バナナは、黄色と淡い紫、そこに散る黒い点(シュガースポット)で人気の高いモルフです。ただ、このモルフがブリーダーの間で長く話題になってきた理由は、見た目だけではありません。
「このオスからは、バナナの子はオスばかり生まれる」——そういう個体が実在します。逆に、メスばかり生まれるオスもいます。メンデルの法則を素直に当てはめると、こうはなりません。
この現象には、1,312匹のハッチリングの記録を統計解析した査読論文があります。何がどこまで示されたのか、例外はどのくらい出るのかを、その中身から見ていきます。モルフと遺伝の基本はモルフとは?の記事にまとめてあるので、必要ならそちらを先に読んでください。
あわせて、当店のモルフ図鑑に、この記事で訂正する記述があります。該当箇所は「図鑑の記載を訂正します」にまとめました。
目次
見た目の特徴
バナナは、黄色からオレンジの部分と、淡いラベンダーからグレーの部分で構成され、そこに黒い小さな点が不規則に散ります。この点は、バナナが日を追うごとに黒ずむのになぞらえてシュガースポットと呼ばれます。成長につれて増えるとよく言われますが、これはホビーの世界で共有されている経験則で、後述の資料には書かれていません。
MorphMarket の Morphpedia は、頭部について「淡いオレンジがかったタンで、ヘッドスタンプがあってもごく薄い」とし、「左右非対称なスポットの出方は、バナナのクラッチを見分ける良い目印になる」と書いています。胴については、ノーマルと同じ「エイリアンヘッド」模様は残ったまま、その間が明るく抜ける(ブラッシング)としています。
当店の図鑑のバナナのページにも実物の写真を載せています。色の出方には個体差が大きいので、文章より写真を見たほうが早いモルフです。
別名について。Morphpedia はバナナの別名としてコーラルグロウとホワイトスモークを挙げています。後述の論文によると、ある飼育者がこの表現を確立させていた時期に、別の飼育者が同じ表現の個体を輸入して繁殖させており、その結果この形質は Banana と Coral Glow という2つの名前で広く知られるようになったとのことです。販売サイトで探すときは、どちらの名前でも引っかかると思ってください。
遺伝のタイプとスーパー体
Morphpedia の記載では、バナナの遺伝タイプは不完全優性(Incomplete Dominant)、最初に作出したのは NERD、作出年は2003年です(2025年1月9日更新時点)。なお後述の論文は、2002年に野生個体が米国に輸入されて繁殖されたと書いており、1年ずれています。理由までは資料から確定できませんでした。
不完全優性なので、遺伝子を2つ持つ「スーパーバナナ」が存在し、1つだけの個体とは見た目で区別できます。論文でも、ホモ個体がオス・メスの両方で確認され、ヘテロ個体と表現で区別できることが、不完全優性の根拠として挙げられています。
優性・潜性といった用語の整理は、当店のモルフとは?の記事にあります。あちらではホビーの慣習に合わせて「共優性」と表記しています。ホビーで「共優性」と呼ばれているモルフの多くは、遺伝学の用語では不完全優性にあたるもので、2つの語は本来べつの概念です。この記事は引用する論文の表記に合わせて「不完全優性」で通します。
メールメーカーとフィメールメーカー
Morphpedia は、バナナの「Issues(注意点)」の欄にこう書いています。「遺伝子が性染色体上にある」。ただしこれは繁殖の結果から導かれた推定で、遺伝子の位置を直接同定した結果ではありません(後述)。
以下は、スーパーバナナではないバナナと、バナナを持たない個体とを掛けた場合の話です。バナナ同士やスーパー体を含む組み合わせには、この比率をそのまま当てはめられません。
メールメーカー(Male Maker)オスのバナナから生まれた、オスのバナナ。この個体を親にすると、バナナが乗った子はオスに、バナナが乗らなかった子はメスに偏ります
フィメールメーカー(Female Maker)メスのバナナから生まれた、オスのバナナ。逆に、バナナが乗った子はメスに、乗らなかった子はオスに偏ります
メスのバナナを親にした場合Morphpedia は「メスは均等な性比を生む」としています。偏りは報告されていません
名前が紛らわしいので補足します。フィメールメーカーは「メスを作る個体」という意味で、その個体自身はオスです。メスのバナナのことではありません。
そして偏りが出るのはオスのバナナを親にしたときだけで、そのオスが「どちらの親から生まれたか」が、偏りの向きを判断する手がかりになります。「バナナだから偏る」ではありません。なお、後述のとおりこの向きにも例外が出ます。
オスのバナナを親にしたときに何が起きるか

どこまで確かめられているのか
ここまではホビーの世界で共有されてきた経験則ですが、これを統計的に検証した論文があります(Mallery Jr. & Carrillo, Phyllomedusa 15巻1号 29-42, 2016年)。
2009年から2015年に複数のブリーダーの施設で記録された繁殖について、バナナを親に含むクラッチ222個・ハッチリング1,312匹の記録を集め、比較用にバナナが関わらないクラッチ641個の記録も併せています。
偏っているのは「性別」ではない
この論文の要点は、何が偏っていて、何が偏っていないかがきれいに分かれたことです。
バナナと非バナナの比期待される 1:1 からの有意な逸脱は検出されませんでした。不完全優性の1遺伝子として予想どおりです
オスとメスの比生まれる性別そのものには、有意な偏りが検出されていません。バナナを含むどのグループでも、バナナが関わらないクラッチでも同じです
孵化成績バナナを親に含むクラッチの孵化成績と、バナナが関わらないクラッチから予想される値との間に、有意差は検出されませんでした
ずれているのは「4つの組み合わせ」の比だけオスのバナナ・メスのバナナ・オスの非バナナ・メスの非バナナという4区分で見ると、期待される 1:1:1:1 から大きく外れました(オスのバナナを親とした2つの群で、いずれも p < 0.001)
つまりバナナという形質と性別が、独立ではなく結びついて遺伝しているということです。著者らはこれを連鎖解析にかけ、合算した LOD スコアは 179.1 を超えました。この解析では 3.0 を超えれば連鎖の根拠とみなすのが通例なので、桁違いの値です。
いっぽう、メスのバナナから生まれたクラッチでは、4区分の比が 1:1:1:1 から有意に外れませんでした(p = 0.347)。ただしこの部分の母数は22クラッチ・104匹と小さく、この標本数で有意差が出なかったことだけでは、小さな偏りまでは否定できません。「偏りがないことが示された」ではなく「偏りは見つかっていない」と読むのが正確です。
例外はどのくらい出るのか
メールメーカーからメスのバナナが出ることもあります。その頻度です。
論文は、メールメーカー由来とフィメールメーカー由来を合算した1,208匹(862匹+346匹)から、組換え率 6.6% を算出しています(内訳はメールメーカー由来 7.3%、フィメールメーカー由来 4.9%。両者の差に有意差は検出されていません、p = 0.130)。メスのバナナ由来の104匹は、子の表現型と性別から組換えが起きたかどうかを区別できないため、この計算には入っていません。
この 6.6% を読むときは、何を分母にした割合なのかを意識してください。組換えが起きた子は、「逆の性のバナナ」と「逆の性の非バナナ」の両方として現れます。メールメーカーなら、メスのバナナとオスの非バナナです。論文の家系図(Figure 2C)も、4区分を46.7% / 46.7% / 3.3% / 3.3% という想定値で示しています。つまり同じ数字から、次の3つが出てきます。
生まれた子全体のうち、組換えによる子6.6%(論文が報告している実測値)
生まれた子全体のうち、逆の性のバナナその約半分で 3%台(上の家系図の想定値)
バナナの子だけを分母にしたとき、逆の性のものバナナは全体のおよそ半分なので、こちらは 6%台に戻ります
下2つは、2種類の組換えが同じ頻度で起きるというモデルの上での概算です。実測の区分ごとの割合そのものではありません。
Morphpedia も例外について「約3%」という数字を挙げています。ただし何を分母にした値なのかが書かれていないため、上のどれと同じ量なのかは判断できません。ここは「同じことを言っている」とも「食い違っている」とも言えない、というのが正直なところです。
確かなのは、メールメーカーに組んだからといって100%そうなるわけではないということです。
性別を狙って繁殖する道具としては考えないでください。数%の例外が出るというだけでなく、後述のとおりバナナの性別決定そのものに未解明の部分が残っています。狙った性別が出なかったときに行き場のない個体を作らないよう、繁殖は引き取り先まで見通してから組んでください。繁殖全体の進め方は繁殖の記事にまとめています。
なぜ性別と連動するのか(ここから先は仮説)
先に断っておきます。この節のうち、ボールパイソンで遺伝子がどこに乗っていて何が起きているのかという部分は、すべて仮説です。確かめられていることと分けて読んでください。
長いあいだ、ヘビはすべて ZW 型(メスが2種類の性染色体を持つ)だと考えられてきました。ところが2017年、ボア(Boa imperator)とビルマニシキヘビ(Python bivittatus)でオス特異的な遺伝マーカーが見つかり、この2系統がそれぞれ独立に XY 型を獲得したことが示されました(Gamble ら, Current Biology 27巻 2148-2153, 2017年)。
ただし、この研究が直接調べたのはボアとニシキヘビであって、ボールパイソンではありません。以下は「ボールパイソンも XY 型だろう」という前提を置いたうえでの説明です。
この2017年の論文は要旨の中で、XY 型を支持する根拠のひとつとして「ボールパイソンにおける、性と連鎖した色彩変異」を挙げています。引用されているのが、上の Mallery & Carrillo の研究です。バナナの繁殖記録が、ヘビの性染色体についての通説を見直す材料のひとつになったということです。
Mallery らの説明はこうです。バナナの遺伝子は性染色体上にあるが、X と Y がまだ組換えを起こせる領域(偽常染色体領域)に乗っている。だから性別と強く連鎖する一方で、数%の割合で組換えが起きて例外が出る——。論文自身も「示唆される」「そう考える」という語を使っており、断定はしていません。
Morphpedia の説明とは、粒度が違います。Morphpedia は「遺伝子は主に X 染色体上にあり、ときどき Y に『飛ぶ』ように見える」と書いています。「飛ぶ」を組換えの比喩として読めば論文と重なりますが、「主に X 上にある」という部分は論文が示したことではありません。論文が提案しているのは X と Y の相同な領域で組換えが起こるモデルで、どちら側に乗っているかの頻度は検証していません。厳密に同じ説明として扱うことはできない、と考えてください。
まだ分かっていないこと
原因遺伝子は特定されていない2016年の時点で、Mallery らは「バナナの表現型を担う遺伝子(および対立遺伝子)は同定されていない」と明記しています。一部で「アルビノの一種では」とも言われますが、確かめられてはいません
ボールパイソン自身の性染色体は、まだ直接同定されていない2022年の染色体解析でも、ボールパイソンを含む数種で性特異的な差は検出されず、「性染色体は同形でほとんど分化していないと考えられる」と結論されています(Charvát ら, Genes 13巻7号 1185, 2022年)。顕微鏡で見ても見分けがつかない、ということです
データはブリーダーの記録であるMallery らが使ったのは、研究室の計画交配ではなく民間施設の繁殖記録です。著者らは記録の信頼性を確認したうえで「偏りや虚偽を疑う理由はない」としていますが、実験的に統制されたデータではありません
図鑑の記載を訂正します
当店の図鑑のバナナのページに、正確でない記述が2か所あります。
「オスのみを生み出す」「メスのみを生み出す」「のみ」ではありません。上のとおり数%の例外が出ます
「3%程度の確率で♀バナナ or ♂ノーマルが生まれる」「♀バナナ」と「♂ノーマル」は、組換えで出てくる2区分そのものです。論文の組換え率はこの2区分を合わせた割合なので、この記述にあてはまる数字は、メールメーカーなら 7.3%、フィメールメーカーなら 4.9% です(両者を合算すると 6.6%)。3%ではありません。3%に近いのは、このうち「♀バナナ」だけを取り出したときの値です
図鑑の記載は見直しの対象として、この記事の内容を優先してください。
買うとき・組むときに効く話
そのオスのバナナがどちらの型かは、見た目では分かりません。手がかりは親の性別、つまり素性です。オスのバナナから生まれたのか、メスのバナナから生まれたのか。
ただし素性が分かっても確定はしません。Morphpedia も「さらなるテストブリードを経なければ、メールメーカー/フィメールメーカーと断定することはできない」と明記しています。当店を含め、繁殖実績のない個体についてショップがどちらかを保証することはできません。お迎え時に血統の情報が付いてくるかどうかは、バナナに関してはこういう形で効いてきます。
なお、当店のモルフ計算機は、組み合わせから表現型の出現比を計算するツールです。バナナのような性連鎖は扱っていないので、性別の偏りまでは出ません。上の話は計算機とは別に押さえてください。
健康面については、モルフによっては注意が要るものもありますが(スパイダーとウォブルの記事で扱いました)、バナナについて Morphpedia が「Issues」に挙げているのは性連鎖だけです。ただし「挙げられていない」は「ないことが確かめられた」ではありません。
まとめ
偏るのはオスのバナナを親にしたときだけオスのバナナ由来(メールメーカー)なら「バナナはオス/非バナナはメス」、メスのバナナ由来(フィメールメーカー)なら逆
偏っているのは性別ではなく、形質と性別の組み合わせバナナ:非バナナ も オス:メス も、1:1 からの有意な逸脱は検出されていません。オスのバナナを親とした2群でだけ、4区分の比が 1:1:1:1 から有意に外れました
例外は出る。100%ではない組換え率は 6.6%(子全体のうち、組換えによる子の割合)。親の情報や過去の繁殖記録は判断材料になりますが、子の性別を保証するものではありません
参考にした資料
- Mallery CS Jr, Carrillo MM. A case study of sex-linkage in Python regius (Serpentes: Boidae), with new insights into sex determination in Henophidia. Phyllomedusa. 2016;15(1):29-42.
- Gamble T, et al. The Discovery of XY Sex Chromosomes in a Boa and Python. Current Biology. 2017;27(14):2148-2153.
- Charvát T, Augstenová B, Frynta D, Kratochvíl L, Rovatsos M. Cytogenetic Analysis of the Members of the Snake Genera Cylindrophis, Eryx, Python, and Tropidophis. Genes. 2022;13(7):1185.
- MorphMarket Morphpedia「Banana」(2026年9月12日閲覧)

