、舌が多くのヘビのように黒ずまず赤いこと、尾が短い尖りで終わることを述べ、最後に「現地の人々はこのヘビを非常に重んじ、神としての崇敬さえ捧げる」と繰り返しています。

なお本種の現在知られている自然分布は、西アフリカから中央アフリカが中心で、モザンビークは含まれません。(The Reptile Database「Python regius」 の分布欄。東の端は南スーダンとウガンダです)

ただし原産国の数え方は、資料によって割れます。The Reptile Database「Python regius」 は19か国を挙げ、同じページに「Trape & Baldé 2014 によればリベリアには分布しない」という注記も付けています。当店の記事で引いたノルウェー食品環境科学委員会の2023年の評価は20か国、Harrington ら 2020 は18か国。顔ぶれも一致しません——The Reptile Database はリベリアを含み、ノルウェーの評価はチャドとコンゴ共和国を含みます。リストの食い違いは野生のボールパイソンはどこにいる?の記事にまとめました。

Shaw が引いたもう1か所は、「Serpens Arabica Brasiliensibus Ibiboboca & Boiguacu dictis.(アラビアのヘビ。ブラジルでは Ibiboboca、Boiguacu と呼ばれる)」という見出しで、出典は Seb. 2. t. 102.(第2巻の図版102)と書かれています。アフリカのヘビの記載に、アラビア産でブラジルの呼び名を持つとされた蛇の見出しが並んでいることになります。

この引用には、番号と見出しの食い違いもあります。今回確認した第2巻(同 第2巻(1735年))では、図版102 は「ブラジルのヘビ、Jacua-Acanga と呼ばれる」で、上の見出しに対応するのは図版103のほうです。しかも Shaw は、同じ本の同書 439ページで同じ見出しを「Seb. 2. t. 103.」として引き、そちらは Coluber Argus という別の種の先行記載として扱っています(Seba の見出しには alias Argus=別名アルゴス、という語も付いています)。どこを取り違えたのかは、ここでは決められません。言えるのは、同じ Seba の見出しが、同じ本の中で2つの別の種の先行記載として引かれているということです。

Shaw がこの原記載で先行記載として挙げたのは、Seba の図譜のこの2か所です。当時ほかに何が知られていたかまでは、この記載からは分かりません。

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「神としての敬い」は「王」ではありません

Seba の見出しが言っているのは神聖視であって、王侯が飼っていたという話ではありません。この神聖視の記述は、後の節で見る「アフリカの王が飼っていたから」という説明とは別のものです。

そのうえ、この説明は1番目のヘビだけに付いているものではありません。同じ図版62の2番目のヘビにも「同じく神としての崇敬を受けている」と付いていて、1番目の解説の末尾にも「次に続くものについても同じことが言える」と書かれています。Shaw はその2番目のヘビを Boa Phrygia として記載し、「ある地域では神としての崇敬が捧げられている」と書いていますが、そちらは royal と呼んでいません。

神聖視の記述だけから Regia の命名理由を特定することはできません。着想になった可能性を否定するものでもありません。ここで言えるのは「Shaw が挙げた唯一の著者が、そう書いていた」までです。

タイプ標本は所在不明、模式産地も不明です

名前の基準になる標本も、いまは行方が分かりません。The Reptile Database「Python regius」 の標本欄には「Syntype: unlocated(シンタイプ:所在不明)」と、Stimson 1969 の整理に基づく注記が付いています。分布欄の模式産地も「unknown(不明)」です。

タイプ標本 の所在が分かっていれば、採集地や採集者の記録から命名の経緯をたどれることがあります。今回は、標本や採集記録から経緯を確かめるところまでは行けませんでした。この記事が手がかりにしているのは、確認できた刊行資料だけです。

「アフリカの王が飼っていた」「クレオパトラが巻いていた」は、どこまで言えるか

「王」の由来としてよく語られるのは、大きく2つです。どちらも、原典に当たるとどこまで言えるのかがはっきりします。

爬虫類データベースも「apparently(〜らしい)」と断っています

1つ目。The Reptile Database「Python regius」 の語源欄は、ラテン語の意味を説明したあと、こう続けます。

「Apparently because it was often kept as a pet by African kings and other rulers.(アフリカの王やほかの支配者に、ペットとして飼われることが多かったため——らしい)」

apparently(〜らしい)が付いていて、根拠となる文献は示されていません。分類の標準として広く参照されるデータベースが、ここでは断定を避けた書き方をしている、ということです。当店でも、これを裏づける一次資料には行き当たりませんでした。

クレオパトラ説の根拠は確認できるか

2つ目。日本語の記事でよく見るのは「クレオパトラが腕に巻いていたから」です。英語圏でも、マンチェスター博物館の爬虫両生類担当学芸員 Andrew Gray 氏の発言として紹介されます。

よく引かれるのが、マンチェスター大学「Snake unlikely to have killed Cleopatra」(2015年10月21日) です。ただしこのニュースの主題は「ヘビがクレオパトラを殺した可能性は低い」で、エジプト学者 Joyce Tyldesley 氏との動画が添えられたもの。本文に、ロイヤルパイソンの名の由来についての記述はありません。名の由来にふれているとされるのは添えられた動画のほうで、当店はその発言そのものを確認できていません。

ここで切り分けておきたいことが3つあります。(1)現代の解説者がそう語ったかどうか、(2)古代に実際に飼われていたかどうか、(3)それが1802年に Shaw がこの語を選んだ理由かどうか——この3つは別々の問いで、それぞれに別の史料が要ります。当店が確認できた範囲では、(2)と(3)を裏づける史料はありませんでした。

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分布は、この説の反証にはなりません

本種の現在知られている自然分布に、エジプトは入りません。ただし、これだけでは説を否定できません。人が動物を運ぶことはできるので、自然分布の外で飼われていた可能性は、分布図からは決まらないからです。

逆に、仮に古代に飼われていたことが確かめられたとしても、それが1802年の命名の動機だったことは、また別に示す必要があります。

語られることと、原典で確かめられることを並べたもの

「王」の由来として語られることと、原典で確かめられることを2列に並べた図。よく語られること——アフリカの王や支配者がペットとして飼っていたから、クレオパトラが腕に巻いていたから。原典で確かめられること——1802年の原記載に名の理由は書かれていない、爬虫類データベースの語源欄も apparently(〜らしい)と断り文献を示していない、クレオパトラ説でよく引かれる2015年のニュース本文にも名の由来の記述はない(添付動画の発言そのものは未確認)、今回確認できた範囲では Shaw が理由を記した資料は見つからない。否定もできない。根拠が示されていないので「分からない」までしか言えない

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確認できた資料からは、命名理由は分かりません

regius が「王の」という意味であることは確かです。確かでないのは、なぜ Shaw がその語を選んだのかのほうです。

2つの説明は、どちらも1802年の原記載に書かれていません。だからといって間違いだと示せるわけでもありません——根拠が示されていない、というだけです。

当店としては、「regius はラテン語で『王の』という意味。名づけた理由は、確認できた資料からは分からない」と書くのが、いまのところ正確だと考えています。

「ボール」のほうは、理由がはっきりしています

Animal Diversity Web「Python regius」 は、脅威に反応して頭を中心にして体をぎゅっとボール状に丸める「balling(ボール化)」という防御の仕組みが、ball python という一般名の由来になっていると説明しています(ADW は、サイト自身が「主に大学生によって、大学生のために書かれた教育用の資料」と断っている資料です。原文の引用は、下に挙げた当店の記事にそのまま載せてあります)。

前に引いた RSPCA の一文も、同じ行動を名前の由来として説明していました。どちらも出典は示していませんが、英米それぞれの解説資料が同じことを書いています。

ただし、丸くなっているから落ち着いている、とは読めません。ボール化と、ただのとぐろの見分け方、そして「丸まる個体は温厚」という読み方がどこで止まるのかは、ボールパイソンが丸くなるのはなぜ?の記事にまとめてあるので、ここでは繰り返しません。

崇敬されていても、保護につながるとは限りません

崇敬されているという報告は、1734年の Seba の図版の説明にも、現代の資料にもあります。Animal Diversity Web「Python regius」 は「ボールパイソンが神聖視され、完全に保護されている地域がある」と書いています。ただし、290年のあいだ同じ信仰が続いてきたと読めるわけではありません。別々の時代に、別々の人が書いた報告が、それぞれある、ということです。

IUCN レッドリスト「Python regius」(2021年評価の2022年修正版)は、その先に留保を付けています。

「The python is often worshipped in parts of its range (L. Luiselli pers. comm. 2012), however, these include areas in Nigeria, Togo and Ghana where the species is subject to high levels of harvesting and where declines have been recorded or are suspected, and so it is unclear that traditional beliefs provide effective protection to this species.(このニシキヘビは分布域の一部でしばしば崇敬の対象になっている。しかしそこには、ナイジェリア・トーゴ・ガーナの、高い水準で採取され、減少が記録されているか疑われている地域が含まれる。したがって、伝統的な信仰がこの種に実効的な保護を与えているかどうかは明らかでない)」

同じ評価は、2011〜2015年の5年間に、CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する条約)に掲載された生きた動物としてアフリカから最も多く輸出されたのが本種だったことも挙げています。世界全体での輸出は 591,830個体(CITES 取引データベースの集計)。採取と輸出の仕組みは野生のボールパイソンはどこにいる?の記事で扱いました。

つまりIUCN は、伝統的な信仰が実効的な保護につながっているかは明らかでない、としています。崇敬の報告があることと、実際に守られているかどうかは、別に確かめる必要がある——というのが、現在の評価の書き方です(「王」という名前と保護を結びつけているのは、IUCN ではなく当店の読みです)。

呼び分けの実務——資料を探すときに困らないために

どちらで呼んでも間違いではありません。実際に困るのは、資料を探すときです。

  • 英語で飼育情報を探すときは、両方で引く。RSPCA は royal python、ADW は ball python を本文で使っています。片方だけで検索すると、見つけにくい資料が出てきます
  • 確実なのは学名 Python regius。査読論文・分類データベース・レッドリストは、この表記で統一されています
  • 日本語では「ボールパイソン」。和名の「ボールニシキヘビ」は、動物園の展示表示などで使われます

当店の記事と図鑑は「ボールパイソン」で統一しています。この記事のタイトルに「ロイヤルパイソン」を置いたのは、その言葉で探している方に届けるためです。

まとめ

  • ロイヤルパイソンとボールパイソンは、同じ1種(Python regius)の別名。分類データベースもレッドリストも、英名欄に両方を載せている。品種でもグレードでもない
  • どちらが前に出るかは資料による。英 RSPCA は「脅威を感じると丸まるので、アメリカでは ball python と呼ばれる」と書き、米 ADW は両方を併記している。国できれいに分かれるわけではない
  • regius はラテン語で「王の」。英名の royal も同じ意味。ただし英名が種小名の訳として生まれたのかどうかは、今回確認できた資料からは分からなかった
  • 1802年の原記載(Shaw『General Zoology』第3巻347ページ)に、Regia と名づけた理由は書かれていない。記載は色と鱗と尾の形を述べて、次のページの3行で終わる。今回たどれた範囲では理由を記した資料は見つからなかったが、Shaw の他の著作や同時代の文献まで網羅したわけではない
  • Shaw が先行記載として挙げた著者は Seba だけで、図譜の2か所が引かれている。1つ目(1734年・第1巻・図版62の1番)の見出しには「現地の人々から神としての敬いを受けている」とある(ただし同じ説明は同じ図版の2番目のヘビにも付いており、1番目に特有のものではない)。この1番目について Seba は「モザンビークの港(フランス語では海岸)から運ばれてきた」と書いているが、これは搬出元の記述で、これだけでは採集地を確定できない。本種の現在知られている自然分布にモザンビークは含まれない
  • 2つ目の引用は、番号と見出しが食い違っている。Shaw は「アラビアのヘビ。ブラジルでは Ibiboboca、Boiguacu と呼ばれる」という見出しを「Seb. 2. t. 102.」として引いているが、その見出しに対応するのは第2巻の図版103。しかも Shaw は同じ本の439ページで、同じ見出しを「Seb. 2. t. 103.」として引き、そちらを Coluber Argus という別の種の先行記載にしている。どこを取り違えたのかは、ここでは決められない
  • The Reptile Database では、タイプ標本は所在不明(Stimson 1969 に基づく注記)、模式産地は不明とされている
  • 「アフリカの王が飼っていたから」は、爬虫類データベース自身が apparently と断っていて、文献は示されていない。「クレオパトラが巻いていたから」でよく引かれる2015年のニュースにも、本文に名の由来の記述はない(名の由来にふれているとされる添付動画の発言は、当店は未確認)。自然分布にエジプトが入らないことは、この説の反証にはならない——人が運べるため
  • 「ボール」の由来は、脅威を感じて丸まる行動(ADW・RSPCA のどちらも、この行動を名前の由来としている。頭を中心にして丸めるという細部まで書いているのは ADW のほう)
  • 崇敬されているというだけでは、実効的に保護されているとは判断できない。IUCN は「伝統的な信仰がこの種に実効的な保護を与えているかどうかは明らかでない」と書いている

この記事は名前の来歴を、確認できた原典に当たって整理したもので、飼い方の話は含んでいません。飼育の全体像はボールパイソンとはと飼育方法の記事にあります。

参考にした資料

一次資料(原記載・図譜・命名規約)

  • Shaw 1802『General Zoology』第3巻 347ページ——Boa Regia の原記載。見出しは ROYAL BOA。図版は同書 図版96(Heath 彫、1802年1月ロンドン刊)。Internet Archive の全文スキャンで、347〜348ページのページ画像を直接確認しました
  • 同書 439ページ——Coluber Argus(ARGUS SNAKE)の項。Seba の同じ見出しを「Seb. 2. t. 103.」として引いています
  • Seba 1734『Locupletissimi rerum naturalium thesauri』第1巻——図版62・1番の見出しと解説。ラテン語とフランス語の対訳で印刷されています。2番目のヘビの見出しと、1番目の解説末尾のつなぎの一文もここで確認しました
  • 同 第2巻(1735年)——図版102(Jacua-Acanga)と図版103(Serpens Arabica … Ibiboboca & Boiguacu … alias Argus)の目次と本文見出し
  • 国際動物命名規約 第51条(51.3「変更された組み合わせにおける著者名(と年)の括弧の使用」)/同 第34条(34.2「形容詞・分詞からなる種階級群名の語尾を、組み合わせる属名の性に一致させる」)

分類データベース・レッドリスト

  • The Reptile Database「Python regius」(英名・異名一覧・分布・タイプ・語源/2026年10月10日閲覧)
  • GBIF(Python regius (Shaw, 1802)、基礎異名 Boa regia Shaw, 1802、および Python Daudin, 1803 の出典)
  • IUCN レッドリスト「Python regius」——D'Cruze N, Wilms T, Penner J, Luiselli L, Jallow M, Segniagbeto G, Niagate B & Schmitz A. 2022. Python regius(2021年評価の修正版). The IUCN Red List of Threatened Species 2022: e.T177562A220378972(英名欄、崇敬と保護についての記述、CITES 取引データベースの集計/2026年10月10日閲覧)

飼育情報・解説・報道

  • RSPCA「Royal python」(royal/ball の呼び分けについての記述/2026年10月10日閲覧)
  • Animal Diversity Web「Python regius」(見出しの英名2つ、balling と一般名の由来、神聖視されている地域についての記述。サイトの Disclaimer は「主に大学生によって、大学生のために書かれた教育用の資料であり、記載内容のすべてを保証することはできない」としています/2026年10月10日閲覧)
  • マンチェスター大学「Snake unlikely to have killed Cleopatra」(2015年10月21日)(クレオパトラ説でよく引かれるページ。本文に名の由来の記述が無いことを確認/2026年10月10日閲覧)
  • 高知市 わんぱーくこうちアニマルランド「ボールニシキヘビ」(和名「ボールニシキヘビ」の表示例/2026年10月10日閲覧)

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