停電で防ぐものは2つあります。下がりすぎることと、それを補おうとして足した熱源で温めすぎることです。後者のほうが見落とされます。
停電中はサーモスタットも止まっています。そこへ使い捨てカイロや湯たんぽを入れるということは、温度を決める仕組みを持たない熱源をケージに持ち込むということです。普段いちばん避けているはずの状態が、いちばん慌てているときに起こります。
この記事では、停電したときの手順を「測る → 逃がさない → 足す」の順に整理し、カイロと湯たんぽがなぜ「何℃になるか読めない」のかを公的な試験結果で確認します。あわせて、避難が必要になったときに爬虫類がどう扱われるのかも見ます。ここはいま作業中の改訂で、扱いが大きく変わろうとしているところです。
目次
最初にやるのは、熱を足すことではない
順番があります。測る → 逃がさない → それでも足りなければ足す、です。この順番を飛ばして熱源から入ると、あとで温度が分からなくなります。
停電すると、コンセントから電源を取っているデジタル温湿度計も一緒に止まります。電池で動く温湿度計が1本あるかどうかで、この先の判断がまるごと変わります。置き場所は普段どおり、ホット側とクール側の2点です。
そのうえで、いまの室温を見てください。当店の適温の記事に書いた範囲はホットスポット30〜33℃/クール側24〜28℃です。健康な個体で、ケージ内の実測がこの範囲に収まっている短時間の停電なら、むやみに熱源を足さないでください。慌てて熱源を入れるより、下がり方を10〜15分おきに記録するほうが役に立ちます。
「何℃で何時間なら危ない」という線は示されていません
調べた範囲では、ボールパイソンについて「何℃が何時間続いたら危険」と数字で線を引いた資料は見当たりませんでした。効いてくるのはどのくらい低く、どのくらい長かったかです。だから記録します。あとで獣医師に相談することになったとき、「寒かったと思います」と「何時から何時まで、最低19℃でした」では話が変わります。
逆に、測っていて下がり続けるなら、次の判断は「足す」ではなく「いつ移すか」です。手持ちの保温手段であと何時間もつか、預け先まで何時間かかるか。状態が悪くなってから動くと間に合いません。切り替えの目安は後半に書きます。
なお、夏の停電は話が逆になります。エアコンが止まって上がるほうが問題で、このあとの断熱はむしろ逆効果です。下がっているのか上がっているのかを、先に測って決めてください。
逃げる熱を減らす。守るのはケージか、部屋か
熱源を足さずに時間を稼げるのが断熱です。順番として先に来ます。ただし、覆う前に必ずやることが1つあります。
覆う前に、電気式の熱源のプラグを抜く
停電はいつ復旧するか分かりません。毛布や段ボールで覆ったまま復電すると、保温球や暖突が布の下で再び発熱します。過熱だけでなく火災の危険があります。NITE(製品評価技術基盤機構)は停電復旧後の通電火災について、「電熱器具が周囲の可燃物に接触していたことによる発火」を事故の例に挙げています。覆いをかけた保温器具は、まさにこの状態です。覆う前にプラグを抜き、器具が冷えていることを確かめてください。差し直すのは、覆いを外して器具と配線を確認したあとです。
- ケージを毛布やタオルで覆う。エキゾチックアニマルを診る動物病院も、停電時の対応としてケージを毛布やタオルで包むことを挙げています。後述する環境省ガイドラインの改訂案も、避難所での応急策として同じ方法を挙げています
- 発泡スチロールの箱や段ボールで囲う。覆うものが厚いほど、温度の下がり方は緩やかになります
- 床から離す。冬の床は冷たいので、断熱材や毛布を一枚挟むだけでも違います
ただし密閉しないでください。Merck の獣医マニュアルは、爬虫類の呼吸器感染症の発生に影響する条件として「呼吸器や全身の寄生虫、好ましくない環境温度や湿度、換気不足、不衛生な状態、併発疾患、栄養不良」を挙げています。換気不足がここに並んでいます。停電中は温度・湿度・換気の3つが同時に崩れやすいので、目張りまでして閉じるのは割に合いません。
どのくらいもつかは、ケージの材質・厚み・通気・置き場所で変わります。大きいから早い、小さいから遅い、と単純には決まりません。見積もらずに、実際に測って下がり方を見てください。
当店 LilBalls は、エアコンで室温そのものを年間27〜28℃に保つ方式です。この場合、停電したときにまず守る対象はケージより先に部屋になります。部屋という大きな箱のほうが冷えるのは遅いので、扉を閉め、カーテンを引き、出入りの回数を減らす。これが最初の一手です。人が出入りするたびに、温めた空気が入れ替わります。そのうえでケージも覆えば、両方効きます。どちらか一方を選ぶ話ではありません。
心配で何度も開けるのが、いちばん熱を捨てます
様子を見たくなりますが、蓋を開けるたびに温まった空気が抜けます。覗くのではなく、温度計を読む。電池式の温湿度計を用意しておく理由はここにもあります。
使い捨てカイロは、酸素の量で温度が変わる
停電時の保温としてまず名前が挙がるのがカイロです。手に入りやすく、備蓄しやすく、電気が要りません。国の資料も応急策として挙げています。ただし置き方を間違えると、この記事で警戒している「制御されていない熱源」そのものになります。
規格の上限は 70℃ 以下。ただし試験条件での話です
一般に売られている貼るタイプ・貼らないタイプの使いすてカイロにはJIS S 4100 という日本産業規格があり、最高温度は70℃以下と定められています。ただしこれは規格で決められた試験条件で測ったときの上限であって、どんな使い方をしてもこれ以下に収まる、という保証ではありません。
人の低温やけどは、体温よりわずかに高い温度でも接触が長ければ成立します。パネルヒーターの記事で引いた奈良県医師会の解説は、60℃で1分間、50℃で3分間、42℃で6時間で皮膚の組織にやけどが起こるとしています。70℃は、その一番上の60℃よりさらに高い数字です。
この数字をヘビの安全基準に使わないでください
引用したのは人の皮膚の数値です。ヘビに換算できる根拠はなく、「この温度未満なら安全」という使い方はできません。大事なのは秒数ではなく、熱いと感じない温度でも、接触が長ければ組織は壊れうるという原理のほうです。この扱いはパネルヒーターの記事と同じにしています。
しかもヘビの側の事情は不利です。パネルヒーターの記事で引いた獣医監修の解説によれば、爬虫類は危険なほど熱い熱源からすすんで離れようとしないとされています。熱ければ逃げるだろう、は前提にできません。
メーカーはペットへの使用を断っています
この記事を書くにあたって確認したところ、カイロのメーカーは公式に次のように答えていました。
引用(エステー株式会社 よくあるご質問):ペットへのご使用はご遠慮ください。人の身体の保温以外に使用した場合、使用状況や使用環境などの違いから、最高温度・平均温度・持続時間、その他カイロとしての特性を保証することはできません。また誤食、やけど、カイロ破損による汚れなど不慮の事故につながる危険性もございます。
つまり、人用カイロを生体の保温に使う時点で、メーカーの想定の外です。この記事があとで書く置き方も、メーカーが安全と認めた使い方ではありません。国の資料が応急策としてカイロを挙げていることも、個々の製品や置き方の安全を保証するものではありません。お手持ちの製品にペットへの使用について書かれていないか、まず外袋を見てください。
発熱は通気条件に左右される。表示値では容器内の温度を読めない
カイロが70℃以下に収まるのは、偶然ではなく設計です。日本カイロ工業会の説明どおり、カイロは鉄粉が空気中の酸素と反応して酸化鉄になるときの熱で温まり、活性炭は酸素を吸着して濃度を高める役を担っています。そして同会は「発熱温度や発熱時間は、通気量と中身のブレンド具合でコントロールされています」としています。袋が通す酸素の量まで含めて設計されているということです。
通気の条件が変わると発熱がどう変わるか。それが分かる実測があります。東京都消費生活総合センターの事故防止テストです。対象は靴用・靴下用のカイロで、これは同資料が明記しているとおりJIS 規格外品です。
引用(東京都消費生活総合センター「靴用・靴下用使いすてカイロによる「やけど」に注意!」):靴用・靴下用カイロ(JIS規格外品)は、酸素の少ない靴の中での使用を目的として造られているので、通常の環境で使用した場合は、靴の中よりも酸化反応による発熱が促進され高温になります。
実際の数字はこうです。同じ資料は、JIS の測定方法で靴用・靴下用カイロを測ると最高温度が80℃に達するものがあったとし、靴を脱いだあとも貼り付けたままにするなど使用方法を守らなかった場合にはカイロ単体の温度が86℃に達することがあったとしています。
ここから言えるのは、通気の条件が変われば発熱も変わるということまでです。この数字を一般のカイロに当てはめることはできませんし、逆に「何cm離せば何℃」と計算することもできません。実際の温度は、酸素の届き方だけでなく熱の逃げ方でも決まるからです。包めば逃げにくくなり、風が当たれば逃げやすくなります。
結論はひとつです。外袋の表示温度から、ケージの中や容器の中が何℃になるかは読めません。読めない以上、測るしかありません。
80℃・86℃ は靴用・靴下用カイロの数字です
東京都の資料は「靴用・靴下用カイロは、腰に貼るカイロなどとは異なる商品です」とはっきり書いています。一般の貼るカイロが86℃になるという話ではありません。規格外品といっても、規格を破った不良品という意味ではありません。靴の中という別の環境向けに作られていて、JIS の適用対象ではない、という意味です。
もうひとつ、逆向きの性質もあります。密閉すれば発熱は止まり、その間はまわりの酸素を使っています。発泡スチロール箱に目張りしてカイロを入れれば、途中で発熱が落ちます。効きを求めて生体に近づければ、こんどは接触の問題になります。どちらに振っても具合が悪いのが、カイロという熱源です。
断熱材の内側に入れない。そして効かなければ移す
当店は、ヘビが接する面を実測して35℃を超えていたら見直すを線にしています。適温の記事に書いた「ホットスポットの表面温度が35℃を超えている状態はすぐに見直す」と同じ線です。
35℃は「見直す合図」で、「ここまでは安全」ではありません
この数字は、当店が配置を見直す目安として使っているものです。35℃以下なら安全、35℃までは温めてよい、という基準ではありません。熱傷が起きる接触面の温度をボールパイソンについて示した資料は見つかっていません。むしろ、サーモスタットが効いていない停電中は普段より余裕を取るべき場面です。そして面の温度だけでなく、暖側・涼側の空気の温度も測り、熱くなりすぎたときにヘビが逃げられる場所を必ず残してください。
そのうえで、置き方です。いちばんやってはいけないのは、カイロをケージ壁に貼り、その上から毛布や段ボールで包むことです。熱がこもって局所の温度が上がり、同時に酸素が減って発熱が不安定になります。この記事で挙げたリスクが両方そろう置き方です。
- ケージの中に入れない。床材の下も同じです。貼るタイプを生体に貼るなど論外です
- 断熱材の内側に入れない。ケージを毛布で包んだなら、カイロはその毛布のさらに外に置きます。包みの内側は、熱がこもると同時に酸素が減る場所です
- ケージ壁に直接貼らない。タオルを挟むか、離します。ただし「タオル1枚」「数cm」で安全になるという意味ではありません。布の厚みでも容器でも室温でも結果は変わります。距離は測って決めるものです
- 置いたら測る。置いてからも測り続ける。カイロは開封からの時間で温度が動きます。置いた直後だけでなく、時間をおいて繰り返し、ヘビが接する面を実測してください。35℃を超えたら離すか、外します。見張れないときは、そもそもカイロを足さないでください
ひとつ断っておきます。この置き方は「過熱させないため」の置き方で、「よく温まるため」の置き方ではありません。断熱材は中の熱を逃がしにくくすると同時に、外の熱も中へ伝えにくくします。外側に貼ったカイロが生体側をどれだけ温めるかは、測ってみないと分かりません。
温まっていないなら、粘らずに移す
測って効いていないなら、置き方を工夫するより電源のある場所へ移すほうが確実です。実家、知人宅、かかりつけの動物病院、購入元。判断材料は、いまの下がり方と、移動にかかる時間の2つです。弱ってから運ぶより、動けるうちに運ぶほうが安全です。
閉じた箱に、生体とカイロを一緒に入れない
移動や避難のときにやりがちな組み合わせです。閉じた箱の中は、熱が逃げにくい場所であり、同時に酸素が補給されにくい場所でもあります。カイロを同封する理由が、そのまま2つのリスクの理由になります。移動用の容器を保温したいときは容器の外側に貼り、容器の内壁の温度を実測してください。それでも、貼る面が生体の触れる面に近いほど危険は増します。通気口は塞がないでください。
期限切れのカイロは備蓄から外す
日本カイロ工業会は、有効期限が切れたカイロについて「温度が表示よりも高くなったり持続時間が短くなったりする可能性があるため、推奨いたしません」としています。低い側にずれるだけではありません。年に1回、外袋の期限を見て入れ替えてください。
ここまでカイロに字数を割いたのは、停電時にいちばん手に取られやすく、いちばん温度が読めない熱源だからです。使うなとは書きません。国の資料も応急策に挙げています。ただし「貼って安心」にはならないことだけは、先に知っておいてください。
湯たんぽは、自分で発熱しないのが利点
お湯が沸かせる環境なら、湯たんぽのほうが扱いやすいと考えています。化学反応などで熱を新たに生み続ける熱源ではないからです。
ただし「置いた瞬間がいちばん熱い」わけではありません。湯たんぽ自体の温度は下がっていきますが、ケージの壁や床材は、熱が伝わるにつれて遅れて温まります。だから測るのは1回では足りません。置いたあと、しばらくしてからもう一度測ってください。
もうひとつ。湯たんぽは人の事故としては多い製品です。消費者庁の「ゆたんぽを安全に正しく使用しましょう!」(平成29年12月)によれば、平成21年9月から平成29年10月までに寄せられたゆたんぽの事故情報363件のうち240件がやけどで、治療期間が1か月以上のやけどが全体の約3割(105件)を占めました。
引用(消費者庁「ゆたんぽを安全に正しく使用しましょう!」):皮膚が損傷を受ける温度と時間の目安は、44℃では3〜4時間、46℃では30分〜1時間、50℃では2〜3分です。
これも人の皮膚の数値なので、ヘビの安全基準には使えません。読み取るのは、お湯は熱いほど良いのではないということだけです。沸かしたての湯をそのまま入れて壁に密着させれば、接触面35℃の線はあっさり超えます。
- タオルで包んで、ケージの外側に置く。中には入れません。漏れれば熱湯によるやけど、床材が濡れ、そのあと気化熱で冷えます。噛む個体もいます
- 接触面を実測してから置き場所を決める。熱ければタオルを1枚増やすか、離します
- 飲料用のペットボトルを湯たんぽの代わりにしない。ホット飲料用の耐熱ボトルでも、想定しているのは中身を詰める工程であって、熱湯を入れて何時間も置く使い方ではありません。普通のペットボトルは熱湯で変形します。湯たんぽとして売られているものを使ってください
- 加熱方法は製品の指定どおりに。消費者庁は、IHや直火で加熱できるタイプで口金を閉めたまま加熱して破裂した事例、電子レンジタイプで指定時間を超えて加熱しやけどを負った事例を挙げています
参考にした獣医の資料とは、置き方が違います
停電時の対応を書いているエキゾチックアニマルの動物病院の記事は、タオルで包んだ温水入りのボトルを爬虫類の下に置く方法を挙げています。当店はこれを採らず、ケージの外側に置くことを勧めています。理由は漏れと、接触面の温度を管理しきれないことの2つです。出典どおりでない部分なので、断っておきます。どちらが正しいかを決める資料は見つかっていません。
カセットコンロは換気しながら
停電中は湯を沸かす手段がカセットコンロになりますが、この記事は同時に「扉を閉め、カーテンを引き、出入りを減らす」と部屋を閉じることを勧めています。閉め切った部屋で燃焼器具を使わないでください。使っている間は窓を開けてください。テントの中、車内、押し入れのような狭くて換気の悪い場所では使わないでください。毛布や段ボールを近くに置かないことも同じくらい大事です。暖房目的でコンロを点けっぱなしにするのは論外です。
ポータブル電源は容量と消費電力から見積もる
いちばん確実なのは、普段の器具をそのまま動かすことです。もち時間はおおまかに計算できます。
ポータブル電源の容量(Wh) ÷ つなぐ機器の消費電力(W) ≒ もつ時間。実際には変換のロスと、低温下での容量の目減りがあるので、この数字より短くなる前提で見てください。
消費電力は器具に書いてあります。停電してから調べるのでは遅いので、いま計算してメモに書いておいてください。保温球のように消費電力の大きい器具は、同じ容量でも一気に短くなります。
ヒーターを電源に直結しない
ポータブル電源にヒーターだけをつなぐのは、サーモスタット無しで加温するのと同じです。この記事でカイロを警戒しているのとまったく同じ理由で危険なので、サーモスタットも一緒につないでください。消費電力の計算にもサーモの分を足します。
発電機を使う場合は屋外で、風通しのよい場所で。前掲の NITE も、携帯発電機について「屋内で使用すると一酸化炭素中毒になるおそれがあります」と注意喚起しています。屋外なら安全というわけでもありません。窓・出入口・換気口から離し、排気が家の中へ流れ込まない向きに置いてください。一酸化炭素は無色無臭で、気づいたときには動けません。
復旧したあと、取り返そうとしない
電気が戻ったときにやりがちなのが、下がった分を取り返そうとして設定を上げることです。やらないでください。戻すのは元の設定値までです。低温は時間をかけて効いてきますが、過熱は数時間で命に関わります。
- 覆いと応急の熱源を外してから、電気を戻す。毛布・段ボール・発泡スチロール、そしてカイロと湯たんぽ。この順番です。覆ったまま通電が戻るのを避けるために、断熱の前にプラグを抜いてあります(前半に書いたとおりです)。差し直す前に、器具と配線に破損や変色がないか見てください
- サーモスタットの状態を見る。復電時に設定を保持して運転を再開するか、手動操作が要るか、リセットされるかは製品ごとに違います。詳しくはサーモスタットの記事に書きました
- 給餌は温度が戻ってから。消化には十分な体温が必要で、足りないと消化不良や吐き戻しにつながります(適温の記事)。設定温度に一度届いたら再開、ではありません。温度が安定して保てていて、かつ普段どおりの様子に戻ってからです。停電の直後に「元気づけよう」として与えるのは逆効果です
- 冷凍庫が止まっていたら、解けた餌は処分する。姉妹店 LilRats の冷凍餌の衛生管理の記事は、通常時でも一度解凍したものを再冷凍しないよう書いています。停電で何時間も解けていたものは、品質ではなく衛生の問題になります。惜しくても捨ててください
そして、しばらく呼吸を見てください。前掲の Merck が挙げている条件のうち、温度・湿度・換気は、停電が一度に崩すところです。呼吸音、鼻や口の分泌物、開口呼吸が出たときに何を見るかは呼吸器感染症の記事にまとめました。ただし Merck が書いているのは発生に影響する条件であって、一度覆っただけで感染症になるという話ではありません。
この様子が出たら、記事を読むより先に病院へ
口を開けたままの呼吸、苦しそうな呼吸、触っても反応が鈍い、腹側の鱗の変色や水ぶくれ(やけどが疑われます)。いずれも爬虫類を診られる動物病院に連絡する理由です。そして、冷えた個体を熱湯浴や強い直接加熱で一気に温め直さないでください。低温の害を取り返そうとして、熱傷で殺すことになります。
残した記録が、そのまま問診票になります
何時から何時まで停電したか、最低何℃まで下がったか、何を足したか。スマホのメモで十分です。体調を崩して受診することになったとき、この3つが揃っているかどうかで話の進み方が変わります。
避難のとき、爬虫類はどう扱われるか
ここは、いま変わろうとしている最中です。順に見ます。
国内でペットの災害対策の土台になっているのは、環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」です。2026年9月時点で公表されている最新版は平成30年2月のもので、その用語の解説は「ペット」をこう定義しています。
引用(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」平成30年2月):本ガイドラインでは、家庭動物等のうち、犬や猫等の小型の哺乳類と鳥類等を指す。
現行版に爬虫類は入っていません。同じガイドラインが引用している「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」では、「動物」は哺乳類・鳥類および爬虫類と定義されているのに、です。動物愛護の枠には入っているのに、国のガイドラインが「ペット」と呼ぶ範囲には入っていない。これが長く続いてきた状態です。ただし、これは国のガイドラインの話であって、個々の自治体が爬虫類を想定していないと決まったわけではありません。そこは自治体ごとに違います。
ここが改訂案で変わります。環境省は2026年6月8日から26日まで改訂案のパブリックコメントを実施しました。そこで示された改訂案では、定義そのものが書き換わっています。
引用(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」改訂案・2026年6月):家庭動物等のうち、犬や猫などの小型の哺乳類、鳥類、爬(は)虫類を指す。
さらに「コラム:避難所における爬虫類の管理」が新設されています。中身は、飼い主にとってかなり具体的です。
- 危険視への反論から入っている。「一般的にペットとして飼育できる爬虫類には特定動物のような危険な毒をもつ種はいない」
- 置き方の条件が具体的。「個体が逃げ出さないよう工夫がされたケース等に入れたうえで、急な温度変化や雨風の影響を受けない屋内の一角で暗幕をかけるなどの配慮を行えば安全に管理することが可能」としています
- 飲み水は必要だが、数日の絶食は支障が少ない。変温動物で代謝が低いことを理由に挙げています。停電・避難のときに水を優先し、給餌を急がない根拠になります
- アレルギーの心配は少ないとしている。毛や垢が出ないことを理由に挙げています。ただしこれは案の記述で、爬虫類が原因のアレルギーの症例報告自体はあります。避難所で実際に効くのは、むしろ手洗いと排泄物の処理、食事の場所と分けることのほうです(健康な個体もサルモネラを持っていることがあります)
そして、この記事の主題そのものに触れている箇所があります。冬季の対策を書いた部分です。
引用(同・改訂案):鳥類や爬虫類などを避難所で扱う場合には特に温度管理は重要となる。電源等が使えない場合に備え、ケージ全体を覆うタオルやペット用毛布、使い捨てカイロの使用など応急的な保温対策も検討する。
この記事の前半とほぼ同じ手が挙がっています。ただし国の文書は置き方までは書きません。カイロをどこに置くかは、この記事で書いたとおり飼い主が決めることになります。
改訂版の公表は、まだ確認できていません
2026年9月21日に確認した時点では、環境省のガイドライン掲載ページが案内している本文は平成30年2月版のままで、パブリックコメントは受付終了の状態でした。上で引用したのはそのパブリックコメントにかけられた案であって、最終的な文言や採否は変わりえます。実際、検討会に先に出ていた原稿にあった「非常時は狭いケージでも支障が少ない」という説明は、この6月の案では落ちています。いま自治体に問い合わせるときの前提は、現行版のほうだと考えてください。
もうひとつ、現行版と改訂案のどちらでも変わらない点があります。同行避難とは、ペットと一緒に安全な場所まで避難するという行動のことです。避難所での受け入れや、同室で飼えることを保証する言葉ではありません。現行版は「避難所等において飼い主がペットを同室で飼養管理することを意味するものではない」とはっきり書いています。
だからこそ、現行版が飼い主に求めている次の一文が効いてきます。
引用(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」平成30年2月):指定避難所にペットを連れて行く際の注意事項や救援物資の受け取り場所なども、あらかじめ管轄の自治体に確認しておく。
平時に、自治体の窓口に電話1本です。「ヘビを飼っているのですが、避難所に連れて行けますか」と聞いて、返ってきた答えをメモしておく。改訂版が公表されれば答えは変わるかもしれませんが、いま聞いておけば、そのとき何が変わったかも分かります。
現実的な備えは、だいたい次の順になります。
- まず、在宅避難できるかを考える。家が無事なら、ヘビにとってはそこが最良の環境です。この記事の前半は、そのまま在宅避難の手順でもあります
- 次に、預け先を決めておく。実家、知人、かかりつけの動物病院、購入元。受け入れの条件まで、事前に相談しておいてください
- 移動用の容器を用意しておく。逃げ出さない構造で、連絡先を書いて貼っておきます。改訂案が「逃げ出さないよう工夫がされたケース等」と書いているのも同じ趣旨です
- 飲み水を忘れない。給餌は止められますが、水は止められません。改訂案も「飲み水は必要」と書いています
- 備蓄はガイドラインの目安に合わせる。現行版はペット用の備蓄を「少なくとも5日分(できれば7日分以上)」としています
避難先でヘビを出さない
現行版のガイドラインは、避難所で「動物が苦手な人への配慮」を挙げています。改訂案のコラムも、受け入れる側に「避難所の入居者に対してもきちんと管理をしている旨を説明しておくことが重要」と書いています。容器から出す、見せる、写真を撮らせる。どれもやめてください。次にヘビを連れて避難する人の選択肢を狭めます。
いま用意しておくもの
停電のあとでは買いに行けないことがあります。先に揃えておくものです。
電池式の温湿度計コンセント式は停電で一緒に止まります。予備電池も一緒に
面の温度を測れるもの空気用の温湿度計では接触面が測れません。放射温度計か、プローブを面に当てられる温度計を
飲み水給餌は止められますが、水は止められません
使い捨てカイロ年1回、外袋の有効期限を見て入れ替える。期限切れは温度が読めません
湯たんぽカセットコンロとボンベがあれば、電気なしで湯が沸かせます
毛布・発泡スチロール箱・段ボール熱を足すより先に、逃がさないための道具です
ポータブル電源容量(Wh)と、ヒーター+サーモスタットの消費電力(W)を割り算した結果をメモに書いておく
移動用の容器逃げ出さない構造のもの。連絡先を貼っておく
連絡先メモかかりつけの動物病院、預け先、そして自治体に確認した結果
直近の記録最後に給餌した日、持病や投薬。受診することになったとき必ず聞かれます
この中でお金がかからないのに効くのは、連絡先と受け入れ条件の確認です。電話して聞いて、書いておく。それだけで、当日の判断が「探す」から「向かう」に変わります。
まとめ
- 順番は測る → 逃がさない → 足す。電池式の温湿度計がないと、この順番に入れません
- 断熱が先。ただし密閉しない。換気不足は呼吸器感染症の条件に並んでいます
- エアコンで室温を作っている飼い方なら、ケージより先に部屋を守る
- 一般用カイロの JIS 上限は試験条件で70℃以下。靴用・靴下用(JIS の対象外)を通常の環境で測った例では80℃・86℃という数字もあります。外袋の表示から、容器の中が何℃になるかは読めません
- そもそもメーカーはペットへの使用を断っています。使うなら、ケージにも断熱材の内側にも閉じた箱にも入れない
- 当店が配置を見直す線はヘビが接する面で35℃。これ以下なら安全という意味ではありません
- 覆う前にプラグを抜く。予告なく復電すると、布の下で器具が発熱します
- 温まらないなら粘らず、電源のある預け先へ移す
- 湯たんぽは自分で発熱しないのが利点。ただし接触面は遅れて温まるので測り続ける
- ポータブル電源はWh ÷ Wで見積もる。サーモスタットも一緒につなぐ
- 復旧後は取り返そうとしない。覆いと応急熱源を外してから通電し、給餌は温度が安定してから
- 環境省ガイドラインの現行版の「ペット」に爬虫類は含まれないが、2026年6月の改訂案では定義に入り、避難所での爬虫類のコラムも新設されている。自治体への確認は、いまのうちに
温度の作り方そのものは適温と温度勾配の記事、制御の話はサーモスタットの記事に分けて書いています。停電対策は、その2つが平常時にできていて初めて意味を持ちます。
参考にした資料
- 靴用・靴下用使いすてカイロによる「やけど」に注意! 東京都生活文化局・東京都消費生活総合センター(平成16年10月21日)
- 使いすてカイロについて 日本カイロ工業会
- カイロをペットに使用してもよいですか エステー株式会社 よくあるご質問
- 低温やけど 奈良県医師会(清益功浩)
- よくある質問 日本カイロ工業会
- ゆたんぽを安全に正しく使用しましょう! 消費者庁(平成29年12月6日)
- 人とペットの災害対策ガイドライン 環境省(平成30年2月)
- 「人とペットの災害対策ガイドライン」改訂案(2026年6月・パブリックコメント資料) 環境省
- 「人とペットの災害対策ガイドライン」の改訂案に係る意見の募集(パブリック・コメント)について 環境省
- Bacterial Diseases of Reptiles. MSD/Merck Veterinary Manual
- Tips for keeping your exotic pet safe during a power outage. Veterinary Center for Birds and Exotics
- 停電からの復旧時や災害時の製品事故に注意 製品評価技術基盤機構(NITE)

