オスと一度も同居していないメスが卵を産み、その中で胚の発生が始まっていた——ボールパイソンにも、そういう症例報告があります。
ボールパイソンでは、単為生殖で孵化まで至った例も報告されています。ただし、この記事で詳しく紹介する2023年の症例では孵化していません。解析されたのは死亡した初期胚です。
報告されている例で何がどこまで確かめられたのか、そして単独飼育のメスが発生した卵を産んだとき、それを単為生殖と判断してよいのか。この2つを、査読論文の中身から分けて書きます。
先に結論を書いておくと、後者の答えは「遺伝子を調べない限り分からない」です。理由は本文で。
目次
2023年に報告されたボールパイソンの症例
イタリア・パルマ大学のグループが、1件の症例を報告しています(Di Ianni ら, Genes 14巻9号 1744, 2023年)。
10歳・体重1.3kgのメスのボールパイソンが、オスと一度も接触しないまま卵を4個産みました。飼い主はすぐに卵を回収し、孵卵はしていません。3日後、獣医師が卵の中身を確認したところ、血管の名残と小さな赤い点——初期の胚と矛盾しない所見——が見つかりました。4個のうち3個から胚が採れ、解析にまわされています。
この個体の来歴について、論文の中で記述が食い違っています。要旨と方法の冒頭は「野生採集(wild-caught)」としていますが、同じ方法の項の後半に「飼育下で生まれ、生後3か月ごろに入手された」とあり、考察では「飼育下繁殖の個体」と書かれています。この食い違いは無視できません。論文は「性成熟前からオスなしで飼われていた」ことを根拠に精子貯蔵を除外しているので、要旨どおり野生採集だとすると、採集時の年齢や採集前の交尾歴が分からない限り、その前提を確認できないからです。この記事では、来歴に依存しない部分——遺伝子解析の結果——を根拠として扱います。
何を材料に、どう確かめたのか
研究チームは、死亡した胚3個体と母親の血液から DNA を取り出し、5か所のマイクロサテライト(個体識別に使う反復配列)を比較しました。
胚はどの座でもホモ接合だった母親は5か所のうち4か所でヘテロ接合(2種類の型を持つ)でしたが、胚3個体はどの座でもホモ接合でした。論文は「15通りすべて」と書いていますが、残る1か所は母親自身がホモ接合なので、そこでは「母親のヘテロ接合が失われたかどうか」を評価できません。母親のヘテロ接合が失われたことを確認できるのは4か所です(この座も、母親にない型が出ていないかの確認には効いていて、論文の確率計算にも入っています)
胚の間で、受け取った母方の型の組み合わせが違うある座では、2個体が母親の一方の型、残る1個体がもう一方の型を持っていました。そして母親がヘテロ接合だった座が、胚ではすべてホモ接合になっています。母親のクローンではないということです
有性生殖を仮定した場合に、この型が出る確率を計算したホモ接合というだけでは足りません。父親が母親と同じ型を持っていれば、子はホモ接合になりうるからです。そこで著者らは「交尾済みで精子を蓄えていた」場合の確率を出しています。1個体あたり 0.001953、クラッチ全体では 7.45 × 10-9。ただしこれは「精子貯蔵が原因だった確率」ではありません。ある仮定を置いた有性生殖のモデルで、観察された型が出てくる計算値です。論文自身、この個体の由来集団のアリル頻度が分からないため通常の計算はできなかったと断っています
推定される仕組みは終末融合オートミクシスホモ接合の増え方から、卵の核が第二極体と融合して2倍体に戻るタイプだと推定されています。この方式では、遺伝的な多様性が大きく削られます
著者らは、この症例がボールパイソンでは4例目の報告にあたるとしています。先行する3例は、1本の論文(Booth ら, 2014年)が扱った、別々の3施設の3クラッチです。また、数日齢の胚を材料に単為生殖を示した例はこれまでになく、新しい手法として提示できるとも述べています。
この症例で起きていないこと
この症例では、子は生まれていません。卵は孵卵されておらず、胚は3個体とも死亡した状態で解析されています。大きさは2mmです。孵卵していないので、「単為生殖だから育たなかった」とも言えません。この症例が示したのは「オスなしで発生が始まった」ところまでです。
いっぽう、先行する Booth ら 2014年の報告では、ボールパイソンの単為生殖で孵化した個体(いずれもメス)が記載されています。単為生殖で子が生まれること自体はあります。
「オスと離れていた」は根拠にならない
「何年もオスと会っていないのに卵が発生した。だから単為生殖だ」——これは成り立ちません。ヘビのメスは、精子を非常に長く体内に貯めておけるからです。
この点を正面から調べた報告があります(Levine, Schuett & Booth, PLoS ONE 16巻 e0252049, 2021年)。1999年9月に野外で採集され、以後オスから隔離して飼育されたニシダイヤガラガラヘビ(Crotalus atrox)のメスが、捕獲から約1年後と約6年後に、2回それぞれ健康な子を産みました。2005年の出産分を遺伝子解析したところ、すべての子に父親由来の型が見つかりました。単為生殖ではなく、約6年(71か月)にわたる精子貯蔵だったということです。著者らは、これが健康な子の出産に至った例として、脊椎動物のメスで示された精子貯蔵期間の最長だとしています。なおこれはガラガラヘビでの記録で、ニシキヘビでの数字ではありません。
同じ論文は、「単為生殖は、オスと長期間隔離されたあとの出産を説明する競合仮説であるため、遺伝子解析による父方アリルの同定が不可欠である。しかしヘビでそれを行った研究は少ない」と述べています。
単独飼育のメスが発生した卵を産んだとき、何が言えるか

単為生殖と精子貯蔵を見分けられるのは遺伝子だけ
隔離期間では分からない6年でも足りません。「もう何年も単独飼育だから」は理由になりません
卵や胚の見た目でも分からない2023年の症例で決め手になったのは、卵の外見でも胚の形でもなく、DNA の型です
母子で複数のマーカーを比べる母親にない型が見つかれば、父方が関わった証拠になります。逆に母方の型しか出てこなくても、それだけでは単為生殖と断定できません。父親が母親と同じ型を持っていれば区別がつかないからです。だから確率を計算して詰めることになります
ほかのヘビでの記録
単為生殖はボールパイソンに限った話ではありません。ニシキヘビ科・ボア科での主な報告を挙げます。
ビルマニシキヘビ(2003年)アムステルダムの動物園のメスが、オスから隔離された状態で5年連続して胚を含む卵を産みました。マイクロサテライトでは精子貯蔵と区別できず、AFLP という別の手法で単為生殖と確認されています。著者らは AFLP の結果から「子は母親と遺伝的に同一」と結論しました(Groot ら, Heredity 90巻 130-135, 2003年)。ただしこの解釈には、のちの詳しい検討で疑問が示されています(Booth & Schuett, 2016年ほか)。母子の型が一致したという結果だけでは、クローンを作る仕組みだと断定できない、というものです。ヘビの条件的な単為生殖では、いまのところ終末融合オートミクシスが主要な仕組みとして支持されています
ボアコンストリクター(2011年)実験的な操作なしに生存能力のある(WW と解釈された)メスの子が確認されました。著者らは、脊椎動物でこれが初めてだとしています。母親より子のホモ接合度が高く、終末融合オートミクシスが示唆されています(Booth ら, Biology Letters 7巻 253-256, 2011年)
生まれてくるのはオスか、メスか
2011年のボアの報告ではオスの子が1匹も出ませんでした。当時ヘビはすべて ZW 型(メスが2種類の性染色体を持つ)だと考えられていたため、著者らは子を WW のメスと解釈し、さらに全個体がメスだった説明として母親が片方の性染色体を欠く(WO)可能性を提案しました。後者は未検証の仮説です。
ところが2017年、ボアとビルマニシキヘビでXY 型の性染色体が示されました(Gamble ら, Current Biology 27巻 2148-2153, 2017年)。
ただし、この研究が直接調べたのはボアとビルマニシキヘビで、ボールパイソンではありません。この記事で確認した文献の範囲では、ボールパイソン自身の性染色体は直接同定されていません。以下は「ボールパイソンも XY 型だろう」という前提を置いた話です。XY 型ならメスは XX なので、メスだけから作られた子は必然的にメスになります。2023年のボールパイソンの論文も、この整理を採ったうえで、「胚は性別判定には小さすぎたが、必然的にメスだったはずだ」と書いています。
対照的に、ナミヘビ科では話が逆になります。チェッカーガータースネークでは、単独飼育のメスから生存能力のあるオスの子が続けて生まれた報告があります(Reynolds ら, Biological Journal of the Linnean Society 107巻 566-572, 2012年)。ZW 型のメスからは、この方式だと ZZ すなわちオスが出うるからです。同じ「単為生殖」でも、系統によって生まれる性別が変わります。
ボールパイソンの性染色体をめぐる話は、バナナの記事でもう少し詳しく扱っています。バナナというモルフの繁殖記録が、この通説の見直しに使われました。
単独飼育のメスが卵を産んだら
ここから先は、研究から直接導いた結論ではありません。上の内容をふまえた、当店の考え方です。
まず、オスと同居していないメスが排卵して卵を産むこと自体は、起こります。そして産んだ卵が全部かえるとも限りません。これはオスと交配させた場合でも同じです。
当店が公開しているブリード履歴で数えると、記録38件のうち産卵は合計226個、孵化は合計197個。38件中9件で、産んだ数より孵った数が少なくなっています。1回あたりの産卵数は4〜9個(中央値6個)でした。この集計だけでは、孵らなかった卵の理由(無精卵なのか、途中で発生が止まったのか)は分かりません。言えるのは、交配させた繁殖でも孵化数が産卵数を下回ることがある以上、「孵らない卵があった」ことだけでは単為生殖かどうかを判断できない、ということです。
卵の見分け方は、当店の繁殖ガイドにまとめています。
卵の状態を記録する個数、外見、発生していないものの数
いきみ続けているのに卵が出ない卵詰まりの可能性があります。産卵が途中で止まっている、卵が残っている疑いがある、出血がある、元気が著しく落ちている——こうしたときは様子見にせず、爬虫類を診る獣医師にすぐ相談してください。放置すると重篤化することがあります
腹部を押して卵を出そうとしないやらないでください。正常な産卵と卵詰まりの区別には、獣医師の診察と、必要に応じて画像診断が要ります。力を加えれば卵や卵管を傷つけるおそれがあります
母体の状態を記録する単為生殖かどうかより、まず母体です。体重、活動性、食欲、総排泄孔の様子を控えておくと、受診時にそのまま使えます
「単為生殖だ」と決めつけない上のとおり、隔離期間でも卵の見た目でも判定できません。断定するには遺伝子解析が要ります
気になる状態があれば受診する産卵にまつわる不調は、飼育者が見た目で切り分けられる範囲を超えます
まとめ
ボールパイソンでも報告がある2023年の症例では、オスと同居していないメスの卵から初期胚3個体が見つかり、マイクロサテライト解析で単為生殖と確認されました(著者らによると4例目)
ただしこの症例では子は生まれていない孵卵されておらず、胚は2mmで死亡した状態でした。なお先行報告には、孵化に至った例もあります
隔離期間は根拠にならない精子貯蔵は約6年(71か月)の記録があります。判定できるのは遺伝子解析だけです
生まれる性別は系統で変わるXY 型とされるニシキヘビ・ボアではメス、ZW 型のナミヘビではオスが報告されています。ただしボールパイソン自身の性染色体は、確認した範囲では未同定です
参考にした資料
- Di Ianni F, et al. Demonstration of Parthenogenetic Reproduction in a Pet Ball Python (Python regius) through Analysis of Early-Stage Embryos. Genes. 2023;14(9):1744.
- Levine BA, Schuett GW, Booth W. Exceptional long-term sperm storage by a female vertebrate. PLoS ONE. 2021;16(6):e0252049.
- Groot TVM, Bruins E, Breeuwer JAJ. Molecular genetic evidence for parthenogenesis in the Burmese python, Python molurus bivittatus. Heredity. 2003;90:130-135.
- Booth W, Johnson DH, Moore S, Schal C, Vargo EL. Evidence for viable, non-clonal but fatherless Boa constrictors. Biology Letters. 2011;7(2):253-256.
- Booth W, et al. New insights on facultative parthenogenesis in pythons. Biological Journal of the Linnean Society. 2014;112:461-468.
- Booth W, Schuett GW. The emerging phylogenetic pattern of parthenogenesis in snakes. Biological Journal of the Linnean Society. 2016;118:172-186.
- Reynolds RG, et al. Successive virgin births of viable male progeny in the checkered gartersnake, Thamnophis marcianus. Biological Journal of the Linnean Society. 2012;107:566-572.
- Gamble T, et al. The Discovery of XY Sex Chromosomes in a Boa and Python. Current Biology. 2017;27(14):2148-2153.

